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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第十一幕 「オルコット家の家庭の事情」

 
前書き
オルコット家の事情が今明かされる・・・? 

 
前回のあらすじ:軟弱少年、人助けをする


人間というのは面倒な生き物で、結果を見せられるまで物事を納得しようとしない悪癖がある。かのライト兄弟に対して当時の学者が“機械が飛ぶことは科学的に不可能”なんて言っていたのがいい例だ。ISが発表されたときだって『白騎士事件』なしではあそこまで評価されなかっただろう。
早い話、IS学園の恐らく半分以上の女子達が“男なんて大したことない”と内心思っていたわけだ。全く以て愚かしい。男も女も出来る人は出来るし、出来ない人はとことん駄目だ。そんな簡単な事さえわからないのによく学園に入学できたものだ。なんて当人が聞いていたら顔を真っ赤にして怒り出しそうなことを考える。
つまり何が言いたいかというと、私ことセシリア・オルコットは今非常に機嫌が悪い。

あの代表決定戦の後、私は直ぐに織斑先生にクラス代表を辞退する旨を告げた。正直最初からやる気は無かったし、男子二人は想像以上の実力を見せた。余程妙なミスをしでかさない限り簡単に負けることはないだろうし、代表を任せて問題ないだろう。何より私はそういうポジションが好きではない。
問題はその後だ。突然私の下に数人の同級生が寄ってきた。そして口々に、次のようなことを言った。

曰く、男如きになぜそこまで追い詰められているのか。女の恥晒しだ。
曰く、何故最後の試合で勝ちを自分から捨てたのか意味が解らない。
曰く、これで勘違いした男どもが増長したらどう責任を取ってくれるのか。

色々と言いたいことがある。追い詰められたのは男子たちの必死の執念あってこそだし試合内容に文句があるなら自分がやれよ、とか。勝利を捨てた理由が分からないとかそんなの私の勝手だろう、とか。勘違いして増長してるのは貴方たちだけだろう、とか。
だが一々説明するのも馬の耳に念仏なので無視しようとも思ったのだが、その数名は余りにもしつこかった。なので――

「貴方達の主義主張なんか知ったことではないわ。私は私の思うままに行動します、文句がおありなら実力で示しなさい!」

と、つい熱くなって言ってしまった。普段のですわ口調の抜けた言葉に自分がどれだけムキになっていたかを悟った私は、これ以上ヒートアップして醜態を晒すまいと急ぎ足でアリーナを出て行った。周囲の視線が自分に集中しているのを肌で感じても、わざわざ他人の顔色を窺うのは癪だから振り返ることはしなかった。


そんな訳で非常に機嫌が悪かった私は部屋に戻り、そこで―――さらに不機嫌になるものを発見した。それは国際郵便で送られてきた――母であるセラフィーナ・オルコットからの手紙だった。

「・・・またこんなものを」

溜息と共に手紙をびりびりと破り、中身を確認せずにゴミ箱へ放り捨てた。そのままベッドへ転がり、天井を見上げながら昔を思い出し目を細める。

母は、一言でいえば“強い女性”だった。貴族の家柄であり才色兼備、女性でありながら会社の経営などもこなし、いつでも誇り高い女性(ひと)だった。かつてはその姿にあこがれ、逆に母の顔色ばかりうかがう父のカルロには辟易していた。ISが世に放たれてから父の肩身はさらに狭くなり、子供心にあんな男を婿にしたくはないと思ったものだ。
だが、いつからだろう。憧れだったはずの母を嫌いになったのは。

あれは確か私が12歳くらいの頃。その日の夜、怖い夢を見て目が覚めた私は無性に一人が寂しくなり、父と共に出張中だった母に電話を掛けた。だがそんな母から帰って来た言葉は“そんなつまらない事のために電話をかけてきたのか”という冷たい返事だった。母は元々規律や素行に煩い人であったため、幼いセシリアはショックを受けたものの、忙しい母に電話を掛けた自分が悪かったと自身を納得させた。
そしてその翌日、連合王国中に衝撃が走る大ニュースがセシリアの耳に飛び込んできた。越境鉄道の横転事故――聡い彼女はその列車が両親の乗っていたはずの列車であることにすぐ気が付いた。そして、生存者0という余りにも残酷な数字の意味も。セシリアは泣いた。愛する母を、尊敬はしていなかったが決して嫌いではなかった父を同時に亡くしたという現実に耐え切れず、泣いた。
だから、父と母が列車に乗り遅れたおかげで事故を免れているという情報を聞いたとき、セシリアは人生で初めて本気で神に感謝した。セシリアはうれし涙を流しながら、帰って来た母へと跳びついた。

「お母様――!!よく・・・良くご無事で――」
「――カルロ、セシリアの面倒を見て頂戴。私は少し疲れたから休ませてもらうわ」
「えっ?お、お母様・・・?」
「お、おいセラ!?いくらなんでもその態度は・・・行っちゃったよ。ゴメンなセシリア、セラもいろんなことがあっていっぱいいっぱいなんだと思うんだ」
「・・・・・・お母様」

目を合わせようとさえしなかった。自分があれだけ心配したにも拘らず――自分が生んだ、実の娘の目さえ見ようとしなかった。あと少しで自分が死んでいたにも拘らず、娘との再会をまるでどうでもいい事のように受け流した。その事実が、セシリアの心に小さなヒビを入れた。そして、ヒビはあっという間に大きな亀裂になり、母を見る目が急激に変わり始める。
考えてみれば、母はいつも出張や仕事で余所へ行ってばかりで、母親らしいことをしてもらった記憶は碌にない。家でもマナーがどうのとうるさく言うことはあっても褒められたことなど記憶になく、褒めてくれるのは父だけではなかったか。母が目に見えて“愛情”というものを見せてくれたことなどあったろうか。
たった一つの不信。それが、今まで尊敬の対象というフィルターでぼかされていたセラフィーナという人物に大きな疑念を抱かせた。―――母は、私を愛してなどいないのだろうか?
思い返せば母が誰かに優しくしているところ等見たことがない。明けても暮れても仕事だ何だで、母の笑顔を見たためしがない。手料理も食べたことがない、寝かしつけて子守歌を歌ってもらったこともない、私を誇ってくれたこともない―――

ああ、何だ。母を尊敬するというのは、つまりこんな温もりの無い無感動な人間になるという事だったのか。自分の母親とは、当たり前の愛情すら持っていない存在だったのか。

その結論に達してからセシリアの世界が一変した。あれほど尊敬してやまなかった母に対する思いは、もはや冷め切って飲む気にもならない紅茶のように変貌した。
あんな冷たい女を才女だ理想の女性だと担ぎ上げ(はや)し立てている人間がすべて愚かに見えた。自分に対して一々口出ししてくる母がひどく疎ましげに思えた。今まで必死に淑女たらんとしてきた過去の自分がひどく滑稽に思えた。私はその頃から、オルコット家の誇りを捨てた。目に見えて素行の悪くなる私を母は叱り、時には手をあげられることさえあった。しかし私は何をされても謝る気になれず、何をされても母には従わずに反抗的な目で睨み返した。

次第に大人という人間すべてが愚かしく見えてくる。学校でも威張り散らすだけで大して頭のよくない教師に反抗的な態度を取っては問題を起こした。だが、奇しくも幼い頃から真面目に母の英才教育を受けていたセシリアの成績は飛び抜けて優秀であり、更にオルコットの名まで出されては殆どの教師がしり込みをした。―――これが大人か。子供を導くはずの大人が、こんな小娘を恐れて何も言ってこないのか。能力さえあればお前たちはいいのか。セシリアの不信は次第に大きくなっていった。挙句の果てには未だ貴族制を取っている母国さえ穿った目で見るようになる。そしてとうとう私は母と口をきくことさえ止めた。逆に、私がどんなに荒れていてもずっとやさしく語りかけてくれた父とは、少しではあるが口をきき続けた。男としては情けなくとも親であることに真摯だった父を、私は少しだけ認めることが出来た。

ISに乗り大した愛国心もないのに代表候補生になったのも、IS操縦者ではなかった母へのあてつけだった。自分は貴方の思い通りにはならないという、いかにも子供らしいつまらない反抗心だった。
だが、ISの世界は悪い事ばかりではなかった。オルコットの名を気にせず指導をしてくれる先輩や教官たち。男女の差など気にせず機体について語らう研究者たち。そして、空を駆ける事の解放感。セシリアの知らない世界がそこにあった。
―――いつか、性別も人種も国籍も重力も、すべてのしがらみから解放され、“宇宙”を飛びたい・・・そんな漠然とした夢を抱いた。

だからIS学園へ来た。ここに居れば鬱陶しい母も口を出せない。私は自分の夢――このご時世完全に停滞している宇宙開発の分野を建て直し、宇宙飛行士になるという夢を叶える。母とは違う人間になる。その固い決意を胸に。

「・・・なのに今更オルコット家の自覚を持てだの代表候補生らしい振る舞いだの、つまらない事ばかり一々手紙で送ってきて・・・もう読む気も起きないわ」

またもやですわ口調を忘れて呟く。この口調は幼い頃から教えられた言葉遣いだが、特に母に反抗するようになってから少しずつ崩れてきた。だからどうという訳ではないが。
どうせ世間体を気にしての言葉だろう。父は良く母をかばうが、それはあの人がお人よしであるからに過ぎない。私にとっての母はどこまでも口で言うだけのつまらない、取るに足らない存在。そんなに娘を自分の都合のいい位置に置きたいなら力尽くでもやってみればいい。出来るものならば、だが。


―――コンコン

「・・・?誰ですの?」

唐突に響くノックの音に、セシリアは首をかしげる。ルームメイトの鏡さんかとも思ったが、彼女は部屋に入るのに一々ノックなどしない。不思議に思い、ドアを開いた先に居たのは・・・

「・・・えぇと、貴方は確か先ほどの?」
「・・・・・・・・・峰雪(みねゆき)つらら・・・と言います」

・・・先ほど私を囲んで言いたい放題言っていた同級生の一人だった。たしか「何故勝利を捨てたのか」と言ってきた子だと記憶している。いや、名前くらいはちゃんと覚えているので改まって名乗らなくてもいいのだが。セシリアより少しばかり身長が低く藍色の髪をヘアピンで留めたその少女は、先ほどとは一転、自信無さ気に上目づかいでこちらを見ていた。

「それで、何か御用かしら?」
「・・・・・・・・・あの、ぉ・・・」
「・・・言いたいことははっきり述べたほうが良くってよ?」

言いよどむつららにセシリアはきっぱり言い放つ。元々彼女はもどかしいのが嫌いなので、内容がどうあれさっさと用件を済ませてほしかったのだ。そこには決して先ほどの事を腹に据えかねているという感情は無い。というより、セシリアはさっきまでそのことを単純に忘れていたのだが。
とはいえその言葉に意を決したのか、つららはこちらに向かい合った。

「あの!セシリアさん!!」
「何ですの?」
「先ほどのセシリアさんの言葉に、私は深いかんめーを受けました!!」
「・・・そ、そうですか」

目をこれでもかというくらいキラキラさせてこちらの顔を覗きこんでくるつららにセシリアは少し気圧される。だが身を引いた分だけずいっとセシリアに寄ってきたつららの独白は続く。逃げようかとも思ったがいつの間にか両手で右手のひらを掴まれ、逃げられなくなっていた。

「はい!!『主義主張なんか知ったことではない。私は私の思うままに行動する』・・・私はその言葉に心を打たれました!今までの私はたいしゅーげーごー主義の腐った狗でした!リビングデッドです!ゾンビです!!」
「は、はぁ・・・」
「しかし!!セシリアさんの言葉で私は本当の命に目覚めたのです!!自分という“個”を持ってもいいんだと!!革命です!レボリューションです!!」
「そ、それは良かったですわね・・・」

ちなみに大衆迎合主義とは海外ではポピュリズムと訳され、ついでにポピュリズムは前者とはだいぶ違う意味合いで使われているためセシリアは話について行けてなかったりする。

「セシリアさん!!ああ、セシリアさん、セシリアさん!!あんなに愚かしい事を言った私の話を嫌な顔一つせず聞いてくれたセシリアさん!!私、私を変えてくれたセシリアさんに一生ついていきます!!今日から“お姉さま”と呼ばせて下さいまし!!」
「へ!?ちょ、ちょっと流石にそれは――」
「ああ、麗しきお姉さまぁぁーーー!!!」
「きゃぁぁぁ!?あ、貴方何を!?というか人の話をちゃんと・・・ひゃんっ!?」

反応するよりも早くつららはセシリアの胸の谷間に顔をうずめる。胸元に顔をうずめたつららがもぞもぞと動き、こそばゆさに肩がビクリと反応してしまう。こういったスキンシップをされるのは初めてなセシリアは咄嗟に引きはがそうとしたが、力負けしているのか全く引きはがせない。その小柄な体の一体どこにそんなパワーを秘めているのやら。
・・・この目、昔見たことがある。そうだ、この目は幼い私が母に向けていたものと同じではないか?つまり、今の彼女には私の一挙手一投足が無理やりにでも好意的な解釈をされる・・・!?
気付けば余りの大声に周囲のそこかしこからクラスメートたちが集まり、何事かと目を白黒させている。

「え!?何々?それは突然の愛の告白!?」
「峰雪さんてソッチ系?ソッチ系の人?」
「バッカあれは違うわよ!!」
「じゃあ何が起きてるの?もしかしてオルコットさんが女誑しとか?」
「ズヴァリ!!峰雪さんの“起源覚醒(ゆりのはな)”よ!!(どーん!)」
「「「な、なんだってー!?」」」

・・・などとアホなことを言っているクラスメートたち。セシリアがどう見ても困っていることなど知ったこっちゃねえと言わんばかりに野次馬を続行している。言外に助けを求めるが、「面白そうだから却下」と雰囲気で返される。

「お姉さま・・・お姉さまってとってもいいにほひがします・・・」
「ち、ちょっと!匂いを嗅がないでくださいまし!!だ、誰か助けてぇぇーーー!!」

衆人環視の元、同性に胸元の匂いを嗅がれるというかつてない状況に混乱と羞恥で顔を真っ赤にしたセシリアは、久方ぶりに神に祈りを捧げた。天まで届け、このカオス。


翌日、そこには完全に諦観したセシリアにべったりくっつくつららの姿があったという・・・
 
 

 
後書き
オリジナルキャラ、つらら登場。こういうギャグキャラを書くのは初めての様な気がする。我ながら中々にかわいい名前思いついたなー!と自画自賛したり。
ISの腕前はそこそこですが身体能力は高め。改めて見直すと白井黒子みたくなってる様な気がしないでもなくもない。
ここだけの話、この回は書いてて一番楽しかったです。 
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