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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos37運命の守護者/時の操手~THE GEARS OF DESTINY~

新暦66年3月。とある次元世界の空にて、2つの人影が相対していた。どちらも10代後半の少女だ。1人は深桃色の長髪をお下げにし、カチューシャを付けている。半袖の青いショートジャケットにミニプリーツスカート、白のシャツにサイハイソックス、グローブ、ブーツと言った出で立ち。そして右手には片刃の剣を携えている。
もう1人は、桃色の長髪を結うことなく流し、2つに割ったような花飾り付のカチューシャを頭の左右に付けている。服装はもう1人の少女と同じデザインだが全体的に桃色。手に携えている武装が僅かに違う。片刃の剣は同じだが左手持ち。そして右手には短銃を携え、銃身と同サイズの分厚い刃が銃身下に付いている。

「ああもう、やっと追いついた!」

青色の少女が怒気を交えた桃色の少女に言い放つ。それに対して桃色の少女は「追って来ないで、ってあれだけ言ったのに。・・・なんで追って来てんの、アミタ。もしかして、割と本気でお馬鹿さんなの? 私のお姉ちゃんってww」と返す。桃色の少女の姉らしい青色の少女――アミタは呆れた風に「馬鹿はどっち? キリエ」溜め息交じりに言い返す。桃色の少女の名はキリエというようだ。

「まさにこれからとんでもない馬鹿なことを犯そうとしている妹を止めない姉なんていません! ほら、戻りますよ!」

アミタはそう言って空いている左手を、妹のキリエへと差し出した。キリエはまじまじとアミタの差し出された手を見た後、「ふーんだ。ちょこぉ~っとわたしより生まれが早いだけで、妹のやる事なす事――生き方を曲げる権利なんてないって思うんだけぉ~?」プイッと顔を逸らした。

「だ~か~ら~。もうわたしのことは放っておいて! わたしはね、この時代、この世界で、やらないといけないことがあるの! ちゃんとこっちの世界の人には迷惑を掛けないように・・・なるべく(ボソッ)頑張るから、邪魔しないでよ!」

「いいえ、させません! あなたのやろうとしていることは、誰にも迷惑が掛からないような事態で済まないレベル! 縄で縛って、お尻を抓り上げてでも、止めます!」

「ふっふ~ん、力尽くはわたしとしても望むところ♪ 教えてあげる、お姉ちゃん。お姉ちゃんは妹には勝てないってことを❤」

アミタとキリエ、共に武器を構え・・・戦闘に入った。共に同時に最接近し、アミタは片刃剣を振るって斬撃を繰り出し、キリエはその斬撃を姉アミタと同じデザインの片刃剣で受け止め、すかさず右手に持つ短銃で反撃。至近距離の銃撃だったにも拘らずアミタは掻き消えるような瞬間移動で回避。

「いま本気で顔を狙ってきましたね、キリエ!?」

「邪魔をしてくるお姉ちゃんが悪いのよぉ~? ラピッドトリガー、ファイアァーッ!」

――ラピッドトリガー――

キリエの片刃剣が短銃へと変形し、2挺の銃より12発の光弾が連射される。するとアミタは「バルカンレイド!」空いていた左手に短銃を携え、その銃口より光弾を6発と発射させ、キリエのラピッドトリガーを真っ向から迎撃。2人の間で衝突する計18発の光弾が爆発を起こし、激しい光が2人を照らしだす。
そんな中でアミタが動く。閃光の中に突っ込み、アミタとは違って閃光に僅かばかり目を眩ませていたキリエは直感からか攻撃にも防御にも回らず、アミタの追撃を警戒してひたすらに後退。閃光から飛び出して来たアミタは背を向けているキリエに光弾を発射。

「んもう、しつこい!」

――ラピッドトリガー――

「キリエ! 大人しく戻りなさい! 今ならお尻の抓り上げを免除してあげますから!」

――バルカンレイド――

「いやあよ! どうして解んないの!? わたしがやろうとしているのは引いてはエルトリア、博士の為にもなるのよ!?」

「たとえそうでも、他人様に迷惑が掛かったら博士は喜ばない、悲しむだけ! あなたなら解るでしょ!」

どうやらキリエはエルトリアと博士、その2つの為に何かしらの事を起こそうとし、アミタはその行いが別の世界に危機を齎すことになると危惧しているため、キリエを引き止めに来た・・・ということらしい。そして2人はそれぞれの意志の元に何度もぶつかり・・・

「うぅ~、や~ら~れ~た~・・・」

「はぁはぁはぁ・・・! どう? 少しは反省して戻る気になった? キリエ」

勝敗は決した。妹であるキリエが負けを宣言するが、勝ったはずのアミタの方が肩で息をし、被ったダメージが高そうだ。アミタは「ほら、はぁはぁ・・・帰りますよ」と勝者として再度キリエに言うが、敗者のはずのキリエは突如として「な~んてね♪ アミタ、わたしの勝ちよ♪」と笑い、敗北宣言を撤回して勝鬨を上げた。

「もしかして気付いてないの? だとしたらアミタってばお馬鹿さんの他にお間抜けさんも追加よ? 体、重いでしょ?」

アミタは図星を突かれ「っ!」目を見開く。キリエとの繰り広げた空中戦の半ばから感じていた肉体の鈍化。その所為で今もアミタは息が整わない。それどころか徐々に、しかし確実に体が重くなっていくことでへたり込みそうになっている。

「なかなか弱まらないなぁ、もしかして効いてないのかなぁ、なんて思ってたけど、ちゃ~んと効いてたみたいでよかったわ♪」

「キリエ・・・、あなた一体・・・私に何を・・・!?」

「わたし特製のウィルスバレットを、戦闘中にこっそりと撃ち込んだのよ~♪ まぁ、ウィルスとは言っても死ぬわけじゃないから安心して、アミタ」

「っく・・・、キリエ・・・!」

「わたしを追って来ないで、ってわたし自身が飽きるほどに言ったのにそれを無視して追って来たそのお馬鹿なことをした、その報いよ。いっそのこと、もう追って来られないようにこの場で・・・ブッ壊しちゃってもいいんだけど・・・」

キリエが最後通告する。しかし、殺す、ではなく、壊す。人に対して言う表現ではなかった。アミタは悔しげに「やれるものなら・・・」とキリエを睨みつける。姉のアミタから受ける睨みにキリエは動じることなく「や・ら・な・い♪ だって、そんなことをしたら博士はきっと悲しむもの。というわけで。バイバイ、アミタ。たぶん、きっともう・・・会わないから」そう別れを告げて、どこかへと飛び去って行った。

「待ちなさい、キリエ・・・! キリエ!!・・・追わ、ないと・・・」

アミタは重い体を引き摺ってでもキリエを追おうとするものの、キリエに撃ち込まれたウィルスバレットの影響で思うようにはいかなかった。キリエ特製ウィルスバレット。効果は身体機能の阻害。
抗ウィルス剤か治癒術があれば治せるものだと判断したアミタは、「待っていなさい、キリエ・・・!」と、この世界の者に迷惑を掛けてはならないと硬く決めていたが、それでもキリエを止めるために・・・。

†††Sideすずか†††

第零技術部で技術官としてのスキルを勉強している私は今、ドクターが手掛けているデバイス開発に必要な素材――モルダバイトを、ドクターの娘のチンクさんと一緒に採取するためにある無人世界に来ていた。でもモルダバイトって貴重は鉱石みたいで、チンクさんと手分けして探しているんだけどなかなか見つからない。

「採取場所はここで間違いないんだけど・・・」

もう1度マップを表示。わたしとチンクさんが今居るのは、標高9000m級の大山脈の中で、その山脈を穿つトンネル状の洞窟内。上に下にと切り立つ色々な鉱物の山。その中からただ1つの鉱物モルダバイトを探してほしいって言うのもよく考えてみると・・・すごく大変。

≪スズカ。少し休憩を挟んではいかがですか?≫

グローブ型のブーストデバイス、“スノーホワイト・メルクリウス”が労わってくれた。でも「大丈夫だよ。これもお仕事だから」そう返して、改めて探索に入る。デバイスマイスターになったら、こういう素材探しもまた1つのお仕事になるだろうから。

≪っ! スズカ、エマージェンシーですわ! 洞窟内に侵入者!・・・これは、魔導師・・・ではありませんわ!≫

いきなりの大声にビクッと驚いちゃう。それに内容についても。“スノーホワイト”に「魔導師じゃないとしたら、騎士・・・?」って返す。すると≪いいえ。どの記録にも該当しない、未知も魔力運用ですわ≫さらに気になることを報告してきた。魔導師でも騎士でもない、第零技術部に入れてもらったデータにも該当しない何か。

≪速いですわ!・・・エンカウント!≫

周囲を見回すと、「あの人・・・?」こちらに向かって飛んで来る・・・エイミィさんくらいの女の人を視界に収めることが出来た。女の人も私に気付いて急停止。私から声を掛けようとしたら、「あの!」その人から切羽詰まったような声色で私に声をかけた。

「すみません、地元の方ですか!?」

その人のあまりの勢いにたじろいだ私は「え、あの・・・」警戒心を強める。と、「ああ、そんな警戒しないでください、私、怪しい者ではないですから!」ってその人は言うけど、すでに銃を装備して、しかも銃口を私に向けてる時点でアウトだよ・・・。

「見ず知らずの方に突然こんな事を言うのもなんですが、助けてくださいませんか!? 治癒術を使える方、もしくはAC93系の抗ウィルス剤が必要なんです!」

そんなことを言う以前にまずは銃口を外してほしいです。とにかくウィルス剤については全然解らないけど、治癒術なら得意だ。だから「お困りであることはなんとなく判っています! あの、ですから――」まずは落ち着かせて話をしようと試みてみた。

「本当にすみません! 非礼は重々承知ですが、当方非常に急いでおりますので、素早い回答をお願いします! 治癒術はお持ちですか、お持ちでないですか!? 抗ウィルス剤はお持ちですか、お持ちでないですか!? 早く、早く妹を止めないと・・・この世界が大変なことになるんです!」

その人はあろうことかさらに冷静さを欠いて、「お持ちでないのでしたら、私はこれにて失礼させていただきます!」ってこの場から去ろうとした。急いでいるのなら引き止めるのも申し訳ないかな・・・という事にはならない。治癒魔法を使えるからたぶん治せるかも。あと、世界が大変なことになる、というのも人として、管理局員として聞き捨てならない。だから「待ってください!」呼び止める。

「え? あの、すみません、急いでいますので!」

「お話を聴かせてください! 私は――」

「本当にすみませ~~~ん!!」

「・・・こちらもごめんなさい! スノーホワイト!!」

≪チェーンバインド!≫

“スノーホワイト”に発動してもらった捕縛魔法チェーンバインドで、女の人の武器を持っている右手だけを拘束。すると「えっ? これは・・!?」あの人は驚きを見せて・・・でも何も持っていなかった左手に新たに別の銃を携えて、チェーンバインドを狙撃、破壊した。

「きゅ、急に何をするんですか!?」

それは私の台詞です、って思いながらも「まずはお話をしましょう! 私、月村すずかといいます!」まずは自己紹介。もし応じられなかったら今度は四肢を拘束くらいしないとダメ、かな・・・。

「あ、はい、私はエルトリアの、アミティエ・フローリアンといいます!」

(良かった。ちゃんと応じてくれた)

≪エルトリア。管理・管理外を含め、現在の管理局が認知している世界の名簿にその名前は有りません≫

正しく異世界の人ということか、アミティエさんは。未知の魔力運用技術というのも頷けるかも。管理局でさえも認知していない世界の住人、アミティエさんは「あの、本当に急いでいるのでこれ以上お話にお付き合いは出来ません、ごめんなさい!」踵を返してすごい速さで飛び去ってしまったから、アミティエさんを追って私も飛ぶ。

「あの、アミティエさん!」

「うわっ!? すずかさん、私の飛行速度に付いて来られるんですか!?」

「えっと、なんとかギリギリです! あの、お話を聴かせてください! 妹さんのこととか、世界の危機の事とか! 私、管理きょ――」

「ああ・・・ここに来てさらに体が重く・・・、無理に動いたせいで余計にウィルスの巡り具合がひどく・・・あぁ・・・」

「って、えええええええっ!!?」

アミティエさんが目の前でいきなり落ちたから、「急にどうして!?」って慌てて追い縋る。その途中でアミティエさんは細い水晶の柱にドカンと墜落。ここで想定外のことが起きちゃった。アミティエさんが落ちた水晶の柱がポッキリと折れて、すぐ側に突き立っている柱を巻き込んで大惨事。急いで助けに向かおうにも連鎖的に崩れ出した柱は行く手を拒んでくる。

≪スズカ、無駄ですわ。アミティエ・フローリアンの反応が離れて行きます。それに、魔力を持った水晶の破片がジャマーの役割を果たして彼女の反応探知を阻害、・・・ロストしましたわ≫

“スノーホワイト”からの報告に「そっか・・・」と私は残念がった。とそんな時、『すずか、一体何が起きた!? 大丈夫なのか!?』チンクさんから通信が入った。地上担当のチンクさんは、いきなり倒れた柱の近くに私が居たことを見ていたから、心配して安否を確認してくれた。

「私は大丈夫ですけど・・・。あの、チンクさん。そちらに10代後半ほどの女の人現れませんでした?」

『いや。そちらで何かあったのか?』

チンクさんに伝える。管理局が認知していない世界からの渡航者――アミティエ・フローリアンさんと会ったこと、そのアミティエさんが言っていた、世界の危機のことなど。するとチンクさんは『ドクターが好みそうな話だな』って呟いた後、『調査班に連絡しておいた方が良いな』って言った。私たちだけでどうにか出来るような案件じゃない、って。

『すずか。一度本局に――』

チンクさんの通信に割り込むように通信が入ったことを報せるコールが鳴った。チンクさんは『受けてくれ、すずか』って通信を受けることを許可してくれた。お礼を言った後、私は通信を繋げる。

『やっほー、すずかー♪』

私に通信を繋げたのは「アリシアちゃん!」だった。モニター越しでアリシアちゃんは今エイミィさんのお部屋に居ることが判る。それはとにかく「どうしたの? アリシアちゃん」通信を繋げた理由を訊いてみる。

『その事なんだけどね。暇つぶしにエイミィの部屋で、ネットゲームで遊んでたらそこでちょっとおかしい何かを捉えちゃって。すずかの居る世界でみょ~な反応があったの』

「妙な反応・・・?」

『すずか、先ほどお前が言っていた話に関係しているのではないか?』

『あ、チンク! いつも妹たちがお世話になってます♪』

『いや。第零技術部も賑やかになって、ドクターも喜んでいるよ』

私たちみんな、第零技術部の中継点なしで転移が出来る超長距離トランスポーターを利用させてもらっている。中継点を挟まないから、地球から本局までの転移時間がわずか5分。中継点を挟むと1時間は余裕で掛かるから、本当に助かってる。

『そうだ、アリシアちゃん。妙な反応に心当たり有るんだけど』

『ホント!? すずか、その心当たりのこと教えて。本局のシャルにそのまま伝えるから』

アリシアちゃんにチンクさんに伝えたことと同じ話を伝えると、すぐに『すずか、アリシアから報告を受け取ったよ』新しく展開されたモニターにシャルちゃんが映った。

『アリシアから受け取ったデータで見た反応だけど、どうやら管理局で認知できていない魔力運用技術っぽいんだよね。今からそっちにわたしとアリサ、調査班が向かうから、手伝ってほしいんだけど』

「あ、うん、それはいいんだけど。・・・私、いま第零技術部のお手伝いで、チンクさんと一緒に居るんだけど」

『うん、らしいね。チンク。すずかを借りるけど、問題ない?』

『ああ、問題ない。ドクターには伝えておこう。ただ、我々シスターズは、第零技術部部長ジェイル・スカリエッティ少将の許可なく他部署の仕事に関われない事になっている。一度本局に帰らねばならないが・・・』

『大丈夫。戦力はきっと十分だから、チンクは心配せずに自分の仕事を終わらせて』

というわけで、私はアリサちゃんとシャルちゃん、調査班の人たちを手伝うために残って、チンクさんは一度本局へと戻っていった。

†††Sideすずか⇒はやて†††

今日は大学病院への通院日ってゆうことで海鳴市に戻って来てるわたしとリインフォース。午前中に診察を終え、夕方に診察結果が伝えられるそれまでの間、時間潰しに海鳴の海上で、リインフォースと2人で魔法戦の特訓をすることした。

「ふぅ。リインフォース、今日のわたしの魔法、どないやった?」

「ええ。攻撃・防御・飛行、とても安定していますよ。もう、私からあなたに教える事がないほどに」

余裕を以って特訓が出来る理由。それは、製作中やったわたしの新たな融合騎が、融合騎技術者のミミルさんの天才的な助力もあって、その完成が目前にまで迫って来たからや。祝福の風、リインフォース。その名前を受け継ぐ二代目融合騎、リインフォースⅡ。命名はリインフォースや。ミミルさんに丁寧に教えてもらいながらリインフォースⅡの細かい設定プログラムを作成してる最中、ふと思うたことがあって・・・

――リインフォースが2人になってしもたら呼び分けに困るなぁ――

――では、私のことは、アインス、と。そして新たな祝福の風には、ツヴァイ、と――

そうポツリと漏らしたら、リインフォースが少し考えた後、そう提案してきた。聞いたすぐはシンプル過ぎてそれでええんかなぁ、って思うたけど、響きが可愛らしかったからリインフォースの命名をそのまま採用した。

「ホンマか! うん、これでみんなの足手まといから脱却やな」

「誰もそんなことを思ってはいませんよ」

「そうやろうけど、自己評価で判断するとわたしはまだまだひよっ子や。もっと頼られるそんざいになりたい。いつまででも守られてるだけやなくて、守ってあげたいんや」

そやけど、その完成と同時、リインフォースの戦闘能力の全てが消失することになるんを知った。リインフォースⅡの本体になる“夜天の書”の1ピース――剣十字。リインフォースは自分が持てるすべての魔法やその運用機能を、ドクターに作ってもろた新・“夜天の書”とその剣十字に託す。
そうなると、“夜天の書”に残るんは人格形成と実体化のプログラムだけや。一緒に過ごせることは変わらずで嬉しいんやけど、こうやってリインフォースから魔法の手解きを受けることが出来ひんくなるのは寂しい。

「そうですか・・・。ええ、そうですね。あなたは強い方ですから」

そう微笑んでくれるリインフォースやから、「おおきにな」わたしも寂しさを押し隠して微笑み返す。さてと。午後の診察時間にはまだ間があるからもうちょい練習してこか、って決めた時に「なんだ・・・?」リインフォースがキョロキョロ見回すから、「どないしたん?」って訊いた瞬間・・・

「見ぃ~つけたぁ~~♪」

どこからともなく聞こえてきた女の人の弾んだ声。リインフォースがわたしを庇うように前に躍り出た。リインフォースの後ろから見る。エイミィさんくらいの歳やろか、全体的にピンク色の女の人がひとり宙に佇んでた。右手には銃、左手には片刃の剣。

「んー、なぁ~んか色彩が違うような気もするけど、適合率的にはバッチリだからどうでもいいっか♪」

その人がまずわたしを見てそう言った後、「しかももう1つの目標が同時に揃っててラッキー♪」リインフォースを見て歓声を上げた。とリインフォースが『お気を付けください。魔力の気配も私の知るモノではありません。それに、私たちに用がある者などそうはいません』って思念通話を送って来た。

「あなたはどうやら私たちの事を知っているようだが、私たちはあなたとは初対面だと思うのだが・・・?」

「エルトリアのギアーズ、キリエ・フローリアン。あなた達にちょーっとだけお願いがあるの~♪」

「「お願い・・・?」」

リインフォースと顔を見合わせあって小首を傾げる。キリエさんはスッとわたしに剣先を向けて、「そうよ♪あなた達が手にしている闇の書の中に眠る、無限の力――システムU-Dを渡し――貸してほしいなぁ、って♪」って聞き捨てならへんことを言うてきた。
リインフォースと同時に警戒レベルをMAXに引き上げる。“闇の書”はまぁ知る人は知ってるやろうけど、わたしらがその関係者ってことは本当に一部の人にしか伝わってへん。一体どこでそのことを知ったんか、聞き出す必要があるな。

「素直に渡してくれたら痛い目には遭わないわよ?」

「あの、そうゆうのは世間一般では恐喝ってゆうと思うんですが・・・(出来るだけ情報を引き出す。捜査課の研修生として頑張らな)」

「きょーかつ? そんなのヘッチャラよ♪ 世間なんて得体のしれないような概念にどう思われようともね♪ ほら、そーんな事はどうでもいいから、システムU-Dを早く渡してねん❤」

そう言うたキリエさんは、今度は銃口をわたしらに向けてきた。完全に実力行使に入る気や。そやけど、その前に「待ってくれ」リインフォースが制止させた。わたしも「そうやな、まずは話しをしましょう」って続く。

「どこで私たちのことを調べたのかは判らないが、彼の魔導書は闇の書などという名ではないし、管制プログラムだった私自身もすでに機能の大半を失ってしまい、システムを自由に操作する力はもうないんだ」

「あの、そもそもシステムU-Dってなんですか?」

「それは私も気になっていた。彼の魔導書にそのようなシステムがあるとは思えないのだが。管制プログラムである私ですら認知していない単語だ」

最後の夜天の主であるわたしや、管制融合騎のリインフォースすら知らん“システムU-D”。ひょっとしたらキリエさんの妙な誤解かもしれへん。

「そーんな見え透いた嘘なんて聞きたくありませ~ん♪ だってあなた、この世界で唯一システムU-Dを制御しうる人物じゃない♪ お姉さんは騙されませんよぉ~❤ だからほら、とっととその闇の書を渡しやがれ~、です♪ あとはこっちでシステムU-Dを引っこ抜くんで❤」

「「っ!」」

アカン。完全に話し合いで終わるレベルやないほどにキリエさんは暴走特急や。こうなったら力づくでも押さえていかへんとわたしとリインフォース、ダブルで危険や。しゃあなしに「リインフォース!」“シュベルトクロイツ”を構える。

「・・・・我らが愛おしき主と夜天の書に害をなす意思があるのであれば・・・!」

「実力行使、上等! 華麗に返り討ちにしてあげる❤」

――ラピッドトリガー――

キリエさんの持ってる剣が銃に変形。そんで2挺になった銃から6発の魔力?弾を発射してきた。左右に分かれるようにわたしらは回避して、「すまないが手加減は出来ない・・・!」リインフォースが接近戦を仕掛ける。これがわたしとリインフォース、2人の時の戦闘スタイル。前衛のリインフォース、後衛のわたし、や。

(ホンマはこの前の欠片事件の時にユニゾン出来るようになったけど、あれはどちらにも負担が掛かるから多用せんようにって、ミミルさんに言われてるしなぁ・・・)

そやからこのスタイルで・・・押し切る。“シュベルトクロイツ”をキリエさんへと向けて、「バルムンク!」剣状射撃魔法を発射。12本の剣が膨らむような軌道で反りながらキリエさんへ殺到。キリエさんは「無駄、無駄よ~♪」陽気な声を上げながら紙一重で前進することで躱した。上手い見切りや。そやけど、「はぁぁぁぁッ!」リインフォースがキリエさんの真下からアッパーを繰り出して追撃。

「よいしょっ♪」

キリエさんはその場でバック宙をしてリインフォースの攻撃を避けた後、バック宙を続けながら両手の銃から光弾(やっぱり魔力とは別の何かやな、妙な感じがする)を連射してリインフォースを攻撃した。

――パンツァーシルト――

至近距離やったにも拘らずリインフォースはその光弾をシールドで完璧に防御。すかさずキリエさんの片足をガシッと鷲掴んで放り投げた後、「捕らえよ、封縛!」キリエさんをバインドで拘束した。

「ブラッディダガー・・・!」「ブルーティガードルヒ」

わたしとリインフォース、同じ短剣型高速射撃魔法をスタンバイ。計40基の短剣がキリエさんを全方位から包囲する。ほぼ逃げ場無し。防御力が高くてもそうそう無傷では済まんはずや。

「あらら、捕まっちゃった♪・・・それにしても捕まえたくらいで優位に立ったなんて思っちゃうなんて、黒天に座す闇統べる王――ロード・ディアーチェちゃんと、闇の書のコントロールシステムにしては、ちょーっと甘いんじゃない?」

「「っ!!」」

リインフォースと顔を見合わせた後、「えっと、もう一度言うてくれます?」って確認を取る。さっきのは聞き違いやなかったか?って。キリエさんは「ちょっと甘いんじゃない?」って違うところを繰り返したから、「もうちょい前です」ってこちらも返す。

「えっと・・・。黒天に座す闇統べる王――ロード・ディアーチェちゃん・・・?」

「そう、それです!」

聞き間違いやなかった。そう言えば初対面で、色彩が違う、なんて言うてたなぁ。もう少し早く気付くべきやった。リインフォースと一緒に射撃魔法の包囲陣を解除して、さらにキリエさんを拘束してるバインドも破棄。自由になったキリエさんは「どゆこと?」って小首を傾げる。

「あのですね・・・わたし、八神はやて、いいます。キリエさんの言う闇統べる王とはちゃいますよ。つまり、人違いです」

「・・・ヒトチガイ?」

「そういうわけなんだ。我が主である八神はやてと、君の言う闇統べる王は確かに似てはいるが、まったくの別人だ」

わたしらがそう言うと、「えっ? じゃあ、本物のディアーチェちゃんは今どこに居るの!? 知っているなら、教えてほしいんだけど! さっきの失礼は謝るから!」キリエさんがそんなに必死になってまで捜してる闇統べる王はもう・・・居らへん。

「3ヵ月ほど前になる。闇統べる王を含めたマテリアルと呼ばれる闇の書の闇の欠片たちが闇の書の復活を企んで出現した。しかしアレの復活は再びこの世界に災いを起こすことになるため、復活の阻止に乗り出した私たちは、マテリアル達を討伐した」

「だからもう、この世には居らへんのです」

「・・・・」

「「・・・・・・」」

しばらく固まってたキリエさんはようやく「うそん」そう一言発した。リインフォースが「すまないが、事実だ」と返す。キリエさんはもう一度「マジんこで?」って確認して来たから「マジんこです」わたしはそう返した。それにしても、ロード・ディア-チェ、なんてカッコええ名前持ってたんやなぁ、あのちょうイタい子。

「うっっっそぉぉぉーーーーん! なんてこと! なぁ~んてこと!? それってつまり、わたしの偉大にして壮大、完全無欠の計画は、始まる前からすでにメチャクチャの駄案だったの!?」

どんな計画かは知らんけど、あの王さまを利用しようってゆうんやからあまり良うないと思う。ショックに打ちひしがれてるキリエさんをどうしようかと考えてるところで、『はやて、リインフォース! こちらアリシア!』アリシアちゃんから通信が入った。

「こちら、はやてとリインフォース。ちょうどええところに。今な――」

アリシアちゃんに、キリエさんと邂逅から今までのことを伝える。と、『やっぱり、こっちで観測できた妙な反応の発信源はそのキリエとかいう人みたい』支部みたくなってるハラオウン家の方でもキリエさんが妙な存在やってゆうことを捉えてるみたいやった。

『とにかく任意同行でもいいからこっちに連れて来られないかな? 今、クロノやフェイト達、誰も居ないから頼めるのははやてしか居ないんだ・・・』

「任意同行って言われても・・・、わたし、まだ研修生の身やし、そんな権限とか・・・」

『そんなもの適当に誤魔化しちゃえばいいんだよ。緊急事態だし』

結構な無茶を言うてくれるアリシアちゃん。そやけど、緊急事態なのは確かで。あとで反省文(こうゆう場合は、始末書になるんやろか?)を書くことになる覚悟でキリエさんに声を掛けようとした時、「っ!?」ゾワッと悪寒が奔った。

「この感じ・・・!」

「まさか、そのようなことがあるはずが・・・!」

空が震える。そんでこの気配。わたしらは知ってる。この邪悪な感じは「闇の書の欠片――マテリアル・・・!」のもので間違いない。確かにみんなで協力してマテリアルは全員打ち倒したはず。それから復活の兆しもなかったのに、どうして今になって・・・。

「ど~すればいいのよぉ~~~・・・!」

(キリエさんが現れたから、か?)

さらに振動が強まって、キリエさんも「え、なに? 何が起きてるの?」気付いたようや。

「キリエさん。お姉さんが捜してた王さまが来るよ」

「ホント!? ね、ねえ、わたしのこと、紹介してほしいんだけど!」

「う~ん・・・、あの王さまに話が通じるかどうか判りませんので」

リインフォースのことを残骸とか酷いこと言うてた王さまに、話が通じるとは思えへん。まぁ、とにかく「リインフォース、要警戒や」って気を引き締め合う。そんでついに空にあの禍々しい魔力の奔流が発生したと思うたら・・・

「ふふふ、ふはははは、はぁーっはっはっはっはっはッ!! 怨嗟あれ、災禍あれ! 我は黒点に座す闇統べる王、ロード・ディア―チェ! ここに復っ活!!」

あちゃあ、ホンマに出て来てもうた、王さま。お馬鹿さんみたく高笑いを上げる王さまに、わたしは溜息ひとつ吐いた。

 
 

 
後書き
ようやくエピソード2も終盤です。長かったぁ、本当に長かったぁ。本作における「GOD」編はゲームとは違い、戦闘せずに話だけで終わるという演出も含めます。そこは戦闘せずとも話をするだけでなんとかなるだろ?ってモノが多々ありますし。まぁ、格闘アクションゲームなので当たり前ですが。
次回は、「BOA」編で伏せられていた義と律のカタカナ表記の発表と、おそらく未来からの来訪者の登場・・・だと思います。
 
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