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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第69話 そして、ゼニスの城へ・・・

俺たちは、階段を登ると、目の前に闘技場が見えた。
目の前にはモンスターがいる。
俺たちはモンスターが襲いかかってこないことを確認し、自分たちが登ってきた階段の反対側にある下り階段に向かっていく。

後ろから聞こえる、モンスターの、
「ひきょうだぞ!」
と言う声を無視して進んだ先には、王宮があった。



「休めそうですね」
「そうだな」
勇者の声に反応しながら、一息ついている。
MP消費を気にせずに戦えと指示したおかげで、途中死者が出ることなく、ここまで来た。

近くにある、ルーラの登録場所で登録をすませると、その先に玉座に座る男の姿が見える。
男は、黒い目を大きく見開いて、珍獣でも見るように好奇心いっぱいにして観察している。
ここの主だと思われる男に挨拶をしないのは失礼だと思い、玉座まで歩み寄り、男に声をかける。


「よくぞ来た!わしがこの城を治めるゼニス1世じゃっ!」
この人は、城の主であることが確定した。
この人の支配領域は一体何処までなのだろう。
現在の階層だけなのだろうか、上下の階層も含まれるのだろうか。

それに、自分のことをゼニス1世と呼んでいた。
ということは、息子さんがいてゼニス2世とか名付けているのかもしれない。
誰かさんのように、まだ見ぬ子孫の名前を勝手に決めているのかもしれない。

「ここまで来れば、今少しで神竜にあえようぞ」
俺の想像に関係なくゼニス1世は話を続ける。
俺は、前世で神竜にあったことがあるが、他のメンバーは神竜の事は何一つ知らない。
せいぜい、ここが天界と呼ばれる場所であることしか知らないのだ。
神竜とはなにか、説明して欲しい。

ゼニス1世は、俺の気持ちを知ったのか、
「神竜に会えばどんな願いもかなうというもの。がんばるのじゃぞ」
と説明した。
さすが、天界に城を持つ人は違った。

だが少し待って欲しい。
その説明は十分な説明とは言い難い。
神竜と会って戦い、規定ターン以内で倒さなければ願いを叶えることが出来ない。
そして、どんな願いもかなえるというのも疑わしい。

まあ、こちらは論理学的な問題なので無視しても良いかもしれないが、かなうことの出来る願いが限定されているのに「どんな願いでもかなう」という噂が広まったら問題である。
出来れば、あらかじめ項目を列挙してもらえるとありがたい。


俺達は、ゼニス1世に礼を言って、退出する。
「みんなは、何か願い事があるかい」
「私は、アーベルさんの妹になります!」
勇者は1番に手を挙げて答える。
勇者よ、親父のことはいいのか、親父のことは。

「テルルはどうだ」
俺は、勇者の発言を黙殺してテルルに質問する。
「急に言われてもねぇ」
テルルはしばらく考えて答える。
「戦う前に、考えておくわ」
「セレンは、どうする?」
「私は、タンタルさんに生き返って欲しいです」
「そうか、そうだな」
俺は、かつて共に戦った戦友の事を思い出す。

彼がいなければ、俺達は大魔王に倒されたはずだ。
後は、タンタルの気持ち次第だな。
セレンに託した言葉を聞く限り、自分の人生はあそこで終わりと決意したはずだ。
死んでから、気持ちが変わっていなければ、いや思考をすることができるのか。
まあ、そこらへんの事は、生き返ることが出来たら聞いてみよう。

「俺は、父さんを生き返らせたい」
「そうか」
「そうよね」
セレンとテルルが頷く。


王のいるところのそばにある一室。
そこにいた吟遊詩人の男に声をかけた。
「おや?あなたたちは下界からやってきたようですね」
「見事な推理ですね」
俺は感心した振りをする。
「と、言いたいところですが残念です。
天界と下界以外に別の世界が有るのなら、教えて欲しいですね」
吟遊詩人は俺の言葉に驚愕し、しばらく声が出なかった。
吟遊詩人は、俺を悪魔でも見るように眺めると、俺の発言を無視して話を続けた。

「ここまで来られたということは、かなりうでには自信がある。
しかし頭のほうはどうですかな」
俺は、セレンに視線を向ける。
セレンは俺の考えをくみ取り、鞄から眼鏡を取り出し装着する。

「ひとつ私がなぞをさしあげましょう」
セレンは、吟遊詩人の話に頷いた。
俺は答えを知っているので、今回はセレンに任せよう。

「ほろびの町。十字架の下できらりと光るものは・・・」
吟遊詩人は満足した表情で話を続ける。
「さてこのなぞがとけますかな?」
俺達の、表情に変化が無いのを見て、吟遊詩人はにこやかに手をふった。
「とけたら戻ってくるのですよ」

「失礼ですが、あなたの「なぞ」が理解できないのですが?」
セレンの言葉に吟遊詩人は、理解できない表情をしている。
「念のため、私が知っている「なぞ」という言葉と、あなたのいう「なぞ」とは意味が異なるかと思って確認したいのですが」

セレンは、身につけた眼鏡の位置を調整しながら、話を続ける。
「あなたのいう、「なぞ」とは「アリアハンの城にある宝物庫にはどんな宝が入っているのか」ということと同じような話ですよね?」
吟遊詩人は、しばらく考えてためらいがちに頷く。

「私が知っている謎とは、このようなものです」
セレンはかつて俺が考えた謎を披露する。
「我は、切り裂くものなり。かつて、我が意志は人に有らざるものなり。我は人の手により、人の意志に従いしものなり。我とは何?」
吟遊詩人はセレンの問いをしばらく考えると、急に驚愕の表情を示す。

「こ、答えを知っているのか」
「ええ、わからなかったので、アーベルさんに教えてもらいましたが」
セレンは、眼鏡の位置を少し下げて、俺に視線を移す。
吟遊詩人は驚愕のまなざしを、今度は俺に向けてきた。
「セレンが言っているのは、あなたの質問の答えではなくて、たとえで使った俺達が知っている「なぞ」という意味を説明するのに使用した例題なのだが」

俺はため息をつきながら説明する。
ある意味、俺が悪いのだろう。
「あなたの表情を見る限る、偶然答えが同じであるようですね」
「そ、そうか」
吟遊詩人は、冷や汗を流しながらうなずく。
冷や汗をかいているのは、俺も一緒だが。

「確認するけど、俺達があなたが謎として出した場所に置いてある何かを報告すればいいのだね」
「え、ええそうです」
吟遊詩人がうなずいている。
顔がひきつっているのが誰の目にもあきらかだ。
「そして、見つけたものは、俺達のものにしていいのかな」
俺達の頭を試すということに対する報償として。

「・・・。がんばってください」
吟遊詩人は何とかひとこと絞り出して、俺達を見送った。


「アーベルさん」
勇者が俺に声をかける。
「今のなぞの答えはなんですか?」
俺が、問題をセレン達に出した時期は、3人で旅に出ていた時期だ。
勇者だけは答えを知らなかった。
「これから、見つけるアイテムと一緒だから、それまで自分で考えなさい」
「はーい。がんばります」
勇者は、元気よく声を上げる。

「ねえ、アーベル?」
「どうした、テルル」
俺は、ゆっくりとテルルに視線を移す。
「確か、他にも私たちになぞを出したわよね」
「そうだね」
「まさか、答えも一緒とは言わないわよね」
テルルは、吟遊詩人の話しぶりから、他にもなぞを出すだろうと推測したようだ。
そして、俺がほかに出したなぞも答えが偶然一緒ではないかと睨んでいる。
「そんなこと、わからないよ」
「そうね」
テルルは妙に納得した様子で俺を眺める。
セレンは、眼鏡をはずして
「そうだったら、すごいですね。すてきですね」
と、はしゃいでいた。
 
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