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アラベラ
第二幕その四
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「おお!」
「本当ですか!?」
「はい!」
 彼はそれに応えた。
「さあ皆さん今宵は存分にお楽しみ下さい。このマンドリーカ、是非皆さんに喜んでもらいたい!」
 そして彼は給仕を呼んだ。
「いいかい」
 注文を開始した。
「まずは馬車を一台、いや二台用意するんだ」
「わかりました」
 その給仕はそれを聞いて頷いた。
「それから花屋に頼んで店の売り子を起こすんだ」
「何故ですか?」
「決まっているじゃないか」
 彼はここでにこりと微笑んだ。
「花を買うんだ。いいかい、ここからが肝心だ」
「はい」 
 そう言われて給仕は顔を引き締めさせた。
「まずは薔薇だ。それも一つの馬車に紅と白の薔薇を半分ずつ」
「わかりました」
 給仕はそれをメモした。
「そしてもう一つは椿だ。こっちも紅白で」
「半分ずつですね」
「そうだ。全ては私の妻となる人の為。いいかい」
「勿論です」
 彼はそれを受けて笑顔で答えた。
「それにしても何という素晴らしい贈り物でしょうか。そこまでの花を贈られるとは」
 給仕はそう言って彼を称賛した。
「いや、当然のことだよ」
 だがマンドリーカはそう返した。
「私は彼女を愛しているのだから。彼女はその花の上で踊るんだ。娘時代の最後の踊りを」
「貴方の贈られた花の上で」
「そう、そして私は彼女を迎える。私達はそして永遠に結ばれるんだ」
 声も表情も恍惚となっていた。彼は半ば夢の世界にいた。だがそれは現実の夢であった。
「では頼んだよ。すぐにね」
「はい」
 給仕は答えた。既にメモはとってある。
「紅と白の薔薇を一つの馬車に、そして同じく紅と白の椿をもう一つの馬車に」
「うん」
「では暫しお待ちを。花の山が貴方達を祝福するでしょう」
 そして給仕はその場を後にした。花の山を持って来る為に。
 アラベラはこの時バルコニーにいた。そこで誰かを待っていた。
 その瞳は窓の向こうの夜空を見ていた。そこには濃紫の空がある。
 そしてそこには無数の星達もあった。色とりどりの光を放っていた。
 彼女はそれを見ていた。見ながら一人想いに耽っていた。
「かってこれ程までに夜がいとおしいと思ったことはなかったわね」
 彼女はふとそう呟いた。
「娘時代には思わなかったことなのでしょうか。そしてこれからはどう思うようになるのかしら」
 星が彼女の青い瞳の中に映る。それは静かに瞬いていた。
「夜が怖かった時もあったわね。そして月や星の美しさにだけ見惚れていた時もあったわ」
 幼かった頃と娘だった頃。だが今は違う感情を持つようになっていた。彼女は次第に娘ではなくなっていた。
「これからはこの夜の空を一人ではなく二人で見たい。そう」
 ここで彼の顔が頭に浮かんだ。
「あの人と」

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