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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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反董卓の章
  第18話 『お兄ちゃん、負けないで』

 
前書き
さあ書き上げた、投稿しようとして、文ちゃん斗詩ちゃんの話を入れるの忘れていました。
慌てて追記、危ない危ない…… 

 




  ―― 曹操 side 虎牢関 ――




 逃げ惑い、こちらの陣へと逃げてくる袁術軍の兵たち。
 まったく……本当に調練がなってないわ。
 金色の鎧を重たそうにしながら逃げてくる姿は、まるで新兵。
 数だけの様体は、まさしく麗羽の親戚ね。

「敵の騎馬兵、来ます!」

 前面に薄皮のように配置した兵から声が上がる。
 前方の袁術軍を追い立てるように、董卓軍の騎馬兵がこちらへと向かってくる。

 ……さて、それじゃあ予定通り。

「混乱した様子に見せて前を開けなさい。あと、逃げてくる袁術兵は邪魔するなら斬っていいわ」
「ハッ!」

 同士討ちしている様子を見れば、こちらの混乱が擬態とは思わないはず。
 案の定、敵はこちらが混乱したと見て、部隊を動かし始める。

 あそこで槍を振るっているのが張遼かしら……

(張遼は御遣いと親交も厚かったはず。ならば、御遣いの情報が得られるかもしれない)

 ……殺すより、捕らえたほうが良さそうね。
 それも驍将と言われるぐらいなら……配下に欲しいわね。

 その張遼がこちらに槍を向ける。
 指示が出たのか、周囲の騎馬兵達がこちらに向かって押し寄せる。

 そう――私を殺すために。

(ふふ……私を囮にしようだなんて。春蘭が随分怒っていたけどね。それを言う関羽の豪胆もなかなかだわ)

 そしてこれを考えた御遣い――
 私は、この作戦が本当にそれだけの効果があるのか試したかった。

 それが関羽の作戦を是とした本当の理由。

(時間がないからと無理やり強要させたけど、あとで秋蘭や桂花に声をかけないとダメでしょうね)

 そんなことを思って、思わず笑みが出てしまう。
 すでに敵は目の前。
 あと二十も数えれば眼前に(せま)ろう距離。
 私は、その手をサッと上げた。
 それは合図。

 ジャーン、ジャーン、ジャーンッ!

 その合図とともに、銅鑼の音が響き渡る。

「今よ! 春蘭! 関羽!」
「「 応ッ! 」」

 二人の声が同時に聞こえ、部隊の後ろに構えていたそれぞれの部隊が左右に分かれ、双頭の蛇のように敵の騎馬隊先端へと同時に襲いかかる。

「なっ!?」

 敵の騎馬兵は、左右から同時に襲ってくる春蘭と関羽の部隊に戸惑い――

「ぐあっ!」
「ギャッ!」
「ガボガボガボ!」

 ある者は、槍で馬ごと足を突かれ。
 ある者は、槍に叩き伏せられ。
 ある者は、喉元に矛先を突き立てられて、血の泡を吐き出す。

 敵の騎馬兵は、左右からくる二方向からの攻撃に戸惑い、防御も出来ず、打ち倒され、あるいは落馬し、殺されていく。

「敵の動きが止まった。秋蘭!」
「ハッ! 今だ! 斉射三連!」

 秋蘭の声と共に、こちらの弓隊が混乱した騎馬隊に矢の雨を降らせる。

「春蘭、関羽! 矢の切れ目と同時に騎馬隊を押し返しなさい!」
「御意!」
「……承知」

 降り注ぐ三射目の頃合いを見計らって、ほぼ同時に動く。
 その動きはまるで合わせ鏡のように。

 春蘭はおそらく勘、関羽は……経験かしら?

 突撃部隊の騎馬兵は、加速度的にその数を減らしていく。
 それをまずいと見た張遼は、槍を振り回しながら一時撤退を叫んでいるが――

「そうはさせない! 今が好機よ! 少しでも削って戦意を削ぎなさい! 全軍、抜刀!」

 私の合図とともに、混乱したふりをしていた本陣の兵がすかさず陣容に戻って剣を抜く。

「突撃なさい!」
「「「 オオオオオオッ! 」」」

 我が声に呼応したように、前進する。
 できればここで、張遼の部隊を数千にまで減らしたい。

 会心の策、それが成ったと思う。
 だが、私の心には相反する部分があり、それが――(ほぞ)を噛む。

(これが、我軍に対して行われた策だったら――)

 ……いえ、今は考えるべきではない。
 そう思うのだが。

 どうしても晴れない心の(もや)の中。
 私の口は、前進を指示していた。




  ―― 張飛 side ――




「うりゃりゃりゃりゃあーっ!」

 鈴々は、本気でりょふのおねーちゃんに攻撃するのだ。
 鈴々は昔に比べて随分強くなったと思っているのだ。

 足を鍛えて一日中走っていても問題なくなったのだ。
 お兄ちゃんを師と仰いで、直線的な動きを直したのだ。
 そして将としても、被害を抑えて良い将になるために、苦手な勉強だってしたのだ。

 でも……でも……
 なんでなのだ!?

「……強い。けど、本気出すほどじゃない」
「ぐっ!」

 どうしてこんなに攻撃がうまく当たらないのだ!?

「ちょっとだけ、本気出した……お前、それは誇っていい」
「な、なめるなー!」

 鈴々の攻撃は突き、凪ぎ、払う。
 けど、それらは全てりょふのおねーちゃんの武器で防がれる。

 お兄ちゃんに教わった『ふぇいんと』もいれたのに、あっさりと蛇矛を弾かれる。

「……そろそろ恋の番」
「!?」

 今まで防戦一方……と思っていた、りょふのおねーちゃんの気配が変わる。
 さっき感じた、あの蛇に睨まれたような感覚が、再度鈴々を襲ったのだ。

(な、なんかやばいのだー!?)

 一瞬で変わった殺気に、慌てて防御しようとする。
 けど――

「さっきより、ちょっとだけ早くする」
「!?」

 腕が動くのが見えた。
 『視えた』のだ。

 けど……なんで。
 なんで……武器が消えて――

「ガッ!?」

 気が付くと、鈴々は宙に浮いていたのだ。
 一体、なにが――

「――ガフッ! ゴッ……あ……」

 一瞬意識が遠のく。
 気が付くと、地面が見えたのだ。

 ……鈴々は、なんで地面に倒れているのだ?

「……恋、言った。お前ら仲間じゃない。なら……本気じゃないけど、手加減はしない」

 首を少しだけ動かす。
 そこにいたのは、汗一つかいていないりょふのおねーちゃんの姿……

「……? いや、間違い。ちょっとだけ、本気でもあった。でないとお前、倒せなかった。そこだけは間違い」

 ……鈴々は、やられたのか?
 頭がくわんくわんいっているのだ……
 でも。

「……まだ、なの、だ……」

 腕と足、そしておなかに力を入れる。
 鈴々は……鈴々は、これでも燕人と呼ばれた女なのだ。

「……驚いた。お前、今ので起きてくる?」

 目の前のおねーちゃん……いや、りょふ、呂布は。
 認めたくないけど……認めたくないけど……

「……呂布、は。鈴々より、強い、のだな……」

 傍に転がる蛇矛を拾う。
 ……おかしいな。
 鈴々の蛇矛は……こんなに重かったっけ?

「……立ったけど、お前ボロボロ。なのに何故立つ?」

 心底不思議、そんな様子で鈴々を見ているのだな、呂布……
 そんなの……そんなの、簡単なのだ……

「鈴々は……死ぬわけには、いかないのだ……まだまだ美味しいものを食べたいし、お兄ちゃんにも稽古つけてもらわなきゃならないのだ……」
「………………」
「愛紗と一緒に、桃香お姉ちゃんの夢のために……死ぬ時は三人一緒、と誓ったのだ……だから」
「……そう。でも、それ無理。お前、ココで死ぬ」

 呂布が……笑いもせず、泣きもせず、ただ無表情の顔で、そう言う。

「っ! 鈴々は! 死なないのだっ!」
「……さよなら」

 その腕が、今度こそ消えたように視えて――

 鈴々は。
 死んだ――




  ―― 劉備 side ――




「!?」

 なに……?
 今の寒気は。

 心の中に、悪寒が通り過ぎていったような……




  ―― 関羽 side ――




 「!?」

 董卓軍の騎馬を打ち倒した瞬間。
 なにか、自分の半分が消えるような感覚に陥る。

「今の――桃香様!? 鈴々!? ご主人様!?」




  ―― 趙雲 side ――



「!?」

 ……今、なにか……
 馬を走らせる私は、その胸を押さえる。

「どうしました? 星さん……?」

 私の前で一緒に馬に乗る雛里が、不思議そうに見上げてくる。

「あ、いや……なにか、胸騒ぎが――」
「見えたよ!」
「あ、ハイ!」

 私の言葉に被せるような馬岱の言葉に、雛里がそちらへと答える。

 ……しかし、今のは一体――




  ―― 貂蝉 side ――




「……っ! もう、すこ、し……」
「グハッ……この、龍脈、かなり、きついわい……」
「あと、ちょっ……ぶらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」




  ―― 呂布 side ――




 殺った――
 恋はそう、確信した。
 でも、なにか手応えが――

「……ぐ」

 ?
 目の前に……黒いのがいる。
 恋の戟を、受け止めた……?

「……ざけんな」
「……?」

 男の……声?

「俺の弟子に……」

 ぐぐっと恋の戟が……持ち上がる?

「なにしてんだぁああああああああああああああっ!」

 黒い服が弾けるように膨れ上がる。
 そう感じた時、恋の戟が弾かれるように跳ね返された。

「……?」

 その異様さに、思わず恋は飛び退く……

「……? お前……誰?」

 そこにいたのは……黒い服を着た男。
 男が……恋の戟を受け止め、跳ね返した?

 こんな男、知らない――

「……本当は戦わない方法を探すつもりだった」

 男は恋の言葉を無視した。
 戦わない方法……?

「董仲穎殿を平和裏に助け出し、歴史の再現もおこなう。そのつもりだった……」

 ……歴史?
 この男、なにを言っている?

「だが、もういい……もう関係ない」

 男が顔を上げる――その目の光に、恋は戟を構える。
 ……?
 恋が、戟を……?

「歴史なんか知ったことか! 鈴々を殺そうとした相手なら!」

 その男の目に、鈍い光が宿る。
 こいつ――

「おにい、ちゃ……」

 後ろのちっこいのが、ゆっくり後ろに倒れていく。
 それを見た瞬間。
 殺気が、迫ってきた。

「呂布――」

 !?
 はやっ……

「消えろっ!」

 その拳が、恋の構えた戟を弾き飛ばした。




  ―― 張遼 side ――




「ちいっ……こらまずいわ。騎馬隊はさがりぃ! 後方の歩兵隊、前に出ぇ!」

 ウチは、騎馬隊に迫り来る敵兵をあしらいながら声を張り上げる。
 失敗やった……乾坤一擲の大博打、それは見事に負けた。

(くっ……なんやねん、あの策は! 曹操……とんでもないやっちゃ)

 まさか自分を囮にしての鶴翼の挟撃――いや、ようわからんけど、あないな連携を即興で行うやて!?

 ――甘かった。
 盾二が怖れるはずや。
 盾二と同等……いや、それ以上の策を、あの一瞬でこしらえるなんて――

「くっ……何しとんねん! 歩兵隊、前に出んかい! 敵の槍隊にぶつかって足止めするんや!」

 ウチが叫ぶ。
 けど、歩兵隊は及び腰になっていて、その足並みが乱れている。

(ちぃ! あかん! こんなところで急造の混成部隊の弱みが出るやなんて!)

 後方に配置させた五万の後詰の部隊。
 先日、急遽北と南の関から動員させた兵。

 しかし、話を聞けばその両方共、まともな戦闘はしておらんかったらしい。
 にらみ合いのまま、関に篭もる日々……

 当然、それらの兵の士気は、だださがりや。
 そして、いきなりの参集令に、移動してみれば……そこは死地。
 士気もない部隊なんぞ、ただの張子の虎や。

(ホンマに使えん! このままじゃ、逃げ出すのも時間の問題――)

 いざとなれば総撤退させる可能性もあった為に開けておいた、虎牢関の大門。
 上手く行けば悠然と、下手をすれば少しでも逃げ道を――
 そのために開けていた門を振り返り、退却の指示を出すか迷う。

(――いや、いやいや、まだやっ! こっちの騎馬隊は半分以上やられてもうたが、まだ恋の部隊が残っとるはず!)

 あの恋のことや。
 そう簡単にやられるようなタマやない。
 なら恋の方に逃げるか……?

 あかん。
 それじゃあ、ウチはただのお荷物やんか!
 せめて、せめて、今追撃してきとる曹操軍だけでも押し返さな……

「見つけたぞ! 霞っ!」

 !?

 不意に呼ばれた声に、ウチは馬を回頭させる。
 そこにいたのは――

「あ、愛紗!?」
「……霞」

 そこにおったのは、部隊を率いた愛紗の姿……
 なんでや!?
 なんで曹操軍に愛紗がおんねん!?

「あんさん、劉備軍にいたんじゃ……」
「? もちろん劉備軍だ。曹操軍へはご主人様の(めい)により、共闘しているにすぎん」

 共闘……つまり、愛紗は自分の配下と一緒に曹操軍の援軍に。
 なら、盾二は……

「……恋、呂布の元にいるんか」
「……ああ。鈴々と共にな」

 誰が、とは言わん。
 愛紗も言わへん。

 ウチらの共通の相手なんぞ、一人しかおらんからや。

「……たとえ愛紗やとて、ウチは負けへんよ」
「……そういえば、手合わせは一別以来だな」

 ウチと愛紗が互いに笑う。
 互いに武人同士。
 なら、数千の言葉より、一合がすべてを語る。

「いくで! 愛紗!」
「こい! 霞!」

 ウチと愛紗――張文遠と関雲長の死合は、馬上の一撃から始まった。




 ―― 文醜 side ――




「猪々子さん! 斗詩さん! いいですこと! わたくしが総大将を務める連合軍が負けることなんて許されないのですのよ!? 今すぐ前線に赴いて、董卓軍をけちらしていらっしゃい!」
「あらほらさっさい~」
「あ、あらほらさっ……もう。これいうのヤダぁ……」

 姫のいつもの直感的指揮(いきあたりばったり)が始まったぜ。
 まあ、いつものことだし、アタイは別にいいんだけど……

「な~斗詩ぃ?」
「……なぁに? 文ちゃん?」

 いとしの斗詩は、最近ちょっと不貞腐れているように感じているんだよな。
 たぶん、アタイのせいじゃなくて、あの文官の兄ちゃんのせいだろうけど。

「姫から直々に命令もらうのって、なんか久しぶりな気がしないか?」
「…………うん」

 斗詩はどことなく寂しそうだ。
 アタイは姫の無茶が減っているから、逆に楽でいいんだけど。

「いつもはあの薄気味悪い兄ちゃんが小難しいこと言ってくるんだけどな。あの兄ちゃん、どこ行ったんだ?」
「……知らないわよ。別にあんな人、どうでもいいし」
「お? お? なになに? 斗詩ってもしかして……」
「……なによ」

 ふっふっふ……斗詩ぃ。
 アタイは全部わかってるんだぜぇ?

「最近、姫にかまってもらえないから……焼きもち妬いぶべらっ!?」
「なによ! 文ちゃんまで! 私をからかうなら時と場所を選んでよっ!」
「あたた……が、顔面はひどいよ、斗詩ぃ……」

 いきなり金光鉄槌(きんこうてっつい)で顔面を殴ってきたし。
 アタイみたいな頑丈なのが相手だからいいけど、お嬢やあの兄ちゃんだと死んでいるんじゃないかなあ?

「悪かったって……でも、確かにあの兄ちゃんが来てからなんか変わったよな、姫。なんていうか……無茶が減った?」
「………………」
「わがまま言うことは多いけど、基本まともになったというか……」
「……文ちゃん。ほんとうにそう思ってる?」
「え?」

 言われて斗詩の顔を見ると、その顔は不安げな顏だった。

「私ね、今の麗羽様は、私達の主の麗羽様じゃないような気がするの……」
「……? 麗羽様が麗羽様じゃない? 姫が偽物ってこと?」
「ち、違うよぉ……その、ね。今の麗羽様って……なんか、ただの悪者にしか見えないの」

 ただの悪者……?

 っていわれてもなぁー……昔っから姫の小悪党ぶりは見てきたし。
 自分に都合がいい様に解釈して、無理難題を相手にふっかけて……

「……あのね。あの人がくるまでの麗羽様は……そりゃあ小狡いところがあって、基本高飛車で、相手の面子より自分の面子を優先させるような人だったけどさ」
「……斗詩。アタイより酷いこと思ってたんだなぁ……」
「そ、それでもね……それでも……いいところもいっぱいあったでしょ?」
「……どんな?」

 アタイの言葉に、斗詩が首をひねりながら呟き始める。

「え、ええと……例えば、人に迷惑はかけても、自分が悪いと思ったら素直に謝るところとか……まあ、大抵は散々言い訳してからだけど……あと、権力には弱いけど、全部が言いなりになるようなことはなかったじゃない? ……半分以上は自分でいいように解釈してたけど」
「う、うん……」
「それに私や文ちゃんにだけは、いつでもどこにでも必ずお伴させていたよね? 大抵、私達が割りを食わされてはいたけど……で、でも、辛いことがあっても楽しいことがあっても、必ず私達にだけは毎日話をしてくれたじゃない? でも、あの人が来てからは……」
「う~ん……まあ、確かに。最近の麗羽様は、いっつもあの兄ちゃんばっかり相談してるな。最近じゃ閨にも呼ばれないし……」

 いつもイライラしている時は、アタイか斗詩を閨に呼んで散々愚痴聞かせたりしていたのに……

「なんかね……最近、陣営の内外で、麗羽様の悪い噂が広まっているの。以前はただ無茶する人だったけど、最近じゃそれが非道と言われ出していて……」
「……へ?」

 非道……?
 あの姫が?

「無茶な兵役を課したり、増税したり……蔵にはまだ大量に金蔵があるのに、なんで増税する必要があるの? そんなこと、麗羽様は今まで一度もしなかったのに……」
「まあ、そうだよなー……お金が少ないなら『お祭りして賭けで稼ぎますわ』とか言って、胴元泣かすぐらいに大勝ちする人だし」

 姫って実は、ものすごーく賭け事にだけは強いんだよなぁ。
 しかも全財産を毎回賭けるから、そのたびに資産が増えていくし。

 今の袁家の膨大な資産の半分は、姫の博打で得た財産だったりする。

「兵役だって、怪我した兵がいたら『無理をしないで休みなさいな。これは治療費ですわ』とか言って一ヶ月分の給金をお小遣い感覚で出しちゃうような人だよ? 小さい子が『えんしょーさま、ありがとー』って言ったら、真っ赤な顔して後で照れまくっているような人だよ?」
「う、うん……よく覚えてるな、斗詩」
「麗羽様は、本当はそれぐらい優しくて思いやりのある人だからだよ! いつも思いつきで()……無茶やって、高飛車に言い訳するから悪く思われがちだけど!」
「……斗詩。褒めるのか貶すのか、どっちかにした方がいいと、アタイは思うよ?」

 しっかし、正直驚いた……
 斗詩って、実はすごく姫への忠誠心が高いんだなぁ。

 ちょっと、いや、かなり驚いた。

「そんな人が非道なんてする!? するわけないよ!」
「……じゃあ、なんでそんな噂が……」
「……あの人」
「へ?」
「……あの、唐周って人がやっている、と思う」

 え?
 あの兄ちゃんが?

「……証拠、あんの?」
「……………………ない」
「あちゃー……」

 まーそう聞くと、アタイらにしてみればあの兄ちゃんが怪しいって思うけど。
 でも、何も証拠がないんじゃなぁ……

「でも……あの人、最近私兵雇っているみたいだし。いかがわしい人物との接点もあるみたいなの……証拠はないけど」
「ううん……」
「それにね。あの人が来てから、兵の中に素性の怪しい兵がまぎれているでしょ? それが不安で……」
「うーん……」

 あの兄ちゃんがなぁ……
 まあ、斗詩の心配はわかるけど……

「……わかったよ。この戦が終わったら、アタイも色々調べてみる。もし、あの兄ちゃんが私腹を肥やしていたり、姫を唆して悪いことしているなら……アタイがぶった斬る」
「文ちゃん……信じてくれるの?」
「は? 当たり前じゃん。斗詩がそう言うんだから、そうだろ?」
「文ちゃん……」

 うわわ、どーした、斗詩!
 いきなり泣き出しちゃって!?

「ありがと……文ちゃん、ありがと……」
「な、泣くなよ、斗詩ぃ……アタイが斗詩や姫を信じるのって、あたりまえのことだぜ?」
「うんっ……うんっ!」
「だろ? へへっ……斗詩は泣き虫だなぁ」
「ぐすっ……も、もう! すぐからかう……」
「へへへっ」

 うん。
 やっぱ、斗詩は笑っていなきゃな!

「さーて! じゃあ、前線を助けに行くかあ!」




  ―― 唐周 side ――



「準備はいいな……」

 俺は背後にいる俺直属の兵に問いかける。

「はっ。毒矢、毒短刀など、いつでもいけます」

 俺が集め、そして用意させた兵。
 その数、千。

「よし……では、前線に紛れていつでも攻撃できるようにしておけ。合図は、空に赤い帯の矢が上がった時だ」
「はっ!」

 そうして俺の息のかかった兵が、前線へとむかう文醜、顔良の兵へと紛れ込んでいく。

「よし。あとは……状況次第だ。あの馬鹿を連れて、前線に出ないとな……」

 最終局面はあの馬鹿自身が決めないと――とか言えば、あの名誉欲の馬鹿は前に出るだろう。

「ようやく殺せるぞ。北郷盾二……」

 そしてすべての罪を袁紹にかぶせて、俺は別の主を見つけてやるさ。
 全ては俺の思惑通りに――




  ―― 盾二 side ――




 ……!

 俺は身の毛もよだつ様な悪寒を感じて、距離を取る。
 一撃――あの呂布の顔面に、一撃を叩き込んだ。

 相手は、まともにそれを食らったように見えた。
 なのに――なぜだ。

 何故……俺が退(さが)った?
 顔を上げれば、相手は確かに俺の拳を喰らい、十m程足を踏ん張った為に出来た轍がある。
 にも拘らず、俺は追撃するわけもなく退いた。
 退かされた。

 それは……

「………………」

 あの眼。
 赤い髪に、日に焼けたような肌から垣間見える、あの双眸。
 そこに込められた、威圧感……いや、違う。

 あれは……歓喜だ。

「……お前、強い。恋をここまで下がらせたの、お前が初めて」

 呂布は、無感動な口調でそう言い、轍に嵌った足を引っ込ぬく。

「力、すごい。早さもそこそこ。合格」

 呂布はそう言って、戟のような武器を振るう。
 ……あれ、方天画戟、か?
 どこまでも三国志演義かよ。

「さっきのちっこいのより、もう少しだけ本気、出す」

 ……俺、殴ったよな?
 AMスーツの力で。
 なんで平然としているんだよ……

「次、恋の番……いく」

 そう言葉に出した矢先――呂布は、一足飛びにこちらへと迫る。

(!? 瞬歩!?)

 左慈も使っていた、瞬間的な加速術である『瞬歩』。
 まるでその早さのような跳躍。

 いや、実際はそれより若干遅いと感じたのは、相手の攻撃をブロックして、体ごと宙に浮いた後で感じた感想だった。

「ぐうっ!?」

 なにしろ、ガードが間に合ったのだ。
 本来の『瞬歩』なら、ガードする暇すらない。
 空中で態勢を整えようとして、不意に感じた殺気に確認する暇もなく右へと上体を避ける。
 それを掠めるようにギロチンのような戟の刃が、俺の髪を数本散らす。

「………………」

 着地する瞬間にも新たな殺気。
 勘だけでしゃがみ込み、頭上に巻き起こる突風を感じで背筋に冷や汗が流れた。

(下がるとヤバイ――)

 それすら、ただの勘。
 瞬間的に斜め前に前転しつつ、右足を縦のローリングソバットのように振り上げた。
 その横に、さらなる風圧を感じつつも、足を振り下ろす。

 だが――そこに目標はいない。

(ミギ――)

 頭の何かが囁くような声ならぬ声。
 途端に視界が広がり、頭上から見下ろしているような感覚の中。

 軸足の左足を、右足を下ろす反動で跳ね上げて、声の示した方向へと蹴りを穿つ。

「!」

 息が止まるような気配を感じ、その左足が何かに当たったような衝撃が伝わる。
 だが、それは生身のソレを蹴った感触ではない。

 まるで岩の塊――それに正面から蹴倒したような感触。
 AMスーツの恩恵がなければ、間違いなく足を挫いていただろう。
 だが、それを確認する暇もなく、右足が大地に着いた瞬間に、さらに地面を蹴って飛び退る。
 その足が再び地面に着いた時、急激な時間の流れを感じて俺は顔を上げた。

「――っぱあ!」

 呂布が飛び込んできて、一連の攻防にかかった時間はおよそ二秒かそこらのはず。
 まるで時間が圧縮されたような、長大な時間の流れを感じ、不意に俺の身体に震えが走り抜ける。

 これは、恐怖か、それとも武者震いか――

「………………」

 相手はどうかと目線を上げれば、呂布は腕を交差させてその場に立っている。
 少しだけ後退ったような痕跡を残して。
 その顔は……いや、口元が。

 笑っていた。

「……お前、本当にやる」

 呂布が交差させていた腕を下ろす。
 少しだけ赤くなったような腕を見て、俺は知らずに歯を食いしばった。

(AMスーツの超パワーを、生身で……しかも逸らすのではなく、完全に受けきった……こいつは)

 間違いない。
 呂布は……

「無意識に『硬気功』を使って、いる」

 御神苗先輩に聞いたことがある。

 あの朧や同じ中国拳法の達人が使う硬気功が相手では、AMスーツのパワーとて相殺させてしまうのだと。
 そして、同じく古代の英雄には、それを無意識で行っていた武将も数多くいたと。

 それは力の増強、早さの増強といった身体的能力の拡大を基本として、戦闘時の肉体の頑強さすらも硬気功と同等以上に引き上げていただろうと。
 それは鈴々や愛紗……この世界の女性の武将たち全てで、納得していた事だった。

 だが、それでも……それでもだ。

 ここまで常識はずれな能力を持った相手には、この世界にきてから見たことがない。
 それは于吉や左慈すらも……

(三國無双、天下の飛将軍、本当の『無敵』の名を冠する者。呂奉先……)

 俺は関羽や張飛といった豪傑を見て、その延長上にいると思い込んでいたのかもしれない。
 彼女らとて、俺自身の力じゃ敵わない……

 それでもAMスーツの力があれば、同等以上に戦えると密かに思っていたのだ。
 だが、目の前の相手は違う――次元が、違う。

 その事実だけが、俺の脳裏をかすめた時――

「……お………………で」

 声が……聞こえた。
 それは、すぐ後ろから。

 確かに……聞こえたのだ。

「………………」

 消え入りそうな言葉だったが、確かに聞こえた。
 その言葉を理解した瞬間。

 俺は、自身の歯を鳴らし、勢い余って唇の端を噛み切っていた。

「……お前とやるの、ちょっと楽しい。恋、半分くらい、本気でやる」

 無感動な口調のその言葉すら、俺の脳裏には嘲笑のように聞こえた。
 その事に、俺は切った唇から血を舐めて――嘲笑う。

 負けられない。
 たとえ俺が弱くとも。

 負けられない。
 たとえ俺が――『バケモノ』でも。

「……いいだろう。俺も本気でいく。例え、俺が……俺でなくなったとしても」

 だって、言われたんだ。
 俺の……たった一人の、妹のような弟子に。

「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 言われたんだ……









『お兄ちゃん、負けないで』と――




 
 

 
後書き
アーマードマッスルスーツの利点は、並の人間の力の三十倍の怪力が出せること。
そして、通常の弾丸程度なら弾く力があること。
サイコブローと言われる精神波の超常現象攻撃が使えること。

実は……この程度しかないんですよね、これ。
十分強いって?
そうですね……パワードスーツとしては破格です。

でも、どんなに強力な兵器も、使うのは人。
だからスプリガンの世界で御神苗優は、あれほど傷つき、死にかけ、最後にはAMスーツを捨てました。

そしてこの世界では、スプリガンの世界の機械化小隊やサイキッカーに勝るとも劣らない『古代の英雄』達がいます。 
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