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夢遊病の女

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第一幕その十


第一幕その十

「僕は君の髪やヴェールから流れ出る風が好きだ」
「風もなの」
「うん、空から君を見ている太陽や君を映す小川にまで」
「太陽や小川にも?」
「ついつい嫉妬を覚えてしまいそうだ」
 こう言うのである。
「どうしてもね」
「私は微風の恋人なのね」
 アミーナは彼の言葉をこう受け取った。
「何故なら」
「微風の恋人なのかい」
「ええ。私は貴方の名前をいつも囁くから」
 だからだというのだ。
「だから微風の恋人なのね」
「だからなんだ」
「それに」
 その言葉がさらに続く。
「私は太陽も小川も好きよ」
「どちらも?」
「ええ。貴方にも光や波を与えてくれるから」
「だから」
「そう、だからよ」
 まさにそうだというのである。
「好きよ。愛しているわ」
「それじゃあ僕も」
「ええ、貴方も」
「君と共に」
 アミーナを熱い目で見ての言葉である。
「一緒にいよう」
「ええ、私達が離れることはないわ」
「絶対にだね」
「そう、何があっても」
 それはないというのだ。
「永遠にないわ」
「朝みたいに晴れ渡って」
 エルヴィーノはまた言った。
「そして離れることはなく」
「そして何があっても」
「僕のことを想って」
「私のことを想って」
 二人の言葉が重なり合った。
「それで主に」
「永遠に」
 こう言い合って二人も姿を消した。後には幸福だけが残ったかの様に見えた。
 窓のある狭いながらも落ち着いた趣の部屋だった。
 ソファーも卓も質素だがその質はいい。リーザは伯爵をその部屋に案内したのである。
「ここです」
「ここですか」
「はい、この部屋です」 
 こう伯爵に対して述べた。
「如何でしょうか」
「この部屋を使っていいのですね」
「どうぞ」
 穏やかに笑って彼に話した。
「お使い下さい」
「そうですか。それでは」
「御供の御二人ですが」
 彼等について言うことも忘れてはいなかった。
「別の部屋に案内させてもらいました」
「どうもです」
「ところでなのですが」
 ここでリーザは彼に対して言ってきた。
「この部屋の他にもありますが」
「いえいえ。お気遣いなく」
 それについてはと。微笑んで述べるのだった。
「それはです」
「左様ですか」
「この村はいい村です」
 こう言ってであった。
「懐かしい。何もかもがです」
「そうですか」
「そしてです」
「そして?」
「おかみさんですが」
「私ですか」
「はい」
 彼女に対しても言うのだった。
 
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