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軍属

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第二章

「完全に嘘とかはないだろ」
「ある程度は真実も含まれてるか?」
「何かここに来た日本軍と全然違うけれどな」
「それでもか?」
「ある程度は真実が入ってたのか?」
「日本軍に残虐な部分があるのか?」
「アメリカ人が言っていた様な」
 フィリピン人達は訳がわからなくなってきていた。実際の日本軍は規律正しく蛮行は行なわない。アメリカ人が言うのとは全く違っていた。それでアメリカ人が言う根拠になっている雑誌や新聞に問題があるのではと考えだしたのだ。
 とにかく日本軍は真面目で略奪や暴行とは無縁だった。フィリピン人に対しても公平であり色々と熱心に教えてくれた。それでだった。
「いい人達だよな」
「ああ、日本人は悪い奴等じゃない」
「というかアメリカ人よりいいかもな」
 支配者的な態度を取らないだけにだった。
「日本人も日本軍もな」
「怒ったら殴ってくるけれどそれ以外はな」
「全然悪くないよ」
「ああ、本当にな」
「いい軍隊であり人達だよな」
「アメリカの雑誌や新聞は全部嘘だったんじゃないのか?」
 遂にこの言葉が出て来た。
「やっぱりそうじゃないのか?」
「アメリカ人自体を騙していたのか?」
「自分達の雑誌が売れる為か別の目的で」
「そうじゃないのか?」
 こうした考えに至りだした。とにかく日本軍は統制が取れていてそうした意味では全く怖くなかった。しかしだった。
 次第に彼等の間でこんな話が出て来た。その話はというと。
「何か日本軍についている連中がな」
「日本軍についてる連中?」
「何だそりゃ」
「どういう連中だよ」
「何かいるだろ。軍について商売とかしている連中」
 その商売は色々だ。軍の手伝いをしている連中もいた。
「その連中の中に何かな」
「悪い奴がいるのか?」
「そうなのか?」
「夜道で襲われた娘がいるらしいぞ」
 占領軍にありがちな話が出て来た。
「何でもな」
「日本軍じゃなくてか」
「日本軍の周りにいる連中か?」
「その連中が問題か?」
「そうなのか?」
 彼等は何かが気付いてきた。
「若しかして」
「軍属の奴等か」
 こう話したのだった。
 しかしこの事件は幸いこうなったというのだ。
「幸いそこに人が来て女の子は助かったらしい」
「ああ、そうなのか」
「助かったんだな」
「無事だったんだな」
「本当に夜道に急に襲い掛かってきたらしいけれどな」 
 そこで幸運にも心ある人が来てだというのだ。
「ことなきを得たけれどな」
「本当によかったな」
「全くだよ」
「それで何よりだよ」
 誰もがその話を聞いてまずはよかったと言った。しかしだった。
 日本軍が幾ら規律がよくとも軍属が問題だった。この夜の事件だけではなかった。
 その軍属の者達は真昼間から堂々とだった。フィリピン人達が経営している店に押し込んでこんなことを言い出した。
「これただにしろ」
「ただにしないと火を点けるぞ」
「あと食い物も出せ」
「女も紹介しろ」
 こんなことを言い出すのだった。見ればその彼等は。
 日本軍の将兵達の平均より背は高く顔立ちは目が細く吊り上がっている。そして顔の輪郭が四角くエラが張っている。その彼等が言うのだ。
「俺達は日本軍だぞ」
「日本軍に逆らえばどうなるかわかっているな」
「わかっているならただにしろ」
「そして家にある食い物も全部出せ」
「女もだ」
「そんなご無体な」
 店の婆さんは背の高い男達に胸倉を捕まれ凄まれて真っ青になって返す。 
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