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実験材料

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第一章

            実験材料
 この頃連合全体で問題になっていた、宇宙に進出するまでに文明が発達しそれと共に人権思想も大きくなっていた。
 この人権思想が動物愛護に転嫁するのは二十世紀後半から見られる傾向だがそれは今回もだった、それでだった。
 実験材料に使うモルモットやマウスのことが問題視されだした、それで動物愛護論者達はこう言うのだった。
「マウスが可哀想じゃないか」
「モルモットだって生きているんだぞ」
「彼等だって生きているんだ」
「だから実験材料にするのはどうか」
「それは止めよう」
「彼等の命を粗末にしないでおこう」
「無駄に命を奪うことにはならないか」
 こう主張したのだ、だが。
 医学にしろ何にしても実験は必要だ、それが生物を使った実験であっても。だから実際に実験を行う医師や科学者達は難しい顔になり反論した。
「それはいいのですが」
「実験は必要です」
 このことを主張するのだった、生物を使った実験の必要性を。
「医学、科学の発展の為には」
「ですからマウス、モルモットを実験に使わないまでも」
「他の生物を使わないと」
 ならないというのだ。
「生物実験は必要です」
「このことは強く主張します」
「動物の命も大事ですが」
「それは」
 止められないというのだ、だがだった。
 動物愛護の精神は連合でかなり強くなっていた、その主張は日増しに強くなり政治家も無視出来なくなっていた、それで彼等も言うのだった。
「確かに皆同じだよ」
「生きているんだ」
「人間もマウスも生き物だ」
「命があるんだ」
 宗教的思想や倫理観も混ざり問題は複雑化した、それで彼等も動物愛護の為にもマウスやモルモットを実験に使うことにはどうかと考えだした。
 しかしだ、医師や科学者達も言うのだった。
「若し生物実験が出来なくなれば医学の発展に影響が出ます」
「科学にもです」
「ですからそれは」
「何とか」
 生物実験は続けたいというのだ、これもまた正論だった。
 それでだ、具体的なことを決定しなければならない政治家達は頭を抱えることになった。彼等は会議の場で困惑している顔で話をした。
「動物愛護も正論だからな」
「そうだな、確かに人間だけじゃなくてな」
「他の動物も大事にしないと」
「マウスもモルモットも生きてるんだ」
「動物愛護団体からの支持や資金援助もあるからな」
 このことも重要だった。
「彼等にそっぽを向かれたら厄介だ」
「宗教団体も言ってきている」
 動物を大事にしようとだ。
「だから彼等の意見は聞かないといけない」
「さもないと落選するぞ」
「動物愛護団体も宗教団体も影響が強いからな」
 二十世紀後半よりもこういう団体の政治的影響力は強まっていた、それで彼等もこうした主張を無視出来ないのだ。
「彼等の意見は取り入れないと」
「それにマウスも可愛いからな」
「モルモットもな」
「ペットにも出来る」
「可愛い動物を粗末に出来ない」
「どうしてもな」
 彼等の主張は入れなければならなかった、彼等の個人的感情もありマウスやモルモットは実験材料には使わないことになろうとしていた、だが。
 ここでだ、医師や科学者の主張も考慮された。 
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