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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第一幕 「日常は終わり、そして非日常が始まる」

ああ、胃袋の辺りが痛い。
軽くお腹をさすりながら、これから自分の副担任になるという女性――たしかヤマダと言ったか――と廊下を歩く。先に進みたくないという心理が働いている所為か、廊下はやけに短く見えた。

「だ、大丈夫ですか?ベルーナくん・・・」
「・・・大したことは、ありません」

心配そうに顔を覗くヤマダ先生に、努めて辛そうに思われないよう感情を隠した声を出す。どうもこの人は苦手だ。こうも心配されると弱音を漏らしてしまいそうだから言わないことにするが。
人に心配されるのは嫌いだ。・・・心配してくれる人間が嫌い、とは言わないが。

ここは技術大国と名高い日本にある「IS学園」。IS――インフィニット・ストラトスと呼ばれるパワードスーツに関する一切合財の知識を学ぶ世界で、唯一の学園らしい・・・パンフレットによるとだが。詳しいことなど僕は知らない。
この学園には基本的に生徒は全員女性、職員もそのほとんどが女性だ。何故かは言うまでもない、ISは女性しか動かせないからだ。・・・念のため言っておくが、僕ことベルーナ・デッケンは「女の子みたいに体が細い」と言われることはあるがれっきとした男だ。本来ならこんなところに来るべきではない人間だ。というか来たくなかったのだが・・・ともかくなぜ僕がこんなところに来ているのかを、僕は何度も思い出してはため息を吐いた。


あれはそう、一か月ほど前の事―――


「世界初の男性IS操縦者の発見、それに伴う全世界一斉の男性IS適性検査・・・ねぇ・・・」

故有って保健室登校をしている僕は、目の前の連絡板を眺めながら溜息をもらしていた。
インフィニット・ストラトスとは俺がまだ小学校に通っていたころに出来たマルチフォーム・スーツとやらで、現行の兵器を圧倒的に上回る性能を持っているんだとか。で、理屈は知らないがこれ(IS)は女性にしか動かせないらしい。
それを聞いた“自称”先進国の学と良識ある女性たちは「最強の兵器を使えるのは女性だけ=女は男より強い=だから男どもはひれ伏せ」という結論に至ったらしい。つまり、現在の国際社会は専ら「女尊男卑」というのが流行っている。・・・男女平等を訴えてきた団体はこれに微妙な顔をしたらしいが。最早「男女平等は非力な男連中が掲げる情けない理論」などと言い切ってしまう女性も少なくないというのだからぞっとしない話である。その理屈はどう考えてもおかしいのだが、まぁまかり通ってしまっているのなら仕方ないだろう。一人の賢人より十人の能無しの意見の方が正しいと言われるのが世の常だ。
特にこの風潮は国際IS委員会の理事国の間で強く、逆にそうではない―――つまりISを持てない、持っていない国ではそうでもないとか。

閑話休題。そんな殺伐とした現代社会に現れた救世主(?)こそが世界初の男性IS操縦者、イチカ・オリムラ(漢字は分からないが多分発音は合っている)だ。彼はどういう訳か男性なのにISを起動させたとかで一躍脚光を浴びた。そして「良く考えてみればIS適性試験って女性にしかやってないよね?実は他にも使える男がいるんじゃね?」という話が浮かび上がり、現在の状況に到るという訳だ。
適性年齢とかを考えてかある程度試験を受ける男性の年齢なんかは絞られるそうだが、僕はもれなく範囲内にジャストインである。

「馬鹿馬鹿しい・・・結局今のところ一人も見つかってないし、仮に見つかっても・・・僕には関係のない事だ」

たかが数人男性IS操縦者が見つかったところで急激に現代社会の風潮が変わるわけでもなし。そいつがISを使えるからと言って自分が強くなるわけでもなし。よしんば自分がISを起動させることが出来た所で・・・“持病”が治らない限り乗れはすまい。
心的外傷後ストレス障害・・・PTSDと呼ばれる心の病だ。数年前にこじらせて現在進行形で治療中のこれはなかなかに厄介。昔よりはマシになったものの、同級生と同じような生活とはいかないのが現状だ。例えば周囲から注目されると気分が急激に悪くなるし、暴力的な光景を見るとひどい吐き気を催す。特に武器、又はそれを連想させるものに強い忌避傾向があるため、実質的な兵器であるISも見るだけでNG。
ついでに言えば僕は年下の女の子と腕相撲しても負けそうなほどに体が華奢だ。そんな僕に適性も何もあったものか。


・・・と、思っていた時期が僕にもあったのだが。

皆さんお察しの通り見事にIS適性があることが発覚。世にも珍しい「ISに乗れない男性IS適性者」の誕生だ。それも大変だったが、それから先はもっと大変だった。
世界で2番目の適性者だ、と僕と僕の通う学校には連日の如く世界各国のマスコミが押し寄せ、先生たちは「卒業したらIS学園行きね」と勝手に進路を決められ、頼んでもいないのに母国――ちなみに僕は生まれも育ちもイタリアだ――のIS関係者や有力者がありがたいご高説を聞かせに家を訪れ、お世話になっていた伯父さん(両親とは訳あって絶縁状態)と数少ない親友たちによる必死のフォローも虚しく僕はIS学園に行くこととなった。

正直行きたくなかったし、医者にも周囲にも「その体では無茶だ」と止められた。だが僕の面倒を見てくれていた伯父さんや友達が、目まぐるしい状況の変化に揉まれ次第にやつれていく様を見てしまっては、これ以上皆に迷惑を掛けられないと考えるのも無理の無い事だったと思う。
というか皆のやつれる様は軽くホラーだったし、身を守るための後ろ盾も必要だったから渡りに船だったというのもある。どちらにしろ事実上の選択肢は一つしかなかったのだ。


かくして日本にやってきた僕。突然湧いて出た不幸に心はボロボロ。持病を押してまで来たために体調もボロボロ。唯一の救いは最先端のナノマシン治療を政府の負担持ちで受けることが出来、それによって薬を飲まなくてもよくなった事・・・そして、あの後“僕以外にも更に2人”男性操縦者が見つかったから注目が多少は分散したくらいか。

「ベルーナ君・・・本当に大丈夫ですか?無理に参加しなくてもいいんですよ?」
「入学式も別室で受けたから・・・せめて、ホームルームくらいは顔を見せたいんです」

これはヤマダ先生への強がりではなく、本音だ。確かに辛いし周囲の注目の目に晒されるというのは気分が悪いが、僕は人との関係を絶ちたいとは思っていない。積極的に人に接することが出来ないからこそ、最初から逃げたくはないのだ。半ば意地のような感情を持って僕ははっきりと答えた。

「ホームルームには・・・参加します。可能ならば、授業も教室で・・・受けます」
「ほう、言い切ったな?その根性は嫌いではないが、これ以上山田先生に気苦労を掛けないようにしろよ?」

背後から凛とした別の女性の声。僕のクラス、1年1組の担任を務める人にして、元IS世界最強に輝いた織斑千冬先生その人だ。厳しそうな態度を取っているが、何となく優しい人だと思う。勘だけど。さっきの発言、良く聞いたら「自分に面倒を掛けるな」と言っていない辺りもそれが理由じゃないかと分析する。

「では山田先生は先に教室へ行ってSHRを始めておいてください。私も用事が終わったらすぐさま行くので」
「はい、わかりました!それでは後でまた!」

自分のクラスへ向かう山田先生を見送り、改めてこちらに向かい合った織斑先生と僕は、その後幾つか自身の病気と対策などについて確認し合い、改めて教室へ向かった。

ああ、憂鬱だ。誰か代わってくれればいいのに・・・いや、代えが利かないからここにいるんだったか。つくづく思う。この世界は、生きにくい。



 = = =



ままならんな、この世の中は。

そう一人ごちる。自分の弟然り、この少年然り。世の中はどうしてこうも人々の都合よく回らないのやら。
親族や友人などから再三話を聞いたが、この少年――ベルーナの心の怪我はかなり深いようだ。本来ならIS学園(こんなところ)ではなく田舎で静かに療養でもしているべきであるほどに。
IS学園に来るのは確かに彼にとっては必要な事である。何せ男性IS操縦者というのは現在世界で4人しかいない。そうなればそれを巡って多くの組織、国に狙われるし「とても良くない事」が起きる可能性は跳ね上がる。彼の身を守るためにはIS学園の庇護を受けるのが確実なのだ。それは本人も十分理解している。

それでも、こと彼にとって此処は居心地の良い場所ではないだろう。知り合いの一人もいない異国の学び舎で、まるで珍獣のように見られながら過ごす。ただでさえ精神衛生上良い環境とは言えないのに加え、彼の心の傷も加味するとここは刑務所のようなものに感じるはずだ。最悪、耐え切れずにぱったり倒れてしまう可能性だってある。生徒はどんな事情があろうと特別扱いはしないのが私の流儀だが、彼ばかりはそうもいかない。彼にとってはISの操縦など地獄の責め苦に等しいのだから。
だが、彼は弱音を吐かずにこうやって自分の意志で教室へと足を運んでいる。彼の友人曰く、それは彼の意地で、頑固なところだという。

ちらりと横の彼を見やる。額はうっすら汗ばみ、顔色もあまりよくない。無理をしているのは一目瞭然。色白い肌に、女性と見紛うほどに華奢な体つきは、支えてやらねば今にも倒れてしまいそうだ。だが、その目だけは強い意志を湛えていた。

(支えてやらねばなるまい。教師として、責任ある大人として――)





そして、少年は歪んだ世界の渦へと歩みを進める。それは始まりか、それとも終わりへのカウントダウンか。
この物語に台本はない。故に、真実は神のみぞ知る。 
 

 
後書き
早速オリキャラその一の名前が明らかになりました。外見に関しては次の話で触れます。
なお、一話分の文字数は可能な限り3000文字以上7000文字以下の範囲にします。 
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