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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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ルリム・シャイコースとの戦い Ⅰ

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・。」

 万里谷祐理は体力がない。特に鍛えてもいない女性だから仕方がないかも知れないが、それでも兎に角体力がない。どのくらいないかと言えば、野球のバットを二回振っただけで息切れしてしまうほどに体力がない。
 だが、恐らくこれは、強大な霊視の力を生まれ持つが故の弊害だろうと思われる。つい先日までのプリンセス・アリスは、彼女をはるかに超える力を生まれ持ったが故に、満足に歩けもしない体であった。

「もう・・・少し・・・・・・!」

 だが、そんな彼女でも、やるときはやるものだ。火事場の馬鹿力とでも言えばいいのか?普段の彼女ならばとっくに力尽きて倒れている距離を、ノロノロとした挙動ながらも走り抜けてきた。

(多くの命を犠牲にして救われたこの命、決して無駄にはしません・・・!)

 立ち止まることは許されない。極限状態で定敬の言葉に突き動かされる彼女は、懸命に足を動かした。こんなに寒いというのに、体からは汗が止めどなく吹き出て、呼吸は苦しく、足は鉛のように重い。
 それでも、彼女は決して足を止めなかった。

(見えた・・・・・・)

 境目が見えた彼女は、心底安心する。境目というのは、街の・・・という訳ではなく、権能の、という意味だ。
 こちら側は一面白銀世界なのに対し、あちら側は通常のインドである。ある一定の場所から先には、ルリム・シャイコースの権能が届いていないのだ!

(あとは・・・都市に行けば、【聖魔王】様を呼ぶことが出来る・・・!!!)

 ある程度大きい都市には、【伊織魔殺商会】と連絡を取ることが出来る魔術結社が存在することは、もはや世界の常識である。まぁ、これほど大きな事件なのだから、既に行動を起こしているかも知れないが、それでも彼女が見た、ルリム・シャイコースについての情報があるのとないのとでは雲泥の差だろう。
 ・・・とは言っても、アーグラから近い都市は、約180キロ北にデリー、220キロ西にジャイプル、300キロ東にラクナウがあるのみなので、途中でヒッチハイクなどをしなければなるまい。
 ただ、詐欺やら人身売買の可能性が多分にあるので、頼む人間には気を付けないといけないのだが・・・そこは、彼女の持つ霊視の力に頼るしかないだろう。ある程度、人の本質を見ることに長けている為、そういったゴタゴタは回避出来る筈だ、と心に言い聞かせた。

「これで・・・・・・!」

 境目に手を伸ばす彼女。・・・だが、クトゥルフの邪神がそんなに甘いわけがない。
 ”世界を滅ぼそうとしている”ような邪神の力が、たった一都市にしか及ばない訳が無かった。

 ジュッ・・・!

「キャアアアアアアアアアア!?」

 権能の境目から向こう側に伸ばした手。その指先が、境目から出た瞬間に軽い火傷を負ってしまったのだ!

「どう・・・・・・して・・・?」

 焼けるほど気温が暑い訳がない。なら・・・原因はなんだ?そう考えて、彼女は愕然とした。
 彼女たち、魔術や呪術に関わる人間は、古今東西、世界中の神話や英雄譚の情報を知らなければならない。いつ、どんな神や英雄がまつろわぬ神として降臨するか分からないからだ。山奥の、一部の部族でしか信仰されていない神というのも山ほどいる。
 当然、クトゥルフ神話についての情報だって彼女は持っている。
 だからこそ・・・絶望した。

「原因は・・・私自身・・・!」

 彼女の体。ルリム・シャイコースによって、彼の放つ白い光に耐性を持たされた彼女の体こそが、この現象の原因。

『光に耐性を持たされた魔道士は、その代償として冷気と薄いエーテルの中でしか暮らすことができず、そこを離れて暖かい陽光や地上の大気の中で生きることは出来なくなってしまう』

 この一文。あぁ、何故今まで思い出さなかったのか!これはつまり、この権能の効果範囲から出れば、今のように焼け死ぬということではないか!!!

 膝を付きそうになる彼女。・・・だが、彼女はそれに耐えた!

「まだ・・・です。まだ全ての可能性を試していません・・・!膝を付くには、まだ早すぎます・・・・・・!!!」

 多数の命の犠牲があったからこそ、彼女はこうして生きている。そんな彼女が、こんなことで生きることに絶望するなんて、あってはならないのだ・・・!

 それから彼女は、様々な呪術を試す。
 火や火傷に耐性のある呪術。傷をある程度の速さで修復し続ける呪術。投函の術で、ルリム・シャイコースの情報だけでも送れないかと試してみたりもした。凍りついた家のドアをこじ開けて、電話を使おうとしてみるも、家の中まで全てが凍っていた。当然、機械類も全て。
 思いつく限りの方法を試した彼女。

 ・・・だが。

「無理、ですか・・・・・・。」

 彼女に出来る、全ての可能性を試した。そして、出た結論がこれだ。

 フラフラと。

 一体どういう道のりを歩いてきたのだろう?いつの間にか彼女は、タージマハル廟へとやってきていた。植えられた木々も凍りつく、表広場に躊躇せずに座り込む。肌が、あまりの冷たさに痛いと叫んでいるが、それを気にする余裕など、今の彼女には存在しない。

「・・・・・・ぐすっ・・・ひぐっ・・・!」

(御免なさい皆さん・・・!御免なさい定敬叔父さん・・・!!!私は、なにも出来なかった・・・・・・・・・!)

 ポロポロ、ポロポロと、銀色の涙が頬を伝い、こぼれ落ちる。嗚咽を漏らした彼女は、目の前に近寄る驚異にも気がつけなかった。

『気は済んだか?』

「・・・っ!?」

 彼女の目の前。顔まであと数センチ。そこに、リルム・シャイコースの顔が存在した。眼球の無いその目からは、血のように赤い球体がポロポロポロポロとこぼれ落ち、地面へと溜まっていく。舌も歯もない白い口腔が、まるで喋っているかのように開閉を繰り返し・・・ニヤリと、彼女を嘲笑った。

『無駄なことをしたな。貴様は、もうどこにも行けんよ。例え俺が殺されたとしても、貴様はここから離れる事が出来ん。』

 その言葉に、今度こそ全ての希望を打ち砕かれた。今までは、もしかすれば【聖魔王】様が倒してくれれば、この体も元に戻るのでは?と、淡い期待が胸にあったのだ。しかし、それも当然だろう。権能によって変質したものは、原因が消え去っても残る。
 代表的な例では、数年前にアメリカに現れた、ギリシア神話の月と獣の女神アルテミスだろう。彼女の権能で獣へと変えられた人間は、その神が倒された今となっても動物のままである。

『クハハ、どうだ?偽りの希望を胸に抱いて走った気分は?お前の叔父とやらも、随分と心配していたぞ?俺がお前を殺すわけがないのになぁ!』

 聞かれてもいないのに、上機嫌にテレパシーを放ち続けるルリム・シャイコース。

『この空間に入ってきた一般人は、全て氷の彫像へと変化する!耐性のある神殺しが来たとしても、貴様はここから出られん。・・・貴様は、永遠にここで過ごすのだ。たった一人でな。』

「・・・っ!!!」

 彼女は今、理解した。

 彼女が一度、この神の元から逃げ出せたのは、偶然でも、定敬の決死の行動のお陰でも何でもない。薄い氷の刃が彼女だけを貫かなかったのも、その後にこの神が追いかけて来なかったのも、全てはこの為。
 現実を認識させて、彼女を絶望の淵に叩き落とす為!
 それを見て、嘲笑う為!
 それだけの為に、彼女を逃がしたのだ!!!

 余りに・・・余りに惨たらしい。これが、悪神の中の悪神。これが、クトゥルフ神話の邪神である!

「あ・・・あ、あ・・・!ああああああああああああああああああああああ!!?」

 頭を抱えて目を見開き、彼女は絶叫を上げた。声も枯れよとばかりに叫ぶ。白い光に耐性を持たされた者は、クトゥルフの神共通の、狂気の権能に対する耐性も獲得する。・・・だが、あまりの恐怖や絶望で狂う事は防ぐことが出来ない。
 彼女は今、理性という名の防壁を、恐怖という名の攻撃で打ち破られそうになっていた。

 ―――しかし。

 壊そうとする者がいれば、直そうとする者がいるのも必然。

 恐怖に蹲る者を嘲笑う者がいれば、恐怖に蹲る者を救おうとする者がいるのも必然。

 人を人とも思わぬまつろわぬ神が居るのなら、それを殺す神殺しもまた、現れるものである!!!

「お前・・・何してんだあああああああああああああああああ!!!」

 ゴッ・・・!!!

『ぐ、ガアアアアアアアアアアア!?』

 あと数秒遅ければ、彼女の精神は崩壊していたかも知れない。しかし、彼がそれを阻止した。
 人外の力で吹き飛ばされたルリム・シャイコースは、タージマハル廊の外壁に突っ込み、ガラガラと崩れるその破片に埋まった。

「大丈夫か!?」

「え・・・・・・?あ、貴方は・・・?」

 まつろわぬ神を殴り飛ばした青年。恐らく、彼女と同い年くらいの日本人。神を人が殴り飛ばすという奇跡を目にして、彼女はポカンとする。
 これが、彼女の精神を、あと一歩のところで踏みとどまらせた。

「助けに来た。・・・新しい、神殺し、だ・・・。」

 若干恥ずかしそうに頬をかくその姿は、いつまでも彼女の記憶に残っていた。 
 

 
後書き
昨日のが今年最後だと思ったか!?
残 念!これが最後だよ!
ということで、今年最後の投稿でございます。
いやー、楽しくなってきて、書くつもりなかったのに出来ちゃいましたw
邪神らしいイメージ、出せてますかね? 
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