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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第二十幕 「サムライガールの心の内は?」

 
前書き
全体的に出番のないモッピーが今回の主役。 

 
前回のあらすじ:病弱少年、マスコット扱いされる。


女三人寄れば姦しいという言葉がある様に、いつの時代もガールズトークというのは盛んに行われるもの。それはIS学園も例外ではない。そして思春期の乙女たちが夢中になる話と言えば、いつの時代も恋話と相場が決まっている。
そして恋色沙汰に首を突っ込む“青春”という活力に満ちた生徒たちは、まるで餓えた狼かピラニアの様に一人の生徒に群がっていた。・・・ちなみにピラニアは種類によっては臆病なのだがそれは重要じゃないので置いておこう。

「という訳でぇ~?篠ノ之さん!」
「例の想い人について・・・」
「じっくり聞かせてもらおうやないのぉ・・・へっへっへっ」
「くっ・・・止めるんだ、お前たち!」

何故か手をワキワキさせながらじりじりとにじり寄ってくる同級生たちに箒は動揺していた。既に教室の端まで追い詰められており、背中に伝わる硬くて冷たい鉄筋コンクリートの壁の感触が一層自分の逃げ場がない事を告げている気分になる。

(おのれ佐藤さん!貴方に聞かれなければこんな事には・・・ッ!)

話しは数日前に遡る。唐突に現れた佐藤さんがいきなり「好きな人いるの?」と質問してきた。箒は唐突な質問に不意を突かれ、つい本当のことをポロッと漏らしてしまったのだ。そう、中学時代の先輩が自分の想い人であることを。
そして耳聡くその話を聞いていたクラスメートにこうして追いつめられている、という訳だ。ここ数日は何かと理由をつけて逃げていたのだが、とうとう追いつめられてしまった。
彼女たちにとってその手の類の話は大好物の類らしく、箒は歯噛みする。迫りくる乙女たちからは剣道の全国大会の時でさえ感じなかったほどのプレッシャーを感じる。どれだけ恋バナに飢えているんだ此奴ら。

「例のセンパイとはどんなご関係で?」
「今も付き合ってるんですか~?」
「馴れ初めはなんですか?私、気になります!」
「ぐ・・・」

全く退く気配を見せない面々に、箒はようやく自分が逃げられないことを実感する。どうする?黙秘を貫くことも出来るが実力行使されれば何をされるか分からない。強行突破なら不可能ではないが、いくらなんでも武芸者としてこんな下らない事のために皆を傷つけるわけにもいかない。・・・ここは、妥協するしかないか。
観念したように息を吐いた箒は、t、その不満げな表情を隠そうともせずに3人をジト目で睨んだ。

「・・・ちょっとだけだぞ?」
「「「おお!」」」

それは箒にとって忘れられない過去であり、恥ずべき過去でもある。一種の黒歴史とでも言うべきか・・・今になって思ってもあの時の自分は恥ずかしい。
少しばかり顔が熱くなるのを感じながら、箒は細かい事や重い事をぼかして語りだした。






姉のやらかしたこと・・・つまりISの発表と『白騎士事件』の所為で、家庭は滅茶苦茶になった。
尊敬していた姉の突然の失踪。それを境に箒の世界は変わってしまった。
家には連日マスコミだの研究機関の人だの政治家だのが詰め寄り、知りもしないISの事をしつこく聞きまわった。すぐに政府の手配したボディーガードがやってきて追い払うようになったが、それでも不幸は終わらない。
ドラマか映画に出てくるような無駄に手厚いボディーガードなどに警護され満足に遊びに行くことも出来なくなった挙句、重要人物保護プログラムという良く分からないプログラムの適用を受けて引っ越さざるを得なくなった。友達や近所の人、果ては両親まで強制的に引き剥がされ、ただあの人の家族であるという理由で全ての居場所を勝手に変えられた。血縁というその繋がりが、箒にとっては姉の残した最悪の置き土産だった。

姉の友人だったチカさんはいろいろ世話を焼いてくれたが、中学にもなると忙しいのかほとんど顔を出さなくなっていた。同級生で共に剣の腕を鍛えた一夏も、よく遊びに来てくれた千冬も、辛い時にはいつも一緒に居てくれた姉も、皆居なくなってしまった。その孤独は、まだ社会を知らない子供の箒にとっては耐え難いものだった。

周囲の自分を見る目も変わった。天才の妹だ何だと人の気も知らないでしつこく聞いてきて、何をしても周りからは「篠ノ之博士の妹」という声が絶えない。天才の妹なんだから、天才の妹なのに、天才の妹って・・・私とあの人は違うのに、どうせ誰も私の事を見てはくれないのだ。その事実は次第に箒という少女を蝕み、攻撃的で歪な人格へと変えていった。元々人付き合いが得意ではなかったことも相まって、箒の周囲にはだれもいなかった。度重なる転校の所為で心中を吐露する相手が居なかったこともそれに拍車をかけた。

箒はその身に降りかかる数々のストレスと無責任にも一人で行方をくらました束に対する怒りをすべてぶつける様に剣道にのめり込んだ。中学では剣道部に所属し、友達もつくらず頑なに心の壁を張り、鬱陶しい周囲から距離を取った。獣のように激情に任せて剣を振るい、対戦相手を全て叩きのめすように打ち負かした。

剣を振るい、相手を倒すことで、鬱屈した心が少しだけ晴れる。ややこしい現実から目を逸らすことが出来る。それは弱者を虐げて悦に浸っているのと同じこと。気に食わないものを片っ端から壊して、ただ感情の赴くままに暴れる狂戦士・・・当時の箒は、まさにそんな風だった。その強さと他者を寄せ付けぬ剣呑な態度に、彼女に近寄ろうとする者は誰もいなかった。

そして、とうとう教師も止められないほどに歪み、対戦相手に怪我を負わせようとも顔色一つ変えなくなった頃―――あの人が現れたのだ。

短めに刈った茶髪に人の良さそうな笑顔。見覚えがない事から恐らく上級生なのだろう。好青年という言葉が良く似合いそうなその男は、突然私の元を訪ねてきた。

「君が篠ノ之箒かい?」
「・・・・・・何か用か」
「用と言えば用かな?ある人に頼まれてね・・・君に稽古をつけに来た」

箒はその上から目線とも取れる物言いに、気の弱い人なら殺せてしまいそうな殺気立った目で睨みつけた。
彼のような男は今までもいた。剣道で勝ったら交際しろだの調子に乗るなだのと訳の分からないことをほざいた奴もいたが、皆下らない理由で挑んできてはボロ負けして泣きながら帰っていった。それを見ては“男のくせに情けない”と軽蔑の視線を送った。
男で年上だからと言って偉そうに・・・生身なら女に勝てるなどと甘い事を考えているのだろうが、それがただの勘違いだと教えてやる。年の功だけで勝てるほど、私の剣は甘くは無い。

「・・・返り討ちにしてやる」
「おいおい稽古だってのに物騒だな・・・ま、いいか」

―――そして箒はその十数分後、自分が気付かないうちにどれだけ思い上がっていたかを嫌というほど味わうことになった。これが、二人の始まり―――



 = = =



「おぉー・・・」
「結構ヘビィな始まりだね」
「それでそれで!?」

次を急かされて箒は困った顔をする。先ほどまでの分でもかなり恥ずかしいのに、ここからは本当に恥ずかしくて言いたくない。というか、この話はそんなに楽しいだろうか?何かこの辺りで話を区切れないか・・・と考えていた箒の目に、あるものが映った。

「あ、ああ。それから・・・・・・ん?」

一語一句聞き漏らすまいと聞き入るクラスメートたちの後ろを走り抜ける人影。小柄な体躯に男子用の制服。一瞬だったがあれは・・・

「デッケン?・・・行ってしまった。何かあったのか?」

あれは確かに自分のクラスメート、ベルーナ・デッケンだった。彼は病弱を理由に何時も別室か保健室にいるはずだが、あんなに焦った顔でどうしたのだろうか。思わぬ名前に皆も走り去ってゆくベルーナ少年の方を見る。

「え!?どこどこ?」
「本当にベルーナ君だ・・・本校舎に姿を見せるなんて入学式の日以来じゃない?」
「・・・あ!」
「「どうしたの?」」

急に背後で上がった大声に、ベルーナの姿を見ようと廊下を覗いていた二人が振り返ると・・・

「・・・篠ノ之さんに逃げられた!!」
「・・・ええっ!?」
「本当だ!いない!」

気が付けば箒は忽然と姿を消している。ベルーナに目が行ったあの一瞬で逃走するとは思わなかった皆は肩を落とした。が、“ここで全て聞いてしまうのも勿体無い”と自分たちを納得させ、次の箒捕獲作戦を練り始めた。・・・逞しい子たちである。
こうして箒とセンパイの物語はいったん中断となり、またの機会に回されることとなった。
 
 

 
後書き
まだまだ続く日常編。モッピー恋物語の続きは他の機会に・・・

重要人物保護プログラムって名前とかも変えられるみたいだけど、一夏が箒の剣道大会優勝を知ってたという事はモッピーは本名晒してたことになるんだよね。束に対する人質だから周囲に名前を知らせていた方が逆に都合がよかったのかな? 
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