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タンホイザー

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第二幕その一


第二幕その一

                第二幕  歌合戦
 白い美しい城の広い一室。質素だが清らかな美しさに満ちている。柱も窓も装飾こそないがその中は実に清らかだった。その部屋に今一人の乙女がいた。
 白い服に身を包んでいる。金色の髪は長くその身体を全て包んでいる白い衣をさらに覆ってしまうようであった。波がかったそれからは眩いばかりの光が放たれている。
 青い瞳は湖のそれだった。二重で垂れている。眉はそれに合わせた形であり細い。白い肌に紅の唇、そして左目の端にはほくろがある。麗しくかつ美しい乙女であった。
 その乙女が今静かに喜びを感じていた。一人そこにたたずみ。一人歓喜の中に身を置いていた。
「貴き殿堂よ、私は喜んで貴方に挨拶を送りましょう。愛する殿堂よ」
 殿堂に対して感謝の声を出すのだった。
「貴方の中にあの方の歌があり私を沈鬱な夢から目覚めさせてくれた。彼が去ってから平和は私から去り喜びは奪われた。けれど今私の胸は高鳴り貴方も私には気高く見える」
 殿堂に感謝の言葉を贈っていた。
「あの方は私も貴方も新たに生命付ける。あの方はもうすぐここに戻って来る。今我が胸の高鳴るように私の挨拶を。貴き殿堂よ、今私の挨拶を受けなさい」
「姫やはりこちらでしたか」
「お久し振りです」
「貴方達は」
 エリザベートが言葉を終えたその時にヴォルフラム達が殿堂に入って来た。エリザベートは彼等に顔を向けて応えたのだった。
「彼を呼んできました」
「こちらに」
「彼といいますと」
「そうです。タンホイザー」
 今ヴォルフラムがタンホイザーの名を呼んだ。
「さあ、ここに来るのだ」
「今こそ」
「タンホイザーがここに」
 エリザベートは騎士達の言葉を聞いてその胸の高鳴りがさらに響いているのを感じていた。
「ここに帰って来る」
「さあ今」
「ここに」
「姫よ」
 そして今彼が帰って来た。静かに部屋に入り。そうして今エリザベートの前に片膝をつくのだった。
「ここに」
「タンホイザー」
 エリザベートは己の前に片膝をつく騎士にまずは声をかけた。
「戻って来られたのですね」
「申し訳ありません」
「謝る必要はありません」
 まずはこうタンホイザーに告げる。
「そして立つのです」
「宜しいのですか」
「立って下さい」
 こうも言うのだった。
「貴方はここでは跪いてはならないのです」
「何故ですか」
「ここは貴方の場所」
 だからだというのだった。
「だから。跪いてはならないのです」
「ですが私は」
「立って下さい」
 彼女の言葉はあくまでタンホイザーを引き寄せるものだった。彼女も前でも拒みを見せる彼をあくまで引き寄せるのだった。
「どうか。ここは」
「ここは」
「立って下さい」
「・・・・・・はい」
 エリザベートの言葉を受けて遂に立ち上がった。エリザベートはその彼に熱い目を向けつつ静かに彼に対して問うのであった。
「よくぞ戻って来られました」
「はい」
「今まで何処に」
 そして今問うた。
「何処におられたのですか。貴方は」
「遠い国へ」
 エリザベートを見て答える。その声は決して虚ろなものではなかった。
「遠い国にいました」
「遠い国にですか」
「ですが昨日と今日の間には深い忘却の霧があります」
 謎の言葉であった。誰にとっても。
「全ての重いでは遠い彼方となり今一つのことを思い出さずにはいられません」
「それは」
「私が貴女に会いたいという希望を捨てていたこと」
 エリザベートを見て語る。
 
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