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儚き想い、されど永遠の想い

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358部分:第二十七話 このうえない喜びの後でその十


第二十七話 このうえない喜びの後でその十

「もうすぐ人も来ます。それに」
「それに?」
「旦那様も戻られます」
 義正もだ。戻って来るというのだ。
「ですから。お気を確かに」
「そうですね。まだ」
「はい、まだ大丈夫です」
 婆やは切実な顔で真理に話す。
「何もお気にされることはないのです」
「では今は」
「まずはお口やお手を」
 言いながらだ。手拭を真理に差し出した。
「これで」
「有り難うございます。では」
 真理もだ。その手拭を受け取りだ。すぐに口と手を拭いた。
 それからだ。僅かに落ち着きを取り戻してから婆やに話した。
「これからは」
「まずはお屋敷に入りましょう」
「そうしてその中で、ですね」
「お休み下さい。すぐに人が来ます」
 こう真理に告げていく。
「ですから」
「はい、それでは」
「とにかく。御気を確かに」
 真理に言うのであった。
「では」
「ええ・・・・・・」
 こう話してだった。真理は婆やに連れられて屋敷に戻った。そうしてだ。
 屋敷の者達に看病される。そのことを聞いてだ。
 義正もすぐに戻って来た。そうしてベッドに横たわる真理に尋ねた。
「御気持ちは確かでしょうか」
「はい、何とか」
 こうだ。真理は青い顔で話した。
「落ち着きました」
「そうですか。それは何よりです」
「ですが」
 青い顔でだ。安堵した義正に話すのだった。
「お医者様に言われました」
「何とでしょうか」
「出産の後で体力が落ちているそうです」
 出産はかなりの力を使う。だからだというのだ。
「それで」
「それで、ですか」
「病状も進行しているそうです」
 こうだ。義正に話すのだった。
「それで私は」
「真理さんは」
「詳しい診察を受けないとはっきりとわからないそうですが」
 それでもだというのだ。
「私はもう」
「長くはですか」
「そうかも知れないと言われました」
 そう言われたというのだ。医師に。
「ですから後で」
「暫くしてからですね」
「病院に行かないといけません」
「そうですね。そうして」
「診察を」
 その結果は薄々わかっていた。それでもだった。
 二人はそれでもだ。診察を受けることも決意した。だがこれはだ。二人の幸せの時の。その終わりのはじまりであることも感じ取っていた。


第二十七話   完


              2011・9・28
 
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