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何処までも

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第二章

「私はいいわ」
「そうか、それならな」
「今から行くの?」
「西に行こう」
 行く邦楽はそこだった。
「そこにな」
「西になの」
「東は少し行ったら海だ」
 そこから先は行くことが出来ない、それで東には行かないというのだ。
「南は壁があって北は寒くなってしかも森になっているからな」
「そこからは行けないからなのね」
「西しかない」
 行くとすればというのだ。
「だからだ」
「そう、それじゃあ今から」
「行くか」
「今は二人だけだしね」
 子供はいない、結婚して間も無くなので。
「気楽だし」
「それでか」
「ええ、行けるところまで行ってみましょう」
「草原の果てまでな」
「モンゴル人は草原がある場所なら何処までも行けるわ」
 馬でだ、モンゴル人にとって世界とはそのまま草原であり草原があるならば羊達を連れて馬で何処までも行けるのだ。
 だからだ、ボンテもこうドルゴに言うのだ。
「行きましょう」
「悪いな、そう言ってくれて」
「いいわよ、私はあなたの妻で」
 ボンテは微笑みドルゴに答える。
「私もその話に興味を持ったから」
「だからか」
「お空が何処まで続いているかね」
 ボンテもまた空を見上げた、青いその空を。
「確かめてみたくなったわ」
「本当に何処まで続いているんだろうな」
「そのことも確かめにね」
「今から行くか」
「ええ、二人で」
 二人は羊達を連れて西に向かった、緑の草原は果てしなく広がっていた。二人の道でもあるその世界もまた。
 二人は青い空を見上げつつ西に西にと進む。時折川があり湖がある。そういった場所で水を補給し馬や羊達にも飲ませる。二人は馬や羊の肉や乳、そういったものから作る保存食モンゴル人の食べものを食べつつ進んでいく。
 夜はゲルを組みその中で休む、ドルゴはそのゲルの中で羊の肉を食べ茶を飲みつつ向かい側に座って食べているボンテに言った。
「モンゴル人はこういう時いいな」
「そうね、ゲルがあってね」
「馬や羊達がいる限りな」
「何処までも行けるわ」
 ボンテもこうドルゴに答える。
「こうしてね」
「他の人間じゃ無理だな」
「絶対にね。田畑を耕していると」
 そうして生活では、だ。
「無理よ」
「そうね、ただ」
「ああ、もう結構進んだ筈だけれどな」
「まだね」
「草原は続いているしな」
「お空もね」
 二人が果てを見ようとしているその空もだ。
「まだまだ続くわね」
「もうどれ位行った?」
「三ヶ月位かしら」
 それだけの時間、そして距離を二人でただひたすら西に進んでいる。しかしそれでも草原は終わらず空も果てない。
 それでだ、ドルゴはこうボンテに言うのだった。 
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