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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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アウターという存在

「・・・・・・・・・これは酷い。」

「同感じゃの・・・。」

 鈴蘭とみーこが立っているのは、ビルの屋上・・・いや、ビルだったもの(・・・・・・・)の屋上と言ったほうがいいだろうか?
 巨大な・・・巨大過ぎる氷槍により、頂点から地盤までを真っ直ぐに貫かれた為に辛うじて倒壊を免れた数少ない建物である。

 罅だらけで様々なものが砕け散った屋上から街を俯瞰すれば、今現在のこの状況が、どれだけ異常なものかが嫌でも分かる。

「まるで剣山みたい。」

「わしには墓標に見えるがの。」

 鈴蘭には、自分の母親が裁縫をするときに使っていた剣山に見え、剣を突き立てて墓標とする文化が遥か昔にあったことを知っているみーこには墓標に見えた。
 ありとあらゆる場所に氷槍が突き刺さっている。ビルは無残に破壊され倒壊し、大地は深くまで抉り出されて土砂が街を埋め尽くしている。まつろわぬ神という災害、そして地球の重力という法則が組み合わさった攻撃。どれだけ規格外の威力がこの一撃に宿っていたのかの証明であった。

 キラキラとダイヤモンドダストが輝くが、この光景を見てただ綺麗だなどと思える人間はいないはずだ。人間の存在しない荒廃した世界。根源的な恐怖を感じさせる。

「【冥王】はどうなったの?」

「生きています。しかし、今はとても動けるような状態ではありません。」

 鈴蘭の問いに答えたのは、杖をついて歩く老人であった。しかし、鈴蘭とみーこという超常の存在を目の前にして、全く気負っていない。少なからぬ恐怖を感じてはいるはずだが、それを表に出さないのだ。
 
 彼の名はジョー・ベスト。北米三賢人の一人であり、世界的に有名な幻想文学の研究者であり、欧州でも並ぶものがいないほどの妖精博士(フェアリー・ドクター)であり、そしてなにより、【冥王】ジョン・プルートー・スミスを十年以上も支え続けてきた彼の右腕でもある。
 規格外の存在(神々やカンピオーネ)には慣れている、ということだろう。

「危ういところではありましたが、何とか脱出に成功したようで。・・・しかし、カンピオーネの回復力をもってしても絶対安静です。今回の依頼に関しては、彼から全権を預けられています。」

「お大事にって伝えといてね。」

 正直、この被害は仕方がないというよりないものだった。もし戦っていたのが鈴蘭だったら、上から降ってくる氷槍の雨など、文字通り()を造って終わりだっただろう。
 しかし、あの時点でジョン・プルートー・スミスには、効果的な迎撃方法が無かった。魔弾もあの時点で三発を撃っており、残りの魔弾を全て使用しても、あの槍の雨を消滅させることは不可能だっただろう。

 この惨状は、ある意味で不可抗力だったのだ。

 さて、あの絶体絶命の状況から、彼はどうやって生還したというのか?

 彼はあの瞬間、自身を【超変身(Metamorphoses)】第三の化身、殲滅の焔と化した。それにより、氷槍による串刺しと、その後の土砂による物理ダメージを回避することに成功する。
 しかし、土砂の下敷きとなってしまうのを防ぐ事は不可能であった。いくら殲滅の焔と言えども、数十、数百メートルも積み上げられた大量の土砂を溶かし尽くす事は出来ず、そのままでは生き埋めにより死亡が確定していただろう。
 そこで彼は、残り三発全ての魔弾を合成して打ち出し、爆発させたのだ。
 周りが全て土砂に埋まっている状況でそんな真似をすれば、当然自身も深刻なダメージを受ける。もしかすれば、それで死ぬ可能性さえあったが、そんなことを気にしてはいられなかった。

 結果は成功。うずたかく積まれていた土砂を全て吹き飛ばし、彼は生き残った。賭けに勝ったのだ。
 その代償は安くは無かったが。

「私たちに対する依頼は、ニューヨークの更地化でいいんだよね?」

「ええ。これは、合衆国からの正式な依頼でもあります。このような状況では、一体何年かければ工事を始められるのかすら分からないですから。」

 土砂や破壊された建物の破片。更に、周囲の物を凍りつかせるほどに冷たい冷気を出し続けている氷。
 これらを撤去するだけで、途轍もないほど膨大な時間と資金がかかるだろう。ならば、噂の【伊織魔殺商会】に、瓦礫の撤去だけでも頼めないだろうか?

 これが、合衆国上層部の決定であった。
 その為に交渉役として選ばれたのが、今回の事件の原因とも言える【冥王】の右腕である(【冥王】が敵を倒してくれなければ更に被害は広がっただろうというのは分かっているが、それでも”もう少し上手くやれないのか”と思ってしまうのが人間である。感謝はしているが、それだけでは割り切れない思いもあるのだ)。

「因みに、今回の依頼を受けてくれるのならば、”前に【聖魔王】様が持ちかけてきたあの計画(・・・・)に全面的な協力をした上で、私も参加しよう”と伝言を受け取っています。」

「へぇ!忙しそうだしダメ元話したんだけど、参加してくれるんだ!?」

 この一言が、鈴蘭たちがこの依頼を受ける決め手となった。

「みーこさん、お願いしてもいい?」

「仕方ないのぅ。あまり美味そうではないんじゃが・・・。」

「うーん・・・シロップでも作る?」

「ほう!それならばよいじゃろう。」

「何味がいい?」

「そうじゃのう・・・。」

 しかし、ここでジョー・ベストにとって予想外だったのが、頼りにしていた【聖魔王】がとなりの少女に丸投げしたことである。

(【聖魔王】がやるのではないのか・・・!?この女性は何者だ!?)

「ほい!じゃああの一帯を抹茶、あの一帯を苺ね!」

 ジョー・ベストが混乱している中、事態は進んでいく。鈴蘭から恐ろしいほどの呪力が迸り、彼女が指差した場所に、ドバドバとシロップがかけられる。

「はい、そこはメロン!そこはレモンにそこにはブルーハワイ!!!ハハハハハ!もっと、もっとかけてあげる!」

 やっている内にテンションが上がってきたらしく、鈴蘭の勢いは収まるところを知らない。
 埋まる。埋もれていく。荒廃したニューヨーク。先ほどまでは白銀で覆われていたその街は、今やカラフルなシロップで水没していた。甘ったるい匂いが周囲一体を覆い尽くしていく。水没するほどの量のシロップは混ざり合い、混沌とした何とも言えない微妙な匂いへと変化していった。

(こ・・・これは・・・!!)

 老体には、この”甘さの局地”とも言える光景と匂いはキツイ。息を吸い込むだけでむせ返りそうになるも、”【聖魔王】様の作った物の匂いを嗅いで吐き気を催す”というのがどれだけの悪印象を相手に与えるかが分からないので、根性で耐えた。

 流石は三賢人の一人というところだろうか(関係ない)。

 しかし、普通の人間には考えもつかないだろう。芯から凍りついたビル群をかき氷に見立てて食べようなどと。
 だが、それが出来るからこその食欲魔人(みーこ)。今現在では彼女に対する記録を所持している組織も少なくはなっているが、それでも、かつて日本中の裏組織に恐れられた【指定一号】がその本性を見せる。

 ゴッ!!!

「な・・・なんだこれは・・・!!?」

 ジョー・ベストが叫ぶのも無理はない。今日のニューヨークは、よくよく色が変わる運命にあるようだ。
 つい今しがた極彩色に染まったその街を、今度は漆黒が埋め尽くす。
 ズルリ、ズルリと這い出てきたそれは、ミミズを超巨大化したかのような化物。

「ワーム・・・いや違う・・・?」

 ダンジョンなどで稀に見ることの出来る下級の魔物によく似ているが、その威圧感はソレとは比べ物にならない。
 ノヅチ。みーこの眷属である。
 街に目を向ければ、そこには口しかなくなっていた。
 西に、東に、北に南に。見渡す限り全てを埋め尽くすような化物の群れ。墨汁を流し込んだかのようなその黒の群れは、瞬く間にニューヨークを喰い尽くす。

 バクバク、ガツガツと。噛み砕き、引き千切り、片っ端から食い尽くしていく。億千万の口は、ほんの数分で全てを平らげた。

「・・・・・・これほどとは・・・・・・!」

 彼女は神殺しではない。アウターと呼ばれる、最上位の魔人であると彼は聞いている。魔人にはあまり詳しくはないが、これほどの力を持つのか、と。彼の背中に冷たい汗が流れた。

「そんな固くならないで大丈夫だよ!みーこさんは変なことしないし、他の魔人はここまで強くないし!アウターは特別だからね!」

 鈴蘭のいう”特別”には、色々な意味が含まれているのだが、怒涛の展開についていくのがやっとの彼にはそれを考える余裕など無かった。

「じゃ、これで依頼は完了!私たちはルリム・シャイコースの問題がまだ片付いていないから戻るよ。それじゃね!」

 忽然と消え去る二人。そこに残されたのは、一切合切全てが無くなった更地と、たった一つ残されたビルの上で呆然とするジョー・ベストだけであった。 
 

 
後書き
ってことで、お・り・が・みの最終戦で、みーこが『土など食べても旨くない』と言っていたので、シロップをかけてみましたw
PSO2で、やっとストーリーのエピソード2まで行きましたよ。超長かった。コミュスキルが少ないので、未だにボッチスタイルな私と、誰かフレンドになって一緒に遊びませんか?・゜・(ノД`)・゜・ 
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