| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Element Magic Trinity

作者:緋色の空
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

目覚める力


――――ねえ、私は強くなれてるかな?

今もまだ幼い少女が今よりも幼かった頃、よく口にした問い。
それを聞く度にあの人は苦笑して、灰色の体躯によく映えるワインレッドの目を細めた。


――――貴女が求める強さが何かは貴女にしか解らない…だから、私には答えられない。


お決まりのセリフは、声のトーンもイントネーションも違わず覚えている。
少し低めでハスキーな声がいつもと同じ答えをくれる事に、少女は心のどこかで安堵していた。
その答えが欲しくて、何度も同じ問いを繰り返していたのかもしれない。



7年前の、7が並んだあの日までは。






―――――ねえ、私は強くなれてるかな?







どんなに問い掛けても。
灰色の体躯に映えるワインレッドの瞳は細められない。
あの低めのハスキーな声は、答えを返してくれない。










「“第四波動”」
「おわっ!」

右に避ける。
あと少し避けるのが遅れていたら、ナツの桜色の髪の一部が焼け焦げていただろう。
現に背後の壁には穴が開いている。

「危ねー…」
「ナツ!前!」
「っと!」

ホッと息を吐く間もなく、“太陽の殲滅者(ヒート・ブレイカー)”の異名を取るシオの一撃が放たれる。
壁にダイブするようにそれを避けると、ナツは両腕に炎を纏って駆けた。

「火竜の翼撃!」
「吸収ー」

両腕の炎が、シオの右腕に吸い込まれる。
炎が消えてしまったナツは表情を歪めると、足を止め後方に跳んだ。

(さっきからナツの炎が効いてない……アイツの魔法は何なんだろ?)

後ろの方で待機するハッピーの目には、初めて見る光景が映っていた。
ナツの攻撃が当たる前に、その炎が幼い少女の右腕に吸収されている。
当たらないという事はあった。が、炎が吸収されたところなんて見た事がない。

「だったら!」

再びナツが駆ける。
握りしめられた右の拳に炎はない。
吸収された訳ではなく、最初から纏っていない。

「炎がー、効かないからー、肉弾戦ー?」

空気を切る音と共に振り下ろされた拳をヒラリと避け、シオは右腕を構える。
それに構わずナツは再度拳を振るうべく地を蹴った。

「だけどー……」

謎めいた、何を考えているか解らないボーっとしたような表情のままシオは呟く。

「あんまりー、近づくとー、危険ー、だよー」
「!」

その声が耳に入ると同時に、ナツは異変に気付いた。
握りしめた右拳が――――()()()()()
肘から先が氷に包まれ、冷たさがじわじわと伝わる。

「凍った!?」
「ぬううう……」

ハッピーが驚く。
ナツは歯を食いしばり、力を込める。

「うぬぬぬぬぬ……だらああああっ!」

パキィン!と。
氷が割れたと同時に、右拳に炎が纏われる。
それを吸収される前に消すと、ナツはシオを睨んだ。

「さっきからオレの炎消しやがって……何なんだテメエは!」
「だからー、災厄の道化(ミスフォーチュンクラウン)のー、シオ・クリーパー」

間延びした口調にナツの苛立ちが倍増する。
ピクリと眉が上がり、ギリッと歯を食いしばった。











――――1番失いたくないモノを失った時、人はここまで絶望するんだ。
“双魚宮”ポワソンと対峙するココロが最初に思ったのはこれだった。
育ての親である灰竜グラウアッシュに教えられた滅竜魔法。ココロの誇りであったその魔法を、目の前の少女はいとも簡単に奪った。
大切な魔法だったのに。灰竜との繋がりの証だったのに。

「灰竜の吐息」
「っ!」

先ほどまで自分が使えていた魔法を、ポワソンが扱う。
その両手から放たれた灰色の風の球体を慌てて回避する。

「凄いですね、滅竜魔法って!何か力が有り余ってる感じです!」

無邪気に笑うポワソンを、ココロが睨む。
魔導士相手に魔法が使えない者が戦うなんて無謀すぎる。
が、今ポワソンの相手として戦えるのはココロしかいない。
他のメンバーはデバイス・アームズの破壊に忙しいし、スバルとヒルダは“巨蟹宮”クラッベと“人馬宮”フレシュを相手にしていた為魔力を誰よりも消費している。乱入したクロノはジョーカーと戦っている。
本当は化猫の宿(ケット・シェルター)にいた時からの友達であるウェンディに来てほしいのだが、ルーがいない今、唯一回復系の魔法が使える彼女はあの場を離れられないだろう。

(私がやるしかない……)

唇を噛みしめ、小さく頷く。
力強く前を見据えると、その視線に気づいたポワソンがクスッと笑った。

「いい事教えてあげましょうか?私の魔法は相手の魔法を奪うと同時に、私が最後に吸収した魔法を相手に与えるんです。だから貴女は今、私が滅竜魔法を奪う前に奪った魔法が使える」

その言葉にココロは目を見開いた。
先ほどの力が抜けて力が入っていったあの感覚はそういう事だったのだ。
これで対等だ、と思ったと同時に、ココロは気づく。

「……だけど、貴女は知りませんよね?私が最後に奪った魔法が何かを」











暗闇の中を、黒が歩く。
鋭い光を宿した黒いつり気味の目に黒装束、黒髪が1歩進む度に揺れる。
ふと黒は足を止め、装束のポケットに手を突っ込んだ。
ジャラリと音を立てて取り出したそれを、静かに見つめる。

“それ”は、鍵だった。
特に目立った装飾のない、銀色の。


――――――が、黒が見ているのはそれではない。
重なるように隠れる、もう1つの鍵。

少し力を込めただけで折れてしまいそうな、細い漆黒の鍵だった。










「っはあ……」

滅神奥義・魔神煉獄撃を放ったアランは天を見上げて大きく息を吐き、その場にドサッと座り込んだ。
数回深呼吸を繰り返し、自分の右掌を見つめる。
戦う前と何も変わらない手だが、アランの目には力に溢れているように見えた。

(何年ぶりかな…滅神魔法を使ったのは。昔は大嫌いだったのに、今は何か心地いいし)

思い出そうとして、やめる。
過去を振り返るなんて面倒な事をしている場合じゃない。
空気中のエーテルナノを吸い込んで体力と魔力をある程度回復し、立ち上がる。

「さて、と……行こうか」

誰に言う訳でもなくアランは呟き、駆け出した。











「あうっ」

灰色の風が頬を掠め、ココロは小さく悲鳴を上げた。
軽く頬を撫でると手に血が付き、表情を歪める。

「灰竜の螺旋燼」
「きゃああああ!」

両手に纏われた螺旋状に回転する風。
両手を合わせる事で竜巻と化すそれを、ポワソンはココロのガラ空きの背中目掛けて放った。
咄嗟の事に行動が遅れたココロは吹き飛ばされ、地面を転がる。

(どうしよう…滅竜魔法を失った事で聴覚とかが低下してる。逆に相手が鋭くなってるし……不利にも程があるよ…)

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は感覚が優れている。
だから大きい音が普通より大きく聞こえたり、匂いを強く感じたりするのだ。
その感覚で慣れているココロにとって、突然それが低下しているこの状態には慣れない。
だから、なのかは本人にもよく解らないが、敵の動きに気づけなかったりする事が先ほどから多い。

(うぅ…こんな事ならティアさんみたいに魔法無しで戦う手を作っておくべきだったなぁ。私、完全に魔法頼りだったから……武器の1つも持ってないし…)

近くにある武器になりそうなもの、といえば折れた木の枝くらいしかない。
どこかにココロでも扱えそうな武器が落ちている、なんて都合のいい事は無かった。

「気を抜くと危ないですよっ!灰竜の咆哮!」
「ああああああっ!」

灰色の風のブレス。
吹き飛ばされたココロは口元の血を拭う。
険しい表情のココロとは真逆に、ニコニコと微笑むポワソンが口を開いた。

「どうです?貴女の中の魔法が何か、解りましたか?」
「せめてヒントくらい欲しいですね」
「ヒントですか……気が向いたらあげますよ」

クスクスとポワソンが笑う。
考え込むように目を伏せるココロを見つめ、思った。

(私が最後に奪った“あの魔法”はかなり脅威……だけど、どれだけ強い魔法も使えなければただの御飾りにしかなりません。そして、魔法に気づけるほどあの人は賢くない)

侮っていった。
気づくはずがないと、高を括っていた。

「……そっか」

――――――そうであるハズだったのだ。
彼女が気づく事など、有り得る訳がなかったのに。







()()()()()()…私の中にある魔法が、何か」







「……え?」

聞き間違いかと思った。
解る訳が無いはずなのに、目の前の少女は解ったと言った。
そして―――――構え、地を蹴る。







天魔疾風ノ剣(てんまはやてのけん)!」








両手に纏った白銀の風を剣に見立て、両手を合わせる。
それを力強く、ココロは振り下ろした。
辺りの草が一瞬で刈られる。
ココロの顔に笑みが浮かんでいる事に気づいたのは、それと同時だった。










時を少し前に戻す。
まだココロが自分の魔法に気づいていなかった時。
ポワソンがクスクスと笑っている時、彼女は目を伏せていた。

(……きっとヒントなんてくれない。自力で気づくしかない。けど……)

力があるのは感じる。
滅竜魔法が消えて開いた穴を別の魔法が埋めているような感じがする。
が、新たに穴を埋める魔法が何かが解らない。

(こんなトコで負けてちゃいけないのに…皆が頑張ってるのに……私だって、頑張らなきゃいけないのに……!)

唇を噛みしめる。
握りしめた拳が震え、ココロの中で何かが渦巻く。
―――――そんな時だった。





―ココロ……―





声が聞こえたのは。
その声に、ココロは目を見開いた。

(この、声……)

辺りを見回す。
が、あの巨大な灰色の体躯も温かい光を宿すワインレッドの瞳もない。
けれど、あの低めのハスキーな声はあの人以外有り得ない。
いや…彼女は人じゃない。

―ココロ―

聞こえた声に、ぴくっと体を震わせる。
姿は見えず気配すらも感じないが、確かに彼女はそこにいる。
静かに、心の中で問う。




(グラウアッシュ?……グラウアッシュなの?)




それは、育ての親である灰竜の声。
ぎゅっと祈るように手を握りしめる。
この声が灰竜の声である事を、願った。
7年前突然姿を消した、大好きな親の温かい声。



―ええ、久しぶりね…ココロ。見ないうちに大きくなったわね―



目を見開く。
必死に涙を堪え、両手で口を覆う。
無意識のうちに体が震え、表情を隠すように俯いた。

(…グラウアッシュ……どうして7年前姿を消したの?私、ずっと探してたんだよ?)
―ごめんなさい、それは言えないの。でもね、ココロ。貴女の事が嫌いになった訳じゃないわ―

低めのハスキーな声は、7年前の最後の日と何も変わっていない。
物心ついた時から傍にいたグラウアッシュの声だった。
先ほどまでの動揺がゆっくりと落ち着きへと変わる。

(でも…何でここに?)
―ここは星竜シュテルロギアの加護を受ける土地。彼女の御魂がいる場所なの。普段は人間にあまり興味を示さないのだけれど、旧友である私の娘の危機を黙って見ていられなかったみたいね。すぐに私に知らせて、声だけ届くようにしてくれたのよ―
(声だけ……そっか)

ここにいる訳じゃない。ただ、念話のように声だけが頭の中に響いている。
寂しさが込み上げてくるのを誤魔化すようにココロは拳を握りしめた。

―それでね、ココロ……貴女、滅竜魔法を失ったでしょう?―
(!……うん、ごめんねグラウアッシュ。私……)
―謝る事は無いわ。貴女が滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)でなくなる事は解っていたから―

何を言っているのか、一瞬解らなかった。
彼女に滅竜魔法を教えたグラウアッシュは、ココロが滅竜魔法を失う事を解っていたと言った。
言葉の意味を理解したと同時に、ココロは声に出さず叫ぶ。

(それじゃあどうして私に滅竜魔法を教えたの!?それより何でそれを知ってるの?何で……)
―シュテルロギアが見た未来よ。その通りになるとは思わなかったけど……―

困ったように呟く時、グラウアッシュは目を伏せる。
きっと今もそうなんだろうな、と思いつつ、ココロは息を吐いた。
深呼吸をすると頭に少し余裕が出来た気がした。

―私が貴女にこうして語りかけているのはね…貴女の新しい魔法を教える為―
(え?)
―彼女……シュテルロギアは言ったわ。“娘に言葉を繋げてやる。娘の新たな魔法を教えよ。そして…時を超えし我が巫女を救え。救えぬと言うのなら、妾は力を貸さぬ”って―

我が巫女、というのはティアの事だろう。
時を超えし、というのが何かは解らないが、今はそれを気にしている程の余裕がない。

―ココロ、落ち着いてよく聞いてね―

ゴクリと唾を呑み込む。
胸辺りで手を組み、聞き逃すまいと耳を澄ます。




―貴女の新しい魔法は――――――……―











「……そっか」

聞こえた新しい魔法の名は、不思議としっくりきた。
初めて聞く名であるハズなのに、昔から知っていたかのような。
閉じられていた蓋が開いて中身が零れるように、力が全身を駆け巡る。
足りなかった部分が補われ、魔法を奪われる前のココロ・アーティリアが戻ってくる。

()()()()()()…私の中にある魔法が、何か」
「……え?」

余裕の微笑みを浮かべていたポワソンの表情が、驚きに崩れた。
きっと彼女は気づくはずがないと思っていたのだろう。
まさか――――まさか灰竜が彼女に語りかけるなんて、思ってもいなかっただろう。

(私だって驚いてる。グラウアッシュが語りかけて来るなんて思ってなかった)

両手に白銀の風が纏われる。
先ほどまでの灰色の風とは違う、別の何かを滅する為の力。
きっとこれはミラさんとかにはよく効くんだろうな、なんて考える余裕が戻ってきている事に気づいたのは、少し後の事だった。

(……もちろんだよ、グラウアッシュ。私が貴女を信じない訳ないじゃない)

この魔法を告げた後、グラウアッシュは少し心配そうな声色で言った―――――信じて、と。
それに答えを返す前にふっと声が途切れたから返す事は出来なかったけれど、きっと届いていると信じて静かに思う。

(だから見ていて。私はちゃんと戦える――――強くなれてるから)

決意と覚悟が目覚める。
今までの触れただけで折れてしまいそうな弱々しいモノではなく、しっかりと根を張る強い決意。
静かに両手を合わせ、地を蹴る。







天魔疾風ノ剣(てんまはやてのけん)!」







驚いた表情のポワソンが慌てて避けるのが見えた。
辺りの草が一瞬で刈られる。
自分が笑みを浮かべている事に、ココロは気づかなかった。

「何で…何で、解ったんですか」

硬い声でポワソンが問う。
表情は厳しく、その目は睨むようにココロを見ていた。
が、不思議と恐怖は感じない。
怯えるどころか、その目を向けられる事が当然であるとさえ思っていた。

「私は、灰竜グラウアッシュの娘ですから」

それ以外の答えなんてない。
それ以外に似合う答えも存在しない。
それこそが答えであると信じて、力強くココロは言った。







灰竜グラウアッシュは、言った。
ココロの新しい魔法は、悪魔祓いの魔法であると。
失われた魔法(ロスト・マジック)の一種である魔法。



天空の滅悪魔法。
悪魔を滅する白銀の風を操る――――――天空の滅悪魔導士(デビルスレイヤー)。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
滅悪魔法って滅竜魔法とかみたいに「天悪の」で始まるブレスとかあるのかなー、と考えつつ、原作でどうやら「氷魔零ノ太刀」なる技が出たと聞き、こういう技っぽいのが出る魔法なのかな、と思い「天魔疾風ノ剣」を割と即興で考えました。
天空の、って滅竜魔法も滅神魔法も出てるから出来ない…と打ちひしがれていた所にやってきたこのチャンスを逃してなるものか!……というのは割と本当ですが、実際には「滅竜魔導士が7人で竜が消えたのはX777年7月7日、ここまで7が並ぶのには何か意味があるんじゃないか?」と思い、じゃあココロがいたら8人じゃん!どうにかしよう、でこうなったりする。

感想・批評、お待ちしてます。
悪魔=邪悪な存在、それを滅する=聖なる感じ=白っぽい色、にしたけど、実際どうなんだろう。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧