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儚き想い、されど永遠の想い

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50部分:第五話 決意その三


第五話 決意その三

「むしろそれを目指さなくてはならない」
「幸せな恋をですか」
「昔は色々な制約があった」
 長兄もだ。大正の今から話をするのだった。
「だが今は違う」
「誰もが幸せになれますか」
「なるべきなのだ。そしてだ」
「そして?」
「身分やそういったものはだ」
「それも関係ありませんか」
「四民平等の時代だ」
 明治のこの言葉がだ。今も生きているのである。
「それでどうしてだ。身分なぞはだ」
「否定されるのですね」
「華族もそういったものもだ」
「関係なくですか」
「そうだ、ない」
 また言うのだった。
「関係ないのだ」
「それではです」
 義正は長兄の言葉に元気付けられだ。彼にあらためて尋ねた。
「ロミオとジュリエットは御存知でしょうか」
「あの英吉利の舞台だな」
「はい、それです」
 まさにだ。それだというのである。
「あれは対立する両家の話でしたが」
「そして悲恋だったな」
「あれはどう思われるでしょうか」
「ハプスブルク家とブルボン家は知っているか」
 義愛はすぐに答えずにだ。こう言うのであった。
「知っているな」
「はい、欧州の名門ですね」
「どちらもな」
「墺太利と仏蘭西の」
 それぞれ皇帝家、王家であった。そしてだ。
 その墺太利と仏蘭西の関係がだ。ここで話されるのだった。
「対立しました」
「何かあればな」
「仏蘭西が対立していたのは英吉利だけではなかったのですね」
「あの国は敵が多い」
 これもまた仏蘭西の特徴なのである。
「墺太利もまた然りだ」
「両国の対立はそのまま欧州の対立軸の一つになっていましたね」
「ロミオとジュリエットの話なぞ両家の対立に比べれば」
「些細ですか」
「そうだ、些細だ」
 こう末弟に話すのだった。
「しかしその対立もだ」
「終わりましたね」
「婚姻によってな」
「ルイ十六世とマリー=アントワネットですね」
「そうだ、それによって終わった」
 これは歴史にある通りである。
「両家はその長い対立を婚姻によって終わらせたのだ」
「それでは」
「対立なぞ終わらせるに限る」
 義愛は確かな声で述べた。
「婚姻によってそれが可能ならだ」
「そうするべきですか」
「もっといいのはだ」
 ここでさらに言う長兄だった。
「その婚姻に愛があればだ」
「尚いいですか」
「そうだ、さらにいい」
 こう言うのである。
「非常にな」
「では」
「では?」
「あっ、いえ」
 言おうとしたところで己の言葉に気付いてである。義正はその言葉を止めた。
 そのうえでだ。彼はこう言うのであった。
「何でもありません、今のは」
「そうか。何でもないのか」
「はい、そうです」
「ならいいがな」
 その言葉を受けてだ。義愛はだ。
 
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