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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  番外編 「雨が降る (前編)」

 
前書き
ふと思ったんですが。
PIC(パッシブイナーシャルキャンセラー)って「ピーアイシー」って読むの?それとも「ピック」って読むの?
こういうのって普通語呂のいい感じで呼ぶからずっとピックって読んでました。
・・・ま、ピックの方が個人的にはしっくり来るしこのままでいいか。 

 
ざぁぁぁ・・・と絶え間なく降り注ぐ雨が濡らすアリーナ上空に佇む橙色(オレンジ)の機影。両腕に持った機関銃の無骨な輝きがアクセントになってか、獲物を探す猛禽類の様な様相を呈している。装甲の表面を流れては落ちる水滴は、パイロットの下までは届いていない。スキンバリアーによって弾かれているのだ。雨の最中にあってその水を受け付けない姿は、まるで人間ではなく幽霊であるかのように周囲から浮いていた。

その猛禽類―――シャルロットは、次の瞬間沈むように急降下し、両腕の機関銃二丁を躊躇いもなく撃ち放った。薬室で連続的に起こる爆発が振動として腕に伝わり、ISの衝撃吸収機能に悉く緩和されていく。
シャルはこの振動吸収機能を態と減らし、より強い振動が腕に伝わるよう設定していた。いわばパワーリスト代わりである。それに、軽すぎる引金は己の握った銃の重さを忘れさせる。学生だろうと何だろうと、使うISは人の命を簡単に左右できる道具だ。その重みを忘れたくなかった。

2つの銃口から放たれた数多の合金弾が下で構えていた鈴と甲龍に降り注ぎ、鈴は舌打ちを漏らしながらすぐさまその場を離脱した。龍咆の発射位置としては最上のポジションだったが、操縦者自身のフットワークと判断力が無ければここで場所に縛られ直撃を受けていただろう。

が、直撃は受けていなくとも鈴は機関銃の弾をそれなりに身に受けてしまい、雨による足場の悪さもあって大きくバランスを崩し、顔を歪める。空中を高速移動しながらの機関銃とは思えない精度の射撃の嵐はそうそう躱せるものではなかったようだ―――と、転倒の寸前に後ろから駆け出した白いIS、一夏の白式が甲龍を抱えて難を逃れた。
鈴が目を開くとそこには一夏の顔が文字通り目と鼻の先に広がっており、一瞬呆けた鈴は慌ててその場を脱出しようともがきはじめる。

「・・・大丈夫か、鈴!?」
「ひゃっ!?え、えっと・・・心臓的に大丈夫じゃないかも?っていうか顔近い顔近い!!」
「うわ、ちょっ!暴れるなって!バランス崩れる!!」
「離して!・・・いや、やっぱもうちょっとこのまま・・・?いや!やっぱダメ!!」

庇った結果とはいえ正面から抱きしめるような体制になっているため、初心な乙女である鈴はそんな状況で平然としていられなかったようだ。意中の人に抱きしめられているという悦楽と羞恥の狭間で揺れているようだが、抱えている一夏は真剣で必死である。

そんなふらふらした飛行では普通撃墜されるのだが、白式改の機動力は風花という例外を除けばトップの性能を誇る最新鋭機。2機分の重量を抱えて尚機動力を保っているのは流石と言えるだろう。・・・が、である。

「二人ともタッグマッチだってこと忘れてないかな?」
「ちょろいものだな、そのキレイな顔を吹っ飛ばしてやる!!」
「「えっ?あ・・・」」

逃走先にレールカノンを構えてスタンバイしていたラウラとシュヴァルツェア・レーゲンの放った対IS徹甲弾が一夏の顔面に直撃し、鈴諸共派手な音を立てて吹き飛ぶ羽目になった。幾らなんでも戦闘中に気を抜きすぎである。



 = = =



「だから雨の日に模擬戦なんて止めないかって言ったのに・・・おかげで髪の毛が泥だらけになって洗うの大変だったんだから!!」
「な、泥だらけになったのはそっちが変なときに暴れたからだろ!?」

更衣室外のベンチで見難い言い争いを続ける2人の馬鹿者共。一人は一夏、もう一人は鈴である。
鈴はシャワーを浴びてすぐ来たためか、普段はツインテールに纏めている髪を解いている。タッグマッチでの敗因は連帯責任が基本なのだが、若くて負けず嫌いな二人はそう簡単に自分の非を認めたがらないという訳だ。

「俺なんか白式の装甲の隙間まで泥がこびりついちゃって落とすの大変だったんだぞ!?」
「洗ったのは整備課の人達じゃない!」
「佐藤さんを見習って俺も手伝ったの!!」

タッグトーナメント終了後に千冬が教えてくれたのだが、佐藤さんは試合終了後に壊れたラファールの整備を整備班任せにせず自ら手伝ったのだという。言われてみれば確かに使うだけ使って後は人任せ、というのは無責任な気がした一夏は最近ISの整備について勉強を始めていた。

その過程で知ったのだが、ISに不純物が付着した場合量子化で自動的に振り落されるものの、関節やスラスターの細部にこびりついたものは時折IS本体と一緒に量子化に巻き込まれてしまうそうだ。それでISが故障することは無いものの、再量子化の際に不純物処理と言う形で負荷が堆積してしまうため、泥と言うのは相当厄介らしい。実際整備の人達も相当気を遣って泥を落としていた。
(実際には一夏の存在と最新型である白式の整備ということで色々と緊張していたというのもあったのだが。)

「まぁそういがみ合うな二人とも。雨天でのIS訓練はやっておいて損は無い」

と、後ろからやってきたラウラが二人を諌めた。そも、雨の中でのIS訓練を提案したのは元々ラウラであり、それに乗った一夏が鈴とシャルを誘ってのタッグ訓練だったのだ。

「どうだった、雨の中でのIS戦は?意外に難しかっただろ?」
「ああ、思った以上に歩きづらかったな。自動制震やオートバランサーが勝手に働くから逆に転びかけちまった」
「それと視界。ハイパーセンサー越しの映像が通常と違う処理をしてる所為か違和感あったわ。おかげでシャルの攻撃にも反応がワンテンポ遅れちゃった」
「な?初めのうちは意外と躓くんだ、これが。早いうちに経験しておいた方が慣れやすいのさ」

ぶつくさと文句を言っていた鈴だが、ラウラのいう通り天候でここまでISの操縦の勝手が違うとは思わなかったようだ。先ほどまで泥にまみれていた髪を弄りながら溜息を吐く。

「絶対防御って髪の毛は守ってくれないのね・・・おかげでちょっと痛んじゃったかも」
「守っていない訳ではないが優先度が低い。もとより長い髪を守りきること自体技術的には難しいからな。学園では言及されていないが・・・軍人の意見としてはIS操縦者の髪形は短いほうがいい。三島のように髪が邪魔にならないお団子ヘアにするか、佐藤さんや相川程度の長さがギリギリ許容範囲だろう」
「そーいうアンタは長いみたいだけど?」
「同僚に止められているのだ。ハイパーセンサーの妨げにはならないだろう、とな」

実際にはもう一つ、元教官のクラースに「少しは女の子らしくしていた方が相手に心理的効果を望める」という教えも絡んでいるが、それを表に出さないでおくことこそが相手の心を騙す極意。碌でもない事を教える教官である。―――と、そんな3人の背中に声がかかる。

「まぁその方が可愛くていいんじゃないかな?少なくとも僕はそう思うな」
「あ、シャル。遅かったな?」
「ごめんごめん、ちょっと雨を眺めてたらぼうっとしちゃって・・・」
「雨を・・・?」

首肯するシャルに一夏と鈴は首を傾げた。雨がそんなに珍しいだろうか?確かに今年の学園周辺の天気は殆ど雨が降らない日が続いているが・・・と、そんな疑問が顔に出ていたのか、シャルが笑う。

「ああいや、昔から好きなんだ。雨の日ってさ」



 = = =



その昔、イースター島は緑溢れる土地だったそうだ。人々はそこで生活を営み、あの有名なモアイ像を作った。だが、モアイの運搬、船の製造、建築などに使うために木々を次々に斬り倒した結果、島の土壌が流失してしまった。
食料や資源が減った住民たちは他の部族と争う様になり、権威の象徴であるモアイをさらに増やした。それによってまた森林が減ってゆくという悪循環の末に陥った結果、イースター島の人口は激減。文化レベルは石器時代のそれまで落ち込んだ。

時代は変わってIS学園。どういった思想でそうしているのかは知らないが、土壌の流失を防ぐために最新の技術が導入され、学園内部は常に緑の木々が生い茂る様に完全に管理されている。降り注いだ雨水は余すことなく大地に吸収され、学園内の浄水装置でこの学園に住む生徒たちが利用する水へ。環境的にも実に良いと言える。

・・・が、この島は元々は緑の少ない場所だったらしい。それを埋め立て、後から土を持ってきて木を植え、整えるところを整えてこの環境になっている。森に棲む生物は草木も含めその全てが徹底的に学園専属の管理者たちに管理され、蜂や蚊などの害虫は徹底的に駆除され、ネズミなどの病原菌を媒介する生物は全てが薬殺されるとか。病気になった木はすぐさま処置を受け、見栄えの悪い木は伐り倒して新たな苗を植林する。生徒に万が一にも不利益が無いよう他にもさまざまな管理が行われている。
そう、この緑はいわばすべてが人の都合の良いように作られた「人工的な自然」。まるで自然のように見えるだけの人工物でしかないのだ。西欧圏ではまず見られない箱庭の作り方だろう。

人の手によって滅ぼされたイースター島の自然もどうかと思うが、人の手によって管理されないと形を保てない環境というのも如何なものだろうか。少なくともベルーナはそう考える。


ぱたぱた、とベルーナの着込んだ合羽(かっぱ)に木の葉から流れ落ちた水滴が当たった。

木々の葉っぱが擦れ合う音。降り注いだ雨粒が木の葉を叩く音。濡れた足場に滴が落ちる水音。ベルーナはこれが好きだった。

人より心が弱くなってから、医者や友達に様々な療養を勧められた。その中でベルーナが最も好きなのが森林浴だ。とりわけ雨の日の森林浴がお気に入りだった。
森林と呼ぶほどではないが、それでもIS学園には結構な広さの林が断続的に広がっており、森林管理者が作った道のようなものも存在する。森への立ち入りは推奨されていないが、ベルーナはこっそりそこに入り込んでいた。

ズボンとセットになっている黄色い合羽(かっぱ)と黒の長靴。どちらもそれなりに使い古した品だ。夏が近いだけあって流石に蒸し暑かったが、それでもベルーナは今日ここを歩きたかったのだ。

雨の森はいい。草木は皆騒がしく音を立て、人が入ってきたことなど気にも留めない。濡れた地面が放つ独特の匂いが、人工的な街並みから離れたことを実感させてくれる。水たまりを長靴で撥ねても大きな水滴が合羽にぶつかって大きな音が立っても、広い森は外界から自分を隠してくれるような気がする。唯でさえ雨雲で暗い日に木の葉で光が遮られた森の中を歩くと、不思議と暗闇を進む不安よりも自分を迎え入れてくれるという感覚が勝るのは自分でも不思議だ。


「昔、日が落ちるまで森の中にいて皆に心配されたっけ・・・」

夜の森は足元が見えないし、方向が分からなくなるので危険・・・らしい。僕は昔から夜目が利くのでそう言った感覚は分からないのだが、実際僕を探し当てたコーラは2回ほど転んで服がひどく汚れていた。
あの日以来、夜遅くまで森に入るのは止めた。皆にひどく心配そうな顔をさせた自分が嫌いになりそうだったから。でも、ここなら別に心配する人間はいないだろう。

「・・・いや、ミノリ辺りは心配するかもしれないから、やっぱり日没までには部屋に戻ろう」

足が疲れてきたベルーナは地面に座り込む。ぬかるんだ地面の感触が合羽を通してジワリと伝わってきた。普通の人間ならば不快に思うかもしれないそんな感触も、ベルーナだけが楽しめる雨の楽しみ方だった。


この雨がずっと続いて、自分を覆い隠してくれればいいのに。

ふと、そう思う。ISを動かすためにミノリやマヤ先生に散々手間をかけさせ、母国や家族、親友のためにやってやれることもない。皆は口には出さないが、時々「何故あんな男がIS学園に」という視線を感じることがある。
善意を持って近づくオリムラとホンネにやさしく接することも出来ず、未だ皆と一緒に行動することも出来ず、ISに乗れるようになったからと言って未だに武器を見ると吐き気が押し寄せてくる。


僕は、何も変わっていない―――

そのまま地面に仰向けに寝そべり、木の葉の隙間から垣間見える灰色に濁った空を見上げた。その色合いが白にも黒にも染まりきれない中途半端な僕を理解してくれているようで、少し気が楽になった。



「・・・Partirono le rondini♪」

ふと、母国の友達―――アングロに良く聞かされた歌を思い出し、口ずさんだ。

「dal mio paese freddo e senza sole♪cercando primavere di viole,nidi d'amore e di felicita♪」

アングロはこの歌が好きだった。僕にはどうしてか理解できなかったけど。
だってこの歌は「Non Ti Scordar Di Me(私を忘れないで)」・・・別れの曲だ。人と別れるのは悲しい事の筈だろう。もしも伯父さんやアングロ達と別れなければいけない日が来たら、僕はきっとその現実に耐えられない。なのに何で、って僕は彼女に訊ねた。

「La mia piccola rondine parti♪senza lasciarmi un bacio,senza un addio parti♪」

そしたら彼女はこう言ったんだ。

『大事な人の下を去ったのなら、きっとその人の目にはもっと幸せな場所が映っているんだと思うの。だから私は・・・その場に引き留めて心に嘘をつかせるくらいなら笑って見送りたいって思った』
『・・・それじゃあ、見送った人が幸せにならない』
『そうね。一緒にいられるならその方が幸せ・・・でもねベル坊?「自分が幸せになれなくてもいいや」って・・・そう思えるほど夢中になった相手なら、私はやっぱり笑って見送る女になりたいんだ』

・・・彼女の言うことはいつも難しい。でも、モニターで再会したアングロは笑っていなかった。
ならばやはり、ここは僕のいるべき所ではないのかも―――

「Non ti scordar―――」

「綺麗な歌声ね。でもオネーサンとしてはもう少し歌う場所と体勢を考え直した方がいいかなーって思うわ」

―――なんか変な人が来た・・・
 
 

 
後書き
一度書いてみたかった。
ISって四六時中晴れの天気ばっかりなイメージがあるから雨の中のISって言うのを凄く書きたかったんです。 
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