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執務室の新人提督
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へと向かっていった。
 ちゃんと見送るべきだろう、と提督は立ち上がり、初風の背を追って三歩ほど歩き……立ち止まった。
 背を向けていた初風が、振り返って提督と向かい合っているからだ。何か忘れ物かと思った提督が口を開くより先に、初風は肩に掛かった髪を優雅に払って言った。
 
「さて……で、提督」
「ん?」
「陽炎姉妹の力、どうよ?」

 皆で作った弁当の事であろう。提督は、自信有りげな初風の目を見つめて、笑った。
 
「磯風さんは誰かが操作しような?」
「無理言わないで」

 一転、頬を引きつらせる初風であった。が、これは提督の死活問題である。弁当の量がどうとかの問題ではなく、生きるか死ぬかの瀬戸際だ。
 
「雪風さんとかにお願いできないものかな、これは?」
「馬鹿。誰がそんなお願い聞くもんですか」

 首を横に振る初風の姿は必死なもので、事がなかなかに難しい事であると提督に理解させた。させたが、やはり提督にとっては看過出来る問題ではない。いずれ来るかもしれない朝昼連続デス弁当等、真っ当な感性を有しているなら当然阻止すべき物で在る。
 
「なら……」
「?」

 提督は初風を指差し、

「命令だ。磯風さんの調理は、初風さんが方向修正すること」

 そう言った。
 
「めい、れい?」
「うん。それ」

 お願いで駄目なら、提督として命令するしかない。もはや彼にはそれ以外無かった。作るな、と言うのも手ではあるのだが、その結果別の方向で何かされても困る上に、何を仕出かしてくるか分かった物ではないので、現状を受け入れるしかないのである。
 
「命令――命令なのね、提督?」

 提督に命令された初風は、提督から顔をそらし、自分の足元を見ながらか細い声で囀った。いっとう、らしからぬ初風の姿に、提督は何事かとも思ったが、とりあえず頷いておいた。
 
「命令だ、初風」

 さん、もつけない。これは上司としての言葉であると明確にするためだ。初風は俯かせていた顔を上げ、提督の顔をじっと見つめると、小さく息を吸って確りと頷いて応えた。
 
「任せて。私、あなたの艦娘だもの」







 静かに出て行った初風の背を脳裏に描きながら、提督は大きなため息をついた。最後に見せた彼女の姿は、どうも常らしからぬ姿であったが、それよりも気になる事があった。
 提督は先ほどまで食事を摂っていたテーブルとソファーを見つめて、軽く首を横に振った。
 
 ――切り替えよう。まぁ、無理っぽいけど。

 提督は自嘲しながら時計に目をやり、そろそろか、と小さくが呟いた。と同時にドアがノックされる。

「あいてるよ、初霜さん」
「はい、おはようございます、提督」
「はい、おはよう」

 
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