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銀河を漂うタンザナイト
テルヌーゼンと会議室と・・・
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イゼルローン要塞陥落。この凶報は、国政に無関心であった銀河帝国皇帝フリードリヒ4世ですら宮内尚書ノインケルンを通して国務尚書リヒテンラーデ候に事の真意を訪ねたことから、帝国に対してどれほどの衝撃を与えたかが窺えるのであった。
また同じくらい衝撃を受けたのが、帝国軍の首脳たる三長官達で、軍務尚書エーレンベルク元帥は

「イゼルローンは不落ではなかったのか」

とつぶやき、統帥本部長シュタインホフ元帥はかすれ声でうめいたというのが伝わっている。シュタインホフが発したのは疑問ではなく確認であり、彼の幕僚たちが不用意に漏らす噂話からもそれは明らかだった。彼らは、要塞が制圧される可能性など微塵も考えていなかったのだ。しかし、これは帝国軍にとって、敗北感をいだかせるものではなかった。彼らもまた、要塞が同盟に奪れるなどとは、夢想だにしなかったからである。彼らが衝撃をうけたのは、自分たちが信じていたものが脆くも崩れ去った事実に対するものであったのだ。


一方そんなことはつゆ知らぬ同盟軍第四・第十三の両艦隊は、イゼルローン要塞の接収作業と後始末を終え、今まさに自由惑星同盟首都ハイネセンに帰還したところだった。そして地上に降り立ったヤンを歓呼の暴風が迎えた。
つい先日のアスターテでの戦いにおける大敗があっさり忘れられ、準備された式典とそれに続く祝宴で彼は自分が英雄扱いされることに閉口し、自分の虚像が華麗に踊りまわるのをいやというほど見せられたが、それもしばらくのことで、やっと解放された彼は自分の部屋に引きあげ、ベッドに倒れ込んだのだった。
一方第十三艦隊に一週間遅れで帰還した第四艦隊は派手な歓呼や祝宴はなく、あくまでつつましやかな式典のみだったたが、司令官アラン・クロパチェク少将としては(彼に言わせれば)ヤンの様に、客寄せパンダのごとく衆人環視の中に引きずり出されるよりはるかにマシだった。
その翌日彼は統合作戦本部に出頭していた。

「よく来てくれたな、クロパチェク少将。いや、いまは中将と呼ぶべきだな」

そう言って彼を出迎えたキャゼルヌ中将は、すでに彼が中将に昇進したことを知っていた。

「おかげさまで…」
「まあ、堅苦しい挨拶は抜きにしてだな…。どうだ、お前の昇進祝いに一杯」

言いながら、キャゼルヌは自分の執務室へ彼を招き入れた。

「いえ、せっかくですがまだ勤務中ですし…」
「ま、そう遠慮するな。ちょっとだけだ」

キャゼルヌはそう言うと、自分でグラスに酒を注ぎ、ソファーに座る。

「…………」
「なんだ、おれと酒を飲むのは嫌なのか?」
「とんでもない、酒は好きです」
「じゃあ、いいじゃないか。これくらい」
「まぁ、そうですが…」
「では、乾杯だ。気にするな一杯だけだ」
「では、一杯だけなら…」


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