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アドリアーナ=ルクヴルール
第一幕その二
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と」
 僧院長が公爵を窘める言葉を口にした。だがそれはからかいであり窘めではなかった。
 その証拠に横目で春の女神を見ている。
「僧院長様には私の扇を」
 女神はそんな彼に自分が持っている扇を差し出した。
「おお、これはこれは」
 彼はそれを満足気に受け取った。
「実に素晴らしい贈り物だ。有り難く受け取らせてもらいましょう」
「私は後で姫君のほくろをいただくとしよう」
 公爵は微笑んで言った。好色な笑みではなく遊びを楽しむ笑みであった。
「まあそれは夜に、ですぞ公爵」
「それは存じておりますよ、僧院長」
 公爵は彼に切り返した。
「ところで監督」
 その言葉を受けた後僧院長は彼に問うた。
「マドモアゼルデュクロは?」
 デュクロはこの一座でも有名な女優である。実は公爵は彼女のパトロンでもある。
「今衣装を着ているところですよ」
 監督は素直に答えた。
「監督、そこで脱いでいる、と言えばいいのに」
 姫君が彼をからかうように言った。
「そう、そのほうがお美しいのに」
 女神がそれに合わせて言った。
「そう言ったら劇が始まらないでしょうが」
 監督は二人に口を尖らせて言った。
「あらあら、監督ったらそんなに怒って」
「怒るのは健康に悪いわよ」
「一体誰のせいでそうなってると思ってるんですか」
 彼はさらに口を尖らせて反論した。

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