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バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
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騒がしい春の協奏曲
第一章 小問集合(order a la carte)
  第三話  Road to Elysion Ⅰ    (楽園への道1)

 
前書き
Elysion ;ギリシャ神話で、神々に愛された人々が死後に住むといわれる楽園。
ローマ神話ではエリジウム、フランスの「シャンゼリゼ―」や「エリゼ宮」はこれに因む
 

 
次の日。
朝のSHRは担任の福原先生による諸連絡で終わり、先生の退室とともに教室は再び騒がしくなった。
「千早はこの教室には馴れたの?」
「えっ?えぇそうですね。何とか…と言ったところでしょうか。」
相変わらず席が近い島田さんに笑い返しながら、何でもない話を始めたときだった。

だんっ、と大きな音が教室に響いた。

何かと思い音のした方、すなわち教壇の方にクラス中の目線が集まる。
黒板の前に立ち、クラスを見回している坂本に否応無く注目がそそがれる。
「みんな聞いてくれ、Fクラスの代表として提案がある。俺たちFクラスはAクラスに試験召喚戦争を仕掛けようと思う」
教室のあちらこちらからどよめきが上がる。
興奮からおおぉ、と意気込むもの。自身の成績を慮り大丈夫かと唸るもの、様々な反応が起こる。
(昨日の今日で勝負を挑むなんて無謀な事を…)
「みしっ」だとか机が呻いて、また崩れたりしないだろうか。
福原先生が昨日、木工ボンドで手直ししたのを手伝った身としてはクラスのことよりもそっちの方が気になる。
そんな僕を余所に坂本はクラスでのイニシアチブを握り始める。
「お前たち、このおんぼろ教室に、この状況に不満はないのか?」
「「「大有りだぁ!!!!」」」
「そうだろう、試召戦争で勝つことができればAクラスの豪華な設備だって手に入れることができるんだ。」
教室中が急に提示された希望に目が眩んでいる。
このFクラスのぼろい設備と対比に、Aクラスの設備ではリクライニングシートや個人用の冷蔵庫を始めとし、思いつく限りの贅沢ができると皆は知っていたのだ。
しかし、だ。
「勝てる要素がどこにあるってんだよ…」
「そうだ!姫路さんと妃宮さんがいればいたら何もいらない」
テストの成績順に上位のクラスに順に分けられているのだ。
最下位集団であるFクラスに勝機があると考えるなど普通なら正気ではない。
「いいや、勝てる要素はこのクラスにはある。まずは学年トップクラスの姫路、そして寡黙なる性識者ことムッツリーニ、演劇ホープの木下、そして実力未知数の妃宮だ。もちろん俺も全力を尽くそう。」
力強い代表の言葉に、主戦論派はいよいよ勢いづく。
「おい…確か坂本って小学生の頃神童って言われてなかったか?」
「確かに。なんかやってくれそうな奴だなとは思っていたが」
一挙に開戦すべしとしてムードに教室全体は染まる。
「我々は最下位だ。」
「「応っ!!」」
「学園の底辺だ!」
「「応っ!!」」
「誰からも見向きもされない屑の集まりだ!」
「「応っ!!」」
「それはつまり、何も失うものがないということだ。」
はっと息を飲む音が響きわたる。
この場の空気を坂本がしっかりと掌握したのが僕には解った。
誰もがこの指導者に従ってみようという気にさせる、実に巧妙な演説。
「ならば、ダメもとでやってみようじゃないか。俺たちで学力が全てじゃないことを示してやるんだ!!」
「「「応っ!!!!」」」
「目標は打倒Aクラス、貴様等やるぞ!!」
「「「「応っ!!!!!」」」」
その時Fクラスは一つであった。
高見から見下ろしている気になっている僕を除いては。


新学期そうそうに試召戦争の宣戦布告が行われたことは、すでに学校中の噂になっていた。
2Fが2Dへ召還戦争に戦争を吹き掛けた、というもので宣戦布告に赴いた吉井明久がぼろ雑巾状態で戻ってくるという面白……、こほん、事態にクラスメイトたちは皆一応に(笑いを堪えるため)俯いた。
昼休みが始まって早々に災難にあった吉井は、心底疲れたという様子で坂本に尋ねた。
「雄二、言い訳は?」
「予想通りだ。」
「雄二ぃぃいぃ!騙したなぁ!!」
そう言って坂本に飛びかかる吉井を、坂本はクラスの成績一覧を読むのもやめずに片手で吉井の脇を殴りつける。
ぐはっと呻き宙を飛んだかと思うと、地面に叩きつけられ目を剥いている吉井。
秀吉を含めたクラスの殆どが放置をしている、まるで大きなゴミが増えた程度にしか思っていないような。
「本当にバカじゃの。」
「……学習しない。」
頷き合うムッツリーニと秀吉。
「千早なら顔を変えて介護するかと思ったんだけど、しないんだ。」
「……私も、吉井君のクラスでの扱いがだんだん解ってきましたので。下手に手を出して懐かれてしまうのも皆さんのご迷惑になるでしょうから。」
そう言って島田さんの顔を覗くとそっぽを向かれてしまった。
照れているのか、ばれてしまったことを恥ずかしく感じているのか。
「つい最近来た千早にさえバレてるのに、どうして肝心のアキには伝わらないのよ。」
それは吉井がとんでもなく鈍いからではないかと答えかけて、そのことを彼女も十二分に知っているからこそ、自分を見て貰って欲しくてツンが先走ってしまうのだろうと思えた。
物言いたげな表情で吉井の倒れた方を見つめる彼女の目線の先には、いまだ倒れている吉井と。
「あの、明久君。大丈夫ですか?」
状況に適応できずにいる姫路さんが吉井君の元に駆け寄るか、どうするかで右往左往している。
そんな姫路さんのことを、吉井君が拝みそうになっているのも笑いをさらに誘う。島田さんにとっては目下のライバルの行動が気になってしまうらしい。
「作戦を考えながら昼を食うか。屋上に行くぞ、妃宮も来い」
「畏まりました。」
クラスを出ていく坂本に弁当をそれぞれ持ってついていく僕たち。
背中から恨めしげな声が聞こえた気がした。
「僕たちは本当に友達?週七回ほど気になるんだけど……」

問題
英語
次の文章を日本語に直しなさい。
The smell of sweat
姫路瑞希の答え・汗の臭い

教師のコメント
正解です。よくsweatをsweet(甘い)と間違える生徒が多いのですがよくできました。

須川亮の答え・甘い臭い

教師のコメント
sweatとsweetの綴りの違いを覚えておきましょう

吉井明久の答え・砂糖の臭い

教師のコメント
sweetを砂糖とするのは君ぐらいです。
 
 

 
後書き
試験召喚戦争、召喚フィールドの科目について
原作において、対戦で使われていた科目は保健体育を含んだ13科目。
しかし、今作では以下の科目のフィールドのみを扱うことにします。
・現代文
・古典
・数学
・化学
・物理
・日本史/世界史/現代社会
・英語
・保健体育
・総合科目


 社会系科目の扱いについて
文月学園では日本史と世界史、現代社会が教えられ、得意な二科目を選択して試験では受けるようにと指示されていると設定。
日本史/世界史/現代社会のフィールドでは、例えば日本史で勝負を挑まれたとしても、世界史で迎え撃つことが可能。
勝負の途中で、例えば世界史の点数から現代社会へと点数を切り替えることは不可能。一旦召還獣を取り消してから再度召還することで可能。

 総合科目について
総合科目は各学年主任と西村先生の四名のみフィールド作成可能。
この扱いは上記の現代文から保健体育までの合計点が競われる。
 
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