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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第25話 そして、ロマリア王位へ・・・

「どうして、こうなった」
俺は頭上の装備品に手を触れる。
金の冠と呼ばれ、これまで使用していた皮の帽子の3倍という防御力を誇る。
男の魔法使いにとって数少ない装備可能な頭部部分の防具のひとつでもある。

「良くお似合いです、アーベル王」
「ジンク、うるさいぞ」
「御意」
ジンクは俺に臣下の礼をする。
「・・・、頼むからやめてくれ」
俺はため息をつきながら、前日の事を考えていた。



俺とジンクはそれぞれアリアハンとロマリアに戻り、交渉の成功を報告した。
その後、俺とテルルとセレンの3人はルイーダの酒場で今後の計画について、相談していた。
「とりあえず、俺がイオラを覚えるまで、訓練をしたいのだが」
「仕方ないわね」
俺の提案にテルルは頷く。
俺たちはバハラタで戦闘を行ったが、モンスターの出現率の関係で、どうしても経験値稼ぎの点で効率が悪い。
それならば、経験値は低いが、出現率の高いノアニールの西にある洞窟で効率よく経験値を稼いだほうがよい。
防御力が上がった今ならば、より安全に経験値を稼ぐことが出来る。

「どれくらいかかりそうなの?」
「2ヶ月あれば、十分かと」
俺は余裕を持った計画案を示す。

「洞窟からモンスターが消滅しそうね」
「それはいいかも」
セレンは頷く。
「魔の力が失われれば、そうなるのだが」
俺は疑問を口にする。

原作では、魔王が倒されない限り、決してモンスターが消滅することはなかった。
だが、この世界ではどうなのだろうか。

「というわけで、じめじめした洞窟遠征を前にカンパーイ」
テルルは、はじけた様子でグラスを掲げる。
「乾杯」
「乾杯」
「カンパーイ!」
俺とセレンは顔を見合わせながら、それでもテルルに調子を合わせる。
2人は酒で俺は相変わらず、ジュースだ。

「何故ここにいる?」
俺は、勝手に乾杯に加わった知り合いに注意する。
「いけませんか?」
知り合いは愚問とばかりに、俺たちと一緒のテーブルに座る。
「パーティ内の親睦に水を差すのはどうかと」
「一緒に冒険した仲間を忘れるなんて、水くさいではないですか」
「やれやれだ」
俺は、ため息をついて、ジンクの着席を認める。

「何の用なの?ジンク」
テルルはジンクに問いつめる。
「用がなければいけませんか?」
「い、いえ」
ジンクの真剣なまなざしに、テルルは思わず身をそらす。
「テルルさんやセレンさんの、お美しい姿を追い求めること以上に崇高な理由が、この世界にあるのでしょうか?」
「それは、・・・」
「あの」
「そんなもの、人それぞれだろうが。それに、常につきまとうのは犯罪だぞ」
俺は一般論でジンクに反論する。
とりあえず、俺には用がないようだし、安心してジュースが飲めるというものだ。
「アーベル!」
何故かテルルが俺の発言に怒り出す。
「あまり、身も蓋もない発言はどうかとおもいますよ、アーベル」
ジンクはテルルの怒りの声に勢いづく。
なぜか、セレンも俺のほうを見て睨んでいるようだ。
俺が悪いのか。俺が?

「まあ、俺が邪魔なら失礼するが」
俺は、後は3人に任せたとして、席を外そうとする。
「あなたにも用がありますよ、アーベル」
ジンクはにこやかな顔で、俺に親書を手渡す。
「ロマリア王がぜひ、お礼をしたいと」


親書の内容は簡単なものである。
先日の交渉が上手くいったので、お礼をしたい。
ついては、ロマリア王宮に来てくれ。

「お礼は別にいらないが」
俺は困ったことになったと、ため息をついた。
「断る訳にもいかないな」
ロマリア王家からの招待を無下に断ることはできないだろう。
だからといって、そのままのこのこと、礼を受け取るわけにもいかない。
勇者であれば、国賓待遇であるため、礼を受け取っても問題はない。
だが、俺はただの冒険者。
そして、アリアハンの国民だ。

アリアハン王家に断り無く、別の王家から礼を受け取るのは国際問題となる。
特に、ロマリアとポルトガとの3カ国交渉を成功させた使者に、礼を与えるとなれば、ロマリアに便宜を図ったと言われかねない。

「心配しないでください」
ジンクはにこやかに説明する。
「すでに、アリアハン王には了解を取り付けています」
「・・・仕事が早いな、ジンク」
「そうでもないですよ」
ジンクは酒を飲みながら答える。

「もうすこしで、乾杯に間に合わなくなるところでした」
「遅れてもかまわないぞ」
「すてきなお嬢さんたちを独り占めですか、いけませんねぇ」
ジンクは非難の目をこちらにむける。
ふと、周囲のテーブルをみわたすと、「同感だ」という男達の声が聞こえる。

やっぱり、俺が悪いのか。俺が。


俺は、翌朝、念のためにアリアハン王の重臣達と協議していた。
協議した結果は、「問題ない」とのことだった。
俺が最終的に結んだ交渉内容は、ロマリアにとっても有利な内容であった。
交渉は双方にとって有利もしくは不利だと思わなければ、まとめるのは難しい。

であれば、交渉内容に変更を要しない範囲の内容であれば、俺が個人的に何をもらっても問題ないということだった。
念のため、後日報告することになったが。


俺は協議結果を受けた後すぐ、1人でロマリアに旅立った。
ジンクは、一足先にロマリアに帰ったし、セレンとテルルはアリアハンで一休みだ。
俺が戻れば、すぐに冒険が再開される。
ならば、実家にいた方が気楽だろう。
俺も1人であることを気にしなかった。
ルーラで移動するので、敵に会うこともない。

俺は、慣れ親しんだみかわしの服を脱ぎ、新調した旅人の服に着替えると、ロマリアへ移動した。


「アーベルよご苦労だった」
「はっ」
「表をあげよ」
俺は、ロマリア王の姿をみる。

ロマリア王はにこやかな顔で、俺を眺めると
「そなたのおかげで、交渉が成功した。我が望みの船も手に入れた」
「恐れ入ります」
「褒美を授けようとおもってな」
ロマリア王は、玉座から立ち上がると俺に話しかける。
「そなたは、魔法使いだから、防具に苦労していると聞く」
「おっしゃるとおりです」
近くにいた、ジンクに視線を移す。

どうやらジンクは、俺の言動を、王に報告したようだ。
「ではこれを受け取るがよい」
ロマリア王は召使いを呼び寄せると、盆の上に、何かが乗せてあり、その上に白い布をかぶせている。
大きさから言えば、頭にかぶるものだろう。

俺が装備できるものであれば、これは不思議な帽子なのだろう。
防御力が上がるだけでなく、消費MPを抑えることが出来る。
「ありがたくいただきます」
そういって、布をめくると金色に輝くものがおいてある。
「・・・、これは」

金のかんむりがそこにあった。
「金のかんむり・・・」
周囲の重臣達は騒然となった。
「さあ、早く身につけるがいい」
ロマリア王はにやりとした。

俺は呆然とした。
目の前のかんむりはロマリア王家の象徴。
俺に、ロマリア王位を受け取れと。
「アーベルよ、不満なのか」
ロマリア王が不思議そうに尋ねる。

「自分はロマリア国民ではありませんが?」
「王位につけば、自然にロマリア国民となる」
王はすまして答える。
確かに、王はロマリア国民に違いない。

「なぜ、俺にこれを?」
「うちの息子につがせるよりは、よかろうとおもってな」
俺は思わず、ロマリア王の息子を捜すため周囲を見渡す。
「奴は今頃、カジノにいるだろう。安心して毎日入り浸りできると喜んでいた」
俺の視線に気づいたのか、ロマリア王は答えをくれた。
「・・・、そうですか」

息子が息子なら、親も親だ。
俺はため息をつく。
重臣達は我に返ったのか、意義を唱え出す。
「お待ち下さい、ロマリア王」
「なにとぞ、ご自重ください」
「おい、アーベル。呼ばれたぞ」
目の前のロマリア王は笑いながら俺に声をかける。

「はい?」
「王!」
「静まれ!」
ロマリア王は周囲を一喝する。
重臣達は静まりかえる。

「これを誰かに渡すことはできますか?」
俺は、最後の手段を提案する。
「1年後か、あるいは死ぬことで」
「そうですか」
前者の提案しか受け入れられない。

俺はため息をついて、冠に手を伸ばす。
「新たなロマリア王の誕生を祝して」
どこからともなく、近衛兵が登場し、ファンファーレを奏でる。
俺はいつの間にかロマリア王になっていた。

交渉だけで国を手に入れたとして、後日「交渉魔術王」と呼ばれることになる、ロマリア王アーベルの誕生の瞬間であった。
本人は、全力で否定したかったが。
 
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