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劇場版・少年少女の戦極時代

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天下分け目の戦国MOVIE大合戦
  ヒデヨシの天下獲り

 異世界から来たという咲の言い分をヒデヨシは信じ、ていねいに「この世界」の有り様を説明してくれた。


 ――彼ら武将は天下統一を目指し、領土を奪い合って戦をする。その戦は代理戦争形式だ。
 武将の守護者にして代理戦闘者として鉄火場に立つのが、武神ライダー。
 戦の勝敗は武神ライダーが握っている。


「我らの陣営ではこの武神Wが我らの守護神だ」

 ヒデヨシが武神Wを見上げると、武神Wはばんばんとヒデヨシの背を叩いた。照れるじゃねえか、とでも言ったのだろうか。

「だが、ある日、異端の武神が現れた。武将に仕えず、自らのみを恃みに(てん)()を目指す武神ライダー。それが武神――鎧武だ。武神鎧武は次々と武神ライダーを倒し、力を怪人に吸収させ、我が物としている。武将たちは武神の骸を弔うこともできない」

 咲の胸にちくりと痛みが走った。
 本物の「鎧武」を咲はよく知っている。彼は決してそんな血なまぐさい真似はしない。

「咲といったな。もし俺たちを哀れと思うなら、頼む。どうかこのヒデヨシの、二人目の武神ライダーになってはくれまいか」

 ヒデヨシは拳を床に突き、咲に深々と頭を下げた。オトナが自分のようなコドモに真剣に頭を下げるのは、咲には初めての経験だった。
 ヒデヨシだけではない、彼の家臣たちもまた、懇願の目で咲を見つめている。

「あ、たし…あの…あたし…で、よければ。よ、よろしく、おねがいします」

 わっ、と家臣たちが沸いた。こんなにたくさんのオトナに期待されたことなど、咲の人生にあっただろうか。
 期待される分、大きな働きを求められている気がして、咲は一人こっそり竦んでいた。

「よっしゃ、話もまとまったんや。堅苦しいんはここまでにしよや! 咲ちゃん、来ぃや。だいぶ汚れてもうたみたいやからな。お風呂入って綺麗なべべに着替えよな~」
「え、え、え~!?」

 ずるずるとチャチャに引きずられて行く咲。
 ヒデヨシと武神Wは「ガンバ!」とばかりに一本線の目をして、助けてくれることはなかった。






 夕陽が射す丘の上。咲は風に散らされる髪を押さえつつ、先客の武神Wに声をかけた。

「何でお外にいるの? お城に部屋あるんじゃないの?」
『ここの夕方の風が好きなんだよ』
『自動的にボクは毎日付き合わされてる』

 右手を挙げて武神Wは言った。口調が二人分あるのは、もうそういうものだと思え、と入浴中にチャチャに言われたので、そう思うことにした。

『ちなみにその服装は』
「100パー、チャチャさんのコーディネートです……」

 淡いピンクと水色を基調とした、丈の短い着物。飾り帯には淡い色を殺さない色合いで刺繍が施されている。足は素足に草鞋だが、まだ我慢できない気候ではないため黙認した。

『やっぱりね~』
『チャチャは世話焼きだかんな』
「ばかにしてるでしょ!?」
『してないしてない。なあ相棒』
『かわいいよ、咲ちゃん』
「ぐ…っ」

 面と向かって「かわいい」などと言われては、咲にも言い返せない。

 とりあえず反論を諦め、咲は丘から見える景色を見渡した。
 ぽつ、ぽつ、と小さな光がいくつも地上に燈っている。

「あそこって」
『ヒデヨシの領地だよ。小さいでしょ?』
「よくわかんない……」
『ヒデヨシの出身地でもあるんだぜ、あの村』
「そうなの!?」
『ああ。ヒデヨシは元々貧しい百姓の出なんだ。平民の苦労ってのを誰より知ってる。だから全ての民が安心して明日を迎えられる世を作りたい。あいつの(てん)()()りってのはそういうことなんだ』
「そうなんだ――」

 咲は暮れなずむ地平を改めて見下ろした。
 この地に広がる営みのひとつひとつ。それがヒデヨシの守りたいもの。彼の決意は何と尊いものか。

『ヒデヨシは戦で勝っても、相手側の領民から食糧を奪わない。内部では反対の声も多いけど』
「いいことしてるのに、ダメって言う人、いるのね」
『ボクらは気に入ってるよ。彼のそういうとこ。だからこそ武神として仕えてるんだしね』

 ふと気になり、咲は武神Wを見上げた。

「ねえ、武神ってどうして武将に仕えるの? どこで生まれて、どこから来たの? ずっとライダーのカッコのまんまなの?」

 もし彼らが本当に二人ならば顔を見合わせたであろう間を置いてから、武神Wは咲を見下ろした。

『それは俺たちにも分からない。気づいたら俺たちは武神で、Wだった』
『ずっとこの格好も何も、ボクらはこれがデフォルトだ。バッタが緑色をしているのと同じような原理さ』

 それは憐れむべきことなのか、感嘆すべきことなのか。分からないのは咲が幼いからなのか。
 ぶつけた疑問をさらに深めるだけに終わった。 
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