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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第2章 清算
  第9話 そして、ナジミの塔へ・・・



「た、ただいま。母さん」
「お、おかえりなさい。アーベル」
「おかえり。アーベル」
「ただいま。父さん」

冒険の初日は、アリアハン周辺で活動していた。
みかわしの服のおかげで、体力のない俺ですらほとんどダメージを受けない。
そのままレーベに行くことも考えたが、あわてることはない。
まずは、体力をつけなければ。

ということで、夕方までがんばって3人ともレベル3まで上昇した。
そして、各自の家に戻って体を休めることにした。
アリアハンにも宿屋はあるが、金はかかる。
ただで休める自宅があるのに利用しない手はないだろう。
その代わりに、俺と母さんとの間に気まずい雰囲気が漂っているが、仕方あるまい。
書き置きに「旅に出ます。探さないでください。夕食までには帰ります」と書いたようなものだ。
たぶん、セレンやテルルの家でも同様の雰囲気が漂っているはずだ。



次の日は、アリアハンの北にあるレーベの村にむかった。

パーティの様子がおかしい。
セレンは、普段とあまり変わらない様子であったが、テルルの様子が明らかにおかしい。
俺の方をにらむような目つきをするが、俺がテルルの方を向くと、あわてて視線をそらす。
時折、意を決したように、俺にむけて何かを話しかけようとするが、首をふりあきらめ、逆に俺が話しかけようとすると、すぐに俺のそばを離れてしまう。

そうするうちに、やがてレーベの村にたどり着く。
この村は、ルーラの行き先に登録可能であり、早速俺たちは、登録作業をおこなった。

この村の目的は、魔法の玉の入手である。
アリアハンに船がない現在、大陸の東部にあるいざないの洞窟にある旅の扉を使わなければ、外国に行くことが出来ない。
だが、いざないの洞窟の入り口が壁により封印されており、封印を解かない限り前に進むことはできない。
封印を解くためには、壁を壊すしか方法がないのだが、物理的な手段だけでは壁を壊すことができない。
文献によると、魔法の玉と呼ばれるものであれば壁を壊すことが出来ると書かれていた。

このため、5年前にアリアハンの王は、レーベの村に住む老人に対して魔法の玉を作るように命じた。
この老人は、かつてアリアハンで宮廷魔術師として活躍していたが、俺の母であるソフィアを後任にすると、ふるさとのレーベに戻り、余生を好きな研究に打ち込んでいた。
老人は王の頼みであればと、快く引き受け、勇者が冒険に旅立つまでに完成するよう、日夜研究を続けていた。

ところが、俺がロマリアに行くということで、計画が2年早くなった。
老人は、完成したら王へ使いをよこすと話していたが、未だに連絡は来ていなかった。
しかし、俺は完成しているとにらんでいる。
俺は、この老人の性格をソフィアから聞いているからだ。

「入れないか」
「入れませんか」
「誰かいませんか~!」
返事がない。いるすのようだ。

俺たちは、老人の研究所を訪ねたが、研究所に侵入することが出来なかった。
やはり原作どおり「とうぞくの鍵」が必要なようだ。
俺は「とうぞくの鍵」が必要な事自体を否定するつもりはない。
なぜなら、「魔法の玉」という危険物に関する情報が盗まれたら、それこそ問題である。

逆に「とうぞくの鍵」程度で進入できるほうが問題ではある。
「とうぞくの鍵」を作ったのが、バコタのような、お金にしか興味のない盗賊で助かったともいえるだろう。
盗賊バコタは既に魔法使いに捕まって投獄されている。
捕まえた魔法使いは、ナジミの塔の最上階で生活している。

俺たちは当初の予定どおり、レーベの村を南下して、ナジミの塔へと繋がる洞窟へ向かう。
洞窟を歩きながら、俺はナジミの塔について、考えていた。

ナジミの塔は、アリアハン大陸の中央に浮かぶ島に立てられた塔である。
かつては灯台の役割を果たしていたが、船が無くなると最低限の人員のみを置いて、塔から撤退した。
その後、モンスターが住みつき今にいたる。

世界が平和になれば、ナジミの塔を中心とした交易都市を造ることを考えていた。
アリアハンと違って港から近いこと。
地下の洞窟を再整備すれば、アリアハンやレーベに荷物を運送できること。
これらのことから、平和になり人口が拡大すれば、必ずこの街は成長する。
キセノン商会にこの話を売り込めば、あとは勝手に開発を進めるに違いない。
キセノンへの手みやげ話を考えながら、ナジミの塔へ続く階段を登っていった。



「いくら倒してもきりがないね」
「本当ね」
「でも、この服のおかげで問題ないね」
セレンの言葉に、俺とテルルはうなずいた。

塔の2階へと続く階段を登ろうとしたとたんに、魔物の群れに襲われた。
倒しても、倒しても、次から次へと現れる。
一瞬魔物に隙が生じたので、俺が2人に目配せをして逃げようとしたのだが、テルルの反応が遅れたため、まわりこまれてしまい、そのままずるずると戦っている。

それでも、夕方までには、モンスターはいなくなり、ようやく一息つくことができた。
おかげで、全員レベル6まで上昇したが。

塔の探索は明日に順延することにして、レーベの村で休もうかと3人で相談していたところで、不意に背後から男が現れた。



「いらっしゃいませ」
振り返ると、40すぎの男が目の前にいた。
「見知らぬ声がしたもので、声をかけさせていただきました」
人と話ができるのがよほど嬉しいのか、テンションが妙に高い。

「この塔の地下で宿屋を営んでおります」
「・・・」
「おおっと。地下といいましても、住環境に一切問題がありません。地下水道も整備されており、清潔な環境が保たれています」
「・・・」
「魔法の結界により、モンスターからの襲撃から守られておりますので、安心してお休みいただけます。冒険者でもないわたしが、平気であることがなによりの証拠です」
「・・・」
「まずは、お部屋をご覧下さい」
俺たちの返事を待たずに、下り階段へと進んでゆく。
俺たちは肩をすくめて、男の後をついて行く。

「ほう」
「結構きれいね」
「すごい。きれいな水が流れているよ」
男の話に、間違いはなかった。

案内された部屋は、質素だが、清潔感が保たれており、アリアハンの宿屋の水準を上回っている。前にいつ客が来たのかわからないが、毎日きちんとベッドメイキングされているのが一目でわかった。

これなら、安心して休めそうだと、俺たちは1泊することにした。
一番の理由は、男の話に聞き疲れたことであったが。
男は、「おお、久しぶりのお客さんだ。うれしいなぁ」などと言って大喜びで夕食の支度を始める。
となれば、まずは食事だ。
かなり運動したので、おなかが減っている。

出された食事もうまかった。
毎週、アリアハンから定期的に届けられるそうだ。
さすがに生ものは無かったが、水道を使った冷蔵庫に保管してある野菜は新鮮であった。また、食材の輸送にかかる経費は王宮が負担しているため、アリアハンの宿屋と同じ料金を保っている。

王は、再び船を手に入れた時、この塔がすぐに使用できるように考えているのだ。


夕食をすますと、俺はテルルに話しかける。
「テルル。話があるのだが?」
「え、何のこと」
「これからの事を相談したいのだ」
俺は、挙動不審な様子を見せるテルルの腕を引っ張って、寝室に連れ込む。

「アーベル。離して!」
「ああ」
俺はそういって、つかんだ腕を放した。
テルルは、部屋に置いてある椅子に座ると、おびえるような様子で俺に声をかける。
「アーベル。わたし、まだ心の準備が」
「・・・。何を勘違いしているか知らないが、話をするだけだ」
「最初はそういって、結局・・・」
「だから、落ち着けテルル」
俺はため息をつくと、心配した顔でテルルに尋ねる。
「お前、朝から変だぞ。いったい何があった?」
「・・・」
「俺たちはパーティだ。だから、なんでも話せとは言わないが、それでもお互いに命を預けあっている」
俺は真剣なまなざしでテルルをみつめる。
「今日の戦闘は装備で助かっているが、そうでなければ全滅していた。テルルもわかっているだろう?」
「・・・」
「俺に聞きたいことがあるのだろう。おそらく、キセノンのおじさんから頼まれたのだろう」
「!」

図星だったらしい。
昨日は問題なかったのに、実家に帰ってから様子がおかしかった。だから、予想はついたのだが。
テルルはあきらめたのか、ぼそっとつぶやいた。

「アーベルにはつきあっている相手がいるの?」
テルルの質問は俺の予想を超えていた。 
 

 
後書き
第2章です。
本編とは関係ない話ですが、小説家になろうでも引き続き小説を書いています。
(大して評価はされていませんが)
お暇でしたら、暇つぶし程度にごらんいただくとありがたいです。 
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