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ジオン独立戦争記~名もなき兵士たちの転戦記

作者:hyuki
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1.エルネスト・ルツ中佐編
  第3話:ブリティッシュ作戦

 
前書き
長らく筆が止まってましたが・・・ 

 

開戦から一夜明けて、1月4日。
グラナダを制圧した突撃機動軍の各部隊は、警戒のために出撃している
一部の部隊を除いてグラナダ基地の軍港に停泊していた。

将兵たちは月の弱い重力の中ではあるが、1晩ぐっすりと休んで英気を養い
今は司令官たるキシリア・ザビ少将の演説を待っていた。

コリオランでも格納庫にほぼ全ての乗組員が集められていた。
しばらくして、正面にある大きなスクリーンにキシリアの顔が映し出された。

『突撃機動軍の諸君。 昨日の降下作戦ではご苦労だった。
 諸君の献身により公国はこのグラナダを手に入れることができ、
 しかもわが軍に生じた損害はごく軽微であった。 改めて感謝する』

淡々とした口調で語るキシリアの表情は小さく微笑んでいるように見えた。
だが、すぐにその両目に厳しい光を湛えると、演説を再開する。

『だが、我々の責務はこれで終わったわけではない。
 むしろ今日行われるブリティッシュ作戦こそが本番なのである。
 この作戦が成功したとき、我々は確固とした独立を勝ち取ることができよう。
 困難な作戦になるであろうが、諸君らの勇気と忠誠心、そしてこれまでに
 重ねてきた鍛錬の成果があれば、必ずやり遂げられると信じている。
 今日の労苦の成果は明日の勝利だ。 各員の奮戦に期待する』

キシリアは演説を締めくくると、挙手の礼を取った。
そして中継映像が消え、スクリーンは再び真っ黒になった。

格納庫は兵士たちが小声でかわす会話によって僅かにざわつく。
だが、続いてスクリーンに艦隊司令官のルーゲンス准将が現れると
即座にざわつきは収まった。

『本艦隊は、コロニー突入部隊の支援およびコロニーの護衛を行う。
 ここグラナダを発し、サイド2宙域に入ったところで突入を担当する
 海兵隊と合流、サイド2・8バンチコロニーに直行する。
 途中、サイド2駐留の連邦警備艦隊による迎撃が予想されるが
 大した戦力ではないと思われるので、海兵隊と協力して迅速に排除したい』

作戦図を指し示しながら、ブリティッシュ作戦の概要が明かされていく。
ルツがどのように戦闘が進んでいくかを頭の中でシミュレートしていると
隣から彼のわき腹をつつくものがあった。

顔をしかめながらルツが目を向けると、ベルゼンがニコニコと笑いながら
小声で話しかけてきた。

「今日は昨日よりもずいぶん大変そうだな」

「そうだな。 でも、そんなことを言うわりにはずいぶんと嬉しそうじゃないか」

作戦説明が映しだされている前方のスクリーンを見つめたままルツが応じると、
ベルゼンはニヤニヤと笑いながらルツの肩をたたいた。

「そこはそれ、大変だからこそ手柄の立てどころも多かろうってもんさ」

そう言ってニカッと歯を見せて笑うベルゼンを一瞥し、ルツは肩をすくめた。

前日に行われたグラナダ降下作戦で、ルツは艦船3隻、戦闘機10機、
戦車5両の撃破を認定され、華々しいといっていい戦果をあげていた。
対してベルゼンも艦船1隻、戦闘機7機という十分な戦果をあげていたが、
ルツに対する対抗心が手柄を立てるということにこだわる発言につながっていた。

そんなやりとりを交わしている間にもルーゲンスによる作戦説明は進んでいく。

『海兵隊が突入したのちは、工作部隊による核パルスエンジンの
 取り付け作業が開始されるので、これを妨害されぬように護衛せよ。
 全ての作業が完了し、住民の退避・突入部隊の脱出・工作部隊の回収が完了し次第
 コロニーはジャブローに向けて発進させられる。
 既に周回軌道上には連邦艦隊が展開しているため、激しい妨害が予想される。
 作戦の成功のためにはこれをできるだけ排除することが必要だ。
 諸君の献身に期待する』

ルーゲンスが話を締めくくりスクリーンからその姿が消えると、
ヴェーゼル艦長の解散の号令に従って格納庫に集まっていた兵士たちは
それぞれの持ち場へと散っていく。

ルツもパイロット待機室につながる通路に向けて歩いていたが、
後から声を掛けられて足を止めた。
振り返った彼の目線の先にあったのは、跳ねるようにして自分に向かってくる
ベルゼンの姿だった。
彼はルツのすぐ前でピタリと着地すると、ルツに向けてニカッと笑った。

「待機室だろ? 一緒に行こうぜ」

ベルゼンの言葉に頷くと、ルツは再び待機室に向かって歩き出した。

「なあ、今日の作戦なんだけど、お前どう思う?」

「どう思うも何もないだろ。 上が決めた作戦に従って動くだけだ」

隣を歩くベルゼンの問いかけに対して、ルツは肩をすくめて答えた。
ベルゼンはそんなルツの仕草に苦笑を浮かべると、足早に先を急ぐルツを追った。

2人が待機室に入ると、すでにパイロットたちはほとんど揃っていた。
ルツはベルゼンと別れると、部下たちのところへ歩み寄った。

「どうだ、調子は?」

ルツが声をかけると、万全だと2人の部下たちは彼に向かって笑顔を向けた。
彼らの肩を叩いて、ルツはいつもの席に座る。

すぐにメンヒ大尉が姿を現し、MSパイロットたちはめいめいの席に腰かけた。
ブリーフィングが始まり、大尉が詳細な作戦内容について語り始めた。


8バンチコロニーは建設途上の工業用コロニーで、住民はコロニー建設の作業員と
すでに内部で稼働している工場の従業員に限られる。
コロニー落としに使われるコロニーを選定するうえで、住民退避の時間短縮は
重要である。
質量そのものを攻撃力に転換するのであるから、建設途中の軽いコロニーは
不利であるが、結局は作戦の実行性から8バンチが選ばれた。

ルーゲンス艦隊はコロニー前方に展開して、住民退避と核パルスエンジンの装着が
完了するまで連邦宇宙軍による攻撃に備え、コロニーが移動を開始したのちも
海兵隊と共同でコロニーの護衛を行う。
作戦時間はコロニーの移動開始まで24時間、さらに護衛完了地点まで5日間と
長時間にわたる。

コロニーの落着目標は連邦軍本部、南米ジャブロー。
国力において圧倒的に劣るジオン公国にとって、この戦争を短期に終わらせるために
必要不可欠な作戦であった。


メンヒ大尉による説明が終わると、待機室にいる全員は息をのんだ。

確かにこの作戦が成功すれば地球連邦軍の本部たるジャブローは完全に機能を喪失し
その頭脳を失った連邦軍は瓦解、公国軍は勝利しスペースノイドは完全なる独立を
勝ち取ることができる。

しかし、周囲数十キロにもおよぶであろう範囲の大地が根こそぎ破壊され、
そこに生きる人々、地球連邦軍の軍人だけではない、農民、漁民、商人、会社員、
家庭の主婦、そして子供たち。
そんな普通の人々の生活を、その思想とはまったく無関係に奪ってしまう。

この作戦によって連邦に対して致命的ともいえるダメージを与えられるという熱狂と
物理的に生じる被害の大きさの間で、全員の心は揺れていた。

しんと静まりかえった待機室を見回し、メンヒ大尉は手を叩いた。

「さあ、出撃だ! 海兵隊に遅れをとるなよ!!」

その発破に促され、己の迷いを振り切るようにパイロットたちは立ち上がって
待機室を出て行った。
ルツは一番最後に出ると格納庫へと急ぐ。
愛機の足元に降り立つと、その緑色の機体を見上げた。

「ルツ中尉。 どうかされましたか?」

自分を呼ぶ声に振り返ると、笑顔のシェンク伍長が立っていた。

「いや、どうもしない」

ルツはそう言って、もう一度自分の機体を見上げる。
火の入っていないザクのモノアイは光をたたえてはいないが、
シールドの向こうから自分を見据えているように感じていた。

ブリティッシュ作戦の是非に疑問を感じる己の内心を見透かされているように。

「なあ、伍長。 今回の作戦、お前はどう思う?」

「どう思う、ですか?」

「ああ。 コロニーを落着させればジャブローは叩けるだろう。
 だが、民間人にも莫大な犠牲者が出ることになる。
 確かに連邦がコロニーにしてきたことは許せないが、戦争とはいえ本当に
 こんなことが許されるのか、と思ってな」

ルツは再びシェンクのほうを振り返り、気弱な表情を見せた。
そんなルツの様子を見たシェンクは、背をピンと伸ばしてルツの目を見た。

「中尉。 僕の父はシャトルの事故で亡くなりました。
 父の乗ったシャトルが出港しようとしたとき、連邦の軍艦が港の管制を
 無視したために起きた事故です。
 連邦はこの事故を偶然に起きた不幸な事故、として扱いました」

シェンクはうつむき、拳をにぎりしめる。

「僕は許せないんです。 僕たちスペースノイドの命をゴミくず程度にしか
 考えていない連邦が。同じように僕らのことを奴隷程度にしか考えてない
 地球に住む人たちが。
 もちろん、地球に住む人すべてがそんな考えを持っているなんてことは
 ないでしょうけど、言ってもわからない人に対しては、時には殴りつけてでも
 わからせなければならない。
 この作戦はそういうものだと思っています」

再びシェンクは顔をあげ、ルツの顔を見上げた。
ルツはそんなシェンクの頭に手を置いて頷いた。

「すまん、俺の弱さをお前に押し付けてしまって。
 俺たちは宇宙に住むすべての人たちのために立ち上がったんだ。
 だからこそ、この作戦は成功させなくちゃな」

「はい。 勝ってきてください、中尉!」

満面の笑みを向けてくるシェンクの頭をルツはガシガシといつものように
かき回した。





3時間後。
ルーゲンス艦隊はサイド2宙域に到達していた。
途中、連邦の残存戦力との戦闘はあったものの、さしたる被害をだすこともなく、
連邦の艦隊を撃砕していた。
ルツの小隊もその戦闘で連邦艦数隻を撃沈する戦果をあげていた。

コロニー前面への展開を前に、ルツは格納庫の脇にある休憩室で休んでいた。
そこに、中隊長のメンヒ大尉が入ってきた。
ルツが立ち上がりメンヒに向かって敬礼すると、メンヒはルツに向かって
座るように合図をしてきた。

「中尉。 先ほどの戦闘ではよくやってくれた」

「ありがとうございます」

「だが、ブリティッシュ作戦の本番はこれからだ。 気を抜くなよ」

「はい、わかっています」

ルツとメンヒはテーブルをはさんで向かい合い、そんな型どおりの会話を交わす。
メンヒは手に持ったドリンクパックから一口水を含むと、再びルツに話しかけた。

「そういえば、聞いたか? サイド1の戦闘の様子を」

「いえ。 勝利を得たとは聞いていますが、戦闘の様子までは」

ルツが首を横に振って答えると、メンヒはルツのほうに身を乗り出して
小声になって話し始めた。

「どうもかなり悲惨な戦闘だったようだ。
 わが軍に大きな被害が出たというわけではないのだが、
 連邦艦隊がコロニーを盾に退けと要求してきたらしい」

「それで、わが軍は退いたのですか?」

ルツが尋ねると、メンヒは首を横に振った。

「まさか。
 ドズル閣下はわずかに躊躇したらしいが、攻撃続行の命令を下したということだ。
 コロニーに類を及ぼさないようにせよと指示はしたらしいがな。
 結果、連邦艦隊はコロニーに対して攻撃を実行した、と」

「コロニーに、攻撃・・・ですか? そんな、バカな・・・」

ルツはメンヒの言葉に驚愕し、絶句していた。

「事実だよ。10基のコロニーが破壊され、2億人近くが亡くなったということだ」

「でも、サイド1は連邦支持を最も早く打ち出したところですよ?
 自分の支持者を殺害するなんてこと・・・」

「連邦の、少なくとも艦隊指揮官クラスの連中にとっては、スペースノイドの
 命なんてその程度のものということだろうな」

メンヒが吐き捨てるように言うと、格納庫にMS隊の出撃を命じる
艦長の放送が鳴り響いた。
メンヒは立ち上がり、行くぞとルツに声をかけて自分の機に向かった。

一方ルツは、メンヒの語ったことから受けた衝撃からまだ立ち直れていなかった。
拝むように両手に額をつけて、バカな、ありえないと呟いていた。

「中尉? 出撃では?」

そこに通りかかった一人の軍曹が声をかけると、ルツは立ち上がり
力なく愛機のほうへと漂っていった。





さらに1時間後、ルーゲンス艦隊は8バンチコロニーの宙域に到着し、
海兵隊と合流していた。
コロニー後方の港口から住民の避難を誘導する海兵隊がコロニー内部に進入するのを
守るようにルーゲンス艦隊は展開していた。

艦隊指揮官のルーゲンス准将は各艦にモビルスーツによる哨戒の実施を下命。
コリオランでも3小隊を1つずつ交代で出撃させる連続哨戒体制をとることとし、
最初にルツの小隊が出撃することになった。

力なくコクピットのシートに座っていたルツは、出撃を指示するオペレータからの
通信に言葉少なに応じると、コクピットのハッチを閉じた。

ヘルメットのバイザーを下ろして、愛機のザクを格納庫のハッチへと
移動させていると、メンヒの顔が通信画面に現れた。

『中尉。 様子がおかしいと数名から報告を受けたが出撃できるのか?』

「・・・大丈夫です」

通信画面越しにルツの表情を見ていたメンヒは、小さくため息をついた。

『わかった。 今は任務に集中しろ、いいな?』

「・・・了解です」

ルツは通信を切ると、大きく口を開けている格納庫ハッチから宇宙空間へと
その愛機を踊りださせた。

方向転換しコリオランの前方に出たルツの目に、スクリーンに映し出された
サイド2・8バンチコロニー、通称『アイランド・イフィッシュ』の姿が入る。

連邦のサイド2駐留艦隊はすでに壊滅しており襲撃される恐れもないため、
ミノフスキー粒子の散布は行われていない。
そのため普段よりもクリアに入ってくるオープン回線の通信を聞きながら、
ルツは部下2人を連れて担当宙域へと移動しはじめた。

『・・・おい、どうした!! くそっ! なんだこりゃ!?』

そんな通信がルツの耳朶を打ったのは、彼の小隊がコロニーの採光部に
さしかかった時だった。

『ええい、どうなってんだい!? 仕方ない。ハッチを一旦閉鎖して後退するよ』

海兵隊の女性指揮官、ガラハウ大尉の困惑に満ちた声が示しているように、
海兵隊は大混乱に陥っているようであった。

『ルツ中尉。 海兵隊からコロニーの反対側の港口が操作されているとの
 連絡が入りました。
 至急、確認に向かってください』

次いで、コリオランの通信官からの指示が飛ぶ。
ルツは部下を伴ってコロニー前方の港口へと急いだ。
しかし、到着する前に港口から出てきた白い機体が目に入る。

「コリオラン! シャトルだ! シャトルが港口から出てきた。指示求む!!」

ルツの報告に対して、即座に"捕獲せよ"との返信があり、
ルツはシャトルに向かってザクを移動させる。

シャトルに近づくと、その機体には地球連邦軍のマークが描かれていた。
ルツはそのことをコリオランに報告しつつ、シャトルを観察するために
スクリーンに映るシャトルを拡大した。

見ると、シャトルにはブースターが取り付けられていた。
それが点火されればザクの足では到底追い付けない。

「軍曹!! シャトルのブースターを狙撃できるか?」

『ブースターをですか? できなくはないですが、爆発したらシャトルも
 木っ端みじんでは?』

射撃を得意とするレーマー軍曹のザクには、試作品の狙撃ライフルが
装備されていた。
ルツはそれでシャトルのブースターを打ち抜き、逃亡を阻止しようというのである。

「確かにその可能性はある。 が、逃がしてしまっては元も子もない。
 責任は俺がとるから撃て」

『了解!』

爆発によってシャトルごと四散してしまうことを恐れたレーマーに向かって、
ルツは強い口調で指示を出した。
命令を承知したレーマーは、通常のマシンガンの倍ほどの長さのある試作品の
ライフルを構えると、すぐに引き金をひいた。

ライフルから放たれた弾丸はシャトル本体とブースターの接続部付近に命中し、
小さな爆発を起こした。

「よし、捕獲するぞ!」

ルツは再びシャトルに向かって移動を開始する。
ブースターを失ったシャトルは本体側のエンジンにも損傷を受けたらしく、
ただ慣性にしたがって漂うデブリと化していた。

ルツはシャトルをザクの両手で抱えるようにして捕まえると、その旨を
コリオランに報告した。
それに対するコリオランからの指示は、"旗艦に運べ"というものだった。

コロニー後方の港口付近にいる旗艦エグモントに向かう途中、
ルツはなにげなく採光部を通してコロニーの内部を見た。

「ん、妙だな・・・」

ルツはモニターに映る景色の奇妙さに、思わずつぶやき声をあげる。
その光景には通常あるべきものがなかった。
通行人や車両の姿である。

「事故・・・か?」

彼が唯一発見できた人の姿は、ドアの空いたエレカのそばに倒れている
女性の姿だった。

ルツは心の中がざわつくのを感じていた。
だが、彼はその妙な気持悪さを振り払うようにして、旗艦エグモントへと急いだ。

エグモントの誘導に従って着艦すると、完全武装の陸戦隊1個小隊が格納庫で
待ち受けていた。
ルツは慎重な手つきで抱えてきたシャトルを格納庫の床に置く。
即座に陸戦隊の面々がシャトルを取り囲み、ハッチをこじ開け始めた。

一方ルツたち3人は母艦に戻るように指示をうけ、すぐにエグモントをあとにした。
コリオランに戻った3人は4時間の休養を与えられ、それぞれ自室で仮眠に入った。





3時間後。
少し早くに目が覚めたルツは、格納庫脇の休憩室に向かった。
移動していく最中、艦内の雰囲気がピリピリとしているように感じていた。
休憩室に入ると、険しい表情のベルゼンが話しかけてきた。

「おい、えらいことになったな」

「ん? なんのことだ?」

「はあ? 聞いてないのか?」

「寝てたもんでね。 何があったんだ?」

呆れたといわんばかりに肩をすくめたベルゼンは、ルツが眠っている間に
何があったかを話し始めた。


ルツたちがとらえたシャトルに乗っていたのは、連邦軍の特殊部隊員であった。
エグモントの艦内で行われた尋問の結果、彼らはコロニー内部の空気循環系に
青酸ガスを流したことを自白した。
コロニー内に進入した海兵隊は、ヘルメットのバイザーを下ろしていなかったために
このガスの被害を受けてしまったのである。

一旦艦まで後退した海兵隊は、部隊を再編し万全のガス対策を整えたうえで、
コロニー内部へと再進入を開始した。
海兵隊の当初の目的は、コロニー住人の退避を指揮することであったが、
その任務は生存者の捜索へと変貌していた。


「・・・で、これが海兵隊の撮影した内部の映像だよ」

話の最後にベルゼンはコロニー内部の映像をルツに見せた。
そこには日常の生活の中で突然に強制的に生を打ち切らされてしまった
普通の人々の姿が映し出されていた。
その映像をじっと見つめていたルツは不意にテーブルを拳で殴りつけた。

「おい、どうした!?」

突然のことに驚いたベルゼンが声をかけると、ルツは鋭い眼をベルゼンに向け、
彼の襟首をつかみ上げた。

「こんなことが許されるのか!? こんな、人を人とも思わない所業が!!」

「許されねえよ、絶対に」

ベルゼンはルツからぶつけられる怒りの波動に気圧されることもなく
それを受け止めた。

「許されねえし、許さねえ。 俺らはそのために戦ってるんだろうが」

「・・・そうだな。 悪かった、お前に突っかかっても仕方ないのに」

「構わねえよ。 ま、その怒りは別の奴にぶつけてほしいけどな」

「そうするよ」

苦笑するベルゼンに向かって不敵に笑うと、ルツは自分のザクに向かっていった。





翌日。
海兵隊によるコロニー内部の調査と工兵隊による核パルスエンジンの取り付けは
完了し、コロニーの移動開始予定時刻に向けてのカウントダウンが始まっていた。

結局、1日がかりで行われたコロニー内部の捜索は実を結ばず、
見つかるのは青酸中毒死した住民の遺体ばかりだった。
その作業のさなか、あまりに悲惨な光景に何人かの海兵隊員が精神を病んだという。

住人の避難に使われるはずだった輸送艦は、多分にガスを含んでいるであろう
住人の遺体をのせて航行するわけにもいかず、空のままサイド3へと帰っていった。

内部に大量の青酸ガスを抱えたままコロニーを落着させた場合に地球環境に及ぼす
影響も不明であったため、コロニー内部の空気はその場ですべて排出された。

それらの作業が終了したところで、護衛に当たる各艦はコロニーの移動に伴う
不測の事態に巻き込まれるのを防ぐため、コロニーからは距離を取ったところに
移動した。

そして今、核パルスエンジンの点火まで5分と迫っていた。

ルツはコクピットでの待機を命じられ、ノーマルスーツを着てコクピットに
座っていた。
ヘルメットから聞こえてくる通信によって状況を把握しつつじっと待っていると、
通信画面がひとつ開いた。

『これよりギレン・ザビ総帥による演説が放送される。 全員、傾聴せよ』

ルーゲンス准将による指示に続いて、演壇に立つギレンの姿が映し出された。
ルツは思わず背筋を伸ばしてその画面に注目した。

『忠勇なるジオン公国の将兵諸君。 公国軍総帥、ギレン・ザビである。
 まずは、サイド1・2・4および月面のグラナダ基地攻略に参加した各員に
 感謝の意を表したい。
 このように迅速に各地を制圧できたのは、各員の日ごろの努力の賜物である』
 
画面の中のギレンは、一旦言葉を止めてその鋭い目線を左右に走らせた。

『だが、各サイドで民間人に多くの犠牲者を出してしまった。
 公国軍の最高責任者として、慚愧の念に絶えない。
 謹んで哀悼の誠をささげるものである。
 
 しかし、我々はここで立ち止まることは許されない。
 昨日までの戦闘において、またここ二十余年の経緯からも明白なように、
 連邦に我らスペースノイドの命を守る意思はない。
 彼らは我らのことを虫けら以下の存在としか見ていない』

そこで画面は切り替わり、アイランド・イフィッシュで海兵隊が撮影した映像が
映し出された。

『連邦はサイド2にあるこのコロニーに、猛毒の青酸ガスを流し込み
 400万人もの民間人を虐殺したのである。
 これは、我らジオンがこのコロニーを接収したときに、ジオンの生産力向上に
 寄与してしまう恐れがあるというだけの理由で行われた蛮行である』

映像は再び拳を振り上げて演説するギレンの映像に切り替わる。

『スペースノイド諸君! これこそが連邦の真の姿だ!
 彼らは今後も必要とあればこのような虐殺を何度でも実行するだろう。
 サイド1やサイド4で核によってコロニーを破壊したように。
 また、サイド2で毒ガスによってコロニーの住民を根こそぎ死滅させたように。
 
 このたびの件で私は改めて確信した。
 現時点においては、このような連邦の存在を許すことこそ不正義である!
 これまで連邦を支持してきたコロニーの諸君にもよくわかったことだろう。
 いまからでもジオンの旗のもとに馳せ参じてくれることを我らは待っている』

再び画面は切り替わり、ジオンの艦艇に守られたアイランド・イフィッシュの
姿が映った。

『これから我らジオンは思い上がった連邦政府に裁きの鉄槌を下す。
 全てのスペースノイドの怒りの拳によって、必ずや彼らは屈するだろう』

最後にもう一度画面はギレンの姿に戻った。

『これよりブリティッシュ作戦を開始する!』

その言葉と同時にアイランド・イフィッシュに取り付けられた核パルスエンジンが
点火され、コロニーはゆっくりと動き出した。

『これより我が艦隊は海兵隊と共同でコロニーの護衛にあたる。
 軌道投入完了地点まで5日間の長きにわたる任務だが、緊張を切らすことなく
 集中して任務に精励してもらいたい。
 なお、現在得ている情報では3日後には連邦の迎撃艦隊と遭遇することになると
 予測しているが、それまでも決して警戒を緩めることのないように。 以上だ』

通信画面には再びルーゲンス准将の姿が映し出されていた。
その言葉を注意深く聞きながら、ルツは心中に滾る激しい感情を必死に
押し殺していた。
その怒りのエネルギーを連邦にまとめてたたきつけるために。





それから3日間はルーゲンスの述べたとおり連邦軍による迎撃はなく
厳重な警戒態勢が敷かれているとはいえ、現場は穏やかだった。
この間、穏やかでなかったのはむしろ前線以外である。
というのも、全世界に対して放送されたギレンの演説で明らかにされた
連邦の所業に対して、さすがに愛想をつかしたコロニーの連邦からの離反が
相次いだためである。

すでにジオンの勢力下にあるサイド1・サイド2・サイド4およびグラナダに加え、
サイド5と月面の諸都市もジオン支持に姿勢をひるがえした。
さらに、最も強硬に連邦支持を打ち出していたサイド6も世論の圧力には勝てず、
完全なる中立を宣言するに至った。
これにより各コロニーおよび月面に駐留していた連邦軍は退去を余儀なくされ、
連邦宇宙軍の拠点であるルナ2に移動することとなった。

サイド5にはドズル・ザビ中将率いる宇宙攻撃軍が進駐し、宇宙は事実上
ジオンの手に落ちることとなったのである。

とはいえ、連邦もその手をこまねいているだけではなかった。
移動を開始したコロニーを迎撃するため、ティアンム提督率いる艦隊が
ジャブローからが打ち上げられ、なんとか軌道投入地点よりも手前での迎撃が
可能な態勢を整えたのである。

さらに、ルナ2でも各サイドから敗走してきた戦力の再編が行われ、
サイド3から地球への最短経路の途上にあるサイド5を奪還するべく、
着々と準備が進められていた。

そんな中、ルツは日に3度回ってくる哨戒任務を淡々とこなしていた。
ただ、艦から出て虚空を見つめながらコロニーに歩調を合わせて飛行するという
大してやることが多いわけでもない任務であったが、ルツは人一倍の熱心さをもって
取り組んでいた。

コロニーの移動開始から4日目。
その日2回目の哨戒に出たルツであったが、3時間の担当時間の半分が過ぎても
特段変わったことはなく、今回も空振りかと思い始めていた。

『ルツ中尉。 前方の宙域にミノフスキー粒子が濃い宙域があるようです。
 前方の偵察をお願いします。
 なお、艦隊各艦はこれよりミノフスキー粒子を戦闘濃度で散布しますので
 通信は不可能になるかと思われます』

「了解。 我々は前方に出て偵察にあたる」

コリオランからの通信によって一気に緊張が高まる。
ルツは2人の部下を連れてコロニーの進行方向に向かって移動を開始した。

このあたりの宙域は地球の静止軌道まで1日もかからない位置にあり、
身を隠すようなデブリはない。
たいていの物体は地球の重力にとらわれて大気圏に突入してしまうからである。

ルツはこれまでに経験したことがないほど大きく広がる青い地球に
一種の恐怖を抱いていた。

自分自身がその青い球体に飲み込まれてしまいそうな感覚を覚えていたのである。

無論、飛行速度に気を配らなければどんどん重力によって引き寄せられてしまう
位置ではある。
彼自身もそれは重々承知していた。

だが、彼が感じていた恐怖はそんな物理的なものではなかった。

目の前の青い球体が意思を持って彼を飲み込まんとしているような、
そんな得体のしれない恐怖感であった。

『中尉! 右前方に発光!』

レーマー軍曹のザクが指し示す方向の映像を拡大すると、そこには
真っ直ぐサイド2方向に向かって航行する大艦隊の姿があった。

それこそ、ティアンム提督の率いる連邦宇宙軍、第4艦隊であった。

「伍長! 後退して艦隊に敵艦隊の位置を連絡!!」

『え、発光信号で知らせるのでは?』

「ダメだ。 この距離では気づかれるし、俺と軍曹は敵艦隊の動向を監視する
 必要もある」

『了解しました』

ルツの指示に納得したメーゲンは母艦のある方向に向かって飛んで行った。
一方その場に残った2機のザクは、連邦艦隊との相対速度を0にして飛行していた。
敵に発見されるのを防ぐためできるだけ慣性航法で飛行しつつ、
敵艦隊の動向とそれ以上に敵の偵察部隊が近づいてこないかを警戒していた。

やがて、彼らの後方にアイランド・イフィッシュがその姿を見せた。
太陽の光をきらめかせたその巨体が、徐々に近づいてくるのを見て、
ルツは高揚感とそれ以上の緊張感を感じていた。

『いよいよですね、中尉』

「そうだな・・・ん?」

接触回線を通じて話しかけてくるレーマー軍曹に応じていたルツは、
視界の端で何かが光ったように感じ、思わず声をあげた。

彼のあげた声が気になって話しかけてくるレーマーに待てと伝え、
ルツは光が見えた方向に目を凝らした。
宇宙の深淵の中に再び光が瞬き、それがルツたちのほうに近づいてくるのが見えた。

「・・・敵の偵察機のようだ」

『どちらですか?』

ルツが方向を伝えると、レーマーもすぐにその光を発見した。

『どうします?』

「友軍艦隊はもう近くまで来ているはずだ。
 敵の偵察機に発見させるわけにはいかん。 俺たちが撃墜するぞ」

『艦隊と連絡をとったほうがよいのではないですか?』

「いや、艦隊はミノフスキー粒子を散布しているから通信はできないだろうし、
 信号弾をあげれば敵にも発見されてしまうだろう。
 ここは迅速に敵機を撃墜する」

『了解しました』

そして彼らは敵機に向かって移動を開始した。
近づいていくと、光の発生源は1機の連邦の宇宙戦闘機であった。
敵機の乗員もルツたちのザクに気が付いたようで、その機体をひるがえして
味方の艦隊に向かって帰還しようとする動きを見せた。

「逃がすか! 攻撃開始!!」

ルツはレーマーに指示を下すと、自らもマシンガンを構えて敵機に向けて発砲した。
弾丸は標的に命中し、連邦の戦闘機は爆発して四散した。

ルツはほっと一息つくと、艦隊が近づいてきているであろう後方に目を向けた。
先ほどよりも確実に姿が大きくなったコロニーの脇に、小さくルーゲンス艦隊の
姿が見えた。

「艦隊に戻るぞ」

ルツはレーマーにそう告げると、母艦に向かって移動を開始した。

コリオランに戻ると、艦内はモビルスーツの出撃準備で整備員たちが
あわただしく動いていた。
コクピットを出たルツは、ザクの足元にいたシェンクに最低限のチェックと
弾薬の補給をしておくように伝え、メンヒの姿を探した。

メンヒは格納庫の周囲にある通路から、出撃準備作業を見守っていた。

「大尉。ルツ小隊、偵察から帰還しました」

敬礼したルツが話しかけると、メンヒは向き直ってルツの肩に手を置いた。

「偵察任務ご苦労。 敵艦隊の位置と進行方向はメーゲン伍長から報告を
 受けているが、その後変化なしか?」

「変化ありません。 ただ、敵の偵察機と遭遇しこれを撃墜しました」

「そうか。 敵は母艦に報告しただろうか?」

「いえ、迅速に撃墜しましたし、敵艦隊もミノフスキー粒子を散布している
 でしょうから、通信で報告ができたとも思えません。
 その点については心配ないかと」

「了解した。 今度は敵艦隊を攻撃するために出撃することになる。
 再出撃まで時間はそうないが、少しでも休んでおけよ」

「はい、ありがとうございます」

メンヒへの報告を終えると、ルツは休憩室に向かった。
そこには、レーマーとメーゲンが並んで座っていた。
ルツは部屋の隅に置かれているボックスからドリンクパックを取り出すと、
彼らのそばに座った。

「ご苦労だったな、2人とも。 よくやってくれた。
 疲れてるとこ悪いが、もう少ししたら再出撃だ。
 時間はないが休んでおけよ」

ルツが声をかけると、彼らはわかりましたと笑顔で応じた。

それから30分ほど2人の部下と談笑しながら休憩していると、
艦内放送がはいった。

『艦長より達する。 これより本艦は敵艦隊との戦闘に入る。
 コロニーを無事に落下軌道にのせるのが本作戦における我々の任務だ。
 本作戦の成否はこの戦争の勝利につながっている。
 各員のさらなる奮励努力に期待する。
 
 総員戦闘配備。 モビルスーツ各機は発進準備せよ』

艦長による訓示が終わり、ルツは2人の部下と顔を見合わせていた。
3人とも直前までの笑顔からうって変わって、緊張感のある表情をしていた。

「行くぞ」

ルツは短く言うと、床を蹴って格納庫に向かって漂っていく。
愛機の傍らに佇むシェンクの姿を見つけると、その隣に足を付けた。

「どうだ、ザクの調子は?」

「各部問題なしです。 弾薬は補充しておきました」

「了解。 ありがとうな」

ルツはシェンクの肩をポンと叩くと格納庫の床を蹴ってザクのコクピットに入った。
核融合炉に火を入れてシステムが正常に立ち上がると、すぐにハッチを閉めた。

『現在、コロニー前方に連邦第4艦隊がコロニーを迎撃するために展開しています。
 モビルスーツ各機は出撃し、敵艦をできるだけ多く撃沈してください。
 なお、戦闘宙域にはミノフスキー粒子が飽和濃度で散布されていますので
 長距離の通信は一切できません。
 コロニーが突入軌道投入地点を通過したら戦闘中止の信号弾を打ち上げますので
 即座に帰投してください。
 地球に近い宙域での戦闘ですので重力の影響に注意を』

ハッチが閉まりモニターが機能し始めるやいなや、オペレーターからの状況説明が
コクピットの中に流れる。
その声にじっと耳を傾けながら、モニターに目を走らせ、手元のスイッチを操作し、
ザクの出撃準備を進めていく。
最後に、AMBACシステムの警告が消えてルツのザクは完全に準備が整った。

『各機出撃。 敵艦をつぶせ』

メンヒによる短い指示に続いて、ルツのザクは格納庫のハッチに向かっていった。
ハッチの向こうではすでに戦端が開かれ、砲撃や爆発の光が暗闇の中に
いくつも見えた。

「ルツ機、出撃する」

ヘルメットの中でそう言うと、彼とその愛機は艦の外へと躍り出た。





戦端が開かれてから5時間。
ルツの小隊は実に10隻もの敵艦と30機を超える敵機を撃破していた。
その半数、5隻・15機がルツの撃墜スコアとして記録されていた。

モビルスーツ各機は弾薬が尽きるごとにかわるがわる母艦に一時帰投し、
補給と最低限の整備を終えて再出撃するというパターンを何度も繰り返していた。

ルツの小隊もすでに3度の補給を受けていた。

『中尉! 左下方にサラミス1隻です!』

レーマーからの声に反応してルツはモニターに目を走らせる。
そこに映った連邦艦隊のサラミス級巡洋艦を見つけると、ペダルを踏みこんだ。
ランドセルのメインバーニアが火を噴き、ルツの身体はシートに押し付けられる。

ルツの動きに反応して2人の部下もサラミスに向かって動き出した。

「軍曹。 俺がけん制するから伍長と後背に回り込め」

『了解』

レーマーからの返答を聞いたルツは、マシンガンを構えるとサラミスに向かって
射撃を加えながら近づいていく。

ルツの機体にサラミスからの攻撃が集中する。

対空砲からの銃撃をひらひらとかわしながら、時折サラミスに銃撃していると、
サラミスの前甲板にある主砲塔が火を噴いた。
その衝撃でサラミスの艦体がグラリと傾いた。

そのとき、サラミスの後ろに回り込んだメーゲンの機体がバズーカで
サラミスの船体後部に攻撃を加えた。
ワンテンポおいてサラミスのエンジンが爆発を起こし、宇宙の藻屑へと姿を変えた。

3機のザクは爆発によって生まれたデブリの衝突を避けながら合流する。

「上出来だ、伍長」

『ありがとうございます、中尉』

メーゲンとの通信を終えると、ルツはコロニーに目を向けた。
あちこちに連邦艦隊による攻撃の傷痕がつけられていた。
ミラーの先端は欠け、採光部の窓は一部が割れている。

だがその主要構造は健在で、堂々たる姿で地球へと向かっていた。

そのとき、後方で信号弾が光った。

「作戦終了だ。 帰投するぞ」

ルツは部下たちに告げると、機体をコリオランへと向けた。
最後に一度、ルツは地球へと落ちていくコロニーを振り返った。

「頼むぞ、アイランド・イフィッシュ」

そんな言葉とともにルツはコクピットの中でコロニーに向けて敬礼していた。
彼のザクは青い地球に背を向けて、数えきれない残骸が漂う中を母艦へと飛ぶ。

やがて、彼の行く先にぽつぽつと小さなひかりがいくつも現れる。
それは徐々に大きくなり、それぞれの光はムサイ級巡洋艦へと姿を変えた。
地球から遠ざかろうとしている艦隊の後方から、3機のザクは近づいていく。

コリオランへと戻ったルツは、ノーマルスーツのままパイロット待機室に向かった。
待機室にはすでに何人かのパイロットが集まっていた。
正面にある大きな画面には着々とジャブローへと向かって飛ぶコロニーの映像が
映し出されていた。

「よう、お疲れ」

背後から肩を叩かれて振り返ると、タオルで汗をぬぐうベルゼンが立っていた。
ルツが無言でうなずき、もう一度画面の中のコロニーに目を移すと、
ベルゼンも彼のとなりに立って画面に目を向けた。

「鬼神ってのは今日のお前みたいのを指すんだろうな。
 すごい戦いっぷりだったじゃねえか」

「そうか?」

「そうだよ。 ウチの艦隊でトップの撃墜スコアだぞ?
 ますます差がついちまってやんなるぜ」

「ふぅん・・・。 でも、ベルゼンだってご活躍だったじゃないか」

「そりゃあな。 それにしてもよ、連邦ってのは艦隊のでてくる魔法の壺でも
 持ってんのかねえ。 コロニーの迎撃にここまでの大艦隊を打ち上げてくるなんて
 想像もしてなかったんだが」

「国力30倍っていうのは伊達じゃないってことだろ」

「まあな。そのためのブリティッシュ作戦なわけだし」

「そういうことだよ」

ひとしきり話し終えた2人は再び画面に意識を集中した。
画面の中ではコロニーに対して残存戦力をかき集めて再編成した
連邦艦隊が必死の攻撃を加えていた。

「あっ、ミラーが!」

連邦艦隊の攻撃が3枚あるミラーのうちの1枚の付け根に命中し、
巨大なミラーがコロニーから分離した。
その光景に部屋の中にいた誰かが声をあげ、待機室の中のざわつきが大きくなる。

しかし、そんなことはおかまいなしにコロニーは連邦の残存艦隊の一部を
巻き込みながら大気圏への突入を始めた。
大気との接触によってコロニー全体がプラズマ化したガスに包まれ始める。

「ああっ、コロニーが倒れる!!」

やがて、コロニーは大きく傾き始めた。
ミラーを1枚失い、大気によって受ける抵抗力が著しく不均衡になったためである。
そして、側面にも抵抗を受けたコロニーは激しく赤熱し3つに分解した。

「くそっ・・・ダメか」

ベルゼンはその光景を見て目線を落とした。
予定よりも大きく抵抗を受けたコロニーは減速しすぎてしまっていた。
真っ直ぐジャブローに落下する軌道に投入されたはずコロニーは南米大陸から
外れていく。

やがて、3つに分かれたコロニーの残骸のうち最も大きなものは
オーストラリア大陸東岸へと落着した。
宇宙空間からの映像でも確認できるほどの巨大な爆発が発生し、
待機室は大きなざわめきに包まれた。

「諸君、ご苦労だった」

壇上から聞こえるひときわ大きな声にルツは顔を向けた。
壇上には腕組みしたメンヒが立っていた。

「残念ながら作戦は所期の目的であるジャブローへの直撃を達成できなかった。
 だが、本作戦の過程において連邦の大艦隊を短時間で壊滅させるなど、少なくない
 成果を上げることができた。これも、諸君らのおかげだ。
 この先については本国から別に指令があるであろうが、今はゆっくり休んでくれ。
 長期にわたる作戦行動、本当にご苦労だった。 解散」

メンヒの言葉を受けてパイロットたちは待機室を出て行った。
ルツも待機室を出ると真っ直ぐに自室に向かった。

 
 

 
後書き
お読みいただきありがとうございます。
長らく手を付けていなかったのですが、UCを見直してると湧き上がるものがあって、
一気に書き上げられました・・・w

予想よりも長くなってしまいましたけどね。 
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