| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

騒がしい春の協奏曲
第一章 小問集合(order a la carte)
  第二話 彼らとの出会い

 
前書き
講義の部分は飛ばしてくださって結構です

プロローグからすでに本編です 

 
第二話

柔らかな風に靡く銀の髪。
そして、うっすらと翳りを投げかけるような深い菫色の瞳。
その美しく微笑む唇からこぼれる声は、まるで陽に透かした翡翠のような透明感を持つ。
彼女の整った容姿は同じ方向に進む者は足を止め、反対に歩いていく者は思わず二度見してしまうほどで
彼女が例え物憂げな顔をしていたとしても、その顔を蔑むようなことを誰も口にしない。
彼女の顔があまりにも整いすぎて、誰もが言葉にできないというのは“彼”には幸か、不幸か。


学園へと延びる坂道の両脇には桜が一定間隔を置いて植えられており、ちょっとした桜並木になっていた。
今はまだ四月の前半、葉桜に成りつつ桜の木々はその花弁の雲が徐々に欠けゆき、今わずかに残った花弁もまた空を舞い、終には今日明日で全ての花びらが消えゆくであろう。

そんな光景をぼんやりと眺めながら、僕は考えごとをしていた。
僕のいく学園は全く新しい制度を取り入れた試験校であるらしく、試験召還システムの開発者、藤堂カヲルが学園長を兼任しているらしい。
学力向上を目的とし、偶然の産物によって生まれたそのシステムを用いて生徒は教師の立ち会いの元、試験召還獣を使った戦争を二年生からはすることができる。この戦争は試験召還戦争と名付けられ、通称「試召戦争」と学園では呼んでいるらしい。
全て伝聞系の情報であり、いま一つ理解に苦しむ。
そもそも試験召還システムとは何であるのか、根本の部分から疑問は始まる。
そして、何故競い合う場を戦争という形にしているのか。
おそらく僕もこの戦争に否応なくクラスの一員として巻き込まれることになるだろう。
だからこそすこしでも情報が欲しいのだが、あまりめぼしい物がない。
学園側もデータを厳重な電子ロックと物理的な隔壁によって守っており、こちらはアプローチをかけることさえ難しいようだ。

我ながら不穏なことを考えていると苦笑し、考えを断ち切るためには僅かにかぶりを振る。
学園の校舎が見えてきた頃、遠くからでも誰か分かる、体の作りが良い色黒の男性教諭が門のところに立っているのが見えた。
横を通り過ぎる生徒たちに封筒を手渡しているらしい。
もしかしたら名前の確認をしてないところを考えれば、全生徒の名前を暗記してしまっているのかもしれない。
「おはようございます、西村先生。」
「うむ、妃宮。体調の方はもういいのか。」
「おかげさまですっかりよくなりました。」
生徒に挨拶をしていた西村先生に呼び止められる。ちなみに愛称は鉄人らしい。
僕が構内を見学したときに引率をしてくださった先生で、学園長と共に僕が実は男だと言うことを知っている数少ない学園関係者の一人だ。
趣味はトライアスロンだそうで、史が集めてきた噂によると、その肉体は落ちてきた岩をもはね飛ばすとか。
生徒が最高でも500点代しか取れなかった試験を受けて、700点代を叩き出したとか。
人間離れをした肉体と知能を持つとの評判の先生。

ちなみにもう一人は勿論ではあるが学園長で、どうもうちの母と何らかの交流があったらしいのだけれど。

僕にも封筒が手渡されるけれども中身は見ずともわかっている。
けれども、見ずに捨てるのは失礼だ。
封をちぎりFと書いてある紙を引っ張り出す。
先日行われた成績振り分け試験は、二年に上がるときのクラス分けのために行われていて、その結果がこれだ。
ちなみにクラスは一学年六クラス、上のクラスから順にA~Fという編成をとっている。
つまり僕は途中退席のせいで最低ランクのクラスに分けられてしまったのだ。
「妃宮、ルールはルールだ。」
振り分け試験は一度しか実施されないので、欠席や途中退出するとそれまでのテストの点も含めて全て無効になってしまう。
ある意味学園長の、体調管理まで含めて学生の仕事だという主張が色濃く現れている。

この点に関して僕は一切反論する気はない。
今回の試験が文月で受ける最初のテストだったのだから、学校側は僕の普段の成績さえ持っていないのだから、見込み点なんかつけられるはずがない。
それに、そもそも親に勘当すると言われて女装して学園に入学するなんてまさに愚かさの極みだろう。
「解っております。私は勉強に関する気の入れ方を怠っていたのでしょう。この度のことは全て私の身から出た錆です。」
「お前のような生徒こそAクラスはふさわしいのだろうが、な……」
そこで不自然に言葉を区切った先生の眉間の間には皺がこれ以上はないほどに寄せられていた。
そして僕にだけ聞こえるよう、ボッソリと呟いた。
「妃宮、お前本当に男なんだな?」
背中を汗が流れ落ちるのが分かった。
女装がばれていないのは好都合だけれど、そこまで言わなくとも。
泣きそうになるのを必死に我慢する。
周囲を見回し、意識して男らしい低い声で答える。
「先生、僕だって好きでしているのではないんですよ。」
「そうだよな……いや、済まない。俺が悪かった。赦してくれ。」
頭を下げる西村先生に、後ろから登校してきた生徒達が唖然としている気配で伝わってきた。
「そんな、私が熱で倒れたのがいけなかったのです。ですからどうかお気遣いなさらないでください。」
ソプラノの声に戻し、前後が不自然にならないように話を補う。
「そうか、解った。お前の教室は旧校舎側にある。行け。」
いつもの雰囲気を即座に纏い直した先生は僕を送り出した。
新たに僕の居場所となる、かの部屋へと。

2-F
その今にも折れそうな札がつり下がっている教室をすぐに見つけた。

教室の扉を開けるとそこには

閉まりきっていないためにすきま風が吹き込む窓、足が壊れつつある卓袱台、申し訳程度に用意されている座布団。

「ここは教室、なのですか?」
思わず教室の扉を閉めてプレートをもう一度まじまじと見直してしまった。
確かに2ーFと書いてある。
あるけど……
「あっ、うち以外にも女子がいるんだ。よかったー」
後ろから聞こえた女声の主の方を振り向くと、相手は立ち止まってしまった。
大きな黄色いリボンでポニーテールにまとめあげられた長い赤茶色の髪の毛と、すらっとした体型の活発そうな少女。
それが彼女に対して抱いた第一印象だった。
「えっ……とWas machst du?(貴女、何してるの?)」
「あの……Ich bin japanisch(私は日本人です)…でしたでしょうか。ご期待に添えなくて申し訳ないのですが、私これでも日本育ちなのですよ?」
「え?あぁそうなんだ、ごめんね。ウチは反対にドイツ育ちだから、日本語が難しいのよね」
そういって笑っていた彼女だったが急に固まってしまった。
その目からは光が消え、その目線は僕の胸に張り付いているパッドに刺さる。
背筋が凍るほどの威圧かというか何というか
「あの……、その私、どこか変でしょうか?」
「えっ?あ、あご、ごめんね。(絶対F以上ある!!)ウチってばつい。それでこんなところにどういった用なの。」
殺気を向けられたせいで反射的に後ろずさった僕に、ばつの悪そうな顔を見せて、女生徒は再び友好的な態度に変わる。
「あの、(わたくし)は今年からこちらに通うことになったのですが、教室を間違えてしまったのかと思いまして。実はFクラスに振り分けられたのですが、ここが…このクラスがFクラスなのでしょうか。」
「えっ?あぁどおりで見慣れない銀髪ちゃんだと思ったよ。うん、そこがFクラスみたいだけど、どうかしたの?」
「おいおい、そこの女子ふたり。そんなところで突っ立ったままで話してないで、とっとと中に入ったらどうだ」

男子の声に思わず身が竦む。

男子生徒が部屋の内側から開けると、扉のせいで見えなかった部屋の中が見えるようになった。
そこからの風景に女子生徒は納得したとアイコンタクトで返してくれた。
「島田か、それとそっちの銀髪もこのクラスなのか?」
「そうみたいよ、坂本。あんまりにも部屋が汚いからって扉の前で固まってたのよ。」
その体格の良い生徒は僕のことをじろりとにらんでいたが、ふいと教室の中に戻ってしまった。
「あの、私は……」
その背を追いかけるように言葉を投げかけると、男子は頭を掻きながらこちらを振り返った。
「俺は坂本だ、坂本雄二。お前の挨拶は後の自己紹介ですればいい。今から一人一人に説明していくのは骨が折れるからな。」
「えっ?」
「まっ担任が来たら自己紹介を始めるだろうから、そんときに聞かれそうなことに対する答えでも考えときゃいい。」
ほらいけ、と急かされ僕は教室にようやく足を踏み入れた。

教室に入ると、教室の出入り口での騒ぎにクラスのほとんどの目線がこちらを向いていた。
はっと息を呑むのが分かる。
こちらに注目していなかった生徒も、近くにいた彼の友達(暫定)が固まったのをいぶかしげに思いながらこちらを見てくる。
するとどう言うことだろう、その生徒もまた彼の友達宜しく固まった。
そんな反応が次々と連鎖していき、最終的に気を回してくれた男子と島田さんと既に教室の中にいたもう一人の女子生徒以外の全員の動きが止まってしまった。

まさか、教室には行った瞬間に女装がばれた?

いや、そんなことはないはずだ。
現に西村先生にも本当の性別を疑われるような状態なのだ。
しかし、なら。

「「「銀髪美少女が俺たちの教室にやってきたぜぇい!!!!」」」
「Welcome our class!!」
「Year! let's party!!」

静寂を打ち破る怒声。

「な、何なのですか、この人たちは……」
しかも辿々しい英語まで聞こえたのですが……
「ごめんね、呆れ果てるほどみんなバカでしょ。」
そういいながら教室の端の方に僕を誘導して席を取る島田さん。
「こういうことは日常的なものなのですか?」
「そうじゃの、たとえばワシの先輩がワシを呼びに去年の教室に来たときもこんな感じじゃったと記憶しておるぞ。」
気づけばもう一人の男子用制服を着ている女生徒が近くに来ていた。
「ゴホン、一応じゃが。ワシは男じゃと先に言っておくぞ。」
「そうなのですか、島田さん。」
「違うわよ。秀吉って性別なのよ、この木下は。」
「何じゃその第三の性別的な扱いは!!」
新しいクラスメイト達の賑わいが少し心地よく感じる。
「名乗り遅れたの。ワシは木下秀吉じゃ。姉上が同学年におるゆえ、秀吉で願うぞ。」
「私は島田美波、よろしくね。」
「私は妃宮千早と申します。よろしくお願いしますね、秀吉君、美波さん。」
「それからワシ達のグループの者と言えばあそこでカメラの手入れをしている土屋康太、通称ムッツリーニもそうじゃの。」
そういって彼(?)はカメラのレンズを丹念に磨いている小柄な男子を示した。
「吉井はまだ来てないよな?」
「そうじゃの、まだ見ておらぬな。」
坂本と名乗った生徒もこのグループなのだろう。
「吉井、という方はどのような方なのでしょうか?」
「ばかじゃな」
「とびきりのバカね」
「バカの代名詞だな」
そこまでなのですか?
「この時点でいらっしゃらないと言うことは、DやEといったクラスに引っかかることが出来たということでは無いでしょうか。」
「ふん、そんな奇跡の中の奇跡があるわけ無い。いいか、アイツは以前こんなバカなことを、目を輝かせながら言っていたんだぞ。」
そういって坂本はこんな話を持ち出した。
曰く、吉井明久という人物は一つのカップラーメンを一食目には半分だけを食べ、二食目には残った半分を食べ、三食目にはさらに残った半分を食べるというふうに繰り返せば一個のカップラーメンを永遠に食いつなぐことが出来ると主張したらしい。
「それは、確かに机上では可能ですが……現実では。」
「奴は六食目まで粘ったようじゃぞ。」
弁護しようないほどに
「…バカ、なのですね」
「だろ」
そういって笑う彼らに悪意などなく、むしろ親しみを持って彼のことをバカと呼んでいるのだろうと、僕は感じた。
「と言うことは、例えば皆さんさえも知らないうちにGクラスのようなクラスが新たに作られており、そのクラスに振り分けられてしまった、という事でしょうか。」
そう僕が言ったとたんに島田さんや秀吉たちは急いで廊下に走り出て、周囲を見回した。
だめだ、かなりの信憑性があるみたいだ。
「……お、驚かせないでよ。本当にある気がしたじゃない。」
「……わしも、一人だけポツンと教室で正座する明久の姿がうかんでのぉ。」
「……明久、お前はいいサンドバックだった。」
冗談のつもりが冗談になっていないだなんてことあるんだ。
「何をやったらFから落ちるんだ。」
いつの間にか周りのクラスメイトにも「吉井Gクラス説」が囁かれ始めていた。
「吉井なら自分の名前を間違えて書いて減点されるとか…」
「いや、答案の後ろ前を間違えて名前を書いて……」
「わからんぞ、あいつなら伝説的なマイナス点を……」
「それで『G』クラスか……。」

『さすがだ……』

なんだか本当にGクラスが在るような話になってしまっている。
会ったことはないけれど、ネタにしてごめんなさい。
心の隅の方で僅かにご愁傷様と念じる。
それでも、フォローも何も入れないのは少々行き過ぎな気がする。
「あの、振り分け試験の途中で退室することに成ってしまった私がこの教室にいるのですから、それ以下はないかと思うのですが。」
「そうなんだ、それでここに。」
「それは残念じゃったの。」
慰めをかけてくれる二人。
「じゃぁ、もし実力を出したらどれぐらい取れていたのかとか気になるわよね。」
「そうですね、あぁそう言えば化学の問題でしたら12、3枚ぐらい解きました。その次の数学で退室してしまったので他は何ともいえないのですが。」
「そうじゃとBクラス以上なのは確実じゃの。Aクラスにも入れたかもしれぬ…と言うのは、惜しいことをしたの。」
「そうなのでしょうか、熱で頭があまり回っていなかったのもあるので適当に選択肢を選んでしまった部分もあるので、一概にそのようにはいえないと思いますよ。」
それからしばらく、わいわいと三人で(傍目から見ればガールズトーク、その実男2と女1)おしゃべりに興じていた。
気がつくとさっきまでそこにいたはずの坂本がいない。
ドアが開き、坂本が入ってくると教壇の前に立った。
「しかたねーか、俺らも教師が来る前に自己紹介を始めるぞ。」
そこでクラス全体を見回す。
どうやら他のクラスの様子を覗いてきたらしい。
「俺はこのクラスの代表、坂も……」
「すっみませーん、おくれちゃいましたー!」

『Gクラスはここじゃねー!』

全員で声をそろえて、なんてヒドいことを言うんだろう。
「いいだしっぺは貴女よ?」
反省はしています。


半泣きで秀吉に縋る吉井はさておいて、自己紹介が半分ぐらい進んだところで担任の福原先生が現れた。
施設への泣き言や待遇への不満はすべて「成績のせい」ということでイナされてしまい、みんな不満をためていたが、どうにか出来る話ではないので飲み込んだみたいだ。

「では皆さんが始めていた自己紹介を次の人から続けてください」
「木下秀吉じゃ、部活は演劇部に所属しておる。今年一年よろしく頼むぞい。」
右隣に座っていた秀吉が挨拶をすませると、次は僕の番だった。
「今年から文月学園に編入することに成りました、妃宮千早と申します。今年一年間よろしくお願いします。」
お辞儀をすると一人の男子生徒が勢いよく手を挙げ、質問したいという。
「妃宮さんのその髪は地毛なんですか?」
「はい、祖母が北欧の出身でして。ですが私の両親はどちらも黒髪なので隔世遺伝だと聞いております。」
おぉーとクラスの全体が叫んでいるように見える。
「じゃあその目の色もそうなのか。」
「はい。おかげで私の事はすぐに覚えて頂けるのに、失礼なことに相手の名前をすぐに覚えることが苦手でして。申し訳ないことになってしまうと思いますがお許しください。」
笑顔を作ると盛大な歓声をあげれてしまった。

(やりすぎてしまったかな。)
そう心の中で思っても仮面を外したりはしない、できない。
いかなる時だって、僕の隠している物を知られるわけにはいかない。
「わたしは島田美波。得意な科目は数学、不得意はそれ以外。ドイツ育ちなので日本語は苦手です。趣味は吉井明久を殴る事です。」
「やめてー!」
吉井が涙目で悲鳴を上げている。
初めて彼らのやり取りを見るけれども、おそらくいつもこの調子なのだろう。
がたがたと震えながら木下に泣きつく彼を恨めし気に睨む島田さん。
とてつもなくツンが先行してしまっているのだろう。
自己紹介はその後も続き、最後の者も言い終えたところで、タイミング良く再びドアが開けられた。
「あの…遅れて…すいま…せん」

遅れて入ってきたのは、ふんわりしたロングヘアーにウサギの髪留めを付けた女の子、姫路瑞希さんさんだった。
自己紹介で聞いたところによると、試験の日に風邪を引いて途中退出をしたそうだ。
同じようにあの試験を途中で退席した人が居たものだとシンパシーを覚えるけれども、彼女の視線は吉井に固定され、おそらく僕のことは司会に入っていないのではないだろうか。
熱烈な視線、もう彼以外の事は見えていないと言うのが傍目からも分かる。
黒い覆面の皆さんが釘バットを取り出そうとしているのがちらりと見えた気がするが、きっとこの教室の汚さと同じように考えては行けないことなのだろう。
「あ、あの吉井君、同じクラスですね」
「う、うん、姫路さん。…あのさ…」
「姫路、その後の体調はいいのか?」
「……あ、はい」
あからさまにがっかりしている吉井を余所に、若干の挙動不審は残しながらも姫路さんは答えている。
「あ、姫路さん。よかったー、女子はうちらだけかと思って。けっこう心細かったんだよ。」
「あら、それは私だけでは心許ない、と言うことでしょうか?」
「いやいや、そんなことは言ってないから。」
「あの、そちらの銀髪さんもこのクラスなんですか?」
「申し遅れました、(わたくし)は妃宮千早と申します。今年から転入しました。どうかよろしくお願いいたしますね、姫路さん。」
「島田さん、それと妃宮さんも(わたし)のことは瑞希でいいですよ?」
「そう?なら、うちのことも美波でいいわ。」
「なら僕も姫路さんのことを……」
「そこで断られたら元も子も無いぞ。」
「歓迎するよ!!」
もはや自棄に成った感じで叫ぶ彼の“バカさ”はいっそ清々しく感じる。
何なのだろう、僕の知らない人種なのだろうか。
もはや宇宙人だと言われても納得しそうだ。



「それにしても……、髪の毛はサラサラで肌はスベスベ、まつげはパッチリですし……胸なんかも私よりありそうです。妬ましい限りです……」
「そうなのよ、それに千早ってばすっごく細いのよ!!」
「なっ……なんですって!!!」
なんか凄い視線でにらまれてしまっていますよ、僕。
島田さんとのついさっきの出来事を思い出す。
そして、ついつい島田さんの胸元に視線を向けてしまう。
なるほど、だからパッドを見ていたのですね。
「見なさい、あれが強者の余裕ってやつよ。」
「そうですよね、妃宮さん。あなたは私たちに喧嘩を売っているのですか?」
正真正銘の本物の女子ペアの背からは地獄の業火のように猛り狂った怒気が溢れだしているかのように見える。
これはどうにかしないと……。
「そ、そういえば、吉井も秀吉もくびれていますし、髪の毛もさらさらですよ……」
『なんですってぇ!!』
ほとんど妖怪レベルの視線が今度は吉井と秀吉に矢のごとく突き刺さる。
びくりと固まってしまった二人。
何だろう、その思考ルーチンが僕にはまだよくわからないのだけれど。
蛇ににらまれた蛙状態の二人に島田さんと姫路さんが飛びかかる。

「何をするのじゃ!!」
「美波落ち着いて、美波は背が高くてスタイルも良いけれどただ胸が痛いほどに関節を決めないで!!!」
「ほんとです、本当です!木下君の腰もくびれてます!!」
「なんで!!くびれてるってどう言うこと!!」
「ワシは男じゃということを忘れておらんか!」
「ど、ど、どんなダイエットをしてるんですか!」
「そして腕はそっちに曲がらない!!!」
「なにを食べたらそうなるのよ!」

島田さんも姫路さんもそこまで心配する必要はあるのだろうか。


そうこうとしているうちに、いつの間にか雄二と明久が消えていた。
どこにいったのかな、と思っていたら不適な笑みを浮かべていた。
何事?と視線を送ると、二人は笑う。
それは、いたずらっ子が新しいいたずらを思いついたような顔で。
「妃宮、お前勉強はどれぐらい出きるんだ?」
そう言って雄二に手渡されたプリントは英語の問題だった。
「授業のまねごとをしてみてくれ。」



講義1
妃宮「コホン、それでは姫路さん。次の語句を日本語と同じ意味になるように並べ変えてください。」
父は玄関に出るのが億劫なので、よく居留守を使った。
Being(answer/be/door,/father/my/often/out/pretended/reluctant/the/to/to).
姫路「はい。」
姫路瑞希の答え
Being reluctant to answer the door, my father often pretended to be out.
妃宮「正解です、今回の文章では文頭に出てきているBeingに注目するのが味噌でしたね。日本語の文章にある「なので」に相応する語句が選択肢の中にありませんでしたのでこの場合Beingは分詞構文のものだと考えることが可能です。まずこの文章における主節、「父はよく居留守を使った」を言い換えてみましょう。吉井君、日本語で言い換えたらどうなりますか?」
吉井「えっ?僕?えぇっと。そうだ!父はよく箪笥に逃げ込んだ、でどうかな。」
妃宮「………、吉井君のお父さまがどのような扱いを受けているのかは知りませんが、私ならば父は外出している振りをした、と言い換えます。そしてこの日本語ならば語句群の単語で文を作れそうですね。適宜選んでいきますと次のような文節ができます。」
できあがった文節 my father pretended to be out
残っている語句 (answer/door,/often/reluctant/the/to)
「遅ればせながらpretend toVは振りをすると言う意味を一応確認しておきます。さて、分詞節についてです。「億劫」についてはbe reluctant toVが「Vするのを嫌がる」、「玄関に出る」を「answer the door」と、それぞれ意味を押さえていれば書き換えが可能だと気づくことが出きると思います。」
Being reluctant to answer the door, my father pretended to be out.
「最後にoftenが残ってしまいましたが父はよく居留守を使う、とありますので一般動詞pretendedの前に入れてあげれば姫路さんの回答のようになりますね。」
 
 

 
後書き
英語
問い
次の空欄を選択肢を用いて補い、文を完成させなさい。
答えるのはア、イの部分だけでよい
There was a phone call from someone whose number you didn't realize, so you didn't answer it. However, it was from someone inviting you to a party. You could express your regret by saying; I ( )(ア)( )( )(イ)( )answered the phone yesterday.
(センター試験より)
1could 2had 3have 4I 5joined 6the party

姫路瑞希の答え・ア3イ4

教師のコメント
正解です。
選択肢を並べ変えると次のような英文に成りますね。
I could have joined the party I had
これらは動詞の関係に着目すれば答えられたと思います。

吉井明久の答え・I think アキヒサ は 格好 イ い
なので答えはア;アキヒサ イ;イ
教師のコメント
I don't think so. 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧