第四章 カズミちゃんはアイドル?
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ツ? 好きだけど、でもこれお菓子だろ」
「普通のハムカツだよ! まずかろうとも食えよ。せっかく早起きしての手料理を、好き勝手ボロクソ抜かしやがって!」
「兄貴だって、あたしが作るのけなすじゃねえかよ!」
智成とカズミは、週替りで料理当番をしているのである。
そしていつものこと、お互いに不味い不味いいい合っているのである。
「だって、お前の方が、おれより遥かにクソまずいじゃんかよ。女のくせに料理もまともあーーーーーっ、なにすんだ!」
カズミが身をさっと乗り出して、智成の目玉焼きの、ぷるぷる目玉を箸で激しく突き破ったのだ。
目玉にそっと開けた小さな穴に、醤油をちーっと流し込んで食べるのが兄の楽しみであること、知っていてわざとやったのであろう。
がくり肩を落とす智成。
「畜生、最悪だ。……おれ今日仕事休む」
「行けよ!」
2
手に黒カバンを提げ、肩にレクリエーションバッグを掛けた制服姿の女子生徒が歩いている。
県道356号に並走する、裏側の道を。
日々通い慣れた通学路、昭刃和美、中学二年生、現在登校中である。
裏路を折れて路地に入り、コンビニの脇を抜けて県道へ出ようとするところで、不意に足を止めた。
コンビニ建物の角っこ、イートインスペースの大きなガラス張りのところに、防犯ポスターが貼られており、それに注意を奪われたのである。
女性警察官の制服を着て、「なにかあったら110番」「なにかの前にも110番」とフキダシ文字の笑顔で訴えているのは、アイドル歌手の星川絵里奈。
カズミは、この星川絵里奈が好きなのである。
自分に無いものばかり持っているからなのか否か、理由はさておき。
ふんふんふん、と無意識に鼻歌を口ずさんでいた。
二年前のヒット曲、「星空を飛べたらね」だ。
ポスターの前で立ち止まったまま、しばらくふんふん続けていると、不意にカズミの顔に疑問の色が浮かび、続いて焦りの表情になっていた。
「あれっ、やべっ、なんだっけ? 思い出せねえ!」
曲がちょっとあやふやになってしまっていて、その部分の歌詞も忘れてしまっていた。
どちらかでも思い出せれば、連鎖して記憶が引き出せそうなのに、まったく思い出せない。
「うおおおおおおっ! あたしはファン失格だあああああああ!」
頭を抱え、天を仰ぎ、絶叫していると、
「おっはよーーっ」
抜けるような、すかーんと脳天気な令堂和咲の声が、その叫びを吹き飛ばした。
明木治奈も一緒で、彼女たちもまた制服姿でカバンを提げている。
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