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夢遊病の女

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第一幕その十一


第一幕その十一

「何かあったのでしょうか。御一人だけ浮かない顔をしておられましたが」
「いえ、別に」
 その問いには浮かない顔で返すリーザだった。
「何もありません」
「何もですか」
「はい」
 こう言うのである。
「何もありません」
「そうですか。だったらいいのですが」
「そして」
「そして?」
「貴方についてですが」
 彼に言葉を返してきたのだった。
「宜しいでしょうか」
「何か?」
「村で貴方を歓迎させて頂くことになりました」
 このことを話したのである。
「そのことをお伝えさせてもらいます」
「いえ、そんなお気遣いは」
「好意と思って下さい」
「好意ですか」
「そうです」
 まさにそうだというのである。
「ですから気を使われることはありません」
「有り難い、それは」
「はい、それでは」
「それにしても」
 伯爵はまた話を戻してきた。そして言うのであった。
「貴女は」
「私は?」
「笑顔を思い出されるべきです」
 こう彼女に言うのである。
「是非共」
「笑顔をですか」
「そうです」
 まさにそれだという。
「笑われるとよりです」
「今はそれは」
 だが。そういわれても浮かない様な顔のままなのだった。
 そうしてその顔で。リーザはまた言った。
「私は美しさよりも」
「それよりも?」
「もっと大切にしたいものがあります」
「それは一体?」
「誠です」
 それだというのだ。
「誠実こそ。それこそがです」
「大切にしたいというのですね」
「それでは駄目でしょうか」
 あらためて伯爵に対して問うた。
「それを大切に思いたいというのは」
「いえ、それでこそです」
 伯爵は彼女のその言葉を笑顔で認めて頷くのだった。
「それこそがです」
「それこそがですか」
「そう、貴女の美しさを作るものなのです」
「何故そう言えるのでしょうか」
「心の美しさはです」
「心の美しさは」
「顔にも出るのです」
 だからだというのである。伯爵は。
「ですから。貴女がそれを忘れなければ」
「それを忘れなければ」
「貴女はさらに美しくなられ」
 そしてであった。
「幸せになれるでしょう」
「有り難うございます」
「さて」
 ここまで話して、であった。あらためて言う彼だった。
 
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