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バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
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騒がしい春の協奏曲
第一章 小問集合(order a la carte)
  第四話 バカと鼻血と乙女の事情

第四話

屋上でそれぞれ思い思いの場所に座り、弁当を開きながら他愛の無い話が交わる。
何となく島田さんの近くに僕は席を取った。
「そのようなことがあったのですか…それは何と言いますか……その」
「まぁそうでしょ、ウチもあの時ほど自分を殴りたいと思ったことはなかったな…」
島田さんはドイツから去年帰国したらしく、苦労話を聞かせてくれたのだけれどもやっぱり言語の差が一番の苦痛なのだろう。
現に、話を聞いているだけでも論だって考えることは得意なようだけれどもこのクラスに配属されてしまっているというのは、日本語に対してまだなじめていないのだろう。
ご飯を咀嚼しながら僕はそんなことを考えていた。
ちなみに僕の分は史が作ってくれていた。
今朝少し早く起きて二人分の昼食を手早く作り上げ、その内一つは自分の分として学校に持っていったようだ。
今朝の史からは誇らしげにもせず、むしろ仕事を取られずに済んだという安堵感の方がひしひしと伝わってきてしまった。
(兄離れできない妹、みたいな感じなのかな。)
そんなことを微笑みという仮面の下で考えながら、昨夜のやり取りを思い出していた。

「千早様、文月学園には学食もあったかと存じますが、明日は如何なされますか。」
「そうだね、明日はお弁当にしようかな。」
「承知しました、それではご用意いたします。」
「えっ、いいよ、自分でするから。史も自分の事が…」
「千早様、主人の世話よりも自分のことを先にする侍女などおりません。」
「そういうものかな。ま、職務もいいけど……ほどほどでいいよ。」
「……いいえ。」
「えっ?」
その時、確かに仏頂面の少女の語気は強くなっていた。
「千早様のお世話をすることは使用人である史にとっての全てです。」
「ふ、史……もしかして何か……燃え上がってる?」
「学園生活を支えることは出来ませんが、史の仕事は千早様にお仕えすることなのですから。」
感情の読み取りにくい顔。
しかしそこには侍女としての誇り、使命感。
そして何よりも、極めて僅かなことでも僕の役に立ちたい、という主張が顔に書かれている様に見えるほどであった。
「……ほどほどに頼むよ。」
「では私が準備させていただきます、宜しいですね。」
どうやら答えは是の一択しか用意されていなかったようだ。


「千早、どうかした?何か考え事?」
「……妹みたいな子の事を少し。」
苦笑いになりそうな笑顔をうかべながら答えると、島田さんは複雑そうな顔をした。
「どういう子なの?」
「……そうですね」
そういって史の事、二人で今は暮らしていることを所々掻い摘んで(僕が勘当されかけていることだとか女装していることに触れてしまいそうな箇所は飛ばして。)話した。
「いい子じゃないの、あぁあ、ウチの知り合いもそんなのだったらよかったのに…」
どこか遠い目をしている彼女に、僕は女友達として話を聞いてあげるべきなのか、そっと置いている方が優しさになるのか迷った。
どうしようかと思って目線をふらつかせていると、弁当を開けずにいるひもじい少年に目が止まった。
「今日ぐらいはまともな物を食べたらどうなのじゃ。」
「そう思うなら奢ってよ」
友人たちが食べているのをうらやましそうに眺めているだけの吉井は、今にも口から涎が垂れそうになっている。
「吉井君はお昼、食べないんですか?」
「姫路さん、いや。あの、一応は食べるよ。あは、あははは……」
苦笑いで何とかごまかそうとする。すなわち、本当に。
「ゲームは食べられませんよ?」
「無理だな、それは。」
坂本からの即座な合いの手が入る。
「ふ、ふっふん。いいもん。ソルトウォーターを食べてくるもん」
全員の優しい目線が彼に突き刺さる。
以後心地悪そうにしている吉井は弁解も、ボケだと訂正することもできずにいる。
最も、冗談であってほしいのは僕の希望的な観測なのだけれど。
「あの、じゃあ私が吉井君のお弁当、今度作ってあげましょうか?」
そう健気にも尋ねる姫路さん。
僕のすぐ隣の島田さんの気配が険しくなる。
これにもやはり、何かいじりの一つでも入れた方がいいのだろうか、前の学校では社交的でなかったから、間を掴むのは巧くないだろうから。
「ありがとう姫路さん。実は初めて姫路さんに会ったときからす……」
イタズラをしてみたい気持ちはこれほどまで抑える事は難しいのか。
思考がまとまる前に僕は言葉を口に出していた。
「吉井君、そこで振られましたら明日のお弁当は無くなってしまいますよ?」
「好きにしたいと思っていました!」

彼の顔が誇らしげに言い放っていた。
どうだ、うまいこと回避して見せただろう と。

「明久よ、それではただ単に変態じゃと言うことをカミングアウトしただけじゃよ。」
屋上の隅っこでいじいじしだす彼の背に、先ほどよりも生温かい目線がさらなる追い打ちをかける。
「へぇ、吉井の分だけお弁当を作るんだ。」
自分からのアクションよりも、一歩早く動かれてしまった姫路さんを牽制しようとする島田さん。
島田さんの発言にびっくりした姫路さんは僕らを見回し、何かを理解したように手を打った。
「そうですよね、明日皆さんの分を用意しますね。」

なんて天然なのだろう
屋上にいたほぼ全員が心中で発してあろう言葉は、お互いの顔を覗きあうことで確信に変わっていった。

ふと足下が涼しいなと思って、見てみればスカートの裾が揺れていた。
少し風が出てきたらしい。
僕の制服は他の女子の制服と比べて丈が倍ほどあるから下着を除かれることなんてないけれど……
何かの資材の上で足を組み座っている島田さんのスカートが僅かに捲れ下着が見えそうになっている。
ロングスカートを注文してくれたことに思わず、頭の下がった。
ぴきんっと何かが起動したような音が鳴ったかと思うと、島田さんの影が大きくなっていた。
いや、足下でカメラを構えた状態で高速移動を開始したムッツリーニがシャッターチャンスを今か今かと待ちかまえていた。
あまりにもその動きが素早すぎて残像が出来ているかのようで……
そして、彼に絶大なる機会(チャンス)は来た。
少しだけ風が強くなり、島田さんのスカートの裾がさっきまでより少し大きめに舞い上がって
「っっっっっく。」
ムッツリーニの鼻から吹き出た赤い滴もまた、青い空を舞ったのだった。
「ムッツリーニ!!!!」
明久の叫び声が屋上に広がる。突き抜けるような空に彼の声は吸い込まれていく。
何処から突っ込めばいいのだろう、秀吉君の方に目を向けると何かを諦めたように首を振られてしまった。
今まで味わったことのない間の抜けた空気に、半ば呆然としながら僕は昼休みを過ごした。


昼休みが終わり次第、試召戦争が始まるというのに。


私はどうすればいいのだろう。
あのとき熱を出していたにも関わらず、倒れてしまうぎりぎりまで頑張っていた彼女はFクラスに居るであろう。
一度は顔を合わせるべきだろうか、いや合わせたい。
例え彼女にとって、心配して声をかけてくれた一人の生徒と言う認識であったとしても。
相談したいことがたくさんある。

テストの時、座席が隣だったから少し見えてしまったのだ。
彼女がとてつもないテンポで問題を消化していくのを。
だから、きっと、私が悩んで、悩んで袋小路に入り込んでしまっているこの状況も打破してくれるのではないかと思ってしまう。

別に引け目を感じるいわれはない。
しかし、仮にもクラス代表に選ばれてしまったからには友達づきあいといっても今はFクラスの人間とは接触すべきではない。
Dクラスへの宣戦布告、彼女の実力を垣間見た私なら、戦争の結果は想像に難くない。
Fクラスの勝利という結果。
打倒Aクラスを掲げた彼らの事だ、そうなればその次の目標は私の所か、本命のAクラス、そして。

「彼氏が居るクラス……か。」
自嘲気味に低く笑う彼女を宥める者はいない。
「千早さん、私はどうすればいいの?」
制服をいじりながら、彼女は悩んでいた。
クラスメイトたちの声を遠くに聞きながら、彼女の思いは旧校舎へと向かっていた。

そう呟く彼女はテストの日に千早が着ていたのと同じ真新しい制服姿であった。 
 

 
後書き
 召還獣(試験召還獣)について
各生徒は一体所持している。
点数を体力と攻撃力として見なした本人を模した獣人。
 操作について
例:敵に向かって移動後、刀で切りつける時の操作。
①まずどこに向かうのか指定。
②召還獣を敵に向かって進める。
③敵の近くで静止。
④刀を振りあげる。
⑤刀を振りおろす。
以上五行程が必要。
そのため、瞬時の判断力と慣れが必要。
慣れていないと相当のラグが発生。

次回 バカとテストと機関銃 こうご期待 
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