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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第六幕 「二振りの剣」

 
前書き
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もうすぐ初バトルです・・・ 

 
前回のあらすじ:軟弱少年、身の危険かもしれない

クラス代表決定戦当日――


試合が行われるアリーナのピットに佇む3人の若人たち。二人は困った顔をし、もう一人はかなり焦った顔をしている。時刻は既に試合が始まる僅か10分前。にも拘らず――肝心の二人が乗るISが届いていないのだ。

「なぁ箒」
「何となく言いたいことは読めたが何だ一夏」
「この1週間、俺は死に物狂いで剣道して勉強して頑張った・・・」
「そうだね。知識面では僕も手伝ったり一緒に勉強したもんね」
「剣道の腕も随分マシになったな」
「なのに…なのにだ!この時間帯になっても専用ISとやらが届いてないのはどういうことなんだ!?」
「まいったな・・・流石に専用機相手に訓練機は厳しいだろうからからちょっとアテにしてたんだけど・・・」

そしてこの状況である。あれから一夏とユウは思いつく限りの勝つための努力をしまくった。
そりゃもう頑張った。おかげで一夏は鈍った勘を大分取戻し、ISに関する知識も一通り覚えた。
ユウもユウで訓練機を実際に動かしたりしながら猛勉強し、この短期間で一般生徒くらいには勝てるようになった。
が、人事を尽くしても天命がこれでは話にならない。
男性操縦者用に学園が用意するはずだった二人の専用IS。唯でさえ試合当日に届くというだけでも不安だったのに、この時間帯になっても来ないというのはどういう事だろうか。

「ま、焦ってもしょうがないか。時間ギリギリまで粘って訓練教本読み漁るしかないよ」
「初戦は一夏が戦うとはいえ、随分落ち着いているな?」
「この程度で焦ってちゃ兄の背中なんて追いかけてられないよ」

ちなみにジョウは空気を読んだのかここにはいない。ぱらぱらと教本をめくるユウと見届け人の箒がお喋りしているのを横で見ながら、ふと一夏は思う。

箒は昔会った時と比べて随分変わった。何というか、昔は人見知りで不器用で怒りっぽかったが、今は凄く落ち着いており、人見知りだった所も鳴りを潜めている。実際ユウともあっさり打ち明けており、今も軽い雑談をしている。
そんな箒を見て、何となく悔しいと思った。自分だけ置いていかれているような気がした。
思えば俺は余り成長していないように思える。勉強も剣道も、人間的にも。
それは環境上仕方なかったと思うが、同時に“何かやれたことがあったのではないか”とも思うのだ。

でも、俺はこれから変わる。変わらなければならない。誰よりも尊敬する姉に恥じないように、周りの人をこの手で守れるように。自分の意志で一歩を踏み出すために。きっと俺がISを使えるようになったのは、変わるためのチャンスなんだ。
そう考えなおすと、焦りや緊張が少し和らいだ。

と、そこへ山田先生と見知らぬ若い男性が走ってくる。

「来ました! 織斑くんと残間くんの専用機!」
「お届けに参ったよ。さぁ急いで乗りたまえ、すぐに初期化と最適化処理を始めなければ」

少し遅れて目の前に運ばれてくる2機の機体。一機は青と灰色のカラーリングがなされた機体。
もう一機は黒を基調とし、所々桜色のアクセントをつけた色彩だ。
両機とも訓練機とは明らかに形状が違うが、それは当たり前だろう。
何せ男性操縦者のデータを取るために製造された新型機なのだから。

「ところで山田先生、そっちの人は誰ですか?」
「私は・・・まぁチカとでも名乗っておくか。しがないIS技術者だよ。そっちのでかい羽がついてる方の機体・・・白式改の開発を手伝った」

ユウの質問に、山田先生ではなく本人が答えた。年齢は山田先生とそう変わらないように見える程度に若く、くたびれた白衣に身を包み眠そうにISを指さすチカさん。眼の下に少しクマが出来ている辺り、かなり忙しかったのだろう。
なるほど、倉持技研のスタッフなのかと納得しかけた所で――

「・・・ん?チカ?どっかで聞いたような・・・」
「お前が聞いたのは恐らくIS開発に協力していた正体不明の技術者の事だろう」
「ああ、そういえばそんな話も聞いたことが・・・って、織斑先生?」

奥の方から織斑先生がやってきた。その顔は心なしか少しだけにやけている。そして先生はおもむろにとんでもない爆弾発言をぶっ放した。

「資料でも篠ノ之束が“チカくん”と呼んでいたこと以外一切不明の存在、その正体がコイツだ」

チカくん。それはISという画期的なスーツがまだ脚光を浴びる少し前、当時はまだ無名だった篠ノ之束博士の口から出た開発協力者の事を指す。“くん”という二人称から男性である可能性が高いこの技術者は、ISが脚光を浴びた後も一切表舞台に現れなかった。そのため中には実在を疑われたり、男でも使えるISを作るためにその正体を必死に探った国もあったが、成果は一切なし。都市伝説扱いに等しい存在・・・だった。少なくとも今まで僕の中では。

「あ!なるほど~・・・って、ええええええええええええええええええ!?」
「え?え?え?この人が・・・あの幻の技術者の!?実在・・・してたんだ・・・!あ、あの!サインください!」
「・・・千冬さん、あまり人の正体言いふらさんでくれますか?あとサインは駄目です」
「えーと・・・チカさんと先生はどういうご関係で?」
「旧友かな?」
「どこぞの天災のストッパー仲間だ」
「その役割の殆どを私に押し付けてる人が言いますか・・・」
「これは異なことを。お前以外に誰がアレを正面から止められるというのだ」
「千冬さんもやってできないことは無いでしょうが!」

したり顔の織斑先生に慣れたようにツッコミを入れるチカさん。仲良いんだろうかこの二人。
というか、よく見るとビックリ仰天しているのは僕と山田先生だけで、残り二名は「お久しぶりです」「やぁ、しばらくぶりだね」「何年も逢ってなかったら一瞬誰だかわかりませんでしたよ~」「それはこちらの台詞さ。子供というのは本当に成長が早いね」「・・・チカさんまだ10代ですよね?その言い方オッサンみたいですよ」などと普通にお喋りしている。なにこれ理不尽。つーか知り合いかよお前ら。
・・・僕は今ひょっとしてすごい光景を見ているのでは?世界最強とその弟とIS開発の母の妹とIS開発に関わった偉い(多分)技術者さん。特にチカさんは顔を見た人すらほぼいないような人物だ。なぜわざわざこんな所に・・・?

「おっと話題がそれたね。一夏君、急いで白式改に乗りたまえ」
「あ、ハイ!」(何で“改”?)
「作業しながら聞いてくれ。白式改について簡単なレクチャーをする」
「お、お願いします!」

僕の様々な疑問をよそに前準備は始まる。初期化と最適化処理を始める一夏を横に、チカさんは口早に説明を開始した。

「その機体は束の奴が作ったお手製に更に手を加えたものだ。基本性能“だけ”なら現行最強クラスのスペックを誇っている」
「・・・“だけ”?」
「その分欠点が多いのさ。まず白式には飛び道具が一切ない。ついでに拡張領域(バススロット)も完全にゼロだ。次に、そいつの武装はIS用近接戦闘ブレード“雪片弐型”と“雪片参型”の二振りしか存在しない。つまり完全剣撃戦用機(ブレードオンリー)というとんでもない仕様だ」
「それはまた極端な・・・あ、フォーマット終わりました」

本来ならもっと時間がかかるものなのだが、そこは技術者チカの面目躍如という奴。実は従来のISは初期化(フォーマット)最適処理(フィッティング)を同期させて行なう形式を取っていたのだが、チカが「その処理方法は効率が悪いのでは?」と手を加えた結果、フォーマットの処理が早く終わる様になっているのだ。今後この技術が日の目を見るかは不明である。

「よろしい。ま、その分唯一仕様特殊能力(ワンオフアビリティー)が最初から使えるという利点もあるんだが・・・こいつの能力“零落白夜”は自分のシールドエネルギーを攻撃に変換して相手のシールドエネルギーを根こそぎ消滅させる」
「それって・・・千冬姉のISの“暮桜”と同じ能力ですよね?確か一撃必殺の」
「その代わり使用中は凄まじい速度でエネルギーを消費する。考えなしに発動させれば湯水のごとくエネルギーを消費して即ガス欠だ。懐に入り込めなければ死あるのみ、ってね」
「うへぇ・・・」
「また姉さんは極端なモノを・・・」
「一撃必殺か自滅か・・・凄まじいまでの燃費の悪さですね」

唯でさえ極端な仕様をさらに極端にしたその仕様に一夏は思わず顔を顰める。
控えめに見ても素人の扱う機体ではない。箒は頭を抱え、僕も正直ドン引きしている。

「・・・本当はね?今より更に燃費の悪い機体になる予定だったんだよ?」
「「「えっ」」」


~おととい~

――束。例の“白式”は完成したのか?
――うん!あとは最終調整を残すのみだよ~♪
――どれどれ・・・って何じゃこの三角定規の先っちょより尖った性能!?ほぼ欠陥機じゃねぇか!!
――え~そんなことないよ!だって一撃で勝負決めれるだけの機体性能あるし・・・
――使い手は一夏君だぞ!?素人の彼にいきなりこんな極端な・・・ああもうっ!設計図貸せ!!今から改良する!!
――わ~い!久しぶりにチカくんのIS講座が始まるね!
――開発したのお前なのに何で俺が講座開くんだよ!?


~そして今~

「2日間徹夜で徹底的にエネルギーの効率化を図って配列組み直して、懐に入るための肝であるスラスターを増設、性能底上げしながら使いやすいように調整し直し、それでも燃費が悪すぎるから刃の構造自体を変えて燃費を抑えた雪片参型を一から打ち直して、ついでに弐型もいろいろ改良し・・・それでもこいつは欠陥機手前なんだ。零落白夜の分散エネルギーを収束するよう改良して燃費を基の85%まで削減して、それでも・・・すまんなぁ一夏君。私がもっと早く駆けつけていれば・・・すまんなぁ」
「い、いえ!それだけやってもらったら十分ですって!」
「もうやめるんだチカ、自分を責めるな。お前は頑張ったよ・・・」

ガチ泣きしそうなチカさんの背を優しくさする織斑先生。同じ友人(へんじん)を持つが故のシンパシーなのだろうか。なるほど、それだけ改良したから名前が“白式「改」”なのか。一から作ったはずの専用機に何故そんな名前がと思っていたが、謎が一つ解けた。しかしそれだけの作業を2日でやってのけたとは・・・あの天才篠ノ之束の協力者は伊達ではないということか。

「織斑君!もう時間いっぱいです!カタパルトに乗ってください!」
「一夏!最後まで諦めるなよ!」
「お前の底力を見せてやれ!」
「・・・やるなら全力で当たって来い」

「みんな・・・ありがとう!俺、行ってくるよ!」

今の俺には一夏を応援することしかできない。俺と箒と織斑先生の激励に笑顔で応えた一夏は、飛び立っていった。



 = = =



アリーナ上空に佇む二つの影。セシリア・オルコット操る“ブルー・ティアーズ”と織斑一夏操る“白式改”である。

「・・・来ましたわね。レディを待たせるのは感心しませんわよ?」
「生憎おめかしに時間がかかってね?」
「余裕があるようで結構ですわ」

互いに軽口をたたくが、二人の目が湛える意思はただ一つ。すなわち、勝つことのみ。
場を包む緊張感が会場にも伝わったのか、先ほどまで騒がしかった生徒たちも静まり返っている。おそらくピットにいた皆も、今の様子をモニター越しに見ているのだろう。
さて、時間がなかったせいでフィッティングが終了していない以上、迂闊に突っ込むのは愚策。ここは少しでも時間稼ぎをするべきところなのだろう。だが――

「一応聞いておきますが、今から降参する気は?」
「毛頭ないね」

一触即発の空気の中、即答する一夏。小賢しい時間稼ぎなど、元より一夏の好むところではない。今ある力で全力を尽くす、それが正々堂々というものだろう。一夏の反応に、一瞬だけ何所か満足したよう表情を見せたセシリアは、その手にレーザーライフル・スターライトmkⅢを展開し、淡々とした声で告げる


「・・・ならば、必死に踊りなさいな――私とブルーティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で」


ここに、公式記録に残る白式改の初めての戦闘が開始された。
 
 

 
後書き
こうしてみるとちょっとばかし長めになってしまったなぁ・・・

新しいオリキャラ、チカさん(本名不明)登場。
多分あまり説明する暇がないんでここで少しプロフィール載せときます。
年齢は19歳。普段は束と同じく何処にいるか分からない人。個人的なコネはとてつもなく大きく世界中のあちこちにトモダチが居ます。自称秀才止まりの男ですが、束曰く「チカくんの技術力は私も把握できてない」らしいです。 
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