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KAMITO -少年篇-

作者:redo
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チャクラコントロール

タズナの家に辿り着いてから翌日。

未だ完全に回復していないカカシは松葉杖を使いながら体を引きずり、下忍3人を連れてタズナの家の裏側に広がる森へやって来た。

「では、これより修行を始めるが……その前に、忍としての能力《チャクラ》についての基本から話しておく必要がある」

するとカカシは、咄嗟にカミトに眼を向けた。

「カミト……お前確か、アカデミーの学力で良い成績を取っていたそうだな」

「え?……ええ、まぁ……多分」

普段アカデミーに通わなかったカミトでも、日々の読書で知識を豊富に蓄えている。ペーパーテストの時も高い点数を取ってはいたものの、忍術面に於いてはまったく駄目だった。

そのこともあって、自身なさ気にしか答えられなかった。

しかし、カカシは気に留めずカミトを指定する。

「じゃ、お前にチャクラついて詳しく説明してもらおうか」

「……はい」

突然、話を振られたカミトは再び自身なさ気に返事し、渋々な感じで説明し始めた。

《チャクラ》とは、(あまね)く術の要となるエネルギーの名称。

万物を生成する精気そのものとも言われ、人体を構成する膨大な数の細胞1つ1つから取り出す《身体エネルギー》と、修行や経験によって蓄積された《精神エネルギー》の2つによって構成されている。

双方のエネルギーを体内から絞り出し、練り上げる。これを《チャクラを練る》と言い、術者の意思である《(いん)》を結ぶことによって術が発動される。術によってはチャクラを練る調合比率も変化し、うまく術を発動するには適切な量のチャクラを練ることと、チャクラコントロールが必要不可欠となる。

カミトの詳細な説明が終了した。

「その通り!いやぁ〜伊達にアカデミーサボってたわけじゃないんだな!」

カカシは大いに感服し、カミトのこれからの将来が楽しみになってきた。

「確かに、不登校生徒にしては完璧な説明だったわね」

「これくらいの知識がないんじゃ、忍者なんて夢のまた夢だ」

「おいおい、それはあんまりだぞ」

サスケとサクラの、褒めているのか貶しているのかわからない言葉に、カミトは複雑な気持ちだった。

「ま、とにかくお前達にやってもらうのは……チャクラコントロールだ」

「「「チャクラコントロール?」」」

「そう。つまり忍術を手際よく使うために、チャクラを操る修行をするってことだ」

不意に、サスケはカカシの言ってる意味がよく理解できず、聞き返した。

「だが、現に俺達は術を使えている。今更チャクラのコントロールなど必要あるのか?」

サスケの指摘に、カカシは頑として否定する。

「いいや!お前達はまだチャクラを使いこなせてはいない。術を発動させるくらいなら、アカデミー生でも出来る。サスケの火遁や、カミトの水遁もな。俺が言いたいのは、更にその先だ」

カカシは松葉杖を抱えてゆっくりと移動し、3人に向き直った。

「いいか?さっきカミトが説明してくれた通り、チャクラを練り上げるというのは、身体と精神の2つのエネルギーを取り出し、体内で混ぜ合わせることを言う。そしてそれは、発動したい術によってそれぞれのエネルギーを取り出す量……つまり、調合が変わるんだ。しかし、今のお前らは……まだチャクラを効果的に使えていない」

不意に、カカシはビシッとカミトを人差し指を指摘しながら言った。

「特にカミト、いくらチャクラの量を多く練り上げることができても、術次第でバランス良くコントロールできなければ、術の効果が半減してしまったり、術自体が発動してくれなかったりなどの問題が起きる。下手をすれば……チャクラを大量に消費して、命の危険に至ることだってある」

死ぬ。その重い一言が3人に伸し掛かる。

「それからカミト、お前に質問だ」

「なんです?」

「お前、水遁系忍術で使えるのは《水乱波》だけなのか?」

いきなりの質問に、カミトは少々戸惑ったが、即座に答えた。

「ええ、確かに俺が使える水遁はそれだけです」

チャクラには《性質》と呼ばれる特徴があり、基本的に火・風・雷・土・水の五種類しかない。この基本性質は、忍五大国の名の由来でもある。この性質をチャクラに持たせて使用する術が多く存在し、火遁・風遁・雷遁・土遁・水遁と呼び、これらを《五大性質変化》という。

五大性質変化にはそれぞれ優劣関係があり、《火遁→風遁→雷遁→土遁→水遁→火遁》となっている。よくある概念で言えば五行に近い。同じ性質の術をぶつけた場合は相殺するが、チャクラの量が違っていれば倍になって自身に返ることもある。

忍者がどの性質に属するかは先天的なものであり、自分が持つ性質に合致した術を使うのが良いとされる。チャクラの性質は遺伝的な要素が強く、例えるならうちは一族は皆、火の性質を持って生まれてくる。サスケが火遁を使えるのも、遺伝的に備わっていたからである。

自身のチャクラがどの性質に属するかを調べるには、チャクラに反応する材質で作られた《チャクラ紙》を使うのが一般的である。この紙に自身のチャクラを流し込むと、火遁は紙が燃え、風遁は紙が切れ、雷遁は紙にシワが入り、土遁は紙が崩れ、水遁は紙が濡れる。アカデミー不登校時代、カミトもチャクラ紙で自分の性質を調べ、水の性質を持っていることを突き止めた。

水乱波は水遁系忍術の中でも基本。印とチャクラコントロールがある程度出来れば出せると言われ、カミトも水乱波を始めとして水遁の修行に明け暮れていた時期もある。

しかし、印を結んでも発動してくれなかったことが多く、現時点で水乱波意外は使えない。カカシの説明通りチャクラコントロールができていないなら、その理由にも納得がいく。

「もしかして……」

カミトは戦闘時の記憶から、ある事実を導き出した。

「……再不斬との戦闘の後に俺が気絶したのは……チャクラをうまくコントロールできず、大量に消費したからですか?」

カミトの鋭い質問に、カカシは再び感服した。

「まさしくその通りだ!水遁を使った時点で、お前のチャクラはかなり消費していたはずだ。力尽きて気絶したのも、飛雷神を使って更にチャクラを消費してしまったからだ」

「飛雷神?」

初めて耳にする言葉に、サクラは首を傾げた。

「ねぇ、飛雷神って何?術の名前?」

「そういえば……サクラにはまだ話してなかったな」

当然の質問にカミトが瞬時に反応を示した。

「ほら、サスケが再不斬に目掛けて風魔手裏剣を投げた時、俺が瞬時に再不斬の近くに現れただろ」

「うん」

「あれが《飛雷神の術》だ」

「飛雷神の術?」

まだよく理解できていないサクラ。

「サスケにも一応、説明はしたんだけど……あの時は緊急だったから、詳しい説明は省いた。だから今度は、詳しく説明するよ」

飛雷神の術がよく理解できていないサスケとサクラに対し、カミトは更に詳しく説明を始めた。

飛雷神の術とは、二代目火影《千手扉間》が開発した術。クナイや手裏剣などの武器、または手を触れたところにチャクラによる術式__いわゆる《マーキング》を施し、その場所に神速で移動することができる時空間忍術の一種。

術者のチャクラとリンク__手で間接的に触れることで対象と一緒に飛ぶ。または対象のみを飛ばすこともできる。術者が直接触れるだけでなく、あらかじめ術式を施してあった場合でも飛ばせる。因みに、カミトの術式は1枚の緑葉を模様している。

カミトは自身が持っていた風魔手裏剣にその術式を施し、サスケに投げてもらったのだ。そして再不斬が風魔手裏剣を片手で受け止めた矢先、カミトは飛雷神を発動して俊敏に飛び、一瞬の間合いを詰めて脇腹を斬った。これを《飛雷神斬り》と言う。

飛雷神に関するカミトの長い説明がようやく終わった途端、サスケとサクラは眼を丸くする。

するとサクラが__。

「す……すごい術じゃない!どうやって身に付けたの!?」

サクラは未だかつてない驚愕と興奮を出し、カミトに食って掛かる。

「え、えっと……その……」

当のカミトは、術の会得の経緯についてどう説明すればいいか戸惑った。

「まぁ、色々あった、とだけ言っておくよ」

「色々って何よ!?」

「色々は色々なんだよ」

さすがに《封印の書》の事件を話すわけにもいかなかったため、とりあえずという形で話を済ませた。しかし、それでサクラが納得するはずもなく、先ほど以上に食って掛かられた。

「サクラ、もうその辺にしとけ。誰にでも不思議なことはあるものなんだよ」

事件の経緯を知るカカシに止められ、どうにか窮地を逃れたカミト。次いで、カカシは真剣な眼差しで3人を見ながら説明を続ける。

「ま、とにかくそういうことだから……お前達には、体でチャクラのコントロールを覚えてもらう。必要な時に、必要な分だけのチャクラを素早く練れるようにな。それこそ命を張って、体得しなきゃならない辛〜い修行だ」

「な、何をやるの?」

サクラは緊張したように恐る恐るとカカシに問う。

「ん?木登り」

「「「木登り!?」」」

拍子抜けするような返答。

「ま、話は最後まで聞け」

呆気に取られた3人を落ち着かせようと、説明を続ける。

「ただの木登りじゃない。手を使わず、足だけで登るんだ」

「え!?どうやって?」

サクラは何を言っているのか、まるでわからない。

「ま、見てろ」

そう言うと、カカシは両手で(ひつじ)の印を結び、己のチャクラを練り始めた。

しばらく経って、スタスタと松葉杖をつきながら近くに聳え立つ木に向かって歩き出した。体が触れるほど近づいた矢先、カカシは左足を木の(みき)に付けた。

そして、垂直に木に登り始めた。

まるで足の裏がと幹にしっかり張り付いているようだった。

「本当に……登ってる」

「足だけで……垂直に……」

「………」

ポカンと口を開けて驚いている3人に、カカシは木の枝に逆さまにぶら下がりながら説明の続きをする。

「とまぁ、こんな感じだ。チャクラを足の裏に集めて木に吸着させる。チャクラをうまく使えば、こんなことも出来るわけだ」

「ちょっと待ってください!なんで木登りなんかで強くなれるのよ!?」

サクラは未だこの修行の趣旨が掴めずにいた。

「ここからが本題だ」

カカシはやれやれと困ったように言う。

「この修行の第一の目的は、練り上げたチャクラを必要な分、必要な箇所に集めることだ。これが術を使う上でもっとも肝心なことだが、案外これが熟練の忍者でも難しい。木登りに使用するチャクラの量は極めて微妙。更に、足の裏はチャクラを集めるのにもっとも困難な部位とされている。つまり……そのコントロールを極めれば、どんな術でも体得可能になるわけだ。……理論上はな」

最後の一言だけが微妙に思えたが、カミトは修行を始めたくてウズウズしていた。

「第二の目的は、練ったチャクラを維持させることだ。忍者がチャクラを練るのは、戦闘中がほとんどだ。そういう状況下に於いて、チャクラのコントロールと持続は、更に困難を極める」

次いで、カカシは(おもむろ)にウエストポーチに手を入れる。

「とまぁ、俺がごちゃごちゃ言ったところで、どうにかなるもんでもないし。実際に木登りをしてもらって、体で直接覚えてもらうしかないってことだ」

先ほど手を入れたポーチからクナイを2つ取り出し、サスケとサクラの前に投げた。結果、クナイは地面に綺麗に突き刺さった。

「今の自分の力で登りきれる所に、目印としてそのクナイで傷を打て。そして、次はそれより更に上に傷を刻むよう心掛けろ。歩いて登るなんてのは、今のお前らじゃさすがに無理だから、走って勢いに乗り段々と慣らしていくんだ」

ようやくカカシの説明が終わり、サスケとサクラは地面に刺さったクナイを手に取り、始めようとする。

そんな中、カミトが問いただす。

「先生、俺の分のクナイはないんですか?」

と訊かれ、カカシは迷いなく答えた。

「カミト、お前は別のやり方で修行してもらう」

「え?」

カカシは何事もないように言い放つと、再び木の側面を歩いて地上へ降りた。

「俺だけ、別の方法って……」

「ま、すぐにわかる。いいから一緒に来い」

カカシは手を振り、来いとアピールしながらどこか胡散臭い笑みを浮かべている。

「あの、先生……わたしとサスケ君は?」

「ん?お前らは2人だけで木登りの修行を進めてろ」

その言葉に、なぜかサクラが急に燃え上がった。

(サスケ君と2人だけで!?しゃーんなろー!!メルヘンゲットォー!!)

1人で勝手に加熱するサクラを尻目に、サスケは納得できない様子だった。

(カミトだけが特別メニュー……気に食わねぇ……)

エリート中のエリートと言われたサスケから見れば、面白くなかった。

飛雷神の術、水遁、影分身などの多様な術。感知タイプであることを含め、自分にない才能を秘めていることに対し、嫉妬にも近い不満を抱えていた。

サスケの思考を察したカカシが、付け加える。

「ま、そう怖い顔しなさんな。カミトにはやってもらわなきゃならないことがあるんでね」

それだけ言うと、カカシはカミトを連れて少し離れた森の片隅へと移動した。





森の片隅に辿り着き、カカシは正面からカミトに向き直る。

「よし!それじゃ早速始めるぞ」

「その前に……」

カミトは一旦話を遮り、言う。

「なぜ俺だけ別メニューなんですか?」

「それはもちろん、お前が特別だからだ。チャクラコントロール以外にもやってもらわなきゃならないことがあるんでね」

カカシの真剣な表情に、これが普通の修行やトレーニングの類ではないと容易に気づいた。

「お前、今までに感知能力に関する修行をしたことはあるのか?」

先ほどからカカシは不思議に思っていた。

カミトがチャクラを感じ取れる特異体質の持ち主である上、チャクラで五感を研ぎ澄ませて周囲の状況を把握する。これは普通に考えれば、あり得ないことだ。しかし、あり得ない能力を持つ者がこうして目の前に存在している。何か特有の修行で身に付けたとすれば、カカシは是非それを聞きたかった。

「う〜ん、まぁ……心当たりはありますね」

頭を悩ませながらも、カミトは簡略に説明した。

「多分、カカシ先生は知ってると思いますけど……普段の俺は森で生活し、主に森で修行をしてきました。だから時々……自然と一体になっているんです」

「自然と一体?」

何やら深い言葉が出てきた途端、カカシはますます興味を抱いた。

「つまり……えっと……瞑想と言ったほうがわかりやすいかな」

「瞑想?」

瞑想とは、心を静めて神に祈ったり、何かに心を集中させること、心を静めて無心になること、眼を閉じて深く静かに思いをめぐらす行為を指す。眼を閉じて五感を研ぎ澄ませ、心を自然に集中させること。自然の中で暮らし、自然に眼を向け、自然を感じる。大地の声を聞き、風の囁きを感じ取れる力。それがカミトの言う《自然と一体》だ。

「それが感知能力の修行だって言うのか?」

意外な説明が終わった後のカカシは、恐ろしいほど呆気に取られていた。

「ええ。瞑想していた頃から、周りの音や気配なんかを感じるようになりましたから、ほぼ間違いないと思います」

「そんな修行で感知能力を身に付けるとはなぁ〜。本当に大した奴だよ、お前は」

呆気から一転、感心に移行した。

確かに、感知能力の修行は瞑想から始まるのが常識。長い時間をかけて瞑想をじっくり行い、己に流れるチャクラを体感する修行から始まる。そして自身の感覚神経と経絡系の感覚を同調させていき、少しずつ感知範囲を広げていくものだ。

「再不斬との戦いに於いて、お前は頼もしい戦力となる」

「と言うと?」

具体的な内容を把握しようと、カミトが問う。

「お前の感知能力は優れている。それに加えて、お前は再不斬同様に水遁を使うことができる。だがお前は、まだどちらも完璧に使いこなせていない。だから特別な修行で物にしてもらう必要がある」

「木登りはしないんですか?」

「いや、もちろんお前にも木登りはしてもらう。だが木登りをすると同時に、別の修行もしてもらう」

少々不安を感じるカミトに構うことなく、カカシの説明は続く。

「さっきも説明した通り、木登りでチャクラコントロールを極めれば、どんな術でも体得可能になる。当然、お前の水遁の幅も広くなり、再不斬が使用していたような水遁忍術も会得できるようになる」

「つまり、その特別な修行でチャクラコントロールを極めるのと同時に、俺の感知と水遁を極めるってことですか?」

「そういうこと。お前が感知能力と水のチャクラ性質を持っていたことが不幸中の幸いだ。しかし、せっかくの力を使いこなせないようじゃ、宝の持ち腐れだ」

カカシの言い分は理に適っていた。

確かに、カカシの写輪眼によるコピー水遁はことごとく再不斬の忍術を相殺してみせた。もしカミトは再不斬並みの水遁を扱えるようになれば、相殺どころか再不斬にダメージを与えることも可能になる。

しかも相手は無音殺人術の達人。対するカミトは感知タイプ。相手にとってこれほど相性の悪い敵はいないだろう。次に再不斬と戦うことになれば、間違いなくカミトを執拗(しつよう)に狙ってくるだろう。そうなった時のためにも、自分自身の身を守れるくらい強くならねばならない。

「本当なら、こういう修行は何年もかけて1つ1つ丁寧に行うものだが、残念なことに期限は1週間しかない。時間に猶予はないから、手っ取り早く会得してもらうため、少し無茶な修行になる」

「そういうことなら、早速修行を始めましょう!」

状況が状況な故、カミトは恐れ知らずに変貌したように張り切る。











カカシから修行方法のレクチャーを受けたカミトは、感知能力とチャクラコントロール習得のため、修行を始めた。

その修行とは__。

「うぁ!」

突然、木を垂直に登っていたカミトの頭に体当たりした1匹の犬。次いで、精神が乱れて足の吸着力が薄れ、木の幹から真っ逆さまに落ちる。

地面にズトン!と激突する。

「いってぇ〜!」

「集中力を切らしたな」

助言するカカシだが、なぜだか今の状況を楽しんでいるように見えた。

「……すいません」

面目ない自分の有り様に、思わず謝罪の言葉を掛けた。

「まったく、情けないガキじゃわい」

先ほどカミトに体当たりしてきた、パグらしき品種の犬が不平を言う。

カカシの考案した特別修行方法とは、まずカミトに走って木登りをしてもらいながら、周りの状況を素早く察知できるようになること。

木登りに使用する微量のチャクラを維持するには、集中力と精神の安定が必要不可欠。走って木を登る一方で、カカシが口寄せで呼び出した忍犬《パックン》に攻撃を仕掛けさせ、回避するための集中力と精神を身に付けさせようという策略だ。

一度に2つを会得するとなると、かなりハードルが高い。しかし、カカシが言ったように時間に猶予はない。極限状態での修行でなければ意味がない。

「カミト、休んでる暇はないぞ。この先の戦いには、お前の力が必要なんだ」

「……必要」

その一言が地面に横たわるカミトに、やる気を取り戻させてくれた。

「はい!」

今まで誰からも必要とされたことがなかった自分が、初めて必要とされているこの状況が喜ばしかった。カミトは元気よく立ち上がり、半袖ロングコートの裾を大きく風に(なび)かせながら木に向かって勢いよく走り出す。

「よし、再開じゃ」

その矢先にパックンも動き出し、再び体当たり攻撃を仕掛けようとする。

カミトは木を垂直に走りながらもどうにかパックンを避けるが、全てを避け切れるわけもなく、途中で攻撃を受けて地面に落ちてしまう。しかし、それでもカミトは諦める様子すら見せず、何度も繰り返し登る。

極限な修行の最中、不安な顔をしたサクラが割って入って来た。

「あの、先生……ちょっといいですか?」

カミトの修行を見守るカカシに声をかける。

「どうした?修行に問題でもあるのか?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」

サクラはすでに木登りの修行を終え、チャクラコントロールを修得していたが、その一方でサスケはカミト同様に苦戦を強いられていた。





カミトが特別修行をしている中、サスケは息を切らしながらも木登りに励んでいた。

「はぁ、はぁ……くそ!またか!」

走って勢いをつけ、どうにか最初より高い位置にまで登ることができたが、途中で木から弾かれてしまうという結果。

(一定のチャクラを維持するのがここまで難しいとは。……何度やっても途中で弾かれちまう)

足の裏に維持するチャクラが強すぎれば弾かれてしまう。逆に弱すぎれば吸着力は生まれず、登ることすらできない。図抜けたチャクラ量を持つサスケやカミトにとっては、難しい問題だろう。

「……あいつは……」

苦戦する中、サスケはふとカミトが気になった。





「あの、先生……わたしは何をしていたら……」

元々チャクラコントロールが上手なサクラにとって、木登りは極まりない簡単な修行だった。

「だったらサクラには明日、タズナさんの護衛をしてもらおうか」

手持ち無沙汰となったサクラに、カカシが任務を与える。

「ところで、カミトの修行……」

サクラは自分のことよりも、修行に苦戦するカミトが心配だった。自分達と異なる修行をするとは聞いていたが、少し過酷に見えた。

「ちょっと無茶な修行じゃないですか?」

サクラは、真顔で答えるカカシが何を考えているのかまったくわからなかった。

「無茶しなきゃ、やり遂げられないことだってあるさ。あいつがチャクラコントロールと感知能力を磨くには最高の修行だ。……ま、確かに荒療治かもしれんが……今はこれが最善だ」

「サスケ君は木登りだけで苦戦してるようだし……間に合うんですか?」

再不斬が復活するまで一週間、それまでの短い期間で自分達が強くなれるかどうか。正直サクラは半信半疑だった。

「まぁ、間に合わなければ全て無駄になるな。本来なら木登りは1ヶ月以上かかる修行なんだが……それをたった1回の挑戦で物にしたサクラは、表彰もんだよ」

「1ヶ月!?そんなにかかるなんて、無茶にもほどがあるわよ!」

取り乱すサクラには眼もくれず、カカシは声を張る。

「カミト! まだ30分しか経ってないぞ!意地でも続けろ!」

「……は、はい!」

息切れしながらも言葉を返し、木登りとパックン避けを続けるカミト。

自分の能力は再不斬との戦いを有利に運んでくれる。その責任と役割を自覚するカミトは、どうにか気を保ちながらも身体を止めることなく続ける。

そんなカミトの頑張る姿を見ている内に、サクラはふとカカシに尋ねる。

「……カカシ先生。彼は一体……何者なんですか?」

「何者って……なんだ?」

質問の意味が理解できず、聞き返した。

「わたし、アカデミーにいた頃は、カミトのことを……忍術がロクに使えない冴えない落ちこぼれ、という眼で見ていました。アカデミーを不登校していたのも、それが理由だとばかり……」

今の意見はおそらくサクラだけでなく、ほとんどのアカデミー生徒の意見だろう。

「でも、最近のカミトを見ていると……なんだが、すごく頼もしく思えるんです。そんな彼が落ちこぼれというのは、どうも納得できないんです。先生はその理由について、何か知ってるんじゃないんですか?」

「う〜ん……なかなか痛いところを突いてくるねぇ〜」

頭を掻き、観念するようなため息をついた。

「やっぱり、理由を知ってるんですね」

「ま、最近までカミトは変化や分身すら使えなかったし、色々と複雑な事情があるのは確かだな」

誤魔化すような口調で答えるが、その顔はとても真剣だった。

「忍術の腕はまだいまいちではあるが、あいつの剣術や体術はかなり良い線を行ってる。サバイバル演習の時にも見せてもらったしな。だが、それらの項目を除いたカミトは……こう言ってはあれだが、最低だ」

「………」

最低、その一言は過剰な気がしてならない。

「もしサスケが10年に一度の天才だとすれば、カミトは10年に一度の劣等生と言ったところだな」

「……でも、やっぱり納得できません。アカデミー時代のカミトのことしか知らないわたしが言っても、説得力はないと思いますが……カミトの実力は、わたし以上のはずです」

再び痛いところを突かれたカカシは、戸惑いの色を見せた。

「……さっきも言ったように、あいつには……他人に言えない複雑な事情があるんだよ」

「他人に言えない事情?」

「そう。だからお前やサスケにも詳しくは話せないが……これだけは言える」

修行に励むカミトに熱い眼差しを向けながら、カカシは率直に答える。

「あいつは絶対に腐らなかった。何度も失敗を繰り返し、何度もチャンスを失い、どうしようもない落ちこぼれだと後ろ指を差されながらも、己の価値を信じ、己を磨くことを決してやめなかった。天才は絶対に届かない特別な存在などと区別せず、己の無力から逃げもせず、理不尽な差別と戦い続け、その果てに辿り着いた力をぶつけることで、10年に1人の天才すらも凌駕する力を発揮する。あいつはそういう奴なんだよ」

「……己の価値を信じ……己を磨く」

それがどれだけ大変で過酷なことなのか、サクラには想像もできなかった。

自分にはチャクラの精密なコントロールという才能がある。カカシから見ても、そういう技術に於いてはサスケとカミトを上回るだろうが、戦闘技術に関してはこれといった特技もなく、幻術の才能の片鱗が見られる程度。

しかし、カミトはどうなのだろうか?

チャクラコントロールに(とぼ)しく、使える水遁系忍術も1つだけ。他に取り柄がある忍術と言えば、影分身と飛雷神の術。剣術だけでも苦しいはずなのに、カミトの周りの人達はこぞって道を阻もうとしている。そんな状況の中で彼は__未だに自分を信じることができるのだろう?

「一体、何がカミトをそこまでさせるんですか?」

「さぁな。それはカミトの訊いてみないとわからないだろう。ただ俺は、お前達3人に期待している」

強くなりたい、上を目指したい。誰もがそれを望んでいる。

「ま、とりあえず修行を続けてどんどん強くなっていくしかない。それはきっと……これからの戦い、そしてお前達の人生に於いても、決して無駄にならないはずだ」

「……それならいんですけど」

カカシの促すような言い回しに、サクラは明確な答えを返せなかった。

「わたしはまだ、カカシ先生の言葉でしか、カミトのことを知りませんから……」

「……ま、それもそうだな」

サクラの言い分にカカシも納得したのか、頷くとサクラに眼を向けた。

「だったら、自分自身の眼で確かめてみるといい。あいつの背中を……全力で追いかけてみろ」

そう告げ、カカシは眼を凝らして真剣にカミトを見守る。
 
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