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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第68話 そして、天界へ・・・

俺は、ロマリアの一室で行われた会話を思い出す。
「俺に何の話をするつもりですか?」
「エロ神様のことだ」
「はい?」
「なんだ、知らないのか?」
「・・・。ひょっとして、神竜ですか?」
俺は目の前の男に、確認の意味で質問する。
「そうとも言う」
俺にとっては、神竜以外の名前は知らないのだが。
「お前の事だ、神竜のことは知っているだろう?」
「ええ」
俺は、ジンクの師匠であるトシキの質問にうなずいた。

「ならば、神竜を倒したらどうなるか知っているだろう」
「まさか」
「そう。倒した褒美の選択肢のなかに、死者の復活がある」

俺は、トシキに疑問をぶつける。
「あれは、勇者オルテガしか復活できないのでは?」
「確かに、ゲームの中ではそうだろう。だが、お前の父親ではできないと、どうして決めつけるのだ」
「確かにそうですが」
「たとえ、違ったとしても、お前に損はあるまい」
「そうですね」

俺は、うなずくと同時に別の疑問を口にする。
「どうして、俺に教えてくれるのですか?」
「それはだな、マリリンの・・・」



「高いですね」
「そうだな」
俺達は、不死鳥ラーミアに乗っている。
かなりの高度で飛んでいるので、寒かったり、空気が薄くなったりすると思ったが、そんなことはなかった。
ファンタジー、ばんざい。

ちなみに、飛んでみた感想を一言で表すと、「この世界は円形ドーナツでは無かった」
である。

ラーミアでこの世界を跳び続けると、世界地図で表す右端まで進むと左端にたどり着き、上に進み続けると、下から出てくる。
これを実現するためには、地図を左右又は上下を合わせて、円筒状にして、合わせていない部分を曲げてドーナツ状にする必要がある。
そのような世界であれば、ドーナツの内側で飛んでいれば、反対側の世界が見えるはずだが、青い空や輝く星々しか見つからない。

様々な調査の結果、俺が出した答えは、この世界は平面世界で、世界の端にたどり着けば、ワープしているのではないかという推論だった。
「地球のへそ」と呼ばれる洞窟などに見られる無限ループを、さらに大がかりにしたものだ。

もちろん、俺の推論にも穴がある。
ひとつめは、ワープをしたと思われる場所の前後で太陽の位置が変わらないことである。
ワープをしたのであれば、太陽の位置が変わるはずだが、そんなことはなかった。
ふたつめは、「地球のへそ」と呼ばれる洞窟の名称である。
「地球」とは、「地」の「球」である。
となれば、大地の形状が球状であるという考えが普及しているということである。
もちろん、どこかにある「地球」と呼ばれる世界を模して作られた異世界という考えも残されているが。
冒険が終わったら、そのような事を研究するのも面白いかなと考えながら、右側を眺める。

「アーベル、怖いです」
高所恐怖症のセレンは、俺の右腕をつかんではなさない。
「大丈夫だ、俺がついている」
「アーベルさん、私もこわいです」
「さっきまで、嬉しそうに乗っていただろう?」
俺は、勇者に突っ込みをいれる。
勇者は、妹のようにかわいいが、最近甘えるようになっているので、困っている。

勇者は「てへへ」と舌を出しながら、俺に謝る。
誰から教わったのか、思い当たるふしはあるが、俺にはそんな攻撃は一切通用しない。
「しょうがないやつだ、ほら捕まれ」
俺は、勇者に左腕をさしだす。

「やっぱり、アーベルは年下が好みなのかしら?」
背後から、テルルの視線が突き刺さる。
「そういう話ではないだろう」
「違うのですか」
勇者がすねたように質問する。


「おい、目的地だぞ」
俺は、目で目標物を指し示す。
両手が使えないのは、こんなとき不便だ。
「大きなお城ね」
「そうだな」
竜の女王の城が、目の前に迫っていた。



「お久しぶりですね」
俺は以前この城で知り合った女性に声をかける。
「あなたは・・・」
振り向いた女性は、ステンドグラスからあふれる光に映し出されて、幻想的な印象をあたえていた。
「天界に行く用事が出来まして、ここに来ました」

目の前の女性は、俺を尊敬のまなざしでみつめる。
「あなたが、大魔王を倒したのですね」
「いや、俺は倒していないけれどね」
俺は、隣にいる勇者を紹介する。
「このこが、倒してくれたのさ」

「おにい、アーベルさんがお世話になったようで」
勇者は女性に声をかける。
「お世話されてないけど」
「かわいいわね。妹さん?」
「そうで「違う!」」
勇者の嘘を慌てて否定する。

俺と、勇者とは似ていないはずだ。
それにしても、一体、どこからその発想がでるのか。
「ふーん。仲が良いのね」
「はいっ!」
勇者は元気よく手を挙げて返事をする。
女性は、勇者の姿をみて微笑んでいた。

「アーベル、お待たせ」
「アーベル、ここのお馬さん。すごく賢いわね」
セレンとテルルがこちらに向かって歩き始める。
「馬はみんな賢いよ。違いは、しゃべるかどうかだけさ」
「アーベル、すごいです」
俺は、セレンの驚嘆の声を無視して、女性の方を振り向きながら2人を紹介する。

「商人のテルルと、盗賊のセレンだ」
「・・・」
急に女性の視線が厳しくなった。
「どうしたのかな?」
「よくわかりました」
女性は、厳しい表情で俺を睨んだ。
「なにが、わかったのかな?」
俺はおそるおそる質問する。
「あなたは、こんなにすてきな女性たちをパーティに加えているのに、私にまで手を出そうとしていたなんて」
「はい?」
俺は、理解できなかったので、思わず変な声をあげてしまった。
「アーベルさん」
勇者は俺の手をつかむと、困惑した表情で見つめてきた。
「そのひととは、どういう関係ですか」
「ただ、ステンドグラスを前にして話をしただけだ」
「あやしいなぁ」
テルルが会話に割り込んできた。

「怪しくないって。それよりも、先に進もう」
俺は、ステンドグラスの手前まで、進んでゆく。
「何処にいくの?」
セレンとテルルがおそるおそる俺についてくる。
勇者は、元気よく俺についてくる。
「またか・・・」
俺は、目の前がぐるぐる回る感覚にぼやきながら、旅の扉のような、別の場所に転移する感覚を味わっていた。
「い、痛い」
俺の頭に激痛が走り、いつの間にか意識を失った。



「アーベルさん、大丈夫ですか」
勇者の呼びかけで目覚めた俺は、痛む頭を抑えながら起きあがる。
恐らく、転送されたときに生じた酔いに耐えきれず、倒れてしまったようだ。
「なんとか、大丈夫だ」
俺は、不安そうに見つめる勇者に声をかけてから、周囲を見渡す。

周囲に平地が広がっている。
だが、平原と異なっており、平地がとぎれた先には青い空が続いている。
そして、本来であれば上空にある雲は、手を伸ばせば届きそうな高さにある。
「・・・。天界か?」
「たぶん」
テルルは答えたが、不満そうに話を続ける。
「大きな城とか、あるとおもったのに」

次回作なら、テルルの期待に応えられたはずだけに残念だ。
「何かいった?」
「いや」
俺は、テルルに返事をしながら、目の前にある岩山を指し示す。
「ひょっとしたら、あの先にあるかもね」
「すごいです、アーベル」
「いや、セレン。感心するには、まだはやすぎる」
テルルに先んじて、俺がセレンをつっこんだ。
「まあ、行けばわかるさ」
3人が頷く。


俺は、気を引き締めて声をかける。
「準備しておこう」
「何のこと」
テルルの質問に答える。
「モンスターとの戦闘をだ」
「どうして?」
「ここは、天界なのに?」
セレンとテルルは疑問に声に出す。
それでも、戦闘準備の始める3人に対して、俺はどう答えようか考えていた。

俺は、ゲームのなかで、これから先、強力なモンスターが出現することを知っている。
だが、そのことを口にせず、説明を試みなければならない。
「大魔王が出現しても、天界に動きはなかった。どうしてだと思う?」
「それは、・・・」
「関与する気がなかったか、関与できる状況に無かったからですか」
俺からの急な質問に答えられずにいると、セレンから返答がかえってきた。
どうやら、セレンの戦闘準備が整ったようだ。


俺がセレンに「インテリめがね」を渡してから、戦闘中はいつも眼鏡をしている。
セレンの話では「眼鏡をかけると、アイテム入手率があがる」とのことだったが、言葉どおりの成果を上げている。
俺のHPが300を越えているのは、セレンがモンスターから、「スタミナの種」を大量に奪ったからである。

一方で、眼鏡をかけたセレンは口調が大きく変わる。
「インテリめがね」は性格を「ずのうめいせき」へと変化するが、俺達が眼鏡をかけても口調まで変わることはなかった。
口調が変わっても、問題がないことから眼鏡の着脱はセレンに任せている。


「どういうこと、セレン」
俺が別の事を考えているうちに、テルルが質問をしていた。
「天界がどのような世界なのかわかりません。
しかし、アーベルさんが大魔王を倒すために必要な光の玉を入手した竜の女王の城と、天界とが繋がっていることから、ある程度人間に好意的なことも考えられます」
「だったら、戦闘がおこなわれることは無いのでは」
「大魔王が、天界をそのままにするのでしょうか?」
「俺が大魔王なら、先手を取るね」
セレンの問いかけに対して、俺が自分の考えを披露する。

「なら、天界は大丈夫なの?」
テルルは不安そうな顔をする。
「大丈夫よ、テルル」
セレンは、右手で眼鏡の位置を調整するとテルルに自分の考えを披露する。
「私たちがここにいることが、何よりの証拠よ」
眼鏡をかけたセレンをみると、なぜか高校時代の数学教師を思い出した。

「天界は、大魔王からの侵攻を防ぐため天界への移動手段を閉ざしたと思うの。
私たちが、大魔王を倒すまでは、天界にこられなかったように」
「天界が大丈夫なのはわかったわ」
テルルはうなずいたが、最初の疑問の言葉をくりかえす。
「どうして、戦闘準備が必要なの」

「私たちが住む世界は、いまだにモンスターがいるよね」
「そうだな」
俺は頷く。
「そういうことなの、セレン」
「アーベルは、既にモンスターが天界に進入を果たしたと考えて、私たちに戦闘準備の指示をしたのよ」
「そういうことだ」

俺は、大きくうなずくと、既に戦闘準備を完了し、だまっていた勇者に、声をかける。
「俺の指示にすぐ従ったが、わかっていたのか」
「いいえ。
でも、アーベルさんが間違えることなどありえません」
「いろいろ、失敗したこともあるぞ」
「アーベルさんの指示が正しくなる為なら、何でもしますから大丈夫です」
勇者は、決意を表明した。
俺は、勇者をあきれた様子で見つめるセレンとテルルを見ながら、頭を抱えていた。



洞窟の中は、ゲームの世界と同様に、これまで冒険してきた様々な洞窟の一部を再現していた。
再現したのは、洞窟の形状だけであり、登場するモンスターは、これまでの一般モンスターを上回る力を持っていた。
「だが、全力で挑む俺達の敵ではない」
俺は、蟹状のモンスターにイオナズンを唱えながら、勇者に声をかける。
「そうですね、アーベルさん」
勇者も最強呪文「ギガデイン」を唱えて加勢する。

ギガデインは雷撃呪文であり、天に選ばれた勇者にしか使えないと言われている。
大魔王を倒すまでは、自分は勇者では無かったと告白したが、俺にはとても信じられない。

呪文の詠唱により、雷の力が空中の一点に凝縮され、やがて敵前対に襲いかかる。よほど体力が無い限り、一撃でモンスターは倒される。
目の前にいる蟹状のモンスターも例外ではなく、電撃により動かなくなった。

「オーバーキルだろう。イオラで十分だ」
「全力でと言ったのは、アーベルさんです」
勇者は、横たわる蟹の死骸を眺めながら答える。
蟹状のモンスターは、守備力上昇呪文「スカラ、スクルト」を唱えるやっかいな敵だ。
ただし、呪文攻撃の耐性がないので、早期に呪文攻撃で倒すことが出来れば問題ない。
だが、イオナズンとイオラ程度の攻撃で倒せる相手だ。
過剰な攻撃は、MP消費の面からすれば非効率となる。

今回は、特技「忍び足」で戦闘を最小限に抑えていることと、目的地まで遠くないことから、「生存を第一に全力で戦う」と指示したのは俺だ。
新しく登場した、モンスターのHPなどわかるはずもない。
そう考えた俺は、これまでの方針で行くことを勇者に伝える。
「そうだったな。まだ、MPもある。ひきつづきガンガンいこう」
「はいっ!」
勇者は手を挙げて返事する。
「アーベルは、勇者に甘いわね」
「そうですね」
テルルとセレンは小さくつぶやいた。
「行きましょう、セレン」
「そうですね、テルル」
「勝手に先にいくな!」
俺は、慌てて2人の後を追った。
 
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