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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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白銀天魔 振るう力


手に入れた悪魔祓いの魔法は、滅竜魔法同様に何かを滅する為の失われた魔法(ロスト・マジック)である為かしっくりきた。
自分の手を見つめ握りしめたココロの拳に、白銀の風が纏われる。

「これで対等ですね、双魚宮さん」
「それは部隊での呼び方です…私の名はポワソン。その名の由来が魚である事から十二宮の十二番目を背負っているだけに過ぎません」
「ごめんなさい、それじゃあポワソンさんと呼ぶ事にします」

律儀に頭を下げたココロのミントグリーンの髪を、風が撫で揺らす。
白銀の風が拳から腕全体に流れるように纏われたのと同時に、ココロは地を蹴った。

「天魔の翼覇(よくは)!」

両腕を翼に見立て、白銀の風を振るう。
ナツの使う“火竜の翼撃”を模したような魔法をポワソンは避けると、両手に魔力を集中させた。

「灰竜の吐息!」
「天魔の神楽!」

灰色の風の球体を吹き飛ばすように、白銀の風を巻き上げる。
風の球体は軌道を逸らされココロの左側を通り抜けた。
それを視界の隅に捉えたココロは駆け、跳ぶ。

「天魔双剣・戦舞(せんぶ)!」
「くっ……灰竜の螺旋燼!」

両腕に纏った風を剣のように鋭く尖らせ、舞うように斬る。
表情を歪めたポワソンは螺旋する灰色の風で目晦ましをし、ココロと距離を取った。
ズサア…と靴底が地面に擦れるような音を鳴らしながら体勢を整え、ポワソンはぷくっと頬を膨らませる。

「灰竜の……」
「天魔の……」

それを見たココロはポワソンが何をしようとしているかに気づき、こちらも頬を膨らませる。
大きく息を吸い込み――――放つ。

「咆哮!」
「激昂!」

灰色の風と白銀の風が吹き荒れた。
2つの風は木々を揺らし、葉を飛ばし、花を散らす。
バサバサと2人の髪や服が激しく風に揺れるのが治まる頃には、既に構えお互いに睨み合っていた。












傲慢(ルシファー)!」
「勇敢なる戦士達エインヘルヤルに命じる!“どんな手を使ってもいい。目の前の敵をぶっ潰せ!”」

ジョーカーの七悪ノ大罪(セブン・ヴァイス)傲慢(ルシファー)―――――術者の背中に生えた光の翼から、無数の羽が矢のように飛ぶ。
それを当てまいと戦乙女ワルキュルヤから与えられた武器や防具を十二分に活用する戦死者エインヘルヤルに後ろから命じるクロノは、右手をヒラヒラと動かしながら左手に魔法陣を展開する。
それを見たジョーカーも表情1つ変えずに魔法陣を展開させた。

憤怒(サタン)!」
「冥府の番犬ガルムに命じる!“目の前のは餌だ、遠慮せず喰い尽くせ!”」

先ほど雷神衆を苦しめウェンディを恐怖に追い込んだ、大爆発を起こす魔力の球体。
が、クロノはといえば笑みを浮かべる余裕を残し、魔法陣から漆黒の毛に銀色の瞳の番犬ガルムを呼び出した。

「行け」

短い言葉と共に放たれた、エインヘルヤルを見事に回避しながらクロノだけを狙う球体をガルムの目が捉える。
タン、と軽い動きで飛んだガルムは――――ぱくり、と球体を銜え、呑み込む。

「!」
「ガルムは伝説上、魔軍の有力な一員として神々の軍政と戦い、チル神と壮烈な死闘を繰り広げて相討ちになった。知ってるか?チル神ってのはギリシア神話のゼウス、ローマのユピテルなんかと同一語源の神名を持ち、戦争や契約、法の守護者として北欧神話の最高神オーディンと並ぶ最高神と見なされていた」

何事もなかったように軽い動きでクロノの元へと戻ってきたガルムを一撫ですると、ニヤリと口角を上げる。
黒い光となってガルムが消え、クロノは続けた。

「アイツはそんな最高神と戦って相討ちになるような奴だ。テメエの罪の1つ程度、呑み込むくらい訳ねえよ!」

ジョーカーの表情が歪んだ。
対するクロノの表情は清々しい――――というか、完全に楽しんでいる。
……“楽しんだモン勝ちだぜ!”と背中に書いてある気がした。勿論書いてないが。

「クロノさんってこんなに強い人だったんだ……」
「意外ね」
「そりゃそうだよ」

驚いたように呟くウェンディとシャルル。
まあ確かにあの、評議院第一強行検束部隊隊長なんてポジションにいる人には見えない(少なくとも、制服を着ていなかったら気づかれない)見た目だけを見ていれば、驚くのも無理はないだろう。
そんな2人に、レビィが笑う。

「普段は普通だけど、戦い始めれば凄いんだから!最強候補だったラクサスと互角に戦う程にね」
「おいレビィ、それじゃあまるで普段のオレが凄くないみたいだろ?」

やれやれ、と肩を竦め笑うクロノ。
こちらが呆れたくなるほどに、彼にはまだ余裕がある。
それは、ある意味では当然だった。
最愛の妹を助ける為――――――彼は、負ける事を許されないのだから。











ブオン!と空気を裂く音が耳に飛び込むと同時に振り下ろされた炎の剣を、エストはヒラリと避けた。
常人なら持つどころか指一本触れられないであろう炎の剣を慣れたように握りしめるアルカは、炎の剣を空気中に溶け込ませるように消し、次の手を打つ。

大地猟犬(スコーピオンハウンド)!」
「…水流」

土で構成された無数の猟犬を、エストの杖の先から放たれた水が押し流す。
間一髪で炎の翼を生み出し飛んでいたアルカは水が消えると同時に着地すると、苛立たしげに呟いた。

「……何で」
「え?」
「何でさっきから手ェ抜いてんだよ、テメエは!」

手を抜いている。
そう言われても、エストはピンとこなかった。
アルカは息子だ。彼相手に杖を向ける事には僅かだが抵抗はある。が、アルカは息子であると同時にエストの敵だ。手を抜く理由なんてない。
だからエストはアルカを“敵”と見る事に決め、普段戦うように戦っているつもりだったのだが……。

「手なんて、抜いていたかな……?」
「気づかれてねえとでも思ってたのか?ギルドでじーちゃん相手に杖を向けた時と比べて、杖の先に集まる魔力が少ない事に」

不思議そうに杖を眺めるエストを、苛立たしげにアルカは睨む。
その両手に炎の剣が握られ、苛立ちが具現化されるように剣が大きくなっていく。
息子のつり気味の目に見える怒りと苛立ちを見たエストは、どこか悲しげに目を伏せた。











魔水晶(ラクリマ)の欠片が辺りに落ちている部屋。
12の台座のうち、魔水晶(ラクリマ)が置かれているのは2つだけ。
その欠片を足で退かしながら、血塗れの欲望(ブラッティデザイア)のギルドマスター、シグリット・イレイザーは、部屋中に展開する魔水晶映像(ラクリマビジョン)を眺めていた。

「あと2人…ふふ、計画は順調に進んでいるわね。まさか天秤宮が妖精の尻尾(フェアリーテイル)側につくとは思わなかったけど、大した問題じゃないわ」

赤い髪がふわりと揺れる。
音1つ立てず椅子に座ったシグリットは、真正面にある魔水晶映像(ラクリマビジョン)に目を向けた。
そこに映るのは、耳を塞ぎ苦しそうに息をする少女。
この計画で誰よりも大事なポジションを担う、この争いの中心とも呼べる巫女。
チラリと上に目を向ければ、デジタル時計のような文字盤が時を進めていた。

表示される残り時間は―――――――1時間00分25秒。

「もう少しで全てが終わる……それまでは閉じ込められていてね、ティア嬢。私達の計画は、貴女にも幸せな結果を与える事が出来るのだから」













灰色と白銀がぶつかり合う。
片方は竜を滅する風。灰を巻き込み灰色に染まる。
片方は悪魔を滅する風。聖なる象徴であるように白銀に輝く。

「灰竜の鉤爪!」
「うくっ」

本来なら白銀の風を振るうはずのポワソンは、灰色の風を纏った足で蹴りを放つ。
それを喰らい痛みに表情を歪めたココロは、風を操り後方へと跳んだ。

「天魔の荒翼(こうよく)!」
「ぐっ……きゃああああああ!」

本来なら灰色の風を振るうはずのココロが、両腕を振るう。
両腕を翼に見立て振るう動きは、天魔の翼覇に似ていた。
この2つの違いは?と聞かれれば答えにくいが、翼覇に比べ風が荒々しく広範囲を狙いとしている。
防御態勢を取ったポワソンだったが、結果として痛みを覚え吹き飛ばされた。

「灰竜の螺旋燼!」
「天魔の激昂!」

螺旋する灰色の風の一撃。
すると、頬を膨らませたココロの白銀の激昂がそれを掻き消すように放たれ、ポワソンを呑み込む。
風の中から脱出するように飛び出たポワソンは、よろけながらも着地する。

「天魔の神楽!」
「あああああああああっ!」

続けてココロの攻撃が炸裂する。
ポワソンを巻き上げた白銀の風が消えると同時にポワソンは地に落ち、1番痛む左肩を右手で抑えながら、よろよろと起き上がった。
その表情は痛みに歪んでいる。

(何で……魔力の量や戦歴は私の方が上なのに…何で彼女が私を圧倒している?)

考える。
脳の全てを使って考えるが、答えが出ない。
こちらが風を振るえば、ココロは攻撃の動きが解っているかのように大体を避け、喰らったとしてもこちらに手応えがない。
反対にココロが風を振るうと、それは確実にポワソンにダメージを与える。









「格の違いね」

その戦いを魔水晶映像(ラクリマビジョン)で眺めるシグリットが呟いた。
映るのは驚いたように目を見開くポワソンと、そんな彼女を睨むココロ。

「ポワは確かに強い……けれど、風を操る失われた魔法(ロスト・マジック)を使う事には慣れていない。対するココロちゃんは、元が灰の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)…風を操る失われた魔法(ロスト・マジック)を基礎から叩き込まれている」

魔力の量や戦歴は、今はただの飾りにしかならない。
魔法を使い慣れている者と使い慣れていない者が戦えば、有利なのは当然使い慣れている方だ。
ポワソンは滅竜魔法を得た。が、その使い方―――――こういう状況でどんな攻撃をするべきか、そこからどう行動すべきかが解っていない。いくら強い力を得ても、使い方が解らなければ無意味だ。
ココロは滅悪魔法を得た。名前すら知らない魔法だが、風を操るという点では灰の滅竜魔法と同じ。滅するモノが変わっただけ。つまり、最大限の基礎能力を持っている。

「いくら戦いに慣れていたとしても、魔法に慣れていなければ意味がない……“使える”のと“使いこなす”のは全くの別物だからね。その点では、ポワよりココロちゃんの方が断然有利」

でも、と。
シグリットは続けて呟く。

「でも、それだけじゃここまで圧倒はされない……何より不利なのは、ココロちゃんがポワの攻撃の全てを知っている事。元々灰の滅竜魔法はココロちゃんの魔法だったから、それは当然なんだけれど……」

その魔法を発動する為の構えを見ただけで、ココロには解る。
放たれた魔法がどういうものかも知っているし、どう避ければいいかだって解っている。
自分の魔法の事を誰よりも知っているのは自分しかいない。

「天空の滅悪魔法と灰の滅竜魔法……違いはその属性と、滅する存在だけ。灰の滅竜魔法の、灰そのものを操るのではなく灰を巻き込んだ風を操るという点が大きくココロちゃんを味方している」

咆哮は放てないが、激昂がある。
吐息や螺旋燼は使えないが、似た別の魔法ならある。
そしてココロは、その魔法の扱い方をよく知っている。
育ての親である灰竜グラウアッシュが、簡単な基礎から応用まで、全てを叩き込んでくれたのだから。

(彼女は決して強くはない…使う魔法が珍しいだけであって、ギルドの中では下から数えた方が早い程度の強さ。本来ならポワに勝てる可能性なんてない)

ポワソンだって、血塗れの欲望(ブラッティデザイア)でギルドマスター直属部隊を務めるほどの実力者だ。
本来なら、元々戦闘が得意な訳ではないココロにここまで手古摺りはしない。
滅竜魔法を奪い、即決着をつける――――――普段のポワソンの戦いを知るシグリットの予想はこうだった。

(だけど……今結果として、ココロちゃん相手にポワは手古摺っている…彼女に、圧倒されている)

本当なら、ココロが自分の中の新たな魔法に気づく訳がなかった。
ポワソンはヒントの1つも与えないし、魔力の質等だけで解るはずもない。マカロフ並みの魔導士なら話は別だろうが、ココロは至って普通の、どこにでもいる訳じゃないけど魔導士ギルドの中ではどこにでもいるような魔導士である。
だからこそ、ポワソンが勝つと思っていた。

(こんな有り得ない状況を作り出すなんて……強運の持ち主かもね、ココロ・アーティリア……)











その状況を作り出せたのは、運ではないのだが。
――――――なんてシグリットに言い返す事は出来ない…というか、シグリットがこの戦いを見ている事すら知らないココロは、驚いたようにこちらを見つめるポワソンを見ていた。

(驚いてるのかな。まあ確かに驚くよね。私だって、まさか1人で誰かと戦う事になるなんて思ってなかったし、ここまで戦えるなんて知らなかったし。知ってたらニルヴァーナの一件の時も皆さんのお荷物にならなかったのに……)

攻撃が得意な訳ではなければ防御が得意な訳でもない。
ウェンディのように治癒魔法を使える訳でもなく、ココロは自分が本当にお荷物だったと認識していた。
攻撃が苦手、という点はウェンディと同じだったが、彼女は治癒魔法で仲間の役に立っていた。それに対しココロは全部中途半端で何も出来なかった。
コブラを倒したのだって結果的にはナツで、魔水晶(ラクリマ)を壊したのもウェンディの力があってこそ。
全て中途半端で、1人では何も出来ない――――――それは、ココロにとっては辛い事だった。

(1人で行動するのが好きな訳じゃないから別にいいんだけど、こういう時に周りに頼ってばかりじゃいられない。だから、1人でどうにか出来る……誰かの役に立てる力が欲しかった)

自分の両手を見つめる。
ぎゅっと握りしめて拳を作ると、自分の体内を巡る力が実感出来た気がした。
吸い込んだ息を大きく吐き、ココロは前を見据える。

(今の私にはその力がある。誰かの役に立てる力が!)

ココロの視界で、ポワソンが魔法陣を展開させた。
魔力が一点に集まっていくのを感じながら、ココロも魔法陣を展開させる。
周囲の葉が揺れ、風が2人の両手に纏われていく。
――――――――そして。








――――――――2つの風が、激突した。













ゴオオオオオオオオオッ!!!!と。
耳を塞ぎたくなるような激しい音が周囲に響いた。
それと同時に台風並み…もしかしたら台風以上かもしれない強風が吹き荒れる。








「きゃあ!」
「強風!?」

その風は、デバイス・アームズと戦うウェンディ達の所へも届いていた。
バサバサと髪や服を揺らし、デバイス・アームズ達は耐え切れず吹き飛ばされる。

「くっ」
「勇敢なる戦士達エインヘルヤルに命じる!“風に耐えろ、吹き飛ばされたら冥府行きだ!”」

強風はクロノとジョーカーにも影響していた。
ジョーカーが放った傲慢(ルシファー)は吹き飛び、クロノはエインヘルヤルに風に耐えるよう命令を出し、自分も必死に堪える。









風が届かなくても、風音は塔にも届いていた。

「うわっ!何コレ!?」
「風の音!?」
「何なんだよこりゃあ!パラゴーネ、お前等のギルドにはこんな風の魔導士がいるのか!?」
「否定するぞ師匠!私もこんな風の魔導士は解釈していない!」

塔の中にいる十二宮全員が倒れるのを待っているルーシィ達は、驚きつつ耳を塞ぐ。







「これは……」
「風か?一体誰が」

塔を出る為の出口を探すエルザとヴィーテルシアは顔を見合わせた。







「うるせーっ!」
「風って事は…ウェンディとかココロ?」
「いあ……この感じは知らねえぞ。2人とはなんか違う気がする」

太陽の殲滅者(ヒート・ブレイカー)のシオと戦うナツは常人より優れる耳を塞ぎ、ハッピーが不思議そうに呟く。







「!何だ今の音」
「ポワかな。それと……滅悪魔導士(デビルスレイヤー)?」
「は?んなの妖精の尻尾(フェアリーテイル)にはいねえよ」

風音に驚き動きを止めたアルカが訝しげに呟き、エストが窓の外を眺めた。








「うわっ、凄い音……」

彷徨うように塔の中を走っていたアランはびくっと体を震わせた。








「今のは……?」
「さあ…風の音だった、というのは解りますが」

クロスと、彼を背負うライアーはとりあえず塔を出るべく階段を下りていた。












風が止んだ。
辺りの木々を彩っていた葉は全て落ち、数本の木が折れている。
2人はお互いに傷つき、はぁはぁと息を切らしていた。
――――――――そして。

「……っ、あ…」

小さい声を零し倒れたのは―――――――ポワソンだった。
ココロも立っていられず膝をつくが、意識はある。
息を整えたココロは信じられないモノを見るようにポワソンを見つめると、小さくガッツポーズをした。

「勝った……私、勝ったよ…グラウアッシュ」

その囁くような声は、風に乗って消えて行った。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
この話を書くのは大変だった……前話投稿から一週間、最初の3日間は何にも書けなかった…。
そしてやってくる季節の変わり目!頭痛持ちの私にとっては憎き時期!今日も朝から頭が痛くて仕方なかったので、頭痛薬呑んで凌いでます。

感想・批評、お待ちしてます。
……そういや天空の滅系魔法って、治癒魔法もセット(?)だけど。
天空の滅竜魔法は「他人の体力回復」、滅神魔法は「自分の傷回復」。
滅悪魔法は…「他人の傷回復」か「自分の体力回復」。どっちにしよう? 
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