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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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恋のキューピット

「護堂が重傷だと聞きました!彼は・・・彼は無事なのですか鈴蘭様・・・!?」

 時は十数時間ほど遡る。草薙護堂がクトゥグアを弑逆した直後のことである。

 『黒の戦士(ブラックソルジャー)』モードを使用し、辛うじてクトゥグアに勝利した護堂だったが、その代償は大きかった。
 ・・・主に、護堂が勝利したからと安心しきって、彼の『黒の戦士(ブラックソルジャー)』モードの欠点を忘れていた鈴蘭のせいで、彼は『戦いが終わってから瀕死の重傷を負う』という、非常に馬鹿らしい状況に陥っていたのである。

 いくらカンピオーネの出鱈目な体でも、あの超高熱の空間に権能なしで閉じ込められて無事でいる訳がない。彼は、全身に酷い火傷を負い、更には脱水症状、酸素欠乏症も引き起こしていた。

 流石に焦った鈴蘭により、すぐさま転移で船に戻ってきたのである。

 そして、ドクターによる治療が終了した直後、話しかける機会をソワソワドキドキしながら伺っていたエリカに質問されたのだ。

 最初、王である神殺しに直接質問するのは失礼にあたるのではないか、とエリカは考え、他の乗組員から護堂の状態を聞こうとしていたのだが、何故か(・・・)全員が、エリカから顔を逸らしながら鈴蘭から聞けとしか言わなかったのである。

 この時、エリカが普通の精神状態だったならば、皆の態度があからさまに変だということに気がつけただろう。しかし、『護堂が重傷を負った』という事前情報に、自分でも分からないまま酷く動転していた彼女には、『護堂の状態は、彼らが言うのを躊躇うほど危険な状態』なのだと判断してしまった。
 更に焦りを募らせた彼女は、意を決して鈴蘭に直接聞きに行ったのである。・・・それが、皆の企みとも知らずに。
 彼女が走り去った後には、(ΦωΦ)フフフ…というか(・∀・)ニヤニヤというか、何か微笑ましい者を見るような雰囲気が漂っていたことに、最後まで彼女は気がつかなかったのである。






「鈴蘭様・・・護堂は・・・どうなのですか?」

 そして冒頭に戻る訳だ。
 今、エリカの前には、俯いて肩を震わせる鈴蘭がいる。

「まさか・・・そんな・・・・・・。」

 その姿を見て、最悪を想定してしまったエリカの顔が青褪めた。

「・・・ゴメン、ね。私が、もっとちゃんとしていれば・・・!」

 そして、彼女の考えが、鈴蘭によって肯定される。

「・・・っ・・・!!!」

 口元を押さえ、俯くエリカ。彼女の肩に手を乗せ、震えながら鈴蘭は囁いた。エリカの肩にはギュッと力が込められるが、今の彼女にはそれを痛いと思えるような先進の余裕は存在しない。

「・・・行ってあげて。今の彼には、貴方が必要な筈だから。・・・彼の、どんな姿を見ても・・・それを、受け入れて上げて。」

「・・・ハイ・・・っ!」

 そう小さく呻き、エリカは走り去った。
 残されたのは鈴蘭のみ。

 もしこの時、エリカが俯かずに彼女の顔を見ることが出来たなら。
 彼女は、このあとに待つ光景を見なくて済んだはずなのに。

「・・・・・・・・・プッ!ククククク・・・!」

 常に俯いていたのは、笑い顔を見られないため。悪役のような・・・そう、具体的な例を挙げるなら、『計画どうり・・・!』的な笑みを浮かべた彼女は、小さく呟く。

「私が笑うのはどうかと思うけど・・・彼は心配するだけ無駄な人だよエリカちゃん。」

 彼女は、胸元から小型のトランシーバーを取り出し、呟く。

「さぁドクター、準備はOK?」






「・・・・・・。」

 エリカの前には、全身を包帯で巻かれた護堂がいる。何も知らない人間が見たら、ミイラかと勘違いするほどに包帯だらけの姿だ。

「・・・・・・・・・あの時と、全く同じ格好じゃない。」

 護堂とエリカが始めて出会ったあの時。まだ数日と経っていないあの場面が、数年も前のことのように思える。
 
 あの時は、”神墜としの魔道書”があったからこそ最悪の展開は防げた。しかし、今あの神器は存在しないのだ。ドクターの治療をしてこの状態ならば、あとは運を天に任せるしかないということ。

「護堂・・・護堂・・・!」

 いつの間にか彼女は、護堂の手を握って泣いていた。これは、あの時のように、自分が巻き込んだ罪悪感からくる謝罪などではない。彼女の胸はキュウっと締め付けられていた。

 顔まで全てを包帯で巻かれ、外気にさらされているのは口元のみ。呼吸も殆ど聞こえないほどに浅い。死んだように眠る護堂の顔を見ていると、彼女の胸に先ほどの言葉が蘇る。

『彼のどんな姿を見ても、受け入れてあげて。』

 【聖魔王】のその言葉に半ば突き動かされるように彼女は動く。椅子から立ち上がり、中腰になって自身の顔を彼の顔へと近づける。

「護堂・・・いえ、【混沌の王】。貴方は酷い人ね。・・・折角、私が覚悟を決めたというのに。自分の気持ちに正直になると決めた途端に、私をここまで心配させて・・・。」

 優しげな微笑と共に、その距離はどんどんと近づいて・・・

「私、エリカ・ブランデッリは、命ある限り貴方と共にいる。気がついたの。この胸の高鳴りがなんなのか。」

 彼を神殺しにしてしまった直接の原因は、彼を巻き込んだ自分にある。そう彼女は信じている。しかし、起きてしまった事は巻き戻せない。だからこそ、最初は義務感で彼のそばにいようとした。だからこそ、【赤銅黒十字】への報告もしないうちにこの船までついてきたのだ。

 ・・・しかし、今は違う。彼のことを考えるたび締め付けられる胸。あのナイアーラトテップと戦っている彼の姿を思い出すたびに、彼女の全身は熱くなり、頭がボーッとしてしまうのだ。

 クトゥグアと戦うことになった時は、気が狂いそうになった。止めてと、何度も叫びたかった。カンピオーネとなったばかりで、裏の世界も知らなかった一般人の少年が、こうも連続で神々と戦うなんて有り得ないと。【聖魔王】様たちがいるのだから、任せればいい、と。
 いつの間にか彼女は、彼と共にいたいと、そう考えるようになってしまった。義務感ではなく、罪悪感でもなく・・・ただ、自分の幸福のために。

「エリカ・ブランデッリは、貴方の騎士として共にある。生きる時も死ぬときも。幸せなときも苦しい時も。貴方とそれを共有していきたい。・・・・・・これは、その誓いよ。」

 まるで、結婚時の誓いの言葉。・・・いや、エリカは、まさしくそういうつもりでこの言葉を使ったのだ。
 彼がこの先、どういう道を歩くのかはわからない。カンピオーネとなったからには、波乱の人生が待ち受けているだろう。
 しかし、彼女は決めたのだ。

「・・・・・・好きよ、護堂。」

 口づけ。触れるだけのキス・・・に、なるはずだった。

「ま・・・てぇ!!!」

「キャア!?」

 エリカが握り締めていた手のひらが、彼女の体を押しとどめる。もう一方の手で、顔に巻かれた包帯をむしり取る護堂。

「お、落ち着けエリカ!本当に落ち着け!!!」

「ご・・・どう・・・!?」

 エリカは驚愕する。それは、彼が突然起きたから・・・なのもあるが、彼の顔に傷一つついていなかったからだ。

「嘘・・・重傷なんじゃ・・・?」

 何故、この状態の護堂の顔に包帯が必要だったのか?それは・・・

「落ち着くんだエリカ!このままじゃ彼女たちの思うツボだぞ!」

 現状を認識できていないエリカに、再度叫ぶ護堂。その挙動から察するに、顔だけではなく体も、大きな怪我はなさそうだった。

「鈴蘭さん・・・ちょっと話があるんですがねぇ・・・!」

 そんなエリカを放ったらかしにして、剣呑な雰囲気を滲ませる護堂。その声には、明らかに怒気が混ざっていた。

「・・・むぅ・・・失敗しちゃったかぁ・・・。」

 その言葉に反応して部屋に入ってきたのは、鈴蘭・・・だけではなく、この船の覆面、メイド従業員(【伊織魔殺商会】の構成員たち)。リップルラップル、カッコとドクターといった、幹部連中。・・・更に、一部では【白き巫女姫】とすら呼ばれているアリス・ルイーズ・オブ・ナヴァールであった。

 ゾロゾロと部屋に入ってくるそいつらの手には・・・例外なくビデオカメラが握られていた。

「もう!ドクター。あと少しだったのに、どうしてここで効果が消えるの!?」

 プリプリと可愛らしい起こり方をしている鈴蘭に、素直に頭を下げるドクター。

「お、可笑しいねぇ・・・カンピオーネでも一日は解毒できない物を使ったんだけどねぇ・・・。」

 いつものハイテンションがなりを潜め、本気で残念がっているのが手に取るように分かるドクター。

「ど、毒・・・?」

 その物騒な単語に顔を引きつらせるエリカ。鈴蘭がその疑問に答える。

「だって、エリカちゃんが護堂君のこと好きになってるのは見てわかってたしぃ?護堂君だって、エリカちゃんのこと嫌ってないみたいだしぃ?ここは一つ、恋のキューピット役でもやってみようかなと思って。」

 恋のキューピットというか、単なる出歯亀である。全員が目をキラキラさせながら、ビデオカメラを握り締めていたのだから。
 因みに、隠しカメラがこの部屋にはセットされている。様々な角度からこの瞬間を録画して、未来の結婚式の日にでも流してやろうと思っていたのだ。

「だから、意識はハッキリするけど、体はピクリとも動かせなくなる薬を投与してもらったんだけど・・・肝心なところで効き目が切れるなんて・・・!あと一秒!あと一秒あれば決定的瞬間が撮れたのに・・・!!!」

 悔し涙を流す鈴蘭に引くエリカ。
 しかし、護堂のほうは反対に、額に青筋を立ててキレていた。

「権能を使って『解毒』したんだよ・・・!それでもかなりの時間がかかったんだぞ・・・!」

 こんな悪ふざけのために、護堂の権能でも手こずるほど強力な薬を使う。『楽しい事には全力を』がモットーの娯楽主義者(鈴蘭)らしいやり方だった。

「ちぇっ・・・男の子なんだから、役得とか思っておけばいいのに・・・。解散解散。空気が読めない護堂君なんて知らないモーン。」

「あんた本当に女性かよ!?」

 護堂の叫びも虚しく、集まった人間が散会していく。アリスも、「残念です・・・。」なんて呟いているのが始末に置けない。

 唖然とする二人を残し、全員がいなくなったのであった。 
 

 
後書き
今回はかなり遊びました。というか、次の戦いが行き詰まっているので気分転換にバカ話を書いてみました。
ところで、PSO2アップデートきましたが・・・ストーリー進むって聞いていたんですが、マターボード新しいのもらいました?もらえないんですよね。
あと、新しい緊急はちょっと面白かったです。ああいうのもいいですよね。
・・・いやぁカブトムシは強敵でしたね! 
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