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夢遊病の女

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第一幕その九


第一幕その九

「そんなことが」
「いえ、私は見ましたから」
「私も」
「私もです」
 村人達は今度も口々に話していく。
「間違いありません」
「あの恐ろしい姿をです」
「犬達ですら恐れ戦くのですよ」
「見てみたいものですな」
 本当にいるのならと。こう話す伯爵だった。
「それが本当ならば」
「ですから見ました」
「信じて下さらないのですか?」
「そんな話はやがて無事に解決します」
 彼は平然と言った。
「御安心下さい。それではです」
「それでは?」
「どうされるのですか?」
「宿を借りたいのですが」
 話はそこに戻ったのだった。
「それで宜しいでしょうか」
「は、はい」
 リーザが彼の言葉に応える。
「それでは私が案内致します」
「有り難うございます。それでは」
 ここでアミーナに顔を向けて。そして言った。
「娘さん」
「はい」
「明日までさようなら」
 こう言うのである。
「私が貴女を愛しているようにです」
「何か?」
「貴女の御主人が貴女を愛して下さるように」
「それは勿論です」
 エルヴィーノが出て来て満面の笑みで述べた。
「僕の愛には誰も勝てません」
「そうですか。それでは」
「それでは?」
「お幸せに」
 彼にこう告げてそれで下がるのだった。リーザと共に彼女の宿屋に向かう。そうして村人達も去っていき彼女達だけが残るのであった。
「エルヴィーノ」
「何だい、アミーナ」
「貴方もこれで戻るのね」
「うん、一旦ね」
 穏やかに笑って彼女に告げた。
「これでね」
「そうなの」
「また明日ね」
「そうね。それにしても」
 ここで彼女はふとした感じで言った。
「あの人は」
「あの旅の貴族殿かい?」
「ええ。あのお顔からは気高いものを感じるわ」
「そうだね。ただ」
「ただ?」
「いや、僕の気のせいか」
 アミーナを見ていたその目が気になったがそれを打ち消したのである。
「それは」
「それは?」
「何でもないよ」
 こう言うだけだったのだ。
「それはね」
「そうなの」
「まあいいや。それでね」
「ええ」
「私は明日にはもっと幸福になるのね」
 アミーナは今度はこのことを強く感じたのである。
「明日には」
「そうだよ。明日にはね」
「それで私は」
「僕は」
 エルヴィーノから言ってきた。
 
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