| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

反董卓の章
  第17話 「敵は……倒す」

 
前書き
やっとまともな戦闘シーンが始まりました。
ぶっちゃけ、詰め込みすぎですよね……でも、様々な思惑を同時進行させようとするとどうしても……

スッキリ出来るように精進します。 

 




  ―― 孫策 side 虎牢関 ――




「あ、あらぁ~……や、やっぱり数の暴力には勝てないかしら?」

 思わず口に出る。
 黄蓋――祭率いる弓隊が交差陣形で敵を削り、甘寧――思春率いる槍隊で敵を受けとめ、それを私と周泰――明命が横槍で大混乱に陥れる。

 この作戦は当初は上手く行った。
 敵の先鋒の部隊は大混乱し、進撃は止まる。

 だけど――

「ほんっと、袁術ってば役に立たないどころか、迷惑しか起こさないんだから!」

 袁術軍は張遼率いる騎馬隊で大混乱になり、そこから逃げてきた袁術軍の逃散兵がこちらの陣形をかき乱した。
 そしてそこに追撃してきた騎馬隊の一軍が、こちらの弓隊をかき乱し――

「やばいわね。敵より味方にやられるなんて――」

 こんな状況では、まともな指揮など出来ない。
 統制を取り戻すために、一時引くしかないのだが――

「よりにもよって、一番嫌なのと目があっちゃったのよね……」

 こちらに向かってくる一団。
 そしてその軍団が掲げる牙紋旗は『呂』。

 真紅の呂旗――飛将軍、呂布。

「ままならないものね……戦うなって言われても、向こうから来たんじゃ戦わざるをえないわけだし」

 そう思って苦笑するが、むしろ胸の中から沸き上がるのは――狂気。

「……呂布とは戦いたかったのよね。それも一対一で。これは……好機かしら」

 思わず愛刀の南海覇王を握る手に、汗がにじむ。
 大陸最強と名高い呂布を相手に勝つことが出来るなら……私が最強ってことかしら?

 ふふ……それもいいわね。
 なら――

「伯符様! 一旦後退して陣形を立て直せとの周喩様からのご伝言です!」

 あ……ちっ。

「え、舌打ち!?」
「あ、ううん。なんでもないわよ、幼平。あーあ……やっぱりやらせてくれないかあ。まあ、あれだけ散々言われたし……さすがに突撃するのはマズイわね。わかった、後退するわよ」
「あ、はい! よかったです……(ぼそ)縛り上げずにすみました」
「……あとで釈明聞くから」
「はうっ!?」

 はあ……しょーがないかあ。
 どちらにしてもこのままじゃ壊滅するのがオチだし。

 後続の劉備ちゃんたちと連携して――

「伯符様!」

 !?
 油断した。

 こちらに向かってくる、無数の矢の雨。

 さすがに全部は捌ききれな――

「にゃああああ!」

 と思った瞬間。
 横から飛び出してきた小さい影と、その長大な矛が、降り注ぐ矢をまとめてはじき返した。

「油断大敵なのだ! 孫策のおねーちゃん!」
「ちょ、張飛ちゃん……」

 間一髪でわたしを救ってくれたのは、劉備軍の張飛ちゃん。
 その小柄な身体とは裏腹に、長大な蛇矛を持って矢を全て叩き伏せた。

「ここは鈴々が代わるのだ! 孫策のおねーちゃんはバラバラになった自分の軍をまとめるといいのだ!」
「……ありがと。そうさせてもらうわね」

 その言葉を聞くやいなや、張飛ちゃんは長大な蛇矛を天に掲げた。

「梁州牧、劉備が壱の家臣、張翼徳! 我が武威に恐れを抱かぬ者から掛かってくるのだ!」

 その宣言とともに、敵の只中へと突撃していく。
 その後を直属の兵が続いた。

「伯符様! 今のうちに!」
「……ええ」

 劉備ちゃんの義姉妹と言われる張飛ちゃん。
 燕人(えんひと)と呼ばれるほどの剛勇の持ち主で、関羽共々名が高い。

 その名に違わぬ動きと力強さで、一時は勢いづいた董卓軍を受け止め、更に押し返している。

 間違いなく大陸有数の武の将。

 でも劉備の軍は彼女だけではない。
 総合力なら張飛ちゃんを超えるであろう、美髪公関羽。
 知謀は自分と同じかそれ以上と冥琳に言わしめた諸葛孔明。
 孔明に隠れているが、実は裏の軍の参謀だという鳳統。

 そして公孫賛の元で勇名を馳せた趙雲というのも加わっている。

 そして、それらをまとめ、劉備と共に名を馳せる天の御遣い、北郷盾二。

 これだけの逸材が揃う梁州は、冥琳でなくとも警戒するのは判る。

(もしかしたら……盾二は、劉備は天下を取るために動くかもしれない)

 わたしにとっては天下なんかどうでもいい。
 ただ、家族が穏やかに暮らすための世の中にしたいだけ。

 そして母様の夢だった孫呉の復活を―――

(だから曹操のような全てを飲み込もうとする覇王は認めない。けど、劉備や盾二なら――)

 あの子達となら、きっと一緒に笑って暮らせる国が作れる。
 だからこそ……わたしは盾二が好きなのだ。

(だからこそ……こんな戦いで死ぬ訳にはいかないわ)

 それこそが、わたしが呂布と戦うのを留まらせる本当の理由。
 そのためならば、この身を焦がすような胸の内に眠る狂気すら抑えこんでみせるわ。

「雪蓮! 無事か!?」

 ほら。
 そこに、愛する人がいるのだから――




  ―― 盾二 side ――




「雪蓮、無事か!?」
「盾二! 助けに来てくれたの?」

 俺と馬正が第三軍を率いて孫策軍と合流すると、周喩は孫策が前線で孤立していると教えてくれた。
 そのため、先行している鈴々に援軍として向かわせて敵の先端を受け止めさせて、後詰として雪蓮を救出することにした。

「間に合ってよかった。周喩さんがこちらの第三軍と共に軍の統制を回復させている。雪蓮もすぐに下がるんだ」
「ええ~盾二といっしょに戦いたい~」
「あのね……君は孫策軍の旗頭でしょうが。周喩さんが『狂っているなら気絶させていいから戻ってこさせてくれ』って割と本気で言っていたぞ」
「ぶー……本当に信用ないのね」

 雪蓮がふくれっ面で文句を言っている。
 でも、その横にいる忍者みたいな女の子がかなりホッとしている様子だと、ちょっと遅かったら突っ込んでいたんじゃないのか?

「統制を取り戻せそうだとはいっても、そちらはかなりの被害がでているんだろ? すぐに戻って取りまとめてくれ。俺達だって数の上では負けているんだ。再編して横槍を突いてくれ」
「はいはい、わかったわよ。すぐ戻って救援にくるから、それまでお願いね」
「ああ、頼む。正直、総力戦でもないと持たないからな。こっちは袁紹と劉表にも後詰の要請は送ったんだ。向こうの攻撃はこっちで受け止めるから、雪蓮たちは遊撃として横槍を頼むよ」
「りょ~かい。少数には少数の戦い方があるってことを見せてあげるわよ」
「頼んだ……馬正! 聞いたとおりだ! 遅滞行動を取りつつ敵の消耗を増やす! 鈴々には深追いさせるなよ!」
「承知!」

 部隊に細かな指示を出しつつ、馬正が声を張り上げる。

 さすがは元官軍の武官。
 こういった副官的雑務は手馴れているようで、伝令兵を何人も用意して千人隊長たちへと指示を飛ばしている。

「じゃあね、盾二。わたしが戻るまで、呂布をとっておいてよ?」
「頼まれなくともやる気はないよ。三國無双なんかとガチでなんか冗談じゃ……」
「でも、相手はこっち向かっているみたいだから気をつけてね」
「な、なにぃ!?」

 雪蓮の言葉に前線を見る。

 その先に見えた呂の旗に思わずうめいた。

「うあー……なんで少数の孫策軍にくるんだよ。普通大軍の方にいかないか!?」
「そっちは張遼が暴れているわよ?」
「………………なんとかするわ」

 ……くっそお。
 できれば呂布とはやりたくなかったんだがなぁ……

「だいじょぶ! 盾二は無敵、ムテキ! いつもの調子で頑張ってね~」
「何を無責任な……って、もういないし」

 軽い声にむっとして振り返れば、すでに後方に走り去っている雪蓮。
 くっそう……気楽に言ってくれるけどな。
 愛紗や鈴々にもAMスーツなしじゃ全く敵わないだろう俺に、その二人まとめて相手にしても勝てそうな呂布相手にどうしろと!?
 まあ、AMスーツがあれば勝てはしなくとも、負けはしないかもしれないが……

「どちらにしてもやるしかないか……愛紗は曹操と共同で袁術側に救援に行っているだろうし、俺と鈴々だけでやるしかない、か……」

 個人武力じゃ、馬正は弱くはないが強いわけでもない。
 軍団の指揮に専念してもらって、俺と鈴々で相手するしかないけど……

「……ともかく急ぐか。鈴々一人で相手にさせられないし」

 その鈴々は、すでに前線で雪蓮の代わりに第二軍でぶつかっている。
 急いで援護と救援に向かわなければ――




  ―― 関羽 side ――




「我は関雲長! 劉玄徳の家臣なり! 曹操殿は何処か!?」

 私は馬上から、臨戦態勢に入っている曹操軍に近づき、声を張り上げる。
 前線から少し離れて迎撃体制を取る曹操軍は、戦前(いくさまえ)特有の戦慄にも似た殺気が満ちていた。

「何の騒ぎか……貴様、関羽か!」
「そういう貴女は、たしか夏侯惇……?」

 我が声に反応したのは、かつて義勇軍時代に曹操の傍にいた片割れの一人、夏侯惇だった。
 背に抱える大剣に手を掛け、こちらを油断なく探っている。

「劉備軍の貴様が何故こちらにいる!? 一体何のようだ!」
「……我が主、劉玄徳様とご主人様である北郷盾二様の(めい)により、曹操殿と共同で袁術軍の救援に向かうよう仰せつかった」
「なんだと……?」

 夏侯惇が訝しげな顔でこちらを見てくる。
 当然だとは思う。

 こちらの戦力とて向こうに比べれば四半程度。
 にも拘らず、部隊を割いてまで曹操軍の援護に来たと言っているのだ。

「……貴様、何を考えている?」
「好きで来たのではない。ご主人様……北郷盾二様の指示だ。でなければ今すぐにでもご主人様のもとに戻りたいのだがな」
「なにぃ!? わざわざ戦前(いくさまえ)に来て、喧嘩を売るつもりか!?」

 私が鼻を鳴らすように吐き捨てると、その姿に激昂した夏侯惇が大剣を抜こうとする。
 だが――

「やめなさい、春蘭!」

 その一喝が、夏侯惇の動きを止めた。
 振り返ると同時にその場に跪く。
 そしてその周囲の兵士たちも――

「我が臣が失礼なことをしたわね。私が詫びるわ」

 その姿、すでに王としての威厳を持つ者。
 そう思わせる相手――曹操が、そこにいた。

 私は馬から降りて、その場にて拝礼する。

「いえ。こちらこそ礼を失しておりました。お許し下さい」
「かまわないわ。時間もないし、用件を伺いましょう。御遣いの指示でこちらに来たとのことらしいけど?」
「は。ごしゅ――北郷盾二様は、曹操軍と共同にて右翼側の敵に当たれと仰せになりました」
「ふうん……まあ、こちらは助かるけどね。そちらの兵数は?」
「は。我が梁州第一軍、兵数は六千。いずれもが一騎当千の精鋭です」
「…………」

 曹操は、私の背後にて直立不動にて整列している第一軍の兵を見て、眼尻を少し上げて見やる。

「……噂に聞いていたけど、かなり調練してあるわね。佇まいからして精鋭だと判るわ」
「ありがとうございます。我軍は一兵一兵が将来の武官候補。その真価は戦場でお見せ致しましょう」
「……そう。楽しみね。それで、指揮権はどうする気?」

 指揮権――その言葉に、私は顔を上げる。

「無論、『共同』であたるのです。『指揮下』に入るわけではありませぬ故、行動指針のみ打ち合わせして敵に当たるために参上した次第」
「ふうん……つまり、共闘はするけど、こちらの指示には従わないってわけ?」
「あくまで同じ敵に共同して当たるだけ故。別に曹操殿の臣下になったわけではありませぬ」
「きっさまぁ! 華琳様になんという口を!」

 夏侯惇は激昂したように立ち上がる。
 しかし、曹操がそちらをひと睨みすると、金縛りのように動きを止める。

「ふふ……その高潔さ。私は好きよ。まあ、いいでしょう。こちらの数は八千程度。そちらと合わせても一万四千。それぐらいでなければ、今袁術軍をかき回している数万の張遼軍には当たれないわ」
「……こちらに霞が」

 となると――孫策軍には呂布が向かったことになる。
 ……鈴々とご主人様が、まさか遅れを取るとは思えないが――

「今混乱している袁術軍への救援は、袁術軍の敗走兵や脱走兵の混乱に巻き込まれる危険があって迂闊に前に出られないの。だからこちらは防衛陣形で待ち構えているんだけど……関羽、貴女はどうするのかしら?」
「……本来であれば、すぐにも袁術軍を救援したいところではありますが。そういうことでしたら突破してくる霞の――張遼軍の先端を槍隊で牽制して、動きを止めたところで弓隊による包囲斉射ではどうでしょうか?」
「ふむ……それもいいわね。でも、相手は神速張遼……受け止められるかしら?」
「……以前、ご主人様より教わった方法があります。敵はおそらく勢いの魚鱗か、移動力を活かした雁行なれば――」

 私の作戦に、曹操は目を剥いて私を見た。

「……それを、あの御遣いが?」
「あくまで『とある戦法の一つだ』とおっしゃっていました。隊列運動を試したこともありますが、やる側はそんなに難しくはありません。いかがでしょう?」
「………………」

 曹操は考えこむように手を口に当てている。

 ……?
 いや、親指の爪を噛んでいる?

「……そう。わかったわ。その方法で行きましょう。こちらは春蘭――夏侯惇が先端の指揮をするわ」
「では、我が軍がもう片方を。敵の動きが止まれば――」
「ええ。秋蘭、夏侯淵が包囲斉射。あとは臨機応変。どうかしら?」
「承った}

 私は再度拝礼して、馬へと跨った。

「関羽」

 曹操が私の名を呼ぶ。

「この策――名前はなんというのかしら?」
「さて……確かちがいや、とかなんとか。申し訳ありません。あとでご主人様に聞いておきましょう――もう、あまり時間がありません」
「……そうね。楽しみにしているわ」

 そういった曹操は、ポツリと呟いた。

「私を囮に使うのだから、うまくやりなさいね」




  ―― 袁紹 side ――




「で、伝令! 敵は虎牢関前面に布陣! 敵はおよそ十万! すでに先鋒である袁術軍と孫策軍が交戦状態です!」
「ぬぁんですってぇ!?」

 わたくしの指示もなく、勝手に開戦したというのですの!?

「て、敵は虎牢関の関でなく、その前にある谷間の荒野にて布陣して待ち構えていた模様! こちらは細い長蛇の列だったために報告が遅れたとの事で――」
「言い訳なんてよろしいのですわよ! どうせ美羽さんのことですから、勝手に前に出たのでしょう!? まったく!」
「は? あ、いえ、向こうがこちらの体制が整う前に攻め込んできたようで」
「そんなことはどうでもいいですわ! それで、状況はどうですの!?」
「は、は! 先鋒は圧倒的な敵に対して苦戦している模様! すでに中曲の劉備軍、曹操軍が迎撃準備に入っているとの(よし)

 まったく……総大将の命令もなしに戦闘を開始するなんて!
 あとで美羽さんには『総大将』として、しっかりとお灸を据えてやらねばなりませんわね!

「仕方ありませんわね……劉備さんと華琳さんに伝令なさい。華麗に前進して、さっさと敵を打ち倒せと! よろしいですわ――」
「で、伝令! 劉備軍より本陣、並びに劉表軍への援護要請です! 敵は十万、戦意高し! 先鋒はほぼ壊滅状態されど、中曲にて遅滞させるため、その間に本陣と劉表軍にて総力戦を請いたし、とのこと!」
「ぬぁんですってぇ!」

 総大将の意見もなしに、本陣の出陣要請ですって!?
 一体、だれが総大将だと思っていらっしゃるの!?

「なお、敵は呂布、並びに張遼! 兵力がなくば、全軍壊滅する恐れあり! 至急来援を請う! 以上です!」

 ~~~~~~~~っ!
 わ、わたくしの意見もなしに、そんな全軍総力戦でなんて、一体どこの誰が!
 劉備さん……貴女、汜水関で単独で勝ったからって、ずいぶんいい気になっているのではなくて!?

「で、伝令!」
「またですの!?」
「りゅ、劉表軍は劉備軍からの要請に答えるべく、移動を開始するとのこと!」
「ぬぁんですってぇ!?」

 わた、わたくしの、わたくしの命令もなしに、誰も彼も!

「ぬぁんでみんな、勝手なことをするんですの!?」
「……落ち着いて下さい、袁本初様」

 !?
 私の背後には、いつの間にか唐周さんがいた。

「本初様のお怒りはごもっとも。なれど、状況は悪い形で進行しております。戦に勝たねば洛陽への進軍すらままなりません」
「そ、それはそうですけどっ……」
「敵は十万。なおかつ、飛将軍呂布と驍将張遼です。すでに先鋒が壊滅ともなれば、劉備軍の二万と曹操軍八千、そして劉表軍の一万五千は重要な戦力です。こちらは本陣が五万とはいえ、呂布と張遼の十万を相手に戦えるとお思いですか?」
「………………」
「捨て石にするのもよいですが、董卓軍がさらに洛陽に兵を温存していた場合は、これ以上の進軍が不可能になります。その場合、後退せざるを得なくなり、董卓はその間、さらに兵力を充実させるでしょう。なおかつ我らの連合軍は瓦解する危険があります」
「…………っ」

 連合軍が、負ける……
 負けたらわたくしはどうなる?

 敗軍の総大将は、その責任を命を以って――

「じょ、冗談じゃありませんわ!」
「はい。ですからここはなんとしても勝たなければならないのです。今ならばまだ間に合いましょう。全軍を持って董卓軍に当たるのです」
「わ、わかりましたわ! 本陣を前進! 敵を何としても打ち倒しなさい! 猪々子さんと斗詩さんを早く呼びなさい!」

 わたくしが負けるなんて……あ、ありえませんわ!




  ―― 唐周 side ――




 ふう……まったく。
 何を見当違いしているんだ、この阿呆。

 お前の腐れ指示のせいでこうなっていることを、いい加減悟りやがれ。

 にしてもまずいな……あの男はこの戦を勝たせるって言っていたのに。
 どう見ても負ける要素が多すぎる。

 兵力差を考えてみても、よくて互角、勢いからして苦戦じゃないか?
 本当に大丈夫なのかよ……

 だが、まあともかくだ。
 勝ってもらわないと俺の計画にも支障が出る。

 まあ、ある意味好都合でもあるわな。
 前線に出れば、あの北郷盾二を殺す機会も生まれるってもんだ。
 その為に用意させた毒矢やら暗殺者たちだしな。

 問題は機会があるかどうかだが……
 状況次第では敗走するときのドサクサで動かすか?

 負けるようなら俺だけでも逃げられるようにしておく必要もある……準備だけはさせておくか。
 正直、あの馬鹿を皇帝だなんて無理なような気もしているしな。
 別の……そうだな、もう少し操りやすい諸侯に鞍替えも考えたほうがいいかもしれない。

 袁術か、それとも劉表か……?
 いや、今回出てこなかった劉焉や馬騰なんかもいいかもしれん。

 そういや、偵察と伝令に出した馬岱とかいうのも帰ってきてないし……

 やれやれ。
 ともかく、今はここをどうするかだ。

 どう動こうと……俺だけは必ず生き残ってやる。
 そして……必ず成り上がってやる。

 みているがいい…………クックック。




  ―― 張飛 side ――




「にゃああ~!」

 鈴々の蛇矛が、並み居るとーたく軍を吹き飛ばすのだ!
 敵の数は多いけど、それほど強くはないのだ!
 むしろ鈴々達に比べれば、へっぽこぷーな程度なのだ!

「みんな! いつも走り回っている量に比べれば全然足りないのだ! 自慢の足でどーんとぶつかっていけば、がいしゅーいっしょくなのだ!」
「「「 応っ! 」」」

 鈴々の声に、皆は走る勢いを更に速めて敵にぶつかる。
 その勢いだけで、まるで薄い木の板みたいにとーたく軍は弾かれていくのだ。

「ぐはっ!」
「ガッ!?」
「ひええ……ゴッハッ!」

 鈴々が鍛えた第二軍は、固まるように一丸となって相手へとぶつかるのだ。
 相手はその勢いに弾かれるように天に舞うか、地面に叩きつけられていくのだ。

「張飛様! 袁術軍から逃げてくる味方もたまに弾いちゃっていますがよろしいのでしょうか!?」
「あんまりよくはないのだ! でも、孫策のおねーちゃんみたいに陣をかき乱されるわけにもいかないのだ! なるべく避けるようにして、あとは声を張り上げて寄せ付けないようにするのだ!」
「「「オオオオオオオオッ! 」」」

 にゃ!
 うちの軍に近寄るのは、豚だろうが牛だろうが全部弾き飛ばすのだ!

「で、でんれ……ぐはっ!」
「あ、その人はうちの軍の伝令なのだ! それを弾いちゃダメなのだ!」

 近寄るもの皆弾く――うちの軍のいいところでもあり、悪いところでもあるのだ。

「イタタ……あ、張飛様。御遣い様からの伝令です」
「……さすが愛紗が鍛えただけあるのだ」

 思いっきり弾かれていたのに、何事もないように戻ってきたのだ。

「虎牢関から真紅の呂旗が近づいてきております。深追いせずに敵を引っ掻き回しつつ避けるように、とのこと」
「にゃあ……呂布かぁ。お兄ちゃんは一人で戦うなとは言われているけど」

 でも、武人のほんのーは、強い敵と戦いたいって思うのは当然なのだ。

「……わかったのだ。鈴々たちはもう少し敵をかき回すのだ。お兄ちゃんにそう伝えて欲しいのだ」
「了解しました。ご武運を!」

 そう言って伝令は戻っていったのだ。

「……破門はいやなのだ。みんな! まだいけるかぁ!?」
「「「 オオオオオオオッ! 」」」

 鈴々が鍛えた軍はまだまだ元気いっぱいなのだ。
 だったら……

「もういっちょ、敵に突撃してぶっとばすのだ! 鈴々に続けー!」
「「「 オオオオオオオオッ!! 」」」

 前方からまるで小蝿みたいにくる敵を、勢いのままに弾き飛ばしながら、縦横無尽に動きまわる。
 敵の数は多いけど、その数が邪魔をして思うように動けないようなのだ。
 
 そんな状態で往復をすること数回――

「……これ以上、前に留まるとりょふがきちゃうかなー? 皆、最後に一当(ひとあて)して下がるのだ!」
「……遅い」
「にゃ!?」

 咄嗟に右側から生まれた殺気に、慌てて蛇矛を盾にする。
 その刹那、まるで岩に殴られたような衝撃が鈴々を襲ったのだ。

「ぐっ……!」

 気が付くと鈴々は宙に浮いていたのだ。
 逆さまになった身体をひねって、体勢を直し、なんとか着地する。
 でも、その勢いは止まらず、二丈(約六m)ほど吹き飛ばされながら足を踏んばって堪えたのだ。

「っ……ちゃあ~……い、今のは痛かったのだ」

 衝撃を受けた手がじんじんと痺れる。
 引き摺られたような地面の溝が、衝撃の重さを物語っているのだ。

「……受けた?」

 鈴々が顔を開けると、そこにいたのは真紅の髪に褐色の肌をしたお姉ちゃん。
 どこかきょとんとした表情で、その手に持つ武器を持ち替えた。

「今の……お姉ちゃんがやったのか?」
「……そう」

 あちゃー……もしかして、このお姉ちゃんが……

「もしかして、『りょふ』ってお姉ちゃんのことか?」
「……そう。恋のこと」
「にゃあ……まずったのだ」

 ううう……お兄ちゃんからあれだけ一人で戦うなと言われていたのに。
 は、破門は嫌なのだ……

「でもお前、ちんきゅーみたいに小さいのに、恋の攻撃受け止めた……強い」
「にゃあ……鈴々は強いけど、お姉ちゃんとは戦いたくないのだ」
「…………? 何故?」

 きょとんとした顔で再度問いかけてくるお姉ちゃん。
 さっきの殺気が嘘みたいなほど、その姿は自然体だったのだ。

「お兄ちゃんから『りょふのおねーちゃんとは一人で戦うな』って言われているのだ。でも、鈴々、その言いつけを破ったのだ……は、破門は嫌なのだ」
「……? お前が何言っているか、よくわからない……」
「鈴々たちは、とーたくのお姉ちゃんを助けるために洛陽に向かっているのだ。できればお姉ちゃんには退いて欲しいのだ」
「……? お前たち、敵、のはず」
「そうだけど、そうじゃないのだ。とーたくのお姉ちゃんには鈴々達も恩があるのだ」

 ううう……鈴々は難しいことを言うのは苦手なのだ。
 これが朱里やお兄ちゃんなら、ちゃんと説明もできるかもしれないけど……

「……恩人なら、なんで殺そうとする?」
「こ、殺そうだなんて思っていないのだ!」
「でも、賈駆言った。連合は董卓を殺そうとしている。恋はとーたくに助けられた。だからその敵と戦う」
「そうだけど……そうだけど! 鈴々たちだって助けるために動いているのだ!」
「でもおまえら、敵」

 うー!
 そうだけど、そうじゃないのだ!

「敵は……倒す」

 その言葉と共に、りょふのお姉ちゃんが鈴々の前に飛び込んでくる。

「にゃああ!?」

 先ほどと同じように蛇矛を盾に、相手の武器を防ごうとするけれど……

「甘い」

 その矛先が、まるで生きているように蛇矛を避け、鈴々の胸元へ――

「うわわわわわ」

 慌てて蛇矛で円を描くように回転させて、すり抜けようとした矛先を弾く。
 そのまま、後ろに飛び退って距離をとった。

「……? お前、やっぱり強い。今ので殺したと思った」
「あ、危なかったのだ……」

 まるで蛇のように矛先が曲がったのだ。
 お姉ちゃんの手にもつ武器は、多分相当重いはず。

 にも拘らず、まるで柳のように(しな)らせて、鈴々の蛇矛を避けたのだ。

「お、お兄ちゃんが一人で戦うなって言ったのがわかったのだ……」

 強い。
 力や早さだけでなく、その業も。

「お前強い。けど、本気で来ないとすぐ死ぬ。恋は手を抜かない」
「……っ、こ、殺されるよりは破門される方がまだマシなのだ! 鈴々だって負けないのだ!」

 後で土下座でもご飯抜きでもなんでもして許してもらうのだ!

「やっとやる気になった……?」
「当たり前なのだ! 殺されるのはゴメンなのだ!」
「ん。じゃ……」

 りょふのお姉ちゃんは、初めて構えをとったのだ。

「恋もちょっとだけ、本気だす」

 その姿に、一瞬蛇に睨まれたような錯覚が鈴々を襲ったのだ。
 でも、でも……鈴々は、負けるわけには。

 死ぬわけには、いかないのだ!

「にゃあああああああああ!」




  ―― 張遼 side ――




「弱いわ、ボケェ!」

 ウチの愛槍、飛竜偃月刀が袁術軍の兵を薙ぐ。
 金ピカに彩られた袁術軍の鎧は紙のように裂け、瞬く間に地面へと転がり、動かぬ屍となった。

「はん! 袁術軍はホンマに弱いわ。数で言えばほとんど同数なのに、全く被害なんぞ受け取らん……盾二の爪の垢でも飲んどき!」
「張遼将軍! 敵大将、袁術とその配下の張勲は逃亡した様子」
「袁術に張勲か……袁術は見たことないけど、逃げるのだけは早いようやの。まあ、逃亡兵が隣の孫策軍まで混乱させたようやし、戦果としては大勝利やな」
「その逃亡兵ですが、敵中曲の方にまで逃走しています。おそらくは袁術たちも……」

 部下の言葉に目を凝らして逃亡兵が逃げていく先を見る。
 確かに曹操軍の陣形を阻害するように、逃亡兵が雪崩れ込んでいる。

「ふむ……なら好機やろか。このまま逃亡兵を追い立てて、さらに曹操軍を混乱させれば……」
「その背後にいる袁紹にまで届くやもしれませんな」

 曹操か……かなり出来る奴とは聞いとる。
 なにしろ盾二があれだけ危険視しとった奴や。

 けど……いまならまだ。
 勢力も小さい今ならまだ、曹操を討ち取れる好機やもしれへん。

 桃香のように、梁州のように、その勢力が肥大化する前に……

「……曹操軍の数は」
「見立てでは一万もないかと」
「……賭けるか」

 ここで曹操を討ち取る、もしくは敗走させれば袁紹までウチの刃が届くかもしれへん。
 そうすれば、月の安全はさらに高まる。

「……どうせ死に花咲かせるつもりやった。恋には悪いけどな……なら、乾坤一擲、行ってみるのもええやろ!」
「では……」
「ああ! おどれらあ! このまま曹操軍にカチコミかけるで! まさかケツ捲るような軟弱な兵は、ウチの配下におらにゃろな!」
「「「 オオオオオオオッ! 」」」

 兵の気合は十分。
 けど、戦の形勢はいつどうなるかわからへん。

 なら……機を見て動かず、いつ動く!?

「行くでお前ら! 袁術軍のケツをしばいて、曹操のドタマとったれぇえ!」
「「「 オオオオオオオッ! 」」」


 ウチの発破に答える兵たち。
 神速張遼の騎馬兵、その身で受けてみぃ!

「このまま突撃やーっ!」
「「「 オオオオオオオオオッ! 」」」


 先頭を馬で駆けながら、逃げ惑う袁術軍の兵を曹操軍へと誘導する。

 案の定、袁術軍の逃亡兵は曹操軍の先陣を混乱させた。
 そして――

「しめた!」

 混乱した故か。
 敵軍の前面には、曹操本人の姿が見えた。

 どうやら指揮するために前面に出ていたらしい。

「今が好機! 全員、曹操に向けて突撃や! ここが乾坤一擲の大博打やで!」
「「「 オオオオオオオッ! 」」」

 ウチの騎馬兵が、高い士気を保ったまま、曹操の元へと突撃していく。

 殺った――そう確信した時。

 ウチの眼にありえへんものが見えた。

「………………!?」

 ウチの背筋が凍る。
 この寒気は――まるで。

 まるであの時、汜水関の時のような――

「あ、アカン!」

 ウチが口走るも、その指示は届かへん。
 すでに突撃した兵は、曹操の手前まで迫っとる。

 けど、なんでや。
 なんで……

 曹操は………………笑っておるんや!?

 その答えを示すかのように。
 曹操は笑みを浮かべたまま、その手を上げたのだった。
 
 

 
後書き
ちなみにですね……朧と呂布、どっちが強いと思います?
史実でなく恋姫のほうの恋さんのほうですが。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧