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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第二幕 「その男達、苦労人につき」

 
前書き
この小説は書き溜めして放出を繰り返す予定です。

5/29 修正。アッシュブロンドではなくプラチナブロンドでした。 

 
前回までのあらすじ:病弱少年は歩みを止めず、世界最強は物思いにふける


その日、俺こと織斑一夏は未だかつてない環境下にいた。
たった一人の友軍(おとこ)と周りを埋め尽くす女性軍団。その戦力差、実に30対2。恐らく前人未踏の領域である。本来なら戦略的撤退という手段を取らねばならないこの状況、しかし彼ともう一人には逃げない・・・いや、逃げだせない理由があった。
つまり何が言いたいかというと―――

(こ、これは想像以上にきつい!逃げて良い!?なぁ逃げて良いか!?)
(耐えるんだ一夏!ここで踏ん張らなければ僕たちに未来はないよ!)

たった二人の目標(ターゲット)に他のすべての注目(ロック)が集中しており、非常に居心地が悪いというこである。唯でさえこの学園内に同年代の男がいるというだけで珍しいのに、この二人は史上初の男性IS操縦者世代なのだ。ハリウッド女優も目じゃないほどの世界レベルの有名人がいるのだから、流行に敏感な年頃の女子達がそちらを見ない訳が無かった。

「織斑くんに残間くん、両方がイケメンなど・・・聞いていないぞ、IS学園!!」
「残間君はちょっとベビーフェイスだね」
「ちょ、男子2人と同じクラsとかちょっとsyレにならんしょこれは」
「アンタはどこぞの謙虚なナイトか!」
「織斑君と目が合った・・・ひょっとして私の事!?きゃー!!」
「無いわーそれは無いわー」
「二人とも何話してるのかしら?」
「内容によっては夏にウ=ス異本が出るわね」

次々に耳へ入る個性的すぎる会話内容を必死に考えないよう努める。というか最後の一人、自重しようよ。それでも後ろの席にいるこのクラスもう一人の男子、残間結章(あさまゆうしょう)が居なければすべての視線が俺に集中することになっていたというのだから本当に笑えない。

(大丈夫かい?一夏)
(あんまり大丈夫じゃないな・・・そういうお前は?)
(正直なかなかに辛いね、この環境は・・・)

結章――ユウと呼んでいる――は中学生の頃からの付き合いで、欠点の付け所が思いつかないほどいい奴だ。優しいし頭がいいし運動もできるし女子からもモテる完璧超人。もしコイツと同じクラスでなかったら・・・本当にヤバかったかもしれない。1人でも男がいるというのは、ことこの環境下ではこれ以上なく有り難い事だった。今この時だけならゲイ疑惑も甘んじて受けようか考えるほどに。(・・・やっぱりそれは嫌かな)
これでユウの兄とイタリアで見つかったという男子も一緒のクラスならなお良かったのだが、残念ながらユウの兄は隣の2組、イタリアの彼に関しては詳細不明だ。

果たしてどこで何を間違ったのだろうか。
確かに藍越学園の試験会場へ向かったはずの俺は、何故かIS学園の試験会場に辿り着いてしかもISを起動させてしまった。で、そのままなし崩し的に現在に至る。当初この降って湧いたような状況に落ち込んでいる俺をユウはしきりに励ましてくれたが、その翌日にユウのIS適性が発覚して喋る機会も消し飛んだりした。
紆余曲折あってようやく再会したと思ったら・・・この状況である。多分間違ったのは産まれる時代かな、と一夏は肩を落とした。

(地獄の沙汰も友次第・・・ってか?)
(弾が聞いたら「男の夢、ハーレム状態を地獄とはどういう了見だ!!」とか言ってぶん殴りに来そうだね?)
(ははは、違いない)

何とか軽口を叩くだけの心の余裕は出来たようだ。



 = = =



「えー・・・それではSHRを始めまーす・・・」
「「「「・・・・・・」」」」

副担任の先生が喋るが、全員が完全なノーリアクション。というか生徒の殆どが男子の方に意識を集中させており、その男子二人も蛇に睨まれたカエルのように動けない状態。謎の膠着状態に教壇に立つ先生も若干涙目になっている。

「わ、私は副担任の山田真耶といいます!これから3年間皆さんに楽しい学園生活を送ってもらえるように頑張りますのでよろしくお願いします!!」
「「「「・・・・・・」」」」
「あ、あう・・・」
「・・・よ、よろしくお願いします」
(ユウの奴この空気の中でよく喋る勇気あるな。流石人間出来てる男!一種の尊敬の念すら覚えるぜ)

漸く帰って来たリアクションに山田先生は涙を浮かべて感動している。折れそうな心を少しだけ持ち直したか。・・・そもそもこれだけで心が折れそうになるというのもどうかと思うが。

「じゃあ自己紹介をしてもらいましょう!出席番号順に・・・残間君から!」
「いきなりですか!?」

改めてユウがクラスの皆に顔を向ける。大体俺と同じくらいの身長に、サラッとしたストレートの茶髪。顔立ちは少し幼さが垣間見えるが整っている。一般的な尺度から見れば美少年の部類に入るだろう。クラス中の好奇の視線がユウひとりに集中する。

「えー・・・残間結章と言います。周りからはユウって呼ばれてます。えーと・・・趣味で格闘技やってます。ISについては一応一通り勉強してきましたが、分からないところがあったら教えてくれると嬉しいです」
「「「「・・・・・・」」」」
「うっ・・・」

無言のプレッシャーに結章――ユウは思わずたじろぐ。女子たちの目線は暗に「それだけ?」「もっとないの?」と催促しているように思える。そんな目をされてももう話すことなんて無いというのに・・・

「あ、そうだ!隣のクラスの男子である残間承章(あさま じょうしょう)は僕の兄です。ちょっと過保護なところがあるので皆さんにもご迷惑をおかけするかもしれませんが何卒――」


ガラガラガラッ、ピシャン!

「俺を呼んだかユウ!!」

言葉が終わるより前に突然教室に一人の男が乱入してきた。ユウと顔立ちが似ているが一回り身長が高く、髪の長さはユウのそれより少し長い。唖然とする教室のメンバーをよそに男は何の躊躇いもなく山田先生を無視して捲し立てた。

「どうした何があった!お前をいじめる奴は例え大宇宙の意志であろうと兄であるこの俺が天誅殺してくれるぞ!!」
「呼んでないから自分の教室に戻りなよ兄さん・・・担任の先生に迷惑かけちゃだめだよ?」
「ん・・・そうか。何かあったら兄を呼べよ!ここからアステロイドベルトまでくらいの距離なら1分以内に駆けつけるぞ!でわ!!」

ガラガラガラッ、ピシャン!

「「「「・・・・・・」」」」

電光石火で駆け付け、嵐のように去っていった男。ユウの兄、承章だ。ちなみにあれで平常運転であり、酔っ払ってもラリッてもハイになってもいない正真正銘正気の男だ。昔から破天荒な彼の武勇伝(?)を語り始めると恐らく夜が明けてしまうだろうというくらいにアレな人で、そもそもIS適性試験でも・・・


――なにぃ!?起動させただとぉ!?
――う、うん。そうみたい。
――ということはあれか!これからユウはIS学園に連行されて家族と話も出来ないまま悪女たちにたぶらかされて騙されたり既成事実を作られたりしながら暗黒の日々を送ることに・・・!?
――さ、さすがにそれは無いんじゃ・・・
――ぬぉおおおおお!!許せん!俺の目が黒いうちはユウには指一本触れさせんぞ売女共!
――ちょ、ちょっと兄さん!?その想像にはどう考えても誇大妄想とかが含まれて・・・どこ行くのー!?

数分後・・・

――どうやら俺にも適性があったようだな!!
――そ、そんな馬鹿な・・・さっき調べた時は確かに何の反応も・・・
――良かったなユウ!学園でもこの兄が必ずお前を守る!!
――滅茶苦茶だぁ・・・

ということがあったくらいだ。一夏もユウの友達をやっている所為でそのあたりの事は熟知している。
そして何かあると決まって「天才だからな」という一言で片づけようとする(しかも大体それであってる)あの男は、こと弟が関わるとなけなしの常識をピリオドの彼方まで投げ飛ばしてしまう悪癖があった。ブラコンの波動で現実を歪めているんじゃなかろうかと疑わずにはいられない。

「あの・・・ひょっとしてユウくんのお兄さんって・・・」
「うん、ブラコンなんだ。すまない・・・ああもう、あれだけ人様に迷惑を掛けないように念を押しておいたのにぃ~・・・」
「何というか、強烈な人だね・・・」

片手で頭を抱えるユウ。あれは最早ブラコンの域を超えているような気もするが、そこを突っ込むと本格的にユウが浮かばれないので誰も口にしない。一部「強敵現るか・・・」とか「兄と弟の禁断の・・・」とかおかしな声が聞こえるが、ユウの耳には届いていないようだった。・・・まぁ聞こえていない方が幸せだろうが。

ガララッ

「・・・うん?何かあったのか?」
「あ、織斑先生。えぇっと、まぁ竜巻が通り過ぎた後と言いますか・・・」
「・・・??まあいいか。では改めて―――」

遅れてやってきたスーツ姿の美人女性。何を隠そう一夏の姉にして世界最強の呼び名が高い織斑千冬だ。関羽ではないので気を付けよう。もしも間違えたらもれなく頭をひっぱたかれるからね。
で、担任の挨拶に生徒たちの大半が耳が割れんばかりの黄色い歓声を上げたがそれも無理はない。何せモンドグロッソ(第一回IS世界大会)で総合優勝を果たし、「ブリュンヒルデ」の異名を持つほどの人物。会えるだけでもかなりの幸運なのだから、今彼女のファンたちは天にも昇る気分だろう。とはいえこのままでは話が進まないと感じたのか千冬は生徒を軽く諌める。

「静かに!さて、遅れてすまんが実はこのクラスにもう一人編入してくる生徒がいる。・・・デッケン、入って来い」
「・・・はい」

抑揚のないか細い返事と共にゆっくり歩いて教室に入ってきたその人物に、クラス中がざわめいた。何故ならその生徒は“男”だったからだ。
無表情で教壇に上るその少年は、一言でいえば細かった。低めの身長、頭を渦巻くプラチナブロンドの癖毛、その年齢にしては体の肉が妙に少なく、肌の白さの所為か非常に顔色が悪く見えた。不摂生に見えるほど痩せてはいないが、かといって健康そうかと聞かれれば若干首を傾げる。何というか、失礼だが風が吹けばそのまま倒れそうな男だと一夏は感じた。

「ねぇ、彼ってひょっとして2番目に見つかった・・・」
「おかしいと思ったのよね。他のどのクラスにも男の子の名前がなかったから」
「わ、肌白~い・・・それに細いな~」

「静かにしろと言ったはずだ。・・・デッケン、自己紹介をしろ」
「・・・ベルーナ・デッケン。イタリアから来ました・・・趣味や好物は、特にありません」
「デッケンはかなり病弱でな。その関係でお前たちと一緒の教室での授業はあまり受けられない。実技試験や体育科目はドクターストップが掛かっているために出来ない。今ここにきているのもせめて挨拶がしたいという本人たっての希望であり、普段は別室で授業を受けて休み時間は保健室で過ごすこととなっている・・・分かったら振り回したり質問攻めにしないように!ではこれにてSHRを終える。全員次の授業の準備をしておけ」

教師である千冬姉があそこまで念を押すのだから余程体が弱いらしい。
SHRは締めくくられ、当のベルーナはそそくさと教室から出て行くが、その足取りは心なしか少しおぼつかない。後には未だざわめくクラスメイト達が残った。

「行っちゃった・・・何か感じ悪いなー」
「あらら、本当に起動させられるだけなのね。別にこの学園に来る必要なかったんじゃないの?」
「男子だからってそこまで特別扱いするのってどうなのかしら・・・」
「う~ん、あの少し物憂げな感じ・・・堪らないわね」
「病弱少年・・・か。それはそれで・・・」
「くっ!男のくせになんて綺麗な肌なの!?んんん許るさーん!!」

嫌味半分、世界の歪み半分といった感じの声がひそひそと飛び交う。

「・・・一緒に勉強できないのか。何か残念だな」
「うーん、休み時間は保健室にいるってわざわざ言ったってことは、暇なときに会いに行けってことかな?」
「なるほど、そういうメッセージが隠されていたのか!良く気付いたなユウ?」

という訳で授業後にベルーナに会いに行くための部隊が編成されることになるのはまた後のお話。
余談だが、あの後ベルーナは皆の視線に晒されたストレスからか教室で授業を受けることを断念したとか。
 
 

 
後書き
以降、地の文では結章をユウ、承章をジョウと書きます。
ユウとジョウ、二人のオリキャラが登場しました。どういう人達かはまぁ追々。

一夏「・・・あれ?俺、出席簿で叩かれてない・・・?」
千冬「お前は何を言っているんだ」 
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