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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  番外編 「佐藤さんの調査報告書:残間兄弟の事情に迫るの巻(後編)」

 
前書き
やっぱりキリが悪いからこれだけ投稿しておくことにしました 

 
PM 4:00


突然だがインフィニット・ストラトスの中核をなすISコアには自立意識がある、と言われている。これは単なるAIとは違いもっと人間的な意思があるというものだ。操縦者の中には“何となくそういう意思を感じ取れる”という人も時折存在し、既にそれは世界中の共通認識となっている。(意思は男と女で言えば女らしい)
実際、形態移行(フォームシフト)に代表されるISのオートフィッティングはコアに蓄積されたデータを基にISが自身で行っているのだから何かしらの意志があってもおかしな話ではない。

ISコアに宿る意志は人を観察し、人と共に動き、人と共に学び、そして人と共に成長していく。
コアにとって人と共にあることは本来あるべきことであり、パイロットとなる人は自らとすべてを共有する“たいせつなひと”なのだ。


そして、そのISコアの一つである『ISコア識別No,054』は未だ一度も経験したことのない状況に困惑し、焦燥を募らせていた。
その意思―――便宜上“彼女”と呼ばせてもらう―――は随分前から訓練機である“打鉄”にその意思を宿し、たどたどしく拙い新米パイロットたちを動きに慣れるまで優しく保護してきた。
バランスを崩してひっくり返ってしまったり、空中機動のさじ加減を間違えてどこかしらに衝突したり、それでも自身を乗りこなそうと頑張る操縦者を絶対防御で護ることが彼女の幸せだった。少しずつ自身を乗りこなせるようになった操縦者の喜びを自分と共有することが幸せだった。
たとえ特定のパートナーが得られなくとも、たとえそれが一期一会の出会いだったとしても、彼女にはその一つ一つが嬉しい事と思っていた。


そんな彼女は今、どうすればいいか分からず戸惑っている。
普段なら自分が操縦者の動きに合わせて、少しずつ慣らすようにエスコートしなければならないのに。

――今の彼女は“操縦者の反応についていけなかった”。操縦者の動きと機体の動きはハイパーセンサーの感覚共有によってタイムラグ無しで反映される。されるのだが、“機体の駆動が全く追い付かなかった”。

そんな馬鹿な。人の身体は脆く、弱い。それを守り、更なるステージへと手を引くのがISであり、彼女だ。なのに護るはずの彼女の身体が操縦者に追いついていないなどという事があるだろうか。世界最高峰の技術の結晶であるISが、操縦者のスペックに負けているなどと。
確かにISは操縦者の技量が高くなることによって更に高性能なISを使えるようになることもある。だがそれはあくまで現在のISに操縦者の感覚が追い付いて次の段階に進めるようになっただけであり、決して操縦者の身体能力や反応速度がISを上回ったわけではない。
本来こんな事は起きない、いや、起きてはならないのだ。

彼女は焦った。操縦者の意識の中から、彼女に対するほんの小さな“失望”が感じ取れたからだ。彼女が欲するのはそれじゃない。もっと楽しく明るい意志を、彼女は操縦者に持たせなければならないのだ。
なのに、この打鉄というフレームが、そのスペックが追い付けない。動きに合わせて機体の反応速度を極限まで上げても、現在彼女と共にいる操縦者にとっては“重りが付いた状態で運動している”と認識されている。

そんなのは嫌だ。そんなのは駄目だ。これでは彼女も操縦者も幸せではない。あるべき形ではない。
だから、彼女は考える。どうすれば現状を打開できるか。どうすれば操縦者と幸せになれるか。
その打開策を求め、彼女はIS同士がそれぞれの経験を流し合う情報の海、“コアネットワーク”へと意識を飛ばす。


――操縦者の身体情報を基に全IS操縦者の中で最も能力が近い操縦者をピックアップ、情報差異の調整を合わせて検証。
――同時に操縦者の反応速度に見合った機体の骨格、出力、PIC値、反応速度、駆動域を逆算開始。
――操縦者の先ほどの稼働データを基に必要な機体性能の値を演算、それを基にフレームの再構成を開始。
――操縦者の深層意識にアクセス、操縦者の理想とするイメージをデータとして抽出。


 ――待っててね、今アナタに追いつける(カラダ)に成るから――。




残間承章ことジョウは、現在数少ない友達であるシャルロットとISの操縦訓練に来ていた。
ジョウがISに騎乗するのはこれで2回目、1回目は入学試験でのことである。試験のときは軽く放った掌底一発で試験官が昏倒してしまったため、碌にIS操縦感覚というものを掴めなかった。
よって今回はIS操縦者としての先輩であるシャルに頼んでISの訓練に勤しんでいる。

現在ジョウがしているのは数年前にどこぞの山奥で習った武道の型の確認である。武者修行中に偶然出くわし、拳法を習い、そして免許皆伝を丁重に断ったどこぞの爺さんを思い出しながら流れるように肩の確認をする。
腰を落として一つ一つの動作を素早く、一見繋がりの無い単純な突きなどの動きを次々に連結させて一つの流れとする。
興味半分で見に来たギャラリーはその舞を踊るような動きに感嘆の声を上げている。

「んー・・・」
「どうしたの、ジョウ?」
「ISの動きが鈍い・・・全身に鎧着てるみたいだ」
「・・・・・・じ、冗談だよね?だってさっきの拳法の型みたいなやつの動き、どう見てもベテラン級の滑らかさだったよ!?」
「んなこと言ったって鈍いもんは鈍いんだよなー」

シャルが人外を見るような目でこちらを見る。やめてよね、ちゃんと人間なんだから。そんな風に見られても事実は事実だ。生身ならもっと素早く動けただろうに反応動作が追い付かず、結果としてこちらがその反応速度に合わせなければいけない形となってしまった。



 ――待っててね、今アナタに追いつける(カラダ)に成るから――。

「・・・?」

ふと脳裏に誰かの声が聞こえた様な気がして立ち止まる。その瞬間、彼の纏う打鉄が突然光を放った。

「これは・・・!?」
「ジョウ、どうしたの!?」

突然の事態に判断がつかずこちらの安否を気遣うシャルの声がアリーナ内に響く。
だが、そんな彼女の声とは裏腹にジョウはその光が危険なものでないことを直感的に感じ取っていた。
最初、胸の辺りから放たれた光は瞬く間に肩、膝、腕、脚と全身を包んでゆき、非固定浮遊部位までに光が届いた瞬間に――ひときわ大きな光が周囲を包んだ。

「な、何が・・・」

未だ状況の分からないシャルロットは、強い光から目を守る様に翳した腕をゆっくり降ろす。その先に居たのは――。

《 ――三次移行(サードシフト)終了しました 》

シャルの顔が凍りつく。

――今、”三次移行”と言ったか?

それはおかしい。あり得ない。形態移行(フォームシフト)は一次、二次、三次の順に行われる。
いや、そもそも打鉄が形態移行を起こすこと自体が起こりえない。量産型ISはその汎用性を得る代償として故意に一次移行が起きないようプロテクトが掛けられているからだ。
形態移行が起きると機体構造やクセがその時の操縦者に合わせたものに変わり、装甲などの形状も規格品から外れる。そうすれば他人が乗るには不便になるし、大規模なメンテナンスも余計な手間がかかるようになる。形態移行を封じればそれは未然に防げるし、操縦者はそのISの動きに合わせることによって一次移行状態と同じだけのポテンシャルを発揮できる。唯でさえ貴重な機体だからこそ、その汎用性とコスト面は能力強化を捨てるに足るだけの重大な問題だ。
その枷が外れた。それも一次と二次を飛び抜かして三次移行。本来コアがゆっくり時間と経験を重ね、人体情報や稼働経験をもとに適正化していくはずのそれを2段飛ばしでやってのけたというのか。二次移行(セカンドシフト)に到れるものさえ少ないというのに、現在確認されているISの最高形態である三次に到るなど、もはやあってはいけないことだ。

だがいくら否定したところで、シャルの目に飛び込んできた現実は変わることは無かった。

そこに佇むのはもはや彼女たちが見知った第2世代IS“打鉄”などではなくなっていた。
特徴的だった、鎧武者を思わせる非固定浮遊部位と腰部のスカートのような装甲は取り払われている。
全身を包む装甲部分は全身装甲一歩手前まで増加され、白銀の眩いきらめきを放つ。
脚部や腕部の装甲は丸みを帯び、よりシンプルで力強さを感じさせるフィルムへと変わった。
ヘルメットの様に頭部を覆う少しばかり鋭角的な形状に、胸部装甲には光る用途不明の球体が埋め込まれている。
そしてその手に握られているのは斧と槍を合体させたような武器、ハルバード。
一言で表すなら、その姿は西洋の鎧騎士をイメージさせるものだった。

「これが形態移行って奴か。なるほど・・・俺の動きに合わせられるレベルまで変化するには2段飛ばししなきゃいけなかったわけだ」

自らの纏うISを眺めたジョウはそう呟き、何事もなかったかのように先ほどの型の確認に戻った。
その動きは滑らかなまま、明らかに先ほどの動きよりも一つ一つのアクションが早い。
追い付いている、いや、ISと既に同位体であるかのように馴染む。それが嬉しくてジョウはさらに動きを加速させ、それにこの機体は何処までも合わせてくる。ジョウの全力の動きに打鉄は完全についてきていた。
もはや湧き上がる感情を抑えきれず、ジョウは何かを言っているシャルを無視して空に飛びあがった。

絶景、というほど劇的ではなかったが、それは素晴らしい光景だった。
あれほど大きく感じた建物もここからだとずいぶん小さく見える。上を見上げれば雲の混じった青空がどこまでも絶え間なく広がり、遠くを見れば水平線がとても広く見える。生身の人間である以上自力で空を飛ぶことはできない。だからこそ、この光景を見られるのはIS乗りだけの特権。

「・・・はは、はははははは!!こいつは驚いた!さっきと全然違うじゃねえかよ、オイ!」
《――――――》
「すげぇ・・・いやぁ本当にすげぇよ!楽しい!気分はまるで変身ヒーローってか!!」
《――――――!》
「正直IS舐めてたなぁ・・・ははっ!空も飛べるし学習するし!こんなに楽しいならもっと早く適性者になるんだったぜ!なぁ、打鉄!?」
《―――――――♪》




「いやぁ・・・たまげたなぁ」

心底楽しそうに打鉄と飛び回るジョウに、観客席で力なく笑う佐藤さんがやっとの思いで絞り出したのは、唯その一言であった。

結論:ジョウ様は本当に常識に囚われないお方

その後、訓練機を三次移行させるという前代未聞過ぎる事態を起こしたジョウさんは打鉄を取り上げられたそうな。聞いた話ではもうしょうがないからその打鉄を解析、調整したのちそのままジョウさんの専用機とするそうだ。そのことを語る織斑先生はどこか疲れた顔をしていた。

(こういう方向性に馬鹿をやらかすから困るんだ、承章(あいつ)は・・・)

この件は世間に広がるといろいろ面倒という事で織斑先生直々にキツイ箝口令が敷かれたため、他のメンツの耳に届くことは無かった。
(もっとも三次移行に至ったという事は当人とシャルロット以外に知っている生徒はいなかったわけだが)

なお、この情報をコアネットワーク経由で知ったどこかのウサ耳科学者が、余りの内容に不覚にも鼻水を吹いてしまったとか。




PM 7:30

風呂上りにぶらついていたらモッピーが誰かに電話をしているのを見かけた。遠目なのでよくは分からなかったが随分親しげに話していた。・・・誰だろうか?彼女の交友関係も原作とは違いそうなのでその辺も後で調べておいた方がいいだろう。

(やーやー・・・こうも分からないことが多いと少し気疲れしちゃうよ)

今の所原作と大きなずれは無い・・・と思いたいが、そこそもまだ原作ルートは始まったばかりだ。むしろ何か警戒するべきことはこれから起こるかもしれない。
原作では基本的に死人とか出ないし、多少危ない目にあっても死にはしないだろう。(希望的観測だが)
つまるところ、私が原作勢に無駄なちょっかいを出さなければ巻き込まれることは無いのだ。わざわざ物語の参加者になって劇を演じずとも、世界は勝手に物事を片づけてくれる。何より自分以外のイレギュラーとてたくさんいるのだから自分までお鉢が回ってくることは無いはずである。
え?その台詞はフラグ?ははは、そんな転生モノの二次創作じゃあるまいし。
ま、なんにせよ・・・

「この世界に生まれてよかったな~・・・ここは楽しいことだらけだよ」

転生者は得したと言わんばかりにほくそ笑む。昨日も今日も、きっと明日も、この学園に飽きることは無いだろう。



その後、部屋に戻った佐藤さんを待っていたものは、お弁当のお礼にとベルーナ君が用意したお手製パンナコッタだった。夜に甘いものは・・・とも思ったがおいしそうだったんで普通に食べました。美味しかったです。

(そういえばベルーナ君の人となりは全く分かんないな~・・・本人に聞くのも悪いし、どう探りを入れようか・・・)

結論:きっと他人から見た私はパパラッチモドキ




PM 11:30

この地球上の何所とも知れない場所にある、天災・篠ノ之束のラボ。そこに一際上機嫌な声が響く。
その声はまるではしゃぐ子供の様な、それでいてどこか人間としての何かが足りないと思わせる不思議な雰囲気を纏う。

「No,054ってば凄いはしゃぎっぷりだね~・・・まさか自力でプロテクトを解除する子が出てくるなんてお母さんは嬉しいですよー?」

でも、と天災は言葉を続けた。

「この子が一人で頑張ってもポテンシャルを短期間にここまで引き出すなんて無理なはず・・・ってことは、やっぱりジョウ君にはとんでもない“何か”があるねぇ~♪」

鼻歌交じりにキーボードを叩き続ける。あらゆる可能性を予測し取捨選択しながらその答えへと向かう。もう見当はついているのだが。・・・調べた結果は、アタリだった。

「何となくね~、チカくんとは違った“親近感”みたいなのを彼から感じてたんだよね~!あ、弟ラブ的な所じゃなくてね?」

独り言をつぶやきながら、天災は奏でる様に盤を叩く。
次の行動のために。
次の欲求のために。
次の舞台の御膳立てを整えるために――。

「次の題目は・・・この子たちに任せようかな~?」

彼女のボタン一つで、盤面が動く。
 
 

 
後書き
兎がアップを始めました。 
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