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軍属

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第一章

                          軍属
 その時フィリピン人達は恐怖に震えていた。
 彼等を支配していたアメリカ軍は破れた。そのアメリカ軍を破った者達がフィリピンに乗り込んで来ると聞いたからだ。
「悪魔でも来るのか?」
「あのアメリカを破るなんて嘘だろ」
「マッカーサー元帥はオーストラリアに逃げたぞ」
「あの元帥を追い出す程の奴等はどんな連中なんだ」
 彼等にとってアメリカはまさに絶対者だった。圧倒的な強さでこの国にいた。それは同盟者というよりも支配者だった。
 その彼等を破ったのは日本軍だった。彼等は日本軍、そして日本人についてはアメリカ人達からこう聞いていた。
「かなり野蛮らしいぞ」
「そうらしいな、残忍でな」
「人を食うらしい」
「とにかく女と見れば襲い掛かるらしい」
「子供を笑って殺すそうだ」
「殺し方も手が込んでいるらしいぞ」
「手足をばらばらにして首を切って」
 日本軍の残虐さもアメリカ人達から聞いてのことだ。そのアメリカ人達もライフやタイム等の雑誌、酷いものなるとハースト系のイエローペーパーからの知識から言っていた。
「内臓を取り出したりしてな」
「とにかく一日に一人は殺さないと気が済まないらしい」
「首を切ることが特に好きらしい」
「武器を持った首狩り族らしいぞ」
「とんでもない奴等が来るぞ」
「これは大変だぞ」
「恐ろしいことになる」
 誰もがそう思っていた。そのうえでだ。
 日本軍が来るのを恐怖と共に待っていた。そして遂にだった。
 本間中将が率いる日本軍がフィリピンに入った。マニラにも入城した。その残忍で人を殺すことが好きな彼等はというと。
「あれっ、何もしてこないぞ」
「存外大人しいぞ」
「軍規軍律がいいな」
「しかもかなり真面目だぞ」
 何とだ。彼等は軍規軍律は厳格で統制が取れていた。虐殺どころかだ。
「略奪一つしてこない」
「女子供に対しても親切だ」
「刀を抜く様なこともない」
「確かに言うことは厳しいし融通が効かないがな」
「鉄建制裁は多いが」
 これはあった。
「しかし虐殺とかはないな」
「ああ、いい軍隊じゃないのか?」
「何処が悪いんだ?」
「全然酷くないぞ」
 フィリピン人達は首を捻って話をした。そしてだった。
 アメリカ人達から聞いた話をだ。ここで検証することになった。
「アメリカ人は嘘を吐いていたのか?」
「ひょっとしてそうなのか?」
「俺達に嘘を吹き込んでいたのか?」
「日本を憎ませる様に」
 そうではないかとも考えだしたのだ。しかしだった。
 自分達に話す彼等の顔を見てすぐにこう思った。
「いや、あれは嘘を吐いている顔じゃなかった」
「雑誌を読んでもな」
 英語がわかりアメリカの雑誌、そのライフやタイム、やはりイエローペーパーを読んだ時の話をする者もいた。
「嘘を書いている感じじゃなかったぞ」
「いや、記事を書いてる人間に偏見があったんじゃなかったのか?」
「それであんな日本軍になったんじゃないのか?」
「雑誌を書く記者も色々いるだろ」
「それならやっぱりな」
「記者が嘘を書いたんじゃないのか?」
 アメリカ人が言う根拠のその雑誌や新聞を書く記者に問題があったのではないかというのだ。
「それでああした主張になったんじゃないのか?」
「記者だって嘘書くだろ」
「アメリカって結構中国に近いしな」
「だからじゃないのか?」
「記者が嘘を書いたんじゃないのか?」
「いや、それでもな」
 だがそれでもだとだ。彼等はその記事についても話をした。 
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