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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第10話 そして、鍵の入手へ・・・

「アーベルにはつきあっている相手がいるの?」
俺の予想を超えたテルルからの質問に驚いたが、動揺を顔にしてはいけない。
今の機会を逃したら、パーティの再編成を含めて検討する必要があるからだ。

「どうしてそんな質問をするのか教えて欲しい。いや、キセノンとどのような話をしたのか教えてくれないか」
俺は、質問の意図がわからなかったので、テルルに質問した。
テルルは俺が答えなかったのが不満なのか黙ったままだ。

「俺は、つきあっている相手はいないよ」
「・・・そう」
俺が、答えを返したことに安心したのか、テルルは昨日の事を話し始めた。



「テルルよアーベルは、大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないの。「きれもの」なのだし」
現にアーベルの事前準備のおかげで、安心して冒険に取り組むことができた。
特に、みかわしの服の威力は絶大で、アーベルが8歳のときにキセノンに「しゅっせばらいでおねがい」と進言していなければ、船がない今、入手することはできなかった。

「そうではない。アーベルは誘惑に弱いかどうかだ」
「誘惑?」
「そうだ、テルル。確かにアーベルは「きれもの」だ。わしの話にあそこまで対抗できるのは、あいつのほかには母親のソフィアしかおらん」
「だから普通なら、交渉もうまくいくはずだ。ただ」

キセノンは、グラスを置くと話を続ける。
「ひとは誘惑に弱い生き物だ。特に若い男などは、女性からの誘惑に弱いだろう。交渉時に他国から仕掛けられれば、足下をすくわれかねない。心配なのはそこなのだ」

たしかに、そうだろう。
養成所に通っていた男たちの話や女性への視線を考えると頷くことができた。
「大丈夫よお父さん」
「なぜだ。テルル?」
テルルは、キセノンからの視線を外して話を続けた。

「アーベルはつきあっている相手がいるから」
「本当か?」
「本人が言っていたから」
「そうか」
キセノンはため息をつく。

「それならば、テルルを嫁にやるといっても反応が無い理由が納得できる。相手はセレンか」
セレンは最近、体が成長したため、訓練所での人気は高くなっていた。セレンの父親が訓練所の剣術指導をしていたので、誰もセレンに手を出す相手はいなかったが。
「違うわ。でも、誰だかわからない」
「そうか、俺も調べてみるか。お前もアーベルにそれとなく聞いてくれ」



ということだった。
もう少し続きがあるみたいだったが、テルルは話すつもりはないようだ。
「で、どうして、俺につきあっている相手がいることになるのだ」
「違うの、アーベル?」
テルルは本当に驚いているようだ。

「違う」
俺は、再度質問を否定し、なぜ、そのような考えにいたったのか、尋ねる前に理解した。
「昨日の勇者候補生との話をきいたのか」
テルルは顔を赤くして頷く。

どうやら、俺が童貞ではないといった部分が聞こえたらしい。
「まったく。あれは冗談だと続けたのに。そこは聞こえなかったと?」
テルルは頷く。
「なんという、都合のいい耳だ」
俺は肩をすくめた。

俺は少し考えて、テルルに向き合った。
「いいかい。キセノンのおじさんにはこのように答えてくれ」
「俺は早く結婚したいが、冒険が終わる前にテルルに手を出せば、キセノンのおじさんに殺される(経済的な意味で)。だから、今はおとなしくしていると。俺は結婚するために素早く冒険を終わらせることを考えていると。でも、キセノンのおじさんにそのことを知られると弱みを握られるので、キセノンには黙っていて欲しいと」
テルルは、顔を真っ赤にしていたが、満足そうに頷いた。

俺自身は、生活が安定するまで誰かと結婚するつもりはないが、ああでも言わないとキセノンを納得させることは無理だろう。
これで、テルルも安心してパーティの戦力となってくれるだろう。

俺はパーティ問題から解放されたと思ったそのときに、次の問題が発生したことに気がついて、思わずため息がでた。
「セレン。入ってきて」
テルルが驚いて部屋の入り口をながめると、そこには、鎖鎌を手にしたセレンがいた。
おそらく、俺がテルルに襲いかかると考えて、部屋の前で準備をしていたのだろう。

「セレン」
「セレン、俺の話をどこから聞いていた」
「・・・。「俺はテルルと結婚したい」あたりから」
「・・・」
「・・・」
俺は頭をかかえ、セレンは顔を赤くして俯いていた。
「さて、どこから話をすればいいのか」
俺は、セレンとテルルの説得を始めたが、両方が納得したのは、深夜に入ってからであった。



「おはようございます。お気をつけて」
そういって、宿屋の主人は俺たちを見送った。
出来た男だ。
「昨日はお楽しみでしたね」などと言うような店主であれば、問答無用で殴りかかる予定であった。

昨日の殲滅戦の成果か、2階にあがっても魔物の気配が感じられない。
たまに、柱の陰に隠れている魔物がいたが、こちらから急襲して始末する。
防御力が上がっているとはいえ、先手必勝である。
毒を与えたり、マヌーサと呼ばれる呪文を使ったりする相手を優先的に倒してゆく。


なんとか最上階にたどり着くと、部屋の中で1人の老人が眠っていた。
「起きてください」
「起きて~」
セレンとテルルの2人がかりで老人をおこそうとする。
が、目を覚まそうとしない。
だが、俺は見抜いていた。
老人の顔つきがだらしなくなりはじめていた。
若い娘2人にかまわれるのが嬉しいとみえる。

「セレン、テルル離れて」
俺は必要もないのに、杖を構えると、呪文を唱えようとする。
「どうするの、アーベル?」
テルルは俺の考えを見抜いたのか、少しわざとらしい声で尋ねる。
わざとらしい話し方が無ければ、テルルも「きれもの」になれるかもしれない。
「昨日覚えたばかりの、ヒャドを唱えようかなと。ちょうどいい機会が出来て助かったよ。本当はMPがもったいないけど、起きないから仕方ないよね」
テルルはうなずく。
「いくよ」
「待ってくれ、呪文を打たないでくれ!」
老人は飛び起きて答える。

「まったく、老人を永眠させるつもりか」
「お望みであれば」
「望んでおらんわ!」

俺は老人に対して、とうぞくの鍵を貸して欲しい事を伝えた。
「いやじゃ」
「嫌ですか」
「ワシは勇者にこの鍵を渡す夢をみたのじゃ。他の相手には渡せない」
「私に渡すと、勇者に渡せないから、駄目だと?」
「そうじゃ」
原作どおりということか。

「後で渡せばいいじゃないですか」
「なに?」
「私たちは別に鍵をくれとは言っておりません。用が済んだら返します」
「本当か?」
「はい」
「それなら仕方ない」
俺たちは喜んだ。
「じゃが、1人置いてゆけ」
「は?」
「鍵を悪用されては困る。娘のどちらかを置いてゆけ。なんなら、両方でもかまわんぞ」
そういって老人は、セレンとテルルの方を見る。
どうやら老人は、2人のことが気に入ったらしい。

「困りましたね」
俺はそういって、王の命令書を示す。
「王からは、私の冒険を助けるようにという命令書をいただいているのですが。仲間を置いて行けと言うことは、私の冒険を阻害するということになりますね」
俺の言葉に老人は沈黙する。

「そういうことであれば、仕方ありません」
俺は残念そうな顔を作る。
「王に報告しなければなりません」
「なんだと」
「それでは、いったん失礼します」
俺たちは、あきらめて帰ろうとする。
「待ってくれ」
「すぐに戻ってきます。兵士も一緒に連れてきますので」
俺は老人に対して、にこやかに手を振った。

「悪かった。鍵を貸すから。ほれ」
老人は俺に鍵を投げつけた。
「ありがとうございます。すぐにお返ししますので」
俺たちは礼を言って部屋を出ると、キメラの翼を使用した。


「ねえ、アーベル」
テルルはナジミの塔を後にした俺に質問する。
「どうして、あのおじいさんに最初から命令書を突きつけなかったの」
「練習だよ」
「練習?」

俺は、テルルの質問に答える。
「今後ロマリアやポルトガとの交渉に備えて、交渉術を磨かないとね」
「これ以上上手くなるつもりなの?うちのお父さんに負けないだけでもすごいのに」

「キセノンとは顔なじみだから、相手がしやすいだけさ」
俺はまじめにこたえる。
「これからの交渉相手は誰になるのかわからない。事前に交渉相手の情報は入手するつもりだが、それでも相手がどんな交渉術を駆使するかわからない。だから実践を磨く必要がある」
「そうなの」
「そんなものさ。テルルもキセノン商会を継ぐのなら、しっかり勉強することだ」
「わかってるわよ、そんなこと」
テルルは頬をふくらめせながら答える。 
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