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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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【冥王】と冷たきものども

『ぐゥ・・・!?』

 放たれた雷を紙一重で避けることに成功するアフーム=ザー。しかし、ジョン・プルートー・スミスの権能によって放たれた雷撃は、自然界で生まれた天然のモノとは違い、ある程度だが彼の意思により操作することが可能である。槍の形で投じられた雷は、アフーム=ザーが避けたと同時にその形を綻ばせ、その場で全方位に向けて放電を開始したのだ!

『ガ、アアアアアアア!?』

《ふむ、やはり形なきエネルギーの攻撃ならば通用するようだね。》

 自らのなした成果に、満足したように頷く彼。
 だが、その姿は先程までとは全く異なっていた。

 十五メートル近い均整のとれた巨体。その巨体は、全てが黒い。夜闇のごとき漆黒の肌の色で、顔だけが黒と黄色の横縞で塗り分けられている。
 更に、右足だけが生身ではなかった。おそらく素材は黒曜石だろう。自身の放った雷に照らされて、キラキラと妖しく輝いている。
 この巨体を覆い隠すのは紅、黄色、黒といった賑々しい色の布と鳥の羽。どこか七面鳥を彷彿とさせる装いだった。背中に背負った木筒には、何本もの槍が収められている。
 彼は、自身の最初の権能【超変身(Metamorphoses)】第一にして最強の化身、《大いなる魔術師》を最初から発動していた。贄として選んだのは、アフーム=ザーにより永久凍土と化してしまった、ニューヨークの象徴自由の女神である。

 非常に強力な冷気の権能によって凍りついた物体は、それ自体が更に冷気を発生させ、周囲の物体を凍らせる。これにより、アフーム=ザーは、本来ならば自身の権能の効果範囲から離れている場所までも凍らせることが可能なのだ。彼の権能により凍った物体は、彼の権能をサポートするブースターと化してしまう。
 自身の領域を拡大させ、その周囲の生命体を死滅させる凶悪な権能。既にその権能に侵されていた自由の女神は、アフーム=ザーの武器とも呼べる代物になっていた。

 そこにあるだけで周囲を侵食していく危険な物体を、そのままにしておく必要などない。ジョン・プルートー・スミスはそう判断し、即座に自由の女神を贄に捧げた。

 周囲もアフーム=ザーの権能により氷始めているが、完全に侵食されるにはまだ時間がかかりそうだ。そして、元より彼には、戦いを長引かせる気などない。





(やはり教授の言うとおりに、狂気の権能には対抗出来るようだが・・・)

 ジョン・プルートー・スミスは、先程自分でいったとおり、勝算があるから此処に来た。その自信のうちの一つが、『狂気の権能の無効化』だ。

 神話とは、時代の流れによって刻々と変化するものなのはご存知だろう。では、ジョン・プルートー・スミスが最初に弑逆した神、アステカ神話のテスカトリポカが、その設定のままクトゥルフ神話に取り込まれていた事を知っている人はどのくらいいるだろうか?
 それも、今戦っているまつろわぬアフーム=ザーの生みの親であるクトゥグアの宿敵、先日草薙護堂が弑逆したばかりのナイアーラトテップの化身の一つとして、だ。

 誰も気にしなかった。そう、張本人である、ジョン・プルートー・スミスでさえ、自身が倒した神を、『アステカ神話』のテスカトリポカだと信じて疑わなかった。そちらの方が有名だからだ。そもそも、『アステカ神話』のテスカトリポカだろうが『クトゥルフ神話』のテスカトリポカだろうが、どちらにしろ変わらないのだ。設定が同じなのだから。
 ・・・ナイアーラトテップの化身の一つ、という設定以外は。

 神々は、現代の設定に引っ張られるというのは、数年前のアーサー王の事件と先日の一件で証明済みだ。クトゥグアとナイアーラトテップが、日本のライトノベルのヒロインたちの姿で登場しているのだから。
 まつろわぬテスカトリポカが、クトゥルフ神話の設定を取り込んでいたとしても、不思議でも何でもなかった。
 今までは、『狂気の権能に抗う』などという事態にならなかったから知らなかっただけ。それを、古くからの友人である妖精博士(フェアリー・ドクター)ジョー・ベストに指摘されたとき、彼は自身の権能を完全に掌握した、と感じた。

(十年以上もこの権能を使用してきて、様々な応用もこなしてきた。完全に掌握した実感が無かったのが不思議だったが、まさか隠された能力があったとは!)

 使う機会が無かった『狂気の権能の無効化』。それを持っていることを自覚したことで、彼は権能の掌握に成功したのである!

(しかし、狂気の権能を無効化出来るとは言え、時間が経てば経つほどにコチラが不利になるのは変わりない。それに、攻撃手段が限定されるのが、こうまでやりにくいものだとはな!・・・フフ、貴重な経験ではないか!)

 実体がない敵というのが、ここまで厄介なものだとは。物理攻撃無効化というだけで、手札が大きく制限される。
 身体が灰色の炎で構成されるアフーム=ザーに通用する手札は、現在使用している第一の化身《大いなる魔術師》、そして魔弾の射手(The Freeshooter)のみ。その他は物理攻撃しかないし、第三の化身《殲滅の焔》は《太陽》の属性である。《炎》の属性も持つこの神には通用しないだろう。

(・・・フム、どこで仕掛けるべきか・・・)

 しかし、攻撃力だけで言えば、彼は過剰戦力を有している。一つ二つの手札を封じられたからといって、どうということでもない。ただ、やりにくくなるだけなのだ。

 激戦は、まだ続いている。





《ハァ!》

 彼が放ったのは渾身の力を込めた雷撃だったが、神々の戦いにおいて、数回見せた技がそうそう通用するわけもなかった。

『甘く見るなよ神殺し!』

 向かってくる雷撃を、避けるのではなく防ぐ事にしたアフーム=ザーは、瞬時に巨大な氷の盾を作成する。大量の呪力が篭ったその大盾は、雷撃を操作されても防げるように、余裕を持って百メートル程の高さと幅を持っていた。
 空中に生み出された盾は、自らの重量に従って落下。盛大な音を響かせながら、凍りついたニューヨークの大地を大きく削る。

 バチバチバチ、ガガガガガガガガガガガ!!!

 雷撃を操作出来るとは言っても、速度のある攻撃を操作して動かせる範囲などたかが知れている。ジョン・プルートー・スミスの操作も虚しく、放った雷撃は盾を迂回することが出来ずに衝突した。散った雷撃によって、周囲のビル群が破壊されるも、十分な強度を持たされた大盾はビクともしない。

(これで、またもや使える手札が減ってしまったか)

 完全に通用しなくなった訳ではないが、簡単にダメージを与えられる攻撃を失ってしまったのには変わりがない。
 しかし、その絶対的に不利な状況下においても、彼の余裕はなくなることが無かった。彼は信じているのだ。自身の勝利を。どんな些細なことでも利用して、自身の勝利に繋げることが出来ると、信じているのだ。

『ク、ハハハ!場は整った!今度はコチラの番だ神殺し!』

 いつの間にやら、周囲の寒さが限界まで達していた。これは、ニューヨークの首都一体が、アフーム=ザーの完全なる支配域になってしまったことを意味している。

《間に合わなかったか》

 歯噛みするジョン・プルートー・スミス。しかし、彼には後悔する時間さえ残されてはいなかった。

《グゥ・・・!?》

 突如として、彼の真下から巨大な氷の槍が出現したのである!
 十五メートルもある彼の身体全体を串刺しにしても、尚お釣りが出そうな程のその巨大な槍は、一本ではなかった。最初の攻撃は、カンピオーネの超直感でギリギリ回避に成功したものの、そもそもこの《大いなる魔術師》で素早い動きなど不可能である。

 ザン!ザンザンザン!!!

 氷が砕ける音と共に、ニューヨークに血の雨が降る。全力でバックステップをしながら、足元から生えては発射される槍のミサイルを避けていた彼だったが、右腕、そして左足を串刺しにされてしまったのだ!

『終わりだな。私に逆らったことを後悔しながら死ぬがいい神殺し!』

 膝をつく彼だったが、まだアフーム=ザーの攻撃は終了などしてはいない。地面から飛び出た菱形(ひしがた)の槍は、凡そ百本。その一本一本の大きさは、凡そ三十メートル。恐るべき勢いで射出されたそれらは、重力に引かれて最高点から落下してくるではないか!

『ダメ押しだ。』

 そして、たったこれだけで終わらせるほど敵は甘くない。蹲る彼の前後左右。その空間に、更に降ってくるのと同数の槍が出現したのである!

『さらばだ。』

 その言葉と共に発射される氷の槍。もはや、ジョン・プルートー・スミスの敗北は決定的かと思われた・・・その時!

《それは悪手・・・と、いうものだよアフーム=ザー》

 瞬間、蹲って全く動かなかった彼が動く。右手を宙に向ける。

《それに、勝利を確信したからといって、それを口に出すのもどうかと思うが?【魔界(日本)】では、それをフラグ・・・と呼ぶそうだよ?》

 彼は待っていたのだ!アフーム=ザーの気が緩み、隙が生まれるこの瞬間を!
 彼が行使するのは、彼がギリシア神話の月と獣の女神アルテミスから簒奪した権能、【魔弾の射手(The Freeshooter)】。
 彼の武装として有名な、闇エルフの鍛冶術師が作ったエオル鋼製の魔銃は、彼が他の権能を行使していない人間状態の時でも魔弾を撃てるようにしたもの。何らかの化身となっている時ならば、魔銃がなくても撃つことができる!

 彼が放った蒼白い光の矢は、雷もかくやという速度で空へと突き進む。

『フ、そんな攻撃で、これを防ぎきれるとでも思っているのか!?』

 馬鹿にしたように叫ぶアフーム=ザーだが、彼はそれに首を振って答える。

《まさか。そんな事のために、貴重な弾丸を使ったりはしないとも》

 その言葉と同時、天高く撃ち上がった魔弾は爆発した。

 ゴッ・・・!!!

 ミサイルが数百発同時に爆発したかのような音・・・そして純白の光。夜空を真昼の光景に変えてしまった程の強力な照明弾の完成だ。夜の帳に包まれていたニューヨークを明るく照らすその光によって、周囲一体の氷の槍に影が生まれる(・・・・・・)
 それを見ると同時、彼は《大いなる魔術師》を解除し人間状態となり、取り寄せの魔術を使用して小さなペンライトを召喚した。
 それは、細かい文様の描いてある高級品。それのスイッチを入れ放り投げると共に、彼は言霊を叫ぶ。

「冥王の名の下に命ず。夜を渡る獣の足を捧げよ。光よ、我が征路のみを照らすがいい!」

 フッ・・・と、ペンライトの光が消える。
 ・・・否、奪い取られた(・・・・・・)のだ。

 彼の第二の化身《(オセロット)》は、人工物の光を贄とする化身だ。効果範囲内にある全ての人工物の光を奪い取る。そして、その贄に量や質などは関係ない。大都市全てを停電にしても、今のようにペンライト一つの光を奪っても発動できる化身なのだ。
 そして、この化身の能力は・・・ほんの数十秒で数百マイルを走破し、影から影へと転移する能力。

 ・・・闇をさまようもののように、闇から闇へ(・・・・・)転移出来る訳ではなく、あくまでも影から影へと転移する能力である。だからこそ、彼は影を作った(・・・・・)のだ。

《一つ教えておこう。この化身は、影から影へと転移することが出来る》

『な・・・!?』

 ジョン・プルートー・スミスのその言葉に、慌てて周囲を見るアフーム=ザー。神殺しが作った照明弾によって、ニューヨーク全体が明るく照らされている。己が作った数百の氷の槍だけではない。元々ニューヨークは大都市で、影などいくらでも出来る。
 これでは、何処に転移するかなど判断のしようがないではないか!!!

『ク、ソ・・・!?』

 それに気がついた時、アフーム=ザーは彼が悪手だ、と言った意味を理解した。自分で選択肢を増やし、敵に貢献してしまったようなものなのだから!

《さて、候補地(・・・)は無数。選びたい放題というわけだ。・・・防ぐ事が出来るかな?》

 その言葉を最後に、彼は自身の影へと沈む。

『ぐ・・・何処だ!?何処に現れる!?』

 左右のビル群か?数百の槍が生む影か?それとも、アフーム=ザー自らの影か?
 彼がそれら全てに意識を向けたその瞬間・・・声が、全く意図しない場所から生まれたのである!

《残念。外れのようだね》

『前、だとォ!?』

 先程、彼の雷撃を防ぐ為に作成した巨大な氷の盾!これは、分厚いが故に照明弾の光を透過せず、ビルと同じように影を作っていた。今もなおアフーム=ザーの身を守っていたその鉄壁の盾。彼が無意識に絶大なる信頼を寄せていた、そこから飛び出したのだ!

《さぁ、喰らいたまえ》

 《(オセロット)》が口を開き、そこから蒼白い魔弾を発射する。この魔弾は、一ヶ月に六発しか撃てない代わりに、威力、応用性について申し分ない性能を持っている。
 今もなおニューヨークを明るく照らす、世界最高性能の照明弾にも出来るし、狙った敵を追尾もする。複数の魔弾を一つにまとめることで威力を相乗することも可能だ。六つの魔弾をまとめあげれば、カリフォルニアを七日間決して消えない焔で焼き尽くして荒野にする程の威力を持つという、恐ろしい性能を誇っている。
 その魔弾を、彼は二つ合成して放った。

『オ、ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?』

 ドン!!!と。
 先ほどの音にも負けないほどの凄まじい爆発音と衝撃が走る。十五メートルもの大きさの灰色の炎は、その中心部分全てを吹き飛ばされた。人型であれば、胴体を丸ごと吹き飛ばされたような状態だろう。
 勝敗は決したのだ。
 ここまでの攻防でも、先ほどから数秒しか経っていない。天空より降り注ぐ槍は未だ高い位置にあった。

《それでは、私はこれで。幕が下がれば、俳優は退場するものだ》

 最早、何をする力も無いと判断し、負傷した腕と足を庇うように立ち去ろうとする。・・・だが、この判断は早すぎた。

『・・・ククク、そう言うな神殺しよ。・・・・・・まだ幕は下りておらんぞ?』

 消滅しかかっていた灰色の炎を凝縮し、僅かではあるが消滅までの時間を伸ばしたアフーム=ザー。消し飛ばされた分を凝縮したせいで、大きさは三メートルほどにまで小さくなり、呪力も雀の涙ほどしか残ってはいないが。
 しかし、彼の特性を考えれば、たかがこれだけの呪力であっても、出来ることがある!!!

《まだ動けるというのか!?》

 突如、大地に触れていた《(オセロット)》の四肢が凍りつく!

『忘れているようだが、既にこの街は我が領域!神殿のようなものなのだよ!最後の力を振り絞れば、こんなことも出来る!!!』

 そう。彼の特性とは、凍らせた物質が、彼の権能を助けるブースターへと変質すること。この街全てのブースターを総動員し、彼は最後の攻撃を行う。

 ・・・それは、上空より降り注いでいた槍群の落下先を、ほんの少しだけ変更すること。自身に影響がない範囲の破壊から、自身をも巻き込む範囲へと変更すること。

《・・・まさか!?》

 凄まじい速度で迫っていたそれらがこちらへと矛先を変更するのを見て、流石に焦った声を出すジョン・プルートー・スミス。
 その姿を見て、彼は満足したとばかりに嗤う。

『く、ハハハ!ハハハハハ!一緒に逝こうではないか神殺し!ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』

 何とかして拘束を解こうとするカンピオーネと、今度こそ全ての力を使い果たして消滅していくまつろわぬ神の元へ、氷槍群が降り注ぐ。

 この日。

 ニューヨークは氷と、巻き上げられて津波のように襲いかかった多量の土砂により、壊滅した。 
 

 
後書き
遅くなってすみません。
PSO2にハマってしまいまして。・・・うん、御免なさい(・ω・`)
マターボード進めるのが楽しかったんです。
PSO2やっている方、もし見つけたら、声でもかけてください。シップ6で鈴蘭ってキャラです。

で、今回の話の内容なんですけど。
前回投稿した話のあとがきで、テスカトリポカがナイアーラトテップの化身の一つだったことに気がつかなかったことにしよう、などと言っていましたが・・・やはり、未熟者でも物書きの一人としてそれはどうなの?と自問自答した結果、それまで決まっていた戦闘部分を全て改変してこうなりました。
うん、ルリム・シャイコースは護堂さんに戦ってもらいたいので、ジョン・プルートー・スミスさんにはしばらく安静にしてもらいますね。 
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