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小さな勇気

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第四章


第四章

「無理だって、あんなんじゃ」
「あんだけ美人なのになあ」
 康則がポツリと呟いた。
「勿体無いって言えば勿体無いよな」
「じゃあ御前がアタックしてみるか」
「えっ!?」
 仲間の一人にそう言われて思わず声をあげてしまった。
「今何て」
「だからアタックしてみたらって言ってるんだよ」
「あの先生にか」
「御前はもう一応知識はあるんだろ?」
「まあそうだけどよ」
「だったらアタックしてみろよ。案外ころっていくかも知れないぜ」
「いや、まずいだろそれは」
 すぐに別の仲間からストップがかかった。
「あの先生のこった。生徒と先生の関係で、って言うぜ」
「そっか」
「そっかじゃねえよ、そんなことしたら下手したら首だぜ」
「先生がか?」
「先生じゃなくて俺達がだよ」
 すぐに突込みが入った。
「退学になっちまうだろが。そんなやばい橋こいつに渡らせるつもりかよ」
「じゃあ無理か」
「当たり前だよ、別の話にしろよ」
「じゃあ合コンの話でも」
「俺達そればっかじゃねえか?」
「この前もそれだったじゃねえか」
 仲間内から突込みが入った。
「つってもこれも何か最近失敗ばっかだよな」
「あれ、この前の鷹田高校の女の子とのあれは」
 ここは元々女子高で女の子の多い学校として知られている。
「ああ、あれか?」
 仲間達は康則の言葉に顔を一斉に向けてきた。驚くべきはその顔がどれも不機嫌そのものであったということである。これまた凄いことであった。
「駄目だったよ、全滅」
「全滅って」
「可愛い娘ばっかだったけどよ、駄目だった」
「一人も引っ掛からなかったよ」
「そうだったのかよ」
「ああ、散々だったよ」
「おごらされたばっかでな」
「まあ向こうも馬鹿じゃないしな」
「それはわかってたけどよ」
 彼等は一人も引っ掛からなかったのが余程悔しいらしい。不平不満を次々に述べていく。
「逃した魚はな」
「大きいよな」
「けどまたやるんだろ?」
「当たり前だよ」
「やらないわけねえだろ」
 それでも懲りる彼等ではなかった。
「今度は畝日高校の女の子とだ」
「おっ、進学校か」
「ああ、インテリさんだよ」
「今度は燃えるぜ」
「けどあそこそんなにいい娘いたか?」
 康則にはそれがまず不安であった。
「まあそっちも断らせてもらうけどな」
「何だよ、畝日にも御前の知り合いいるのかよ」
「まあな」
 康則は少し憮然とした顔でそれに答えた。
「結構な数がな」
「御前中学校の時何やってたんだ?」
「あちこちで馬鹿なことやってたのかよ」
「別にそんなわけじゃねえけどよ」
 憮然とした色合いが濃くなってきた。
「ちょっとな」
「誰か弄んだのかよ」
「おい、何でそうなるんだよ」
 流石にそれは全力で否定した。
「俺高校デビューだぜ」
「そうか?」
「実は違うんじゃねえの?」
 仲間達はこう言ってからかってきた。
「本当はもう中学校の時でな」
「それも派手に」
「ガクチューでもう百人斬りとかな」
「馬鹿言えよ」
 そんな筈がないのだ。康則にそこまでの腕があれば今こんな会話には混ざってはいない。ここにいる面々が皆そうなのである。誰もそこまで女の子に詳しい者はいないのだ。
「鷹田なら、って思ったんだけどな。いや」
「そっちにもか」
「ああ」
「何か御前結構女難だな」
「別にそんなつもりねえけど」
「まあ来たい時に来てくれよ。俺達は別に止めたりしないからよ」
「悪いな」
「しかしなあ」
「鷹田は本当に残念だったよな」
「全くだよ」
 最後は逃した魚を思い出して疲れた顔になるだけであった。言ってもどうにもなるものではなかったが。それでも黙っていると余計に嫌な気分になる。そこが実に矛盾していた。だが彼等はそれを特に気に留めるわけでもなくたべり続けていたのであった。これも何だかんだと言っても青春なのである。
 その日康則は学校から帰るとゲームセンターやコンビニで時間を潰した。ゲームの方は絶好調で最後までクリアした。格闘ゲームのラストまでいったのであった。
「こいつでクリアしたのははじめてだな」
 目の前の画面ではじまるエンディングを見ながら呟いた。そこでは何か色々とエピソードがはじまって次にスタッフロールが流れていた。
「さてと」
 それを見終わって席を立った。そして店を後にした。
 特に何をするわけでもなく夜の街を歩いていた。すると目の前の酒屋で何か騒ぎがあった。
「もう一軒行こうよ」
「飲み過ぎよ」
「いいのよ、今日は」
「何だ?酔っ払いか?」
 彼はそれを見て顔を顰めさせた。まだ七時を少し回ったばかりである。それで騒ぎには少し早いように思えた。
「何か随分飲んでるんだな、おい」
 見れば二人の女の人が店の前で騒いでいた。一人はきっちりとしたスーツの女の人でもう一人は。彼がよく知る人であった。
「っておい」
 彼はその人を見て顔を顰めさせた。
「先生じゃねえか、何やってんだよ」
 そこにいたのは何と真子先生であった。何と派手に酔っ払っていたのだ。顔はもう真っ赤で前後不覚になりかけてある。それで白いシャツの中にある胸が動く度に揺れ、黒いタイトのミニスカートから出ているタイツに覆われた脚が躍動している。かなりはしたない姿であった。

 
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