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ジオン独立戦争記~名もなき兵士たちの転戦記

作者:hyuki
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1.エルネスト・ルツ中佐編
  第2話:グラナダ降下作戦

 
前書き
拙作第1話をお読みいただいた方、お気に入り登録してくださった方、感想を下さった方、
ありがとうございます。
第2話をお届けします。 

 

宇宙世紀0079年1月2日。
公国軍は訓練の名目でそのほぼ全軍がサイド3を発し、
地球連邦との開戦に備えていた。
本国軍はサイド1へ、宇宙攻撃軍はサイド4へ。
そしてルツも所属する突撃機動軍は月のグラナダへ。
先制攻撃に向けた準備は完了していた。

旗艦エグモントをはじめとするルーゲンス艦隊は、突撃機動軍に属する
他の艦隊と同じくグラナダ降下作戦に向けて配置についていた。
ムサイ級軽巡コリオランの艦内でも公国軍創設以来の実戦を目前に控え、
ピリピリとした空気に満ちていた。

ルツ中尉もその例にもれず、格納庫に置かれている愛機の前に佇み
じっとその無骨な姿を眺めていた。

「中尉、どうされたんですか?」

ルツが声につられて振り返ると、機付の整備士であるシェンク伍長が立っていた。

「ちと、落ち着かなくてね」

ルツは緊張した面持ちのまま愛機の頭部へと目を移す。

「中尉でもですか?」

ルツの言葉を意外に思ったシェンクがルツの隣に並んで同じようにザクの丸い
頭部を見上げる。

「当り前だ。 俺だけじゃねえ。 誰にとっても実戦は初めてなんだ。
 しかも相手はあの連邦軍だぞ。 緊張するに決まってんだろ」

変わらず愛機を見上げながら、ルツはシェンクの癖っ毛をかきまわした。

「ちょっ、いい加減それやめてくださいよぅ」

シェンクはルツの行為に迷惑そうにしつつも、その顔には笑みが浮かんでいた。
しばらくしてルツの手が止まると、シェンクはその乱れた髪を手で整え
ルツの方に向き直って姿勢を正した。

「ルツ中尉の操縦されるザクを落とせるようなパイロットが
 連邦にいるはずがありません」

真剣な声色で言うシェンクに向かって、ルツは苦笑を浮かべた顔を向ける。

「そう言ってくれるのはありがたいし、そうありたいとは思うけど
 連邦を甘く見るつもりはねえよ。 こんな歳で死にたくないからな」

今度はシェンクの頭をポンと軽く叩くと、再度ザクに目を向けた。

「ところで、俺の命を預ける相棒の整備は完ぺきかな?
 今朝の演習ではちょっと焦ったけど」

開戦前最後でもあるこの日の朝に行われた演習で、ルツのザクはAMBACの
異常で姿勢制御に支障が出てしまい、途中で艦に戻るハメになっていた。

ルツの問いかけに対してシェンクは自信ありげに頷いて見せる。

「はい。AMBACのシステム異常の原因は右ひじ関節部にある緊急用バルブが
 誤作動を起こしてしまい、右腕のひじ関節から先が動かなくなってしまった
 ためでした。
 既にそのバルブは新品と交換してますし、問題なく作動することは確認済みです」

AMBACとはモビルスーツの姿勢制御システムのことで、四肢の運動による
反作用を利用しているものである。
この存在がモビルスーツを優秀な兵器へと押し上げた要素の1つである。
反面、その体内を血管のようにめぐる油圧配管が切断され作動流体が失われれば
無重力・真空の宇宙空間で姿勢制御が不可能になってしまう。
これは兵器としては致命的な欠陥である。

その弱点を補うために、作動流体のリークを検知するとその部位へと流れ込む
配管を自動的に閉じることで作動流体の流失を防ぐ機能が備わっている。
シェンクの言った緊急用バルブとはそのためのものだが、今回はどこにも損傷が
無いにもかかわらずこのバルブが作動してしまったのである。

「なら、緊急用バルブが誤作動した原因は?」

「そこまでは判ってません。 ただ、中尉のザクのシステムログを確認したんですが
 バルブを閉める信号が出てないので、バルブの機械的な故障だと思います」

ルツからの再度の質問にシェンクは小脇に抱えていたバインダーに挟んでいる
書類に目を通しながら答える。
するとルツは納得顔で頷いた。

「ってことは再発はほぼ無さそうってことか。 緊急用バルブが勝手に閉まった
 って話はあんまり聞かねえもんな」

「ですね。 外したバルブは戦闘が終わったらジオニック社に送って
 調査してもらいますけど、おそらくは製造ばらつきの問題だと思います」

「了解だ。 って、もうこんな時間か。 俺は晩飯にするけど、
 たまには一緒にどうだ?」

シェンクを夕食に誘うルツであったが、シェンクは済まなそうにしながら
首を横に振った。

「ありがとうございます。 でも、センサー周りをもう一度確認しておきたいんで、
 遠慮させてもらいます」

「そうか。 まあ、あんまり根を詰めんなよ。 お前さんの腕は信用してっから」

「はい。 お気づかいありがとうございます、中尉」

自分に向かって頭を下げるシェンクに手を振ると、ルツは床を蹴って
格納庫から食堂に向かった。





翌日、ルツは起床合図とともに目を覚ました。
普段通りに朝食をとり、顔を洗って、歯を磨き、髭を剃る。
唯一、普段とは違って軍服ではなくノーマルスーツに着替えると
モビルスーツパイロットの待機室へと向かった。

艦内は普段よりも慌ただしく、通路を行く人々の顔にも余裕は感じられない。
ルツが待機室に入ると、5人ほどのノーマルスーツ姿のパイロットが集まっていた。

「おはよう、ルツ」

ルツが声のした方に目を向けると、そこには茶色い髪を短く刈りそろえた男が
笑みを浮かべて立っていた。

「ん、ベルゼンか。 おはよう」

その男はベルゼン中尉といい、ルツとは士官学校の同期で、ルツと同じく
コリオランのモビルスーツ小隊長を務めている。

そのベルゼンは挨拶を返してきたルツに近寄っていくとその肩に自分の手を置いた。

「いよいよだな。 俺たちスペースノイドが真の独立を勝ち取るための戦い」

精神が高揚しているのか、ベルゼンは歌でも歌うような口調で言う。
しかし、ルツはそんな同期の笑顔を冷ややかに見る。

「何を浮かれてるんだ。 俺たちが相手にするのはあの地球連邦なんだぞ」

「だからこそのモビルスーツとブリティッシュ作戦だろ。
 心配しなくても俺たちは勝てるさ」

自信満々に語るベルゼンに対して、ルツは肩をすくめて首を振った。

「いい加減その楽天主義は直した方がいいな、ベルゼンは」

「お前こそ、なんでもかんでもネガティブに考えるのはよした方がいいぜ」

一方、ベルゼンも鋭い目をルツに向ける。
しばし2人はお互いを睨みあうと、どちらともなく表情を緩めて微笑を浮かべた。
ルツがベルゼンに向かって何か言おうと口を開きかけたとき、艦内放送の
スピーカーが電子音を発し始めた。
次いで、艦長のヴェーゼルの声が続く。
曰く、"総員、最寄りのモニターに注目せよ"。
その声に応じて、待機室の隅にあるモニターの側にパイロットたちが集まり、
ルツとベルゼンもその輪に加わった。

しばらくして、モニターに女性アナウンサーの姿が映った。

『こちらは、ジオネット・チャンネル1です。
 ただいまより、ギレン・ザビ総帥の演説を放送いたします。
 皆さん、ご静聴ください』

女性アナウンサーはそれだけ言うと軽く頭を下げ、そこで画面は切り替わった。
画面に映るのはギレン・ザビ、ジオン公国軍総帥の地位にある男の顔だった。

『ジオン公国の国民諸君。 私はジオン公国軍総帥、ギレン・ザビである。
 今日は、朝まだ早い時間ではあるが国民諸君に我が国が重大なる決意を
 固めたことを報告する』

画面の中のギレンは一旦言葉を止めると、静かに目を閉じる。
そして再び目を見開くと演説を再開した。

『人類が初めて宇宙に生活の場を求めてから80年が過ぎようとしている。
 コロニーというゆりかごの中で我々スペースノイドは呼吸をし、食事をとり
 仕事に励み、子を産み育て、脈々とその系譜を繋いできた。
 既に我らにとってはこの人工の大地が故郷であり、我が家なのである。
 だがその故郷は支配され、搾取される対象でありつづけた。
 他ならぬ人類にとっての母なる星、地球に住まう一部のエリートたちによって。
 だが、それも今日で終わる。
 思いあがった地球連邦の者どもに我らが裁きの鉄槌を下す時がきた』

そこで再びギレンは演説を止めた。
モニターを見つめるルツは思わずゴクリとつばを飲み込んだ。

『ジオン公国は地球連邦に対し、宣戦を布告する。
 これから、長く厳しい戦いになるだろう。 だが国民諸君、耐えてほしい。
 この戦いが終わった時、我らは新たな宇宙へとたどり着くことができるはずだ。
 その日を皆で迎えるために、国民よ私に続け! ジーク、ジオン!!』

ギレンの演説が終わると、待機室の中は一瞬の静寂に包まれた。
直後、"ジークジオン"の掛け声で部屋の中が満たされる。
どの顔も高揚感と興奮に満ちていた。
ルツも右手を高く掲げ、高らかに声を張り上げた。
掛け声を3度繰り返し、待機室の中に再び沈黙が訪れる。
その時、艦内放送を知らせる電子音が鳴った。

『艦長のヴェーゼルだ。 本艦はこれより所定の作戦行動に入る。
 諸君の勇気と忠誠に期待する。 総員、戦闘配置!』

艦長の放送が終わると、待機室の正面に立ったメンヒ大尉が手を叩いた。

「よーし、お前ら。 いよいよ本番だぞ。 全員モビルスーツに搭乗して待機」

「了解!」

8人のパイロットたちはメンヒに向かって揃って敬礼すると、
通路に出て格納庫へと向かった。
ルツは格納庫へとたどり着くと愛機の足元へと跳ぶ。
そこにはシェンクが待っていた。

「伍長、俺のザクに問題はないな?」

「もちろんです! 隅々まで点検してすべて問題なしです!」

シェンクは親指を立てた右手をルツに向け、満面の笑みを浮かべる。
ルツはシェンクに向かって無言で頷くと、床を蹴ってコクピットへと
跳び上がっていく。

「中尉!!」

大声で呼びかけられ、コクピットハッチに手足を掛けたルツは格納庫の床に立つ
シェンクの方を見下ろした。

「中尉。 1機でも多くの敵を倒してきてください!
 あと、無事なお帰りをお待ちしてます!」

「ああ。 お前も怪我しないようにな!」

ルツはシェンクに向かって手を振ると、ハッチを潜ってコクピットの中に入る。
シートに身を沈めると、ヘルメットを被り、ベルトを締めて、手なれた手付きで
ザクを起動していく。
ハッチが閉まると正面と左右にあるモニタにモノ・アイが捕えた映像が
映し出される。

左右のレバーを操作してザクの腕を動かすと兵器ラックからマシンガンと
バズーカを取り、マシンガンを右手に握らせ、バズーカは腰の後のハードポイントに
固定した。

『各機、状況を知らせよ』

メンヒからの通信に"出撃準備完了"と返すと、ルツは目を閉じて一度大きく
深呼吸する。 その間に他のパイロットたちも続々とメンヒに返信していく。

『全機出撃準備完了だな。 了解』

全員の出撃準備が完了したことを確認したメンヒから再び通信が入り、
一旦通信ウィンドウが閉じる。
だが、立て続けに別の通信ウインドウが開き、艦の通信オペレータを務める
女性兵士の顔が映し出される。

『モビルスーツ各機へ状況を連絡します。
 月の周辺には連邦の警備艦隊が既に展開し始めていますので、
 これを撃破してください。
 なお、ミノフスキー粒子が戦闘濃度で散布されていますので
 通信状況はあまりよくないと思われます。
 各機、各自の判断で戦闘をお願いします。
 それではモビルスーツ各機、順次発進してください』

オペレータからの通信が終わると格納庫の中に減圧警報が鳴り響き、
その音が止むとともに格納庫の空気が抜かれていく。
そして格納庫が真空になるとハッチが開かれ、そこから漆黒の闇が覗いた。

『各機、順次発進!』

メンヒのその声とともに、ハッチに近い機体から宇宙空間へと飛び出していく。
ルツ機の順番は4番目。
前の機に続いて艦の外へ出ると、艦の左舷側前方の陣取って僚機を待った。
モニター越しには灰色の月面が大きく広がり、その地平線上には
連邦艦隊の姿が小さく見えた。

『お待たせしました、中尉』

『さあ、行きましょう!』

続いて発進してきたレーマー機とメーゲン機がルツ機の左右に陣取った。

「第2小隊は正面の警備艦隊に向かう。 行くぞ!!」

『了解』

2人からの返答を聞き、ルツはペダルを踏み込んだ。
ザクのランドセルについたバーニアから炎が噴き出し、ルツのザクは
連邦の月面警備艦隊に向けて飛び始めた。

6つの小さな点だった連邦艦隊の姿が徐々に大きくなり、その艦型が
判別できるようになってきた。
連邦艦隊はマゼラン級1隻とコロンブス級1隻をサラミス級4隻で囲むような
隊形をとって進んでくる。

ルツは少し速度をあげて連邦艦隊に向かっていく。

そろそろ連邦艦隊が射程距離に入ろうかというとき、連邦艦隊ピンク色に
光ったかと思うと、連邦艦の砲撃がルツたちの方に向かってきた。
だがその狙いは甘く、ルツたちのザクから遠く離れたところを通過していった。

その光を横目で追っていたルツが艦隊に目を戻すと、コロンブス級のハッチが開き
20機ほどの戦闘機が発進していくのが目に入った。

「敵艦が戦闘機を発進させたぞ」

『了解です』

『はい、視認してます』

ルツが僚機に向かって呼びかけると、即座に2人から返答があり
ルツはヘルメットの中で軽く笑みを浮かべた。

そうしているうちに、連邦の戦闘機は2隻のサラミス級を追い抜いて
ルツ達のザクに向かってくる。

「来るぞ、迎撃準備!」

ルツは僚機に向かって指示を出すと、自分自身も右手のマシンガンを
戦闘機に向かって構える。
先頭の機体を射程にとらえると、ルツは引き金を引いた。
120mm径の弾丸が次々と銃口から飛び出して戦闘機に向かって飛んでいく。
レーマーとメーゲンもルツに合わせるように射撃を開始し、
たちまち10機の戦闘機が爆散してオレンジ色の光がともる。

虚空に浮かぶ花火のようにも見えるそれに見とれる間もなく、
第一波の攻撃を潜りぬけた10機ほどの戦闘機が変わらずにルツ達に向かってくる。
そして、ルツ達に向けて機銃で攻撃を加えてくる。

「ちっ・・・」

ルツは小さく舌打ちすると、愛機を左右に滑らせるように動かして
敵の銃撃を回避する。
そしてマシンガンを構えなおし、引き金を引いた。
弾幕を張るように弾をばらまく第1波の銃撃とは異なり、
しっかりと狙いをつけて放たれた弾丸は、正確に連邦の戦闘機を打ちぬいていく。

愛機の500mほど前方でいくつもの火球がひろがり、
ルツは連邦の戦闘機を見失った。

「ふぅ・・・全機撃墜っと・・・」

次の瞬間、火球の間から1機の戦闘機がルツの目の前に現れる。

「まだいたかっ!」

ルツはザクの左手にヒートホークを握らせると、目前の戦闘機に向かって
振りおろした。
ヒートホークが戦闘機を真っ二つに切り裂いたことを確認したルツは
その爆発を避けるためにペダルを踏み込んでバーニアを吹かして距離を取った。
直後、戦闘機は爆発四散し火球へと姿を変えた。

ルツはモニター越しに火球をじっと見つめていた。

『中尉、無事ですか?』

レーマーの切迫した口調が接触回線から流れてくると、ルツは無事な旨を
レーマーに告げ、続いて小隊の僚機2人に向かって指示を出す。

「戦闘機は片付けたから、艦隊をやるぞ。 俺はマゼランとコロンブスをやるから
 お前たちはサラミスを頼む」

『了解!』

そして3人は連邦艦隊に向かって飛ぶ。
その間にルツは手に持っていたマシンガンとバズーカを入れ替え、
それを腰だめに構えると連邦艦隊の中心にいるマゼラン級に向かって打ち放った。

ルツが放った弾はマゼラン級の主砲台に命中して爆発を起こし、
マゼラン級の巨大な船体がぐらりと揺れる。
ルツは自機を加速させながらもう1発バズーカを発射する。
その弾は上に突き出た艦橋に命中して爆発、艦橋は吹き飛んだ。
艦長以下航行要員全員の命が失われ、マゼラン級はあらぬ方向に進み始めた。

ルツは加速したザクをそのままマゼラン級の脇へと進ませ、艦の後方に向かう。
マゼラン級の舷側にある対空砲が火を噴きルツのザクに向かって弾丸が飛んでくる。
ルツはそれをジグザグに飛んで回避すると、艦の後方に回り込んで動きを止めた。

「これでも食らえ!」

ルツはマゼラン級のエンジンに向かってバズーカを打ち放つと、
ペダルを踏み込んで距離を取った。
バズーカの弾はメインエンジンに吸い込まれるように命中し、火災を起こす。
しばらくして、エンジンから上がる炎が輝きを増したかと思うと、
大爆発を起こしてマゼラン級は火球へと姿を変えた。

その様子を見ていたルツはそのまぶしさに思わず目を細めた。
やがて火球は消え去り、デブリの集まりだけが残されていた。

「よし、次だっ!」

自らに喝を入れるように声をあげると、ルツはコロンブス級へと向かう。
バズーカの弾を装填し、大きな弁当箱のようにも見えるコロンブス級の後方に
バズーカを立て続けに3発放つと、それはすべてエンジンに命中し炎をあげた。
やがて、核融合炉の誘爆によってコロンブス級もまたマゼラン級と同じく
宇宙のチリへと姿を変えた。

「ふぅ・・・。さて、アイツらはうまくやってるかな?」

安堵の吐息をもらし、次いでレーマーとメーゲンを思いやったセリフを呟いた
ルツは、モニターに目を走らせ周囲の状況を確認する。
その時レーマーが攻撃していたサラミスが爆発し、その姿を火球の中に消した。
メーゲンも自分の担当分を破壊できたようで、連邦艦隊に残されているのは
サラミス級が2隻のみだった。

「お前らは左のヤツをやれ。俺は右のをいただく」

『了解です』

2人からの返信を確認すると、ルツは自機を残ったサラミス級の1隻に向けて
思い切り加速させた。
慣性に従ってシートに押しつけられながら、ルツはレバーを操作し
ザクの左手にヒートホークを握らせる。
その刃が赤く発光するのを確認し、ルツはサラミスの艦首左舷側に近づく。
そして、サラミスの船体にヒートホークの刃を叩き込むと、
そのまま艦尾に向かって加速し始めた。

ヒートホークの赤熱した刃は、サラミスの船体をまるで紙のように引き裂いていく。
そして、艦首から艦尾まで切りぬけるとルツはそのまま安全な距離まで離れて
振り返った。

ヒートホークが切り裂いた痕から艦内の空気が漏れているのか、
ノーマルスーツ姿の乗組員らしき姿がいくつも吸い出されてくるのが小さく見える。
やがて、そこから炎を吹き出し始め、その直後にサラミスは大爆発を起こして
その姿を塵灰へと変えた。


ここまで母艦を発進してからわずか15分。
その間僅か3機のモビルスーツが6隻からなる艦隊を全滅させたのである。
彼ら3人は知るよしもなかったが、同じような戦闘がサイド1・4の宙域でも
数限りなく展開されていたのである。

宇宙世紀の戦闘の姿が根底から覆された瞬間だった。


少し離れたところにはレーマーとメーゲンが攻撃していたサラミスも爆発して、
火球へと姿を変えていた。

ルツがしばらくその様を見ていると、その方角から2機のザクが近づいてきた。

『中尉、サラミスを撃沈しました』

「見てたよ、ご苦労さん」

ルツがねぎらいの言葉を口にした時、短い電子音とともに通信が入る。

『こちらコリオランです。 第2モビルスーツ小隊長ルツ中尉、応答願います』

「ルツだ。 どうした、コリオラン」

『遭遇した敵艦隊は全滅しました。 周辺に別の敵影も見えません。
 作戦を第2段階に移行します。 第2小隊は通信設備を制圧してください』

「了解。 作戦を第2段階に移行。 月面に向けて降下し、通信設備を制圧する」

ルツが了解した旨を返答すると、母艦コリオランとの通信が切れた。

「2人とも聞いてたな。 行くぞ」

『了解です』

そして3人は月へと向かっていった。





20分ほど飛行すると、3人のパイロットたちの眼下に灰色の不毛な大地が
広がっていた。
そこかしこにあるクレーターの中には人工の建造物が鈍く光を放っていた。

「グラナダ基地だ・・・」

ルツは思わず呟くように声をあげた。
眼下に広がる一面の人工物が目標とするグラナダ基地そのものだった。
地球とは反対側に存在するグラナダ基地は月を挟んで地球とは反対側にある
サイド3との連絡・通信のために建設された基地だった。
一方地球側には月面最大の都市、フォンブラウンがある。

「判ってるな。 目標以外への攻撃は厳禁だ」

公国軍上層部は本国との連絡を重視してグラナダをまず攻略することに決定したが、
反対側のフォンブラウンや他の月面都市の処置については未定であった。
そのため、突撃機動軍のグラナダ降下作戦に参加する各部隊には
グラナダ基地以外には絶対に累を及ぼしてはならない旨、厳命されていた。
ルツはそのことを部下2人に改めて注意しつつ進む。

既に、3機は月の重力圏に入り自然落下によってグラナダへと降下していた。

『中尉、第3小隊です』

メーゲンの声に反応して目線を向けると、そこにはベルゼン率いる第3小隊の3機が
同じように降下していく姿が見えた。
彼らの制圧目標は第2小隊が目標とする通信施設の近くにあるレーダー基地である。
2つのモビルスーツ小隊は重力に引かれて月面に向かって落ちていく。

やがてルツ達第2小隊は月面からの高度が100mを切り、バーニアを吹かして
落下速度を徐々に緩めていく。
そしていよいよ月面が近くなると、思い切りバーニアを吹かして速度を殺し
ザクの足を月面に付けた。

通信施設から1kmほど離れた埃っぽい大地に降り立つと、灰色の砂塵が
ふわりと舞いあがる。

「行くぞ」

ルツは部下たちに短く呼びかけると、右手のバズーカをマシンガンに持ち替え
通信施設に向けてザクの足を進めていく。
3機のザクが通信施設から数百mに迫った時、建物を回り込むようにして
戦車が10両ほど姿を現した。

「戦車だ。攻撃開始!」

ルツは部下たちに呼びかけながらマシンガンの引き金を引く。
3機のザクによる銃撃は現れた戦車を10秒かからずにすべて鉄くずへと変えた。
そして再び3機のザクは通信施設に向かって歩を進めていく。
最初に現れた戦車以外にはさしたる抵抗を受けることもなく、ルツ達のザクは
通信施設のすぐ側までたどり着いた。

『抵抗する様子は見えませんね』

「そうだな・・・」

レーマーの言葉に呟くような言葉で応じるルツ。
その目はモニターに映る通信施設とその周囲を注意深く見ていた。

(これ以上の抵抗は無さそうだな・・・)

ルツは小さく何度か頷くと、作戦を次の段階に進めることを決断した。

「メーゲン伍長。 発光信号を」

『了解です』

ルツの指示に従って、メーゲンは自機の腰に下げていた発光信号機を
上空のコリオランに向けて作動させ、赤い光が既定のパターンで点滅する。

メインカメラの映像を拡大してコリオランを見ていたルツの目に、
コリオランの艦首から切り離されるコムサイの姿が映った。
それは彼らの方に向かって真っ直ぐに降下してくる。

やがてコムサイは通信施設の前に着地した。
そのハッチが開くと中からノーマルスーツを着た完全武装の兵士たちが現れ
跳ねるようにして月面を進み、通信施設の中へと次々に入っていった。
彼らは皆ルツ達のザクに向けて敬礼してくる。
ルツ達はザクに敬礼の姿勢を取らせてそれに応じた。
そして3機のザクは通信施設を背にして周囲を警戒し始めた。

30分ほど経つと、ルツの耳に通信施設の中に入っていった部隊からの通信が入る。

『コリオラン第2モビルスーツ小隊。 こちらは突入部隊だ。
 この施設の制圧は完了した。 我々は次の制圧目標に向かう』

「了解した。 またあとで会おう」

『ああ、そうだな。 またあとで』

制圧部隊との通信が終了すると、引き続いてコリオランからの通信が入る。

『こちらはコリオランです。 制圧部隊がグラナダ基地の軍港区画の制圧を
 完了しました。 本艦はこれより軍港に入港します。
 第2小隊は軍港区画に移動してください』

「第2小隊、了解」

ルツはコリオランのオペレータに返答すると、部下たちに指示を出し
軍港区画へとザクを向かわせた。


こののち、ほどなくして全目標の制圧が完了し、グラナダ降下作戦は終了した。
これによりジオン公国はサイド6を経由して、宇宙空間における地球連邦軍最大の
基地、ルナ2へと侵攻するルートを得たのである。

だが、本国の参謀本部が立案した緒戦の作戦における突撃機動軍の役割は
これで終わりではない。

"ブリティッシュ作戦"

コロニー1基を丸ごとジャブローに落着させ、その機能を完全に奪う。
この人類史上類を見ない作戦の開始が刻々と迫っていた。

 
 

 
後書き
お読みいただきありがとうございます。
第2話です。
このお話では突撃機動軍のデビュー戦となった、グラナダ基地制圧作戦を描きました。
いよいよ戦争本番ということで戦闘描写が続いたわけですが、どうも苦手です。
うまく書けてるといいのですが、感想でアドバイスなど頂けると幸いです。

次の第3話では、ブリティッシュ作戦とその後を少し書かせていただきます。
またお読みください。 では! 
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