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儚き想い、されど永遠の想い

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119部分:第十話 映画館の中でその九


第十話 映画館の中でその九

「ですから。普通に言えば」
「はい、私達の親達にそのまま言うだけではです」
「間違いなくそうなりますね」
「ですが」
「ですが?」
「狭い場所で言うのではなく」
 そうではないというのだ。
「広い場所で言えばです」
「広い場所で?」
「そうです、広い場所です」
 義正はそこでだと話すのだった。
「そこで言えばです」
「その広い場所とは」
「それはです」
 義正はそこは何処かとだ。真理に話した。彼の話を聞き終えてだ。
 真理は張り詰めた顔になってだ。義正に言うのであった。
「まさか。その様なことを」
「思い切ったと思われますか?」
「はい。そして」
「そして?」
「破廉恥にさえ思えます」 
 言いながらその顔を赤くさせた彼女だった。
「その様なことは」
「破廉恥ですか」
「幾ら何でも。それは」
「確かに。我が国の感覚で言えば」
 日本ではどうかというのだった。
「そうなりますね」
「やはり破廉恥ですね」
「それは否定できません。ですが」
「ですが?」
「それは確かに日本での常識でのことではそうなります」
 破廉恥になるとだ。義正も認める。
 しかしそのうえでだ。彼は真理にこうも話した。
「しかしそれはこれまでの常識のことです」
「古いというのですか」
「今もまだそうでしょうが」
「これからは違いますか」
「違うようになります」
 こう真理に話すのだった。
「今からです」
「そうなりますか」
「欧州ではこうしたことがありました」
「欧州では?」
「墺太利の話ですが」
 今話すのはその国だった。欧州の古い国だ。
「丁度今かけられているモーツァルトの国ですね」
「そうですね。モーツァルトは」
「はい、墺太利の音楽家です」
 ザルツブルグで生まれた神童だ。まさに墺太利が生んだ音楽の寵児なのだ。
「その彼の国のことですが」
「その墺太利の」
「女帝、丁度彼の生きた時代のことです」
「モーツァルトの生きた時代の」
「マリア=テレジアという女帝がいました」
 墺太利、そしてハプルブルク家中興の祖と言われている名君である。十六人の子の母でもありだ。墺太利の国母とまで謳われた。
「その女帝の息子に子が生まれた時にです」
「御自身のお孫さんですね」
「はい、その孫が生まれた時にです」
 どうしたかというのである。
「歌劇場の舞台に出てです」
「そこに観客達がいましたね」
「はい、自身の民達がです」
 その彼等にだというのだ。
「その彼等に。孫が生まれたことを大きな声で告げたのです」
「そうしたことがあったのですか」
「これは日本では考えられませんね」
「陛下がとは」 
 大正帝である。その方を脳裏に思い浮かべた真理だった。
 
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