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ランメルモールのルチア

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第一幕その二


第一幕その二

「お待ち下さい」
「ライモンドか」
「はい、ルチア様はです」
 彼、ライモンドもまたルチアの話をした。
「先頃亡くなられた」
「母上のか」
「そうです、母上のことを泣いておられるのです」
 そうだというのである。
「お気の毒な乙女がどうして花嫁の褥に入ることができましょうか」
「ではどうせよというのだ?」
「お待ち下さい」
 こうエンリーコに言うのだった。
「今は」
「今はか」
「はい、ルチア様はお優しい方です」
「優し過ぎる」
「だからです。ここはです」
「待てというのだな」
 ライもンドの言葉を受けて言うのだった。
「つまりは」
「御願いします」
「それはわかった」
 エンリーコの彼のその言葉は受けた。
「しかしだ」
「しかし?」
「今はそれでもだ」
 こう言うのである。
「それどころではない。我が家は」
「エンリーコ様」
 しかしここでノルマンノがエンリーコの耳元で囁いた。
「ルチア様はです」
「どうしたのだ?」
「愛に燃えているのです」
 こう囁くのだった。
「どうやら」
「まさか、そんなことが」
「待つのだ、ノルマンノ」
 ライモンドはすぐに彼を止めに入った。
「ここはだ」
「しかしライモンド殿」
 それでもノルマンノも言い分があった。
「今我が家は」
「しかしだ。ルチア様は今は」
「そういう訳にもいきません。今は」
 彼は家を立てていた。明らかにその立場に立っていた。
 そうしてだった。彼は言うのであった。
「御母上が葬られているその庭園のです」
「あの場所というのか」
「そうです」
 ノルマンノはライモンドに対して話していく。
「あの寂しい路をルチア様が歩いておられました」
「あの路を御一人でか」
「私が見たその限りはです」
 そうだというのだ。
「そこを歩いておられますと怒り狂った雄牛が出て来てです」
「そしてどうなったのだ」
「あの方めがけて突き進んで来ました」
 ノルマンノはこう語っていく。
「しかし空をつんざく銃声が一発轟き渡り」
「銃声が」
「そうして雄牛は倒れました」
 そうなったというのだ。
「それを見ました」
「ではそれは誰だ?」
「その時の男の顔は夜の闇でよくは見えませんでした」
「そうか」
 ここでエンリーコがノルマンノに対して問うた。
「それは残念なことだ」
「ですがルチア様はです」
「それからも会っているというのだな」
「そうです」
 まさにその通りだとエンリーコに話していく。
 
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