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髑髏天使

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第五十八話 嘲笑その七


「あの神の、いや貴様等は狂気を沸き起こらせることもできるな」
「正気は混沌の中にはない」
 それもだ。混沌の中にはないものだった。
「狂うことは混沌の原初の中にあるものだ」
「だからか」
「そうだ。我々の姿を見れば精神が混沌の中に戻るのだ」
「その恐怖に耐えられないのではないのだな」
「そうでもあるがまた別だ」
 そうだという男だった。
「我々は。あらゆるものを混沌に引き戻すのだ」
「ではだ」
 死神はまた男に対して問うた。
「貴様のその姿を見ると我々はか」
「精神から原初に帰ることも有り得るのだ」
「そうだな。狂気に陥りだな」
「それを狂気と呼ぶのならそうなる」
「あれだね」
 今度は目玉が言った。
「ネクロノミコンを書いたあのアラビア人もそうだね」
「そうだ。私の真の姿を見てだ」
「君達の言葉だと原初に帰ったんだね」
「では帰ってみるか」
 即ちだ。原初に帰れというのだ。
「そうなるか」
「あの時。あの神の姿を見てだ」
 ここで言ったのは髑髏天使だ。彼だった。
「俺は何もなかった」
「そうだな。狂気には陥らなかったな」
「クトゥルフだったな」
「他の神もそうだがな。どの神もその姿に原初を含んでいるからこそだ」
「見ただけで狂うか」
「混沌に陥るのだ」
 そうなると話されていく。そしてであった。
 男は遂にだ。その姿を変えようとしている。次第にだ。
 身体の中から動きだした。いや、蠢きだした。
 その不気味な胎動の中でだ。男の腕から何かが出た。
「むっ」
「瘤か」
「瘤ではない」
 それではないとだ。男は魔神達に答えた。
「私の姿が真のものになろうとしているのだ」
「成程ね」
 九尾の狐はその男の姿が変わっていくのを見ながら言った。今度は額から眼球が出た。闇の光を放つ眼球がだ。触手の先から出て来たのだ。
「そうしていってなのね」
「見るのだ」
 手の平からだ。五つに分かれた蹄が出た。
 足もだ。前足だけでなく後ろ足も出た。それはだ。
 漆黒のだ。八っつに分かれた蹄だった。今度はそれだった。
 目は五つも六つも出てだ。それぞれがゆらゆらと揺れている。
 髪は鬣になり首は伸びだ。その姿は。
 六本足の獣だった。痩せた漆黒の、人の顔から九つの触手の先にある目が出ている。そして背中からだ。蝙蝠を思わせる六枚、三対の翼が出た。
 毛は一本もない。ぬらぬらとした肌がある。その姿になってだ。
 あらためてだ。髑髏天使達に対して言うのであった。
「この姿だ」
「それが貴様の真の姿か」
「如何にも」
 その通りだというのだった。
「私の。ナイアーラトホテップのだ」
「真の姿がそれか」
「どうだ。心は大丈夫か」
 人の口でだ。嘲笑しつつ髑髏天使達に問うのだった。
「貴様等の心は」
「安心しろ。何ともない」
 髑髏天使が最初に答えた。
「今時それでは何ともないようだ」
「そうか。何ともか」
「そうだ、ない」
 こう神に返す彼だった。 
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