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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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反董卓の章
  第23話 「…………メロン?」

 
前書き
お待たせしました。長すぎたので二つに分けています。
実に三万字越えてましたので…… 

 




  ―― 一刀 side 虎牢関 ――




「かず……と?」

 俺の眼の前に居る相棒――盾二が、呆然と呟くように俺の名前を呼ぶ。
 その顔は、つい先日まで幼さを残したような風貌じゃなかった。

 そう――俺の覚えている盾二ではなく、少し成長した……いや、違うな。
 少しだけ荒んだような、顔つきが険しくなったような、そんな顔。
 俺より少しだけ精悍だった顔は、もう立派な『大人』の顔だった。
 そう、思ったんだが――

「あー久しぶり……ってぇ、泣くなよ!?」

 貂蝉の後ろから顔を出した途端、その顔が見事に崩れた。
 まるであの時の……俺と初めて会って挨拶した時のように。

 目を見開いたまま、大粒の涙を流して顔を歪ませる。
 涙を拭おうともせず、俺を見続けながら震えるように泣く。

 ああ……やっぱこいつ、盾二だわ。

 普段は冷静でリーダシップがあるくせに、実は人一倍泣き虫で情緒不安定……もとい、感情豊かな男。
 誰よりも仲間を大切にし、誰よりも命を大事にするくせに、味方のためなら自分自身の業として相手を殺すことも厭わない男。
 仲間が死ねば冷静に事後処理する姿を他人に見せ、その裏で一人墓の前で懺悔するように泣く男。

 全てを背負い、その重さに懸命に耐え続けようとする愚直な相棒……まさしく盾二だ。

 実は、俺の知っている頃より数年経っているという事実に、少し躊躇していたのだ。
 それはここに辿り着き、盾二の姿が変わっていたことで、否応なしにそれを実感したのだが……

(変わってないな……)

 盾二を見ながら、俺の記憶の中の盾二と『今』の盾二が重なった様に感じる。
 だから……思わず出た苦笑が、安堵の溜息を上手く隠してくれた事に、少しだけ救われた思いがした。

「あー……まあ、大体の経緯は貂蝉から聞いたよ。本当に迷惑かけた。ありがとな」
「……いい、んだ……っ、お前、が……生きているなら…………」
「あーあーあーもー……戦場で泣くなよ。ったく、姿は恰幅良くなったってのに、中身が本当に変わってないし」
「は、はは……まったく、だな……っく……はは……」
「…………はあ」

 こいつは本当に。
 俺の前では、本当に手のかかる奴だ。
 だから俺は……昔からよくやるように、盾二の肩を組んだ。

「俺は生きてる。だから泣くな」
「……ああ………………ああ…………」

 仲間が死んだ時、よくやる慰め方。
 母親すら知らない俺達は、互いが互いのただひとつのぬくもりだから。

「……ありがとよ、兄貴」
「……っく……ふっ…………こ、こっちこぞ、ずずっ…………生きていてくれて、ありがとう。兄貴……」

 互いに兄と呼び合う。
 これが俺達の、俺達だけのルール。
 そして他者とは違う、ただ一つの繋がり。

「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!」
「うわっ! びっくりした!」

 突然、背後から聞こえた轟音に慌てて振り返る。
 見ればそこには、貂蝉が巨大な身体をプルプルさせながら号泣していた。

「これよ! これこそ、究極の漢女(おとめ)の夢! 愛しあう兄弟の絆の抱擁よ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!」

 うわ……すっげぇキモイ。

「あー……あのさ、貂蝉。俺も盾二も、そういうヤオイ系のもんじゃなくて、な? 家族の……無事を確かめ合うシーンであって……」
「いいわぁぁぁぁぁぁぁ! もっと抱きしめて! 絡まって! そこでキス! そして脱いで! いっそアタシにハグさせてぇ!」
「いや! 絶対断固断る!」
「ご主人さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「やかましい!」

 ああ、もう!
 この筋肉オバケは情緒ってもんがないのか!?

「………………プッ」

 ……は?

「くくく……は、はは……本当に、本当に一刀らしい……」
「……なんか微妙に傷つくんだけどな。そのセリフ」
「は、ははは……はぁー……」

 盾二は、息を吐くと顔を上げる。
 その表情に少し驚き、そして安堵する。
 その顔はまさしく、俺の知る盾二の顔だった。

 先ほどまでの凶相は、まるで憑き物が落ちたように綺麗さっぱり消えていた。

「やれやれ……まあ盾二が元気になったからいいか。てか、貂蝉! いい加減戻ってきてくんない?」
「ああんっ! ご主人様のい・け・ず♪」
「……盾二、貂蝉の相手してくれない?」
「ふふ……断固、こ・と・わ・る」
「だろうな、こんちくしょう」

 穏やかな顔になった盾二に、ホッとしながら悪態をつく。
 そうだ……俺が茶化して、盾二がクールにまとめる。
 ずっと前からこうだった。

「……一刀。本当にありがとな。お前のお陰で頭も冷えた。俺はホント、一刀がいないとダメなんだなぁ……」
「…………(ぼそっ)逆だよ」
「ん?」

 盾二が俺のつぶやきを聞きそびれて首を傾げる。
 その顏にふっ、と笑って首を振った。

 逆なんだよ、盾二。
 助かっているのは、いつも俺の方なんだ。

「さて、貂蝉。盾二も見つかったし、状況を落ち着かせたいんだけど……これ、どうするんだ?」

 俺は周囲を見回す。
 相変わらず周囲は混乱し、炎蛇は荒れ狂っている。
 周囲の人……兵たちは狂乱の中で逃げ惑う者、狂った様に戦う者、様々だ。

「ああ、そうね……もう一人のご主人様の精神状態も落ち着いているし、これならうまくいくわぁ」
「俺……?」

 盾二が訝しむように、眉を寄せる。
 まあ、これが起こったのは自分のせいだってわかってないよなぁ。
 気に病むだろうから、今は言うつもりもないが。

「まずはご主人様同士のアストラルリンクを分断するわぁ。それでご主人様たちは完全にこの世界に認知させるのよん。その上でもう一人のご主人様の能力を使って龍脈を鎮めるわねぇん」
「龍脈……俺に鎮めることが出来るのか?」
「鎮めるのは、管理者であるアタシの役目よん。もう一人のご主人様は媒介に過ぎないから特に問題ないわねん。アストラルリンクを分断するのは、中途半端につながったままだと互いに悪影響が出るからよ」
「悪影響……?」
「まあ、今回のことはアタシ達のミスでもあるのよ。ご主人様同士のリンクが繋がっているのに、勝手に龍脈のパワーを注ぎ込んじゃったから。まずはそれを切らないと、媒介にした時にまたご主人様に影響が出ないとも限らないってこと」
「……え? これ、俺のせい!?」

 ……貂蝉~~

「あ、いえ。だからアタシ達のせいだってば。それについてはゴメンして」
「……………………」
「はあ……貂蝉。盾二は勘も鋭いし、頭も廻るんだ。変に誤魔化すぐらいなら言わないほうがいいぐらいなんだよ」
「……それは先に教えて欲しかったわねぇ」

 貂蝉が苦笑するのを見て、盾二は少し考えて溜息を吐く。

「いや、まあ……いろいろあったってのはわかったよ。その辺はとりあえず置いとこう。まずはこの騒ぎを止めるほうが先だ」
「ええ、そうねぇん……じゃあ、もう一人のご主人様は目を閉じて」

 貂蝉の言葉に、目を閉じる盾二。
 貂蝉はその頭の上に手をかざし……

「……うん。大丈夫ね。じゃあご主人様も横に立って目をつぶってね。リンクを切ったら予定通りご主人様の精神力を使って龍脈を鎮めるわよん」
「了解」
「……一刀の?」

 盾二が目を閉じたまま疑問の声を上げる。

「ああ。俺の精神力で龍脈を鎮めるんだ。盾二はそのブースターってことらしい」
「……そういや一刀の精神力は尋常じゃなかったな」

 そう。
 盾二ほどオリハルコンとの適性がないにも拘らず、俺と盾二のサイコバーストの連続使用回数は、ほぼ同じ。
 それは盾二が世界で一番効率よく精神力を使うことができ、俺は常人の三十倍近い精神力を持つが故。
 俺は生まれつきの、盾二は……調整された力。

「俺がタンクで盾二が蛇口ってことらしい。つまり……」
「……なるほど。繋がったままだと、ノックバックやバックファイアが起こった時にもろともってことか?」
「……流石」

 頭の回転だけは、ほんとにかなわない。

「それだけじゃないのよん。分断しないとアタシが仲介してコントロール出来ないのよ」
「……つまり貂蝉と精神的につながると?」
「そうよん。つまり……三 (ピー)ってわけよぉ!」
「違う! てか隠せてねぇ!」

 あ、盾二が身動いで腰が引けた。

「冗談よぉ……チッ」
「舌打ちっ!?」

 うう……盾二を救うためと説明を受けたが、やっぱやめときゃよかったかなぁ?

「まあ、冗談はともかく。二人のオリハルコンスーツも含めて媒介にするのよ。だから精神はなるべく平静に保ってね。直ぐ終わるけど」
「……そう祈る」
「大丈夫よ、もう一人のご主人様。ご主人様もいいかしら?」
「あ、ああ……」

 イマイチ信用ならないんだがなぁ……しょうがない。
 俺は盾二の横に並び、目を閉じる。

「じゃあいくわよ……ブラァァァァァァアァァァァァァァァァァァッ!」
「「 !? 」」

 変な掛声と共に、一瞬の強烈な頭痛。
 そして俺達は、意識を失った。




 ―― 劉備 side ――




「……え?」

 私が前方を睨みつけていると、周囲の火柱が霞のように消え去った。
 周囲を見回すと、周辺で荒れ狂っていた蛇のような火は、どれも霞のように消えていく。

「こ、これは……まさか!?」

 私は青い顔で振り返る。
 けど、周囲は先程までの噴煙と砂塵で見通せるほど視界が開けていない。

「!? 誰か! 朱里ちゃん! 愛紗ちゃん! 鈴々ちゃん!」

 私が叫ぶと、周囲にいた兵が何事かとこちらを見る。
 そのことでようやく兵も、周囲の状況が変わったことに気付きだした。

「ご主人様を! ご主人様を探して!」

 怒りのまま攻撃の指揮をしていたことに、ようやく気付く。
 冷静になった私は、急に不安に襲われた。

(急に収まった天変地異……まさか、ご主人様!?)

 考えたくない状況がいくつも頭に浮かぶ。
 馬正さんだけでなく、ご主人様まで失ったら。

 私は……私は!

「誰でもいい! すぐにご主人様を……」
「そんなに慌てないの、劉備ちゃん」
「!?」

 突然、名を呼ばれてそちらを振り返る。
 そこにいたのは……変な人。

「えっ……?」

 私が絶句すると。

「だ、誰だ貴様!?」
「董卓軍の者か!?」
「うげっ……きもちわるっ!」
「だ~れが三国一のバケモノだってぇ!?」
「いや、言ってねぇ! けど自覚あるっ!?」

 周囲の兵が叫ぶけど、それよりもその人の肩に担がれた二つの人影に、私は驚愕した。

「ご、ご主人様!?」

 その方に担がれた姿は、二人とも黒い服だった。
 そして同じような顏。
 だけど一つだけ違うのは、片方は流血しているということ。

 私の言葉に、その筋肉ムキムキの変な人は苦笑してこちらへと向かってくる。
 周囲の兵は、こわごわと槍を構えるけど、それに見向きもしない。

「はいはい、邪魔よ。ご主人様は怪我しているんだからぁ、手当が先でしょ」

 そう言って私の前まで来て、顔面傷だらけのご主人様を下ろす。
 私はぐったりしたままのご主人様を抱きとめ、膝を折る。

「ご主人様!」

 それは紛れも無くご主人様。
 天の御遣い、北郷盾二。
 私の愛する……唯一人の男性。

 彼は少し青い顔をしたまま、意識もなく私の肩に寄りかかった。
 その息遣いが、彼が生きていることを知らせてくれる。

(よかった……生きてる)

 心の底から安堵して、そのまま横にして膝の上に頭を乗せる。
 頭部の血を拭こうとすると、それがただの血の跡だと気付く。

「全身の骨折や打撲、それに内臓破裂は治しておいたわ。頭部の裂傷もね。ただ血までは増やせないし、精神力を使い果たしたから気を失っているわ」
「……大丈夫、なんですか?」

 私が不安げにその人を見る。
 その人は、にっこり笑ってうなずいた。

「命に別状はないわ。ホントなら死んでいてもおかしくなかったけど、仙人界で不老長寿の水を大量に飲んでいたのが幸いしたわね。常人よりはるかに頑丈になっているし、回復力も半端じゃ無いわ」
「仙人界……」

 その言葉にハッとして、改めて顔を見る。

「まさか! 仙人様!?」
「うふん♪ アタシはさすらいの踊り子、貂蝉よん♪」
「え? あれ?」

 えっ……と?
 踊り……子?

「アタシのことはいいから。ともかくこの場を鎮めないとね。統制を取り戻さないと助かる人も死ぬわよん?」
「え、でも……」
「矢を撃つように命じた人物なら、とっくに逃げたわよ。今この場にいるのは、混乱の中で誰ともわからず戦っている者だけ。同士討ちもしているんじゃないかしら」
「ええ!?」
「だから、ホラ。さっさと止めなきゃ。ねぇ?」
「あ! は、はい!」

 私は仙人……踊り子?さんの言葉に頷く。
 そうだ。
 こんな状況じゃ、みんなどうなっているか……

「周囲の全軍に通達してください! 戦闘行為を一時中断! 状況を見定め、後退するように! それと愛紗ちゃんや孫策さんにも落ち着いて一度戻るように伝令!」
「「「 は、ハッ! 」」」

 私の言葉に周囲の兵が『戦闘中止』を叫びながら駆けまわる。
 私はそれを確認した後、ご主人様へと視線を戻す。

 愛しい人が無事なことほど嬉しい事はない。
 心の底から安堵して、その髪を撫でた。

「ありがとうございます。なんとお礼を言っていいか……」

 私は貂蝉さんに礼を言う。
 貂蝉さんは首を振って、肩に担いでいたもう一人の人物を下ろした。

「気にしないで。むしろ、ご主人様たちをこんな目に合わせちゃったのは、アタシ達のせいでもあるんだし……」
「え? あれ……? そ、その人って!」

 私は彼が下ろした人物に見覚えがあった。

「確か、ご主人様のお兄さん! 一刀さんじゃ!?」
「そうよん。貴方達のご主人様。その本人かしらね」
「え……?」
「けど、貴方達のご主人様はもう、北郷盾二。そうでしょ?」
「え? え……と、はい。そうです、けど……?」

 貂蝉さんが何を言っているのかよくわからない。

「いいのよ、それで。この世界ではそうなのだから。けど……新しいケースがどうなるか。アタシにもわからないのよねぇん」
「………………?」
「それもまた世界の選択ってことよ。これから二人のご主人様がこの外史にどういう影響を与えるのか……やっとスタートラインなんだしねん」
「……あ、あの」
「じゃあ、こちらのご主人様もお願いね。アタシはもういかないと」

 そう言って、私の肩にもたれさせるように一刀さんを押し付けてくる貂蝉さん。

「え? ちょ、あの!」
「どちらのご主人様を選ぶのか。それは貴女や他の子達次第。けど、これだけのレアケースだもの。二人共受け入れるか、逆に追い出すか。この世界はどう扱うのか、じっくり見せてもらうわね」
「お、重っ!? ちょと、貂蝉さん!?」
「例えどんな形になっても、アタシ達は見ているだけよ。けど、アタシ達の仲間が介入するならまた会うかもね。できればないことを祈るけど……」

 そう言ってにっこり笑う貂蝉さん。
 だけど、私には何のことを言っているのか全くわからない。

「じゃあね。劉備玄徳ちゃん……貴女は貴女の思う通りに()きなさい」

 その言葉と表情は、本当に優しく見えた。
 そして振り返りながら手を振り、歩き出す。

 その姿が砂塵の中に消えるまで、私はただ呆然とその後姿を見送っていた。




  ―― 関羽 side ――




「ハッ……ハッ……ハッ……」

 どこだ。
 どこにいる。
 あの……憎き男は!

「ああああああああっ!」
「!」

 右の砂塵の中から金色の鎧の兵が、剣を振りかぶって向かってくる。
 その首を剣ごと横薙ぎに叩き斬って、撥ね飛ばした。

「どこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 私は叫び、愛刀である青龍偃月刀を地面に叩きつけた。
 その風圧で、周囲の砂塵が一時的に晴れていく。

 そこには地面が見えぬ程に積み上げられた、金色の鎧の死骸で埋まっていた。

 だが、その中にあの男の姿はない。

 あの醜い……醜悪な顏。
 忘れようと思っても忘れられないであろう、不倶戴天の仇。

「許さん……許さん……許さん……」

 自分の言葉が、自らにまとわり付くように錯覚する。
 そうだ、許せるわけがない。

 ご主人様に矢を放ち、桃香様を殺せと叫んだ、あの男。
 赦せるわけがないのだ。

「生きていようと……死んでいようと……」

 ――八つ裂きにする!

 そう思った瞬間、背後に人の気配を察する。

「!」

 私は咄嗟に武器を振りかぶり、相手に叩きつけた。

「なっ!?」

 ガンッ、という音と共に、その刃が防がれる。
 その事を頭が認識するよりも早く、身体は第二撃を加えようと動き――

「ちょ、ちょい、タンマッ!」
「――……?」

 その言葉で振り下ろそうとした腕が止まり、やっと相手を見ることができた。
 それは誰であろう、霞であった。

「……霞?」
「せやで。びっくりしたわ~……」

 霞は手が痺れたのか武器を持ち替え、右手をぶらぶらと振っている。

「相手をちゃんと確認せえ。さすがに味方に殺されたんじゃ、兵も浮かばれんやろ」
「……そうだった。すまぬ。だが今はそんな暇……」
「終わったで」

 謝罪もそこそこに振り返ろうとして、動きを止める。

「……なに?」
「せやから、戦闘中止や。桃香から、周囲全部に戦闘停止命令が出されとる」
「……では、奴を討ち取ったのか」
「いや……そこまでは知らんけど」

 そうか……我が手で討ち果たしたかったのだが。

「どうもいいけど、あんさん……ホンマに愛紗か?」
「……どういう意味だ?」
「いや……気付いておらへんのか? これ見ぃ」

 そう言って霞は、自身の武器の刃を服で拭い、その腹をこちらへと向ける。
 血が拭われた刃は、鏡のように磨かれた姿を晒しだし、それが私の顔を写す。

「…………………………!」

 そこに映る己の顔に、なんのことかと訝しみ。
、次第にその意味を悟った。

「……わかったか? 狂うな、とは言わへんよ。けど……その顔で盾二の前に出るのだけは止めぇ。お互いのためにはならんで」
「…………………………」

 私は顔を伏せる。
 呆然としたのではない。
 驚愕したのでもない。

 自分を覆う怒りと憎しみを、胸の一点に集めるだけ集めると、盛大に息を吐いた。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」

 吐き切った息のまま、しばし呼吸を止めて。
 顔を上げて息を吸った。

 それを三度繰り返し――

「……どうだ?」

 そう霞に尋ねる。
 霞はちょっと驚いたように目を見開いた。
 しばらくして、こくんと頷く。

「ちょっと固いけどいつもの愛紗やな。驚いたで……さっきまでの凶相は芝居か?」
「いや…………恥ずかしながら、我を忘れていた。霞が言ってくれなければ、桃香様まで怖がらせていたかもしれん」

 そう言って自己を律する様に努める。

「よくまあ、自分で自分を抑えられたな……流石やで」
「いや。これはご主人様に教わったのだ。『深呼吸』というもので、落ち着かない時はこれをするように言われている。朱里や雛里がよくやっているのでお教え戴いた」
「そんな簡単な事で……なるほどな。ウチも肝に銘じておくわ。将たる者、冷静さを欠いたら負ける。これは鉄則やし」
「そうだな……恥ずかしながら、それを忘れていた。ありがとう、霞」

 私は頭を下げる。

「気にすんなや。ウチと愛紗の仲やんか」
「ふっ……そうだな」
「お? なんや、デレ期? デレたんか!?」
「違う! って……なんだそれは」
「いや、なんとなく? まあええやん。それよりも……盾二はどうなったんやろ」

 その言葉に、ハッする。

「そうだ! ご主人様は! 馬正殿はどうなった!」

 怒りですっかり忘れていた。
 ご主人様は、あの服を着ておられる。
よもや矢如きで死にはしないだろうが……

 そう思って周囲を改めて見る。
 ようやく砂塵が治まってきた周囲は、敵味方の死体の山だった。




  ―― 劉表 side ――




「……なんと、いう……」

 眼下に広がるその状況に、儂は思わず目を背けたくなった。

 右を見れば死体の山。
 左を見れば死体の地平。

 それが虎牢関前の荒野の全てだった。

「……皆は、無事なのか」
「は……いえ、その、状況を、確認中でして……」

 周囲にいる武官が伝令兵に叫んでいる。
 少しでも状況がわかるように残っている兵を集めていた。

「……なにも、できなんだ、か……」

 儂は項垂れるように顔を伏せる。

 戦闘が始まり、呂布と盾二が激突した模様と聞いた瞬間、全軍で前に出ようとした。
 だが、それを逃げてきた袁術軍に阻まれ、袁術殿を保護している間に周囲は天変地異に覆われた。

 兵は逃げ惑い、慌て、統制がとれなくなった。
 前線では悲鳴や歓声、様々なことが風に乗って聞こえてくる。
 だが、儂は自軍をまとめるので精一杯じゃった。

 本当に儂は……戦が下手じゃのう。
 今回のことで改めて思い知った。

 いや、それだけではない。
 儂のような老骨は、もう前線には耐えられんのかもれん。
 ここまで自分の指揮能力がないとは……

 だが、それにしても。

「一体、なにがあったというのじゃ……」

 突如、山の噴火のように吹き出た火柱。
 一旦は霞のように消えたと思ったら、更に大きく、まるで生き物のように噴き上がった。
 見ているだけで震えた。

 あの火柱は、蛇のように、龍のように吠えていたのだから。

「盾二……」

 儂は思わず口に出す。
 儂が見込んだ男。
 誰よりも自分の跡を継がせたいと思わせた、稀代の快男児。

 自軍の兵たちよりも、たった一人の身を案じている時点で儂は……

「……む?」

 ふと、その視界に馬に乗った人影が後方へと駆けて行く。
 恐らくは前線から逃げ出した兵だろうか。

 無理もない……こんな状況では、止めることもできん。
 止めれば無用な闘いになるだけじゃ。
 じゃから儂も、自軍の兵で逃散した兵は無理に追わず、まだその場で戸惑う兵のみを集結させている。

 だから、その時はまさか思いもしなかったんじゃ。

 その人影こそが、全ての元凶じゃということに。




  ―― 張勲 side ――




「きゅー……」
「み、美羽様、しっかり!」
「……袁術様はどうするので」
「ほっとけ! 今は状況をまとめるのが先だ!」




  ―― 孫策 side ――




「…………………………」

 わたしは死体の海の中で、静かに剣を拭った。
 南海覇王にこびり付いた血は、染みとなって剣に残っている。
 拭った布を放り出し、剣を自身の腰へと収めると、自分を待つ家族たちの元へと足を向けた。

 そこには祭が、穏が、思春が。
 そして……冥琳が待っている。

「……ただいま」

 わたしは感情を抑え、自分でもわかるほど硬い声でそう言う。
 それに対し、冥琳は何も言わず、ただ頷いた。

 わかるのね、冥琳……わたしの、気持ちが。

「……さて。今はまだ混乱しとる兵を抑えるのと、投降している董卓軍の兵の処理で手一杯じゃな」

 際が溜息を吐くようにそう呟く。
 歴戦の将である祭も、特に触れない。

 その後ろにいる思春と穏は、こちらを見て少し落ち着かない様子だけど。

「決して安全とは言わぬが……行ってきても良いですぞ」
「………………」
「ここは儂と公瑾で処理しておきまする。ただし、あまり時間がないことだけは理解しておいてくだされ」
「………………恩に着るわ」

 わたしは祭にそれだけ言って、家族に背を向ける。

「え、えと…………い、いいんですかぁ~?」
「穏……黙っていなさい」

 背後で穏と冥琳の声がする。
 だけど、わたしは振り向かない。

 今は……今だけは。




  ―― 周喩 side ――




「……よろしいのですか?」

 黙って雪蓮の後ろ姿を見ていた甘寧が、私に尋ねてくる。
 私は溜息を吐きつつ、頷いた。

「荒れ狂った後の雪蓮があんな表情している。それがどれだけの意味を持つか、私よりもお主ら武官の方がわかるのではないか?」
「………………は」
「あうあうあう……」

 甘寧はその言葉で黙し、周泰は私と去っていく雪蓮を交互に見ている。

「あ、あのぉ~……私、武官じゃないのでわからないんですがぁ~?」

 こんな時でも空気を読まない穏が声を上げる。
 その我が弟子を見て、思わず溜息を吐いた。

「うわっ! 呆れられましたぁ!?」
「……雪蓮は、北郷の事を本気で欲しがっていたのよ」
「へ?」
「でも、その機会はもう完全に失った。唯一の望みも絶たれた」
「ゆ、唯一の……?」

 穏はまったくわからない、といった顔で首を傾げている。
 ……まったく。

「お主も本だけでなく、恋愛の機微もわからんと良い縁もないぞ?」
「さ、祭様に言われたくないですよぉ!」
「なんじゃとぅ!?」

 穏のことは祭殿にまかせ、私は雪蓮を想う。

(劉備との繋がり……自身の臣、孔明との繋がりをまざまざと見せられた。そして雪蓮は孫呉の王。家族は……捨てられない)

 北郷は……劉備を捨てぬだろう。
 なら……

「雪蓮……」

 静かに劉備軍の元に赴く雪蓮の背中。
 私には、その背中を見つめるしか、できなかった。




  ―― 盾二 side ――




「うっ……」

 唐突に感じた頭痛に、意識が戻る。
 目を開けると、目の前には……

「…………メロン?」

 思わず呟いた言葉に、そのメロンの向こうから顔を覗かせた人物を見て、自分の迂闊な発言に気付いた。

「ご主人様! 大丈夫!?」

 桃香の顔がぱあっと明るくなり、その瞳から涙が溢れだした。

「あ……えと。すまん」
「? なんで謝るのよ?」
「あ、いや……」

 気づいていないならいいです、はい。

「……って、あれ? 俺、確か……」

 貂蝉が龍脈を抑えると……

「!? 一刀!?」

 俺は起き上がって周囲を見渡す。
 探した人物は、直ぐ横にいた。

「あ……」

 桃香の肩にもたれる一刀の姿にほっとする。
 よかった……一瞬、一刀が居たのは夢じゃないかと思った。

「一刀……と、あれ? 貂蝉……筋肉オバケみたいな男いなかった?」
「あ、あはは……貂蝉さんなら、ご主人様と一刀さんを私に預けてどっかいっちゃったよ? よくわかんないこと言ってたけど……」
「そか……ってことは、うまく……行ったみたいだな」

 周囲の状況がすっかり収まっていることに気付く。
 龍脈の沈静化は、うまくいったらしい。

「みんなは?」
「……まだ、集結中。あの変な火柱は収まったけど、逃散兵も多いし……」
「そか……」

 俺は安堵の息を吐く。
 あの龍脈の胎動に巻き込まれていないならいい。

「あの……ご主人様?」
「……ん?」
「ま、まだ……その。ね、寝ていたほうがいいんじゃないかな?」

 桃香が顔を赤らめながら、そんなことを言ってくる。
 確かに少し頭痛がするけど……

「あ、いや……もう大丈夫だ。ありがとう」

 そう言って立ち上がる。
 その時、自身の腕や足が問題ないことに気づいた。

(傷が……いや、ダメージがすっかり無くなっている?)

 問題なく動く腕や足。
 呂布とあれだけの戦闘をしたというのに、身体のダメージが嘘のようになくなっていた。

(貂蝉……か?)

 思いつくのは、仙人界で左慈が見せた、あの瞬間回復術。
 貂蝉も仙人なのだろうから、多分使えるのだろう。

 俺は自身の体の問題がないことを確かめ、桃香へと顔を向ける。

 ?
 何故に、そんなにがっかりした様子なんだ?

「桃香……君こそ大丈夫か? どこか怪我でも……」
「え? あ、ううん、そんなことないよ? 全然! まったく!」

 そう言う桃香は、どこか無理しているような気がしないでもない。
 訝しんだ俺は、不意にその理由に気づいた。

「あ……馬正。馬正の……亡骸はどうした」
「え…………あ」

 俺の言葉に。
 桃香は顔色を変え、その方向を見る。

 そこにあったのは……

「…………っ」

 輜重隊の荷台の上に横たわる、布を掛けられた遺骸。
 布から覗かれる腕や足が、馬正のものだとはっきりわかる。

「………………」
「………………」

 俺は拳を握り、目を閉じた。
 桃香も何も言わない。

 ただ、しばらく黙祷して目を開ける。

「……朱里は?」
「朱里ちゃんは……兵をまとめてる。あと、投降した董卓軍の処理も……」
「そか……さすが朱里だ」

 あの小さな身体で……馬正の死に、悲しみに暮れていてもおかしくないのに。
 朱里がそうなら……主である俺が、こんな体たらくではダメだな。

「よし……残存している連合軍をまとめよう。すでに盟主である袁紹はここを離れたし……連合は解散になるか、新盟主で行軍するのか。それも決めないとな」
「ご主人様……」

 事ここに至っては……解散はまずい。
 盟主たる袁紹軍の内紛、それによる混乱。
 北や南の関には、まだ連合の諸将がいるのだ。

 なし崩しに解散では、袁紹だけでなく俺達全ての連合参加者は、天下の信を失う。

「でも……もう兵力はないよ? 最終的にどれぐらい生き残っているか……」
「……それらの情報を集めた上で協議するさ。場合によっては洛陽での件も明かすことになるかもしれんが……」
「でも、それだと……」
「ああ。そのままじゃ、裏切り者扱いは確実だ。だから全部じゃなく、うまく言いくるめるけどな……」

 となると、協議前に伝令を飛ばして、向こうと連携取れれば……いや、予定ではこちらの状況次第にしてあるが。
 こうなると、後は雛里の手腕に期待するしかないか。

「それに唐周のこともあるしな……」
「ご主人様……」

 この状況からして、唐周は逃げおおせているだろう。
 アイツは袁紹兵を盾にしたのだ。

 やつだけは……俺が始末をつけなければならない。

「むにゃむにゃ……」
「きゃっ!?」

 唐突に聞こえた悲鳴に、桃香を見る。
 見れば、桃香の方に寄りかかった一刀が、寝ぼけた様子で桃香の胸を揉んでいた。

「………………っ!」
「あだっ!?」

 あ、あれ?
 思わずハッと気付くと、一刀を蹴り飛ばしている自分に気付く。

 ……なんで?

「イタタ……あ、あれ? 俺……あ、盾二」
「お、おう」

 きょとんとして倒れている一刀に、思わず上擦った声で返事する。
 何で俺、一刀を蹴った……?

「……あれ? 貂蝉は? てか、微妙に顔が痛いんだが……」
「そ、そうか。俺も少し頭痛するし、リンクがどうのこうのって影響かな」
「……まあ、いいや」

 そう言いながら、顔を拭う一刀。
 ……なんで俺、一刀を。

 だって……この後のことを考えれば……

「で、貂蝉は?」
「え? あ、ああ……なんかどっか行ったらしい」
「え? 俺、置いてかれた!?」
「いや、置いてって……戻ってきた、だろ?」
「あ、いや、そうなんだけど……………………まあいいか」

 ポリポリと頭を掻く一刀。
 その様子に、こいつが基本楽観的であることを思い出す。
 そのことに懐かしさを感じ、ふっと笑ってしまった。

「ご主人様!」

 ふと、呼ばれた声。
 その声が誰かに気づき、振り返った。

「愛紗! 無事だったか!」
「ご主人様こそ……っ、あ、お主は!」

 駆け寄ってきた愛紗が、俺の背後にいる一刀に驚く。

「え、俺?」
「確かご主人様の兄君の……」
「あ、うん。初めまして。北郷一刀です……えと、君はあ」
「ストップ! 一刀!」

 俺が瞬時に気付いて、一刀の口を塞ぐ。

「もぐもがもが……!?」
「お前! この世界のことどれだけ貂蝉に聞いた!? てか、真名のこと知っているか?」
「? ふぁな?」
「…………………………あぶねぇ」

 せっかく蘇った一刀が、愛紗に一刀両断されるのだけは避けたい。

「いいか、後で色々説明してやる。それまで相手の個人の名前は禁止! 間違っても口に出すな! いいな、マジで死ぬぞ!?」
「………………? ふぁ、ふぁかった……」
「ふう……貂蝉も、もうちょっとこの世界のこと伝えていけよ、まったく……」

 盛大に安堵して一刀の口から手を離す。
 俺以外に全員が、その様子に変な目をしていた。

「ご主人様……?」
「あ、いや……簡単に言うと、一刀は俺が愛紗たちに会った時と同じ状況。つまり、真名の風習知らない」
「ああ……」

 その事で、愛紗も桃香も納得する。

「ともかく、自己紹介は後だ。まずは兵をまとめよう」




  ―― 一刀 side ――




「………………あぶねぇ」

 思わず額の汗を拭った。

「だから、あの場で愛紗ちゃんの名前を言ったら……いくらご主人様のお兄さんでも殺されていたかも」
「かもなぁ……相手はあの関羽じゃねえ」

 俺は心底そう思って、俺の口を塞いでくれた盾二に感謝する。
 その盾二は今、劉備軍の残存兵力をまとめるために、すぐ傍で矢継ぎ早に兵に指示している。

「てか、あの子が関羽……女の子じゃん。いや、君も……劉備、なんでしょ?」
「うん、そう。劉備玄徳。愛紗ちゃんが関羽雲長」
「てことは、張飛って子も……?」
「うん、鈴々ちゃん……張飛翼徳っていうの。私達三人とも義姉妹なの」
「義『姉妹』か……うーむ。なんちゅう……」

 三国志の登場人物、全員女の子にしました。
 ……………………歴史ファン、めっちゃ怒りそうだなぁ。

「で、盾二は俺を助けるために君らと一緒に行動したと……」
「うん。北平で白蓮ちゃん……公孫賛伯珪って私の友達の所で華佗さんに預けられたの」
「公孫賛……公孫瓚、じゃないのね、まあいいや。で、俺は華佗に預けられて、盾二は義勇軍の軍師として黄巾を戦った、と」
「うん。で、その恩賞に梁州って州の刺史になってね。そのあと州牧にさせてもらったけど。全部ご主人様の御蔭でね」
「梁州……? 涼州じゃなく? え? 平原は? 徐州は? てか、益州じゃなくて梁州って……」

 どうなっている?
 貂蝉は、今が反董卓連合の最中で、虎牢関で決戦をしていると言っていたのに。
 歴史通りなら劉備って、反董卓に参加していたかどうか怪しいよね?
 三国志演義では公孫瓚の軍勢にいたらしいけど……

 てか、何でいきなり州牧になってんの?
 陶謙は? 袁紹との確執は? 流浪して曹操に拾われるのは? 曹操の左将軍になるのは? 曹操との確執は劉備の裏切りだろ? 新野はどうなるんだ!?

 いろんなもんがめちゃくちゃじゃねぇか!

「盾二……お前、まさか」

 とんでもない歴史改変を……?
 それはアーカムの禁忌。
 いや、それだけではない。

 タイムパラドックスにもなりかねない問題だぞ!?

「お兄さん……?」
「え? あ、いや……なんでもない」

 いやまて。
 盾二がその危険性を知らないわけがない。
 そもそも、俺よりよっぽど冷静で理知的なんだ。
 そんな盾二が、禁忌を犯す……?

「……何考えているかだいたいわかるが、後で説明するって言ったぞ」

 俺の視線に気づいたのか、盾二がこちらを見てそう言う。

「あ、いや……けど、な」
「お前、ゲームが得意だから簡単に言ってやるよ。ここはタイムリープじゃない。パラレルだ」
「…………………………ああ」

 それだけで納得する。
 わかったか、と嘆息して指揮に戻る盾二。

 なるほど……パラレルワールド、異世界か。
 それなら歴史どうこういう問題じゃない。
 そもそも三国志の性別が逆なんて、そんな世界じゃなきゃありえないか。

「ぱられる?」
「あ、えーと……なんでもないよ、うん」

 だから歴史の改変をした、と……そうか。
 ということは……俺や盾二の知識、あんまり役に立たないわけね。
 そりゃ、きっついなぁ……

「あ、ごめんごめん。で、梁州……か。場所は漢中周辺?」
「うん。それで荊州の劉表さんと益州の劉焉さんの三州同盟を組んでいるの。その縁で連合に参加することになってね……」
「劉表や劉焉も女性……?」
「え? ううん、二人共おじいちゃんだよ?」
「……………………何故に」

 そこは史実通りなのか!

「あ、でもでも……これは内緒なんだけど、敵である董卓さんにも恩があってね。私達、それを連合の立場から救うために参加しているの」
「……連合から? どうやって……」
「えっとね、董卓さんの――」
「桃香」
「あ、はい!」

 劉備さんの声を遮るように、盾二が劉備さんの別の名前……真名を言う。
 その声にすぐ反応した劉備さんの様子に、ちょっと驚く。

(え、なにこのパブロフ状態!?)

 この様子だけで二人の力関係がはっきりと分かる。
 てか、完全に黒幕じゃねぇか、盾二……

「とりあえずの状況がわかったようだし、詳しい話はまた後で。くれぐれも迂闊なことを言わないようにしてくれよ……桃香も」
「あ、うん。そうだね」
「え、今の俺に言ってたの?」
「二人共、だな。桃香、劉表のじいさんは無事らしい」
「ホント!? よかったぁ!」

 盾二はそれだけ言うと、また兵に指示している。
 その姿は、実に命令慣れしている熟練の指揮官そのもの。

 俺の知っている盾二よりも、さらに経験を積んだエリートに見える。

(随分差がついちまったなぁ……)

 わかっていたとはいえ、その能力の差に忸怩たる思いがする。
 元々、盾二の能力は傑出していたとはいえ、同じ経歴を経ていれば俺だって……

(いやいや……ミスしたのも俺。迷惑かけたのも俺。なのに盾二に嫉妬するなんて、ただの逆恨みだろ……)

 元の世界でのミスにより、俺は一度死んだらしい。
 それをこの世界で再生されたが目覚めない俺を、盾二は必死で救おうとしていたとのこと。
 貂蝉は簡潔に語ってくれたけど、それがどれだけ大変だったのかは……なんとなくわかる。

 実感はないんだけども。

「ご主人様! 第一軍、第二軍共に残存兵力をまとめました!」

 盾二に報告してくるのは、先ほどの愛……じゃない、関羽さん。
 あの容姿で関羽って……やっぱいろいろおかしいよな。

「あ、劉備さん。そういや、盾二って……何故にご主人様?」

 さっきから疑問に思っていたことを、横でおとなしくしていた劉備さんに聞いてみる。

「え? ああ……だって天の御遣い様で、あれだけの力もあって、軍略も知略も政務もなんでもできるんだもん。だから、私達のご主人様ってお願いしたの」
「ご主人様……盾二、嫌がったでしょ?」
「え? わかるの?」
「そりゃ、なぁ……」

 ゲームならともかく、リアルで可愛い女の子にご主人様って言われるなんて……普通は喜ぶよりも引く。
 どこの貴族様だよって、俺でも思わず背中が痒くなる。

「けど、ずっと言っていたら気にしなくなったみたいだよ?」
「えぇー……」
「そこ! 変なことを一刀に吹きこまないでくれ!」

 俺が思わず盾二を見ると、非難めいた声で振り返る盾二。
 多分、かなり蔑む眼で見ていたんだろうな、俺。

「ご主人様?」
「いや、愛紗……いや、なんでもない。お疲れ様………………後で覚えておけよ、一刀」
「何で俺!?」

 俺が悪いの!?

「報告! 孫策様が面会したいと申されております!」
「雪蓮が……? 通せ」
「孫策……?」

 盾二の言葉に、再び横の劉備さんに聞く。

「劉備さん、孫策って、あの孫策伯符?」
「うん。その孫策さん。仲いいんだ……ご主人様と」
「……女性だよね?」
「もちろん」

 そっかー……どんな人だろって、おおおおおおおおお!?

「盾二……」
「雪蓮、お疲れ様…………その、ありがとう。色々面倒かけた」

 褐色の肌に桃色の髪!
 まさしく異国美人って感じでイイネ!
 大人の女って感じがするよ!

「おにーさん……鼻の下、伸びてる」
「あ、いや、その……」
「結構エッチなんだね…………ご主人様もそれぐらいならなぁ」
「……すいません」

 盾二は硬派だからなー……
 女にモテる割にはなびかないから、余計にモテるというか。

 というか、何で似ている容姿なのに盾二だけがモテるんだろ。
 アーカムでも研究員の女性に襲われたとか言っていたし……

 くそう、リア充め!

「気にしないでよ。元々助けてもらったのはこっちだしね。無事……みたいでよかったわ」
「ああ……馬正に助けられた。俺の命は、馬正の命だよ……」
「……あのおじさんが」

 馬正?
 誰だ……?

「劉備さん、馬……いや、その人って?」
「あ、うん……馬正さん。ご主人様の臣だった人。その……」

 劉備さんは言いよどみ、視線を背後の荷台に向ける。
 それだけで、なんとなく察した。

「…………そか。あとで、俺もお礼を言わなきゃな……」
「……うん。喜ぶよ、きっと……」

 劉備さんは、それだけ言うと俯いた。
 俺は……その姿を見てはいけないと思い、空を見上げる。

 見たいはずの青空は……見えなかった。




  ―― 曹操 side ――




「……それで。盟主がいなくなったわけだけど、貴方達はどうするのかしら?」

 私の声に、急遽作られた大天幕内の各諸侯は、無言のまま黙している。

 董卓軍の兵の殆どは逃げ出し、虎牢関の中には投降した兵しか残っていない。
 呂布は逃亡、張遼は我が幕下に入った。
 今、虎牢関は完全に連合の手にある。

 にも関わらず進軍しないのは、その損害の大きさがあるのだから。

「……まともな戦力が残っておらぬ以上、撤退する以外にあるまい」

 そう言い出すのは劉表。
 彼の兵力は、被害に合わなかったとはいえ逃散兵が激しい。
 無傷だった一万八千の残存兵力は、実に三千程度しかいない。

「う~……七乃ぉ……わらわはもう帰りたいのじゃぁ……」
「はいはい……もうちょっとだけ、我慢して下さいねぇ……」

 その横には袁術と張勲が控えている。
 袁術軍は完全に崩壊し、保護した劉表の麾下に入っていた。
 自家兵力は百にも満たないらしい。

「ここまで来て撤退したくはないけど、どうしようもないわね……」

 呟く孫策軍は、元々の兵力が少ないにも拘らず、被害は一番少ないと言っても良い。
 五千だった軍は、実質三千五百まで減っている。
 しかし、あれだけのことがあったにも拘らず、被害が千五百というのは驚異的と言っても良い。
 よほど兵の忠誠心が高いのでしょう。

「十万対九万のほぼ互角の戦い。しかも、あんなことがあった上に袁紹軍の分裂もあれば……残った方ではあるでしょう」

 そう言うのは天の御遣い、北郷盾二。
 劉備の代理として、この場に来ている。
 劉備軍の被害も相当大きいらしい。

 そんな状況でも、逃散兵がほぼ一人も居なかったというのだから……正直驚きだわ。
 それでも戦死者、負傷兵は一万以上。
 実質行動できるのは、八千が限度とのこと。

 むしろ、あの呂布と戦ってよく壊滅しなかったと言いたい。

「私のところも同様ね。正直言えば、よく軍としての体裁を保ったといえるわ。我らでなければそれすら成し得なかったでしょうけど」

 私たち曹操軍八千、その残存兵力は四千弱。
 麗羽の袁紹軍は完全壊滅しているから、ここにいる連合軍の兵力は二万に届かない。

 北や南の関にいる鮑信達を糾合すれば、戦力は七万に増えるでしょうけど……それは愚策。
 なにしろ、北と南の董卓軍は、それより多いはずなのだから。

「とはいえ、何の解決にもならないわね。連合の発起人である麗羽自身も脱落したわけだし、そもそもの大義もない……董卓の一人勝ちね」

 これで董卓の天下ってわけね……悔しい?
 いいえ。

 私は必ず盛り返してみせるわ。

「いや、実は……そうでもありません」
「……なんですって?」

 私の言葉を否定する天の御遣い。
 思わず私が声を上げたのは、自分の心の声を読んだのかと思ったから。

 けど、違っていた。

「私の計が成っているなら……董卓は、すでに討たれているかもしれません」
 
 

 
後書き
続きは翌日に。

ちなみに一刀が「リア充めっ」って言ったことに対して、『おまえが言うなっ!』と思った人は挙手をw 
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