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実験材料

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第二章

「しかしな、医学や科学の発展もな」
「そうだ、必要だ」
「絶対に忘れてはいけないぞ」
「文明の発展を止めたら後世で何を言われるか」
「我々は一つの思想で文明の発展を止めた愚かな政治家と言われるぞ」
「そんなことは願い下げだ」
 後世でそう書かれるとたまったものではない、彼等にしても。
「それに医師会からの援助もあるしな」
「彼等の資金援助は大きいからな」
「しかも固定票だ」
 医師界にしても勢力がありしかも有権者だ、彼等の票も無視出来なかった。
「彼等に逆らうとな」
「まさか我々がお世話になった時に差別されるとかはないだろうが」
「それでもな」
「下手に意見を無視出来ない」
「科学者の方もな」
「国家の発展の為には」
「こちらの主張も無視出来ないぞ」
 まさに板挟みだった、このことは本当に頭が痛い問題だった。
 だが政治の問題は常に一つではない、常時複数の問題が出て来ていてその対応に追われるのが政治の世界だ。
 それでだ、この問題も議論されていた。
「死刑囚が多くなってきたな」
「ああ、死刑囚用の刑務所はパンク寸前だぞ」
「凶悪犯を死刑にするにしても」
「多いな、どうにも」
「どうしたものか」
 このことだった、死刑囚の処遇の問題もだった。
 それをどうするか、それで話すのだった。
「ギロチンですぐに処分するか」
「いや、死刑囚だぞ」
 ここでこの時からある連合独自の思想が出て来た。連合では死刑判決が出る様な凶悪犯には惨たらしくゆっくりと時間をかけて残虐に処刑すべきという考えが強い。だから死刑囚の処刑には時間がかかる。それで今パンク状態なのだ。
「ギロチンだと一瞬だ」
「そうだな、あれは一瞬だ」 
 人は首を切断すればすぐに死ぬ、そもそもギロチンは死刑囚を苦しまずに死なせる為に発明された人道的な処刑道具なのだ。
「死刑囚はすぐに殺しては駄目だ」
「それこそゆっくりと時間をかけて殺さないと」
「我々も納得出来ない」
 これは彼等政治家だけでなく連合の者全体の考えだ。
「死刑囚はゆっくりと時間をかけてショーの中で処刑させないと」
「どうしてもな」
「だから死刑囚の問題も頭が痛い」
「どうするべきか」
 このことについても頭を抱えることになった、しかしだ。
 ここで一人の政治家が閃いた、この政治家の名前をニコラ=マルケッロという。ベネズエラ出身の連合下院議員だ。所属している政党は保守派だ。三十五歳と政治家にしてはまだ若く薄褐色の肌とブラウンの髪と瞳の精悍な人物だ。穏健派として知られるが時として強い主張をする人物として名を売ってきている。そして彼はここでは強く言ったのだ。
 その彼がだ、こう主張するのだった。
「死刑囚を生体実験に使いましょう」
「死刑囚をですか」
「実験に使うのですか」
「はい、死刑囚は死刑にすべき凶悪犯です」
 だからだとだ、彼は言うのだった。
「ですから報いとしてです」
「惨たらしい処刑を与えるべき」
「そうだというのですね」
「はい、そうです」
 まさにだ、そうすべきだというのだ。 
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