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KAMITO -少年篇-

作者:redo
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感知タイプ

海の上に立てられた桟橋小屋のような家。その家の隣に建てられた風車塔。風車はかすかな風を受けたままゆっくりと回っている。

気がつけば、その家の質素な居間にカミトとカカシは並んで布団に横たわっていた。

「大丈夫かい、先生?」

一番に目覚めたカカシに近づいてきた黒いロングヘアーの女性《ツナミ》は困ったようにカカシに声をかける。

「いや……それが……一週間ほど動けないんです。体を動かすのもやっとで……」

申し訳なさそうに布団から顔を出し答えるが、今のカカシの声には張りはなく、弱々としている。

「……超疲れたわい」

家までの長い距離を、大柄なカカシを背負って歩いてきたサスケとタズナは、息も絶え絶えになりながらすでに居間に倒れこんでいる。

「そっちの子は、大丈夫そうかい?」

ツナミは未だ眠り込んだままのカミトを見る。

眼を凝らして見ると、顔色は悪く、どこか辛そうに息を吐いてる。

「それが……まだ眼を覚まさなくて。大丈夫だとは思いますけど……」

カミトの枕元に座っていたサクラは、自身のない声を出しながらも心配そうに見つめている。

「俺もカミトも……チャクラを相当使い過ぎただけだ。時間が経てばすぐに良くなるよ」

「そっか、よかった」

カカシの言葉に安心したサクラも、ようやく肩の荷が降りた。

「でも、カカシ先生の写輪眼にカミトの忍術……どっちもすごいけど、体に大きな負担がかかるんじゃ、考えものよね」

「返す言葉もないな」

面目ないとばかりに、カカシは平謝り。

事実、今回倒れたのは高等忍術を使った2人だけ。これは大きな戦力ダウンに間違いなかった。

「でも、まぁ……今回あんな強い忍者を倒したんじゃ!しばらくは安心じゃろう!」

タズナは無事に家まで辿り着けたこと、《桃地(ももち)再不斬(ザブザ)》という強敵を退(しりぞ)けたことにひとまず安心していた。

「それにしても、あのお面の子、何者だったの?」

初めて《暗部》という存在に出会ったサクラは頭を抱える。最後に見た時は再不斬を抱え、一瞬で姿を消した。先ほどまでの異様な(たたず)まいが頭から離れず、未だに戸惑いを隠せなかった。

「あれは霧隠れの暗部。追い忍の特殊部隊が付ける面だ」

「特殊部隊?」

「彼らは通称《火消し班》とも呼ばれ、その忍者が生きてきた痕跡の一切を消すことを任務としている。忍者の身体は、その忍の里で染み付いた忍術の秘密やチャクラの性質……その身体に用いた秘薬の成分など、様々なものを語ってしまう」

「じゃ、じゃあ!あのお面の忍者は……再不斬を殺しに来たってこと?」

仰天するようなカカシの説明に、サクラは息を飲む。

「そうだ。例えば俺が死んで、その死体が敵に渡った場合……解剖や実験といった方法で写輪眼の秘密は徹底的に調べ上げられてしまい……下手をすれば、術ごと奪い取られてしまう危険性だってあるわけだ」

「そんな……ひどい」

サクラは、もし自分や仲間達がそんな残酷なことをされるかと思うと、体が震えそうだった。

「写輪眼という貴重な術を持つ俺は、特にシビアな忍者だ。敵に執拗(しつよう)に狙われ、もし殺られれば……最後は仲間の手によって……跡形もなくこの世から消え去る」

沈黙したまま話を真剣に聞いていたサクラもサスケ。そして忍ではないタズナやツナミでさえ、すでに言葉を放つことは出来なくなっていた。

あまりにも壮絶な忍者の生き様。サクラ達とは住む世界があまりにも違う。カカシはそれを如実(にょじつ)に物語っていた。

「追い忍とはつまり……里を捨て逃げた抜け忍を抹殺し、その肉体を完全に消し去ることで……里の秘密が外部へ漏れないようにガードするスペシャリストってわけだ」

「じゃあ、再不斬も……最後はバラバラにされて消されちゃうのね。考えただけでゾッとするわ」

忍は闇に生まれ、闇に生きて死んでいく者。サクラはその意味を改めて思い知った気がした。











カカシ率いる第7班から姿を(くら)まし、深い霧に覆われた森林の中に身を隠した仮面の忍は、再不斬を地面に寝かせ、医療道具を収納したケースを開け、ハサミを手に取った。

「まずは口布を切って……血を吐かせてから……」

ハサミを再不斬の口元に近付けた瞬間。

「いい……自分で……やる」

突如として再不斬が声を吹き返した。

「なんだ、もう生き返っちゃったんですか」

自分で口布を破き、上半身を無理に起こした再不斬は地面に血を吐き捨てた。

「たく、手荒いなぁ……お前は」

再不斬は不機嫌そうに首に刺さった針を引き抜いた。

「再不斬さんこそ、あまり手荒に抜かないでください。本当に死にますよ」

抜き取った針を地面に捨て、再不斬は仮面の忍に眼を向ける。

「いつまでその胡散臭ぇ面つけてるつもりだ?さっさと外せ」

今更気づいた追い忍は、仮面に触れる。

「かつての名残でつい。それに、猿芝居にも使えたので」

仮面を外し、女と間違われるほど美しい顔立ちを晒した少年忍者__《(ハク)》。

「でも、僕が助けなかったら……あなたは確実に殺されてましたね」

「仮死状態にするだけなら、わざわざ首を狙わなくてもよかっただろ」

そう言って再不斬は包帯を口に巻き直す。

「相変わらず嫌な野郎だな、お前は」

「仕方ありませんよ。再不斬さんの綺麗な身体には、傷を付けたくなかったし。それに、筋肉のあまりついていない首のほうが、確実にツボを狙えるんです」

白の説明にうんざりした再不斬は、地面から立ち上がろうとする。だが、不意に全身に痺れが走り、再不斬の動きを封じた。

「一週間は痺れて動けませんよ。でも、再不斬さんなら時期……動けるようになりますよ」

いかにも心から敬愛している白の口調に、再不斬は少々呆れながらも眼を合わせる。

「まったくお前は……純粋で賢く、汚れがない。だが、俺はお前のそういう部分が気に入っている」

「ふふ、僕……まだ子供ですから」

再不斬の一言に白は、嬉しさを隠せなかった。

気づけばすでに霧は晴れ、眩しい太陽の光が森全体に差し込んでいた。

「霧が晴れましたね」

「ああ」

「次……大丈夫ですか?」

次回の戦いを気にする白は、再不斬に問う。

「次なら……写輪眼を見切れる。そしてあの緑髪のガキも……殺れる」

冷静に告げる再不斬の眼には、これまでとは違う確かな覚悟と決意に満ちていた。











瞼を開き、最初に眼に映った光景は__。

身体が鋭い激痛に支配され、口内に血が滲んでいる。

「う……」

(うめ)きながらも、這い(つくば)る姿勢で倒れた身体を起こそうとする。やがて上体を起こし、立ち上がり、よろけそうな上半身を2本足で身体を支える。

首を左右に回しながら周囲を確認するが、何も見えない。地面や壁もなく、空も見えない暗黒の空間。全てが闇に閉ざされ、見えるのは血塗れになった自分の身体だけ。

(……痛い!!この身体……どうなってるんだ!?)

自分は先ほど、再不斬との戦いを終えた。それがどういうわけか、自分の全身が傷だらけでボロボロな状態。立ち尽くすのもやっとだった。

(……ここはどこだ!?)

珍しくパニックに近い状態に陥り、行き先も見えないまま一歩ずつ前に踏み出してみた。

「……ト……ミト……カミト……」

不意に、背後で小さな声が徐々に聞こえてくる。カミトは肩越しに振り向いた。

「っ!?」

見た途端、即座にわかった。

「……再不斬……なのか?」

そう。今カミトの眼前に立つ男は、先ほど仮面の忍に殺されたはずの再不斬だ。

だが、彼であるはずがない。

「なんでここに……」

「なんだよ、俺が死んだと思ってたのか?そりゃ、大きな間違いだ」

衝動的な質問に対応してみせた再不斬に、カミトは思わず驚愕した。

「いや……お前はさっき死んだはずだ」

荒い息を吐きながら言うと、再不斬は細い声で言い返した。

「忍の世界ってのはなぁ……常に強い奴が最後まで生き残るものなんだよ」

「っ!?」

思いがけない言葉をぶつけられ、カミトは一瞬裏切られたような気分になった。

「ここは、お前の心の中なのか?」

自分が今いる場所を尋ねてみると、再不斬は小さく首を振りながら囁いた。

「違う。ここは俺じゃなく、お前の心の中なんだ。言わばここは……お前の《心の闇》なんだよ」

「……俺の……心の闇……」

「そう。お前が心の底に抱えている、無限の闇さ」

その言葉を聞いた瞬間、眼前に立つ再不斬は、自身の心が作り出した《幻想》だと悟った。

どす黒い感情を抱きながら、自分が今までどれほどの迫害と軽蔑を受け、どれだけの人に傷つけられてきたか。その積み重ねは、カミト自身が一番よく知っている。その闇と何度も向き合ってきたが、克服できたわけではない。

無意識にカミトは心のどこかで、自分を苦しめた者達に恨み、怒り、憎しみという感情をぶつけたいのではないか、と思っているのかもしれない。もしここが本当にカミトの心の闇なら、目の前の再不斬はカミトの恨みや憎しみといった感情が形になったもの。

「なぜお前は木ノ葉の忍者なんかになった?自分を苦しめ続けてきた里になぜ忠を尽くそうとする?」

「やめろ!それ以上言うな!」

目の前の再不斬が幻想だとわかっていても、今の言葉からして奴は明らかに過去のカミトを知っている。

「なぜ里に復讐もせず、俺と同じ道を歩まない?」

心に刻まれた傷口に塩を塗るような勢いで言葉をぶつけてくる。

「お前なんかと一緒にするな!」

今にも闇に飲み込まれそうで、自分の全てが暗黒に塗り替えられて消えていくような感じだ。そんな恐怖に怯えながらも、カミトは自分の身体が激しい痛みに支配されているにも関わらず、再不斬に背を向けて走り出した。

耐えられなかった。この場所から1秒でも速く抜け出したかった。ほんの少しでいいから、自分を照らす光がほしかった。

その先に、一条の光が見え__その瞬間、背中を引っ張られたように歪んだ黒い世界から引きずり出された。





「再不斬!!」

突然の大声と共に、カミトは目覚めた。

「きゃ!?」

なんの前触れもなく布団から上半身を起こしたカミトに、サクラは声を上げた。隣で休んでいたカカシも突然の出来事に驚き、布団から上半身を起こす。

「ちょっとカミト!びっくりさせないでよ!」

カミトの枕元で、額に濡れタオルを起き、看病していたサクラは、驚きのあまりに水桶(みずおけ)をひっくり返してしまいそうになった。

「あら、起きたの?」

声を聞きつけたツナミが、台所から顔を出す。

時刻はすでに夕暮れとなっており、カカシ一行とタズナが家に到着してから数時間しか経っていない。

冷や汗を流しながらも、サクラに眼を向ける。

「悪い、サクラ。……ここは?」

先ほどまで見ていた悪夢を頭から振り払おうと、辺りを見渡した。

見知らぬ天井、壁が広がる部屋。何よりサクラとカカシの姿を見たことから、すでに自分が悪夢から解放されたことを悟った。

「ここはタズナさんの家よ。あなた、再不斬との戦いの後にカカシ先生と一緒に倒れて気絶しちゃったから、わたしが背負ってここまで連れてきたのよ」

サクラはやれやれといった気分で説明する。

カミトは記憶を辿り、頭を整理する。

「……気絶……カカシ先生……」

段々と目が覚まし、意識がはっきりしてきたカミトは、軽いパニックに陥った。

「そうだ!再不斬は!?」

「落ち着けカミト。再不斬はあの仮面の忍者が殺して持っていっただろ」

「……ああ、そうだった」

カカシのゆっくりとした説明により、再不斬との戦いの一部始終を思い出した。

「阿呆な奴だ」

離れて座っていたサスケは突然、カミトに愚痴を放った。しかし、当人であるカミトは気にせず、再不斬という危機がひとまず去った、という安心感に浸った。

「そういえば、あなた随分と魘されてたみたいだけど……悪い夢でも見たの?」

あまりに憔悴(しょうすい)したカミトを見ていたサクラは、心配せずにいられなかった。

「……ああ、まぁな。かなり現実的だった」

身体に伴う痛みは本物だった。あんな痛みを味わうのは無茶な修行以来だ。

「夢の中で……再不斬に会った」

未だ曖昧な記憶の中で、唯一印象強く残っている再不斬の姿が眼に浮かんだ。

「再不斬ねぇ……無理もないわよ。あんな強い奴……わたしの夢にも出てきそうだもん」

再不斬の恐ろしさを思い返すと、今でも身の毛が()()ちそうだった。

「いや……夢に出てきた奴……本当に目の前に現れた感じだった」

まるで再不斬がまだそこにいるかのような感覚。気配に近いものだった。

「確かな殺気も感じた。なんか……夢とは思えないくらいだ」

カミトの《感じた》という一言に、カカシは妙な違和感を覚えた。

(感じた、か。……不吉な予感がする)

戦いの最中、再不斬はカミトのことを《感知タイプ》だと指摘した。それが事実か否かはまだはっきりしないが、現にカミトは何度も再不斬の位置や攻撃を見抜き、咄嗟に対応してみせた。このことからして、カミトにチャクラ感知能力があるのは疑いようもなかった。

しかし、カカシはそれ以上に、カミトが見た夢に登場した再不斬が気掛かりだった。

(どうも変だ。再不斬は死んだというのに……この見しれぬ不安感は一体……。重大な何かを、見落としている気がする)

カミトの悪夢の話を聞いたカカシは、再不斬が霧の追い忍に始末された時の状況を振り返り、必死に何かを探る。

「先生……どうかしました?」

難しい顔で無の境地に居座るカカシが、カミトの声により目を覚ました。

「ん?……ああ……さっきの話の続きだが、追い忍ってのは、殺した者の死体はすぐその場で始末するものなんだ」

「それが何か?」

サクラは話の意図が掴めず、聞き返した。

「あの仮面の少年は、再不斬をどうした?」

「知る訳ないじゃない。再不斬は、あのお面が持って帰ったのよ」

筋が見えないカカシの話にどう答えていいかわからず、サクラは少々うんざりした。

「そうだ。殺した証拠なら、首だけ持ち帰れば事足りるのに、だ」

カカシは徐々に自分の疑念の正体が明らかになっていくのを感じた。

「それと 問題は追い忍の少年が、再不斬を殺したあの武器だ」

最後の一言に、サスケは細い針の形状をした忍具__《千本》が使われていたことを思い出す。

「ただの千本だったが……。まさか!?」

その時、サスケは何かに気づき、額に冷や汗を滲ませた。

「ああ……そのまさかだ」

疑念がついに確信へと変わり、カカシは困ったように頭を掻く。

「さっきからグチグチ何を言っとるんじゃ、おめぇ達?」

タズナだけでなく、カミトとサクラも2人の会話についていけなかった。

3人が揃って首を傾げた途端、カカシが口を開く。

「おそらく……再不斬は生きている!」

「「「え!?」」」

あまりの衝撃的な言葉に、3人は完全に開いた口が塞がらないまま唖然とした。

「ど、どういうことですか!?」

「カカシ先生!あいつが死んだの、ちゃんと確認したじゃない!」

カミトとサクラは訳がわからずパニックになり、カカシに(まく)し立てる。

「確かに……再不斬の首元に指を当てた時、脈はなかった。だが……あれはおそらく仮死状態にしただけだろう」

未だ慌てる2人に、カカシはゆっくりな口調で説明し始めた。

「あの追い忍が使った千本と言う武器は、急所にでも当たらない限り殺傷能力のかなり低い武器で、ツボ治療などの医療にも用いられる代物だ。彼ら追い忍は、人体の構造を知り尽くしている。おそらく、人を仮死状態にすることなど容易なはず」

それらの事実を冷静に分析し、1つにまとめ上げた。

「1つ、自分よりもかなり重いはずの再不斬の遺体をわざわざ持って帰った。2つ、殺傷能力の低い武器を使用したこと。この2点から導き出される、あの追い忍の目的は……再不斬を殺しに来たのではなく、助けに来た」

再不斬の生存の可能性を明確に説明したカカシに、タズナはまだ信じ切れずにいた。

「超考えすぎじゃないのか?」

「いや、臭いと当たりをつけたなら……出遅れる前に準備しておく。それも忍の鉄則だ。それに……カミトの夢も気になる」

「え?」

突然、夢の話に移り変わったことにカミトは頭を傾げた。

「お前さっき、感じた、と言っただろ。お前が再不斬を感じたと言うのなら、まず間違いないな」

「いや、ちょっと待ってくださいよ。それは夢の話であって、現実とはなんの関係もありませんよ」

「そうよ!カミトの夢にたまたま再不斬が現れただけの話じゃない!」

カカシがカミトの曖昧な言葉を間に受けてしまったと思い、サクラは動揺を隠せなかった。

「いや、あながち信頼できるかもしれんぞ。実際、あの再不斬がカミトを感知タイプだと言い切ったくらいだからな」

「そういえば……」

カミトは今更のように思い出した。

「先生、一応確認のために訊きますが……やっぱり再不斬の言ってた感知タイプって……俺のことなんですか?」

自分が感知タイプだという自覚がないカミトは、不思議で仕方なかった。

「ああ。この際だから、お前達に詳しく説明しよう」

アカデミーで講義を行う教師の如く説明を始めた。

「感知タイプというのは、チャクラで五感を研ぎ澄ませ、第六感的な能力を発揮できる忍者のことだ。敵の位置を見抜くことはもちろん、攻撃を見抜いて即座に対応もできる。忍者の中には、気配や殺気のように周囲のチャクラを感覚的に感じ取ることができる、特別な才能を持つ者がいる」

「……どういうことだ?」

特別な才能、という言葉に興味を示したサスケが、カカシの側に座り直した。

「さっきも言ったように、この世界には感知タイプと呼ばれる忍者が存在し、大きく2種類に分類される」

「2種類?」

「1つ目が、感知能力。嗅覚、聴覚、視覚を強化する忍術を使って敵を察知することを得意とする忍者。2つ目は、生まれ付き周囲のチャクラを感じ取ることができる特異体質を持つ忍者だ」

「特異体質?」

サスケの質問に、カカシは頭を抱えたように答えた。

「特異体質というのは珍しいものでな……修行によって後天的に発現する場合もあるが、大抵は生まれ付きというケースが多い。だが、カミトの場合は前者と後者の両方に分類されるな」

「両方?」

「そうだ。チャクラを感じ取ることができる特異体質を持つ一方で、お前は無意識にチャクラで五感を研ぎ澄ませ、再不斬の攻撃を見抜き、かわした」

「そういえば……」

真っ白な霧の中で再不斬と戦った時、自分が意識を集中させたことを思い出した。意識を集中させる行為が、カミトの五感を大幅に強化させたのだと、今になって思った。

「……本当かしら?」

少々間抜けで天然なカミトにそんな能力が備わっているのかと思うと、サクラはいまいち信用できなかった。

「敵の臭いや音を察知する前者と違い、後者はチャクラそのものを鋭敏に感じ取れる。当然、気配は消せてもチャクラを消すなんてことは不可能だからな。ま、カミトは両方を持つかなり優れた感知タイプのようだから、気配だけでも察知できただろう。再不斬のような忍者が警戒するのも当然だ」

「だから再不斬は、真っ先に俺を狙ってきたんですね」

「そういうことだ」

「……マジかよ。確かに俺、五感は優れているほうだとは思ってましたけど、単に直感がそこそこ良いだけなのかと……」

今までは自分の直感がよかっただけだと思っていた力が、実は感知能力だったと明快になる。素直に喜びたいところだが、再不斬に狙われ続けることを思うと、一気に不幸に付き纏われたような気分になった。

「だが、その能力のおかげで俺達もタズナさんも救われたんだぞ。もっと自分を誇らしく思え」

「いや、まぁ、それは……そうかもしれませんけど……」

カカシの気丈そうな顔を見て、カミトの気持ちは揺らいだ。

「だが、こっちに感知タイプが付いてるなら、次の戦いに備えて対策が立てやすくなるな」

サスケのもっともな意見に、カカシは同意した。

「いいなぁ〜。なんかカミトばっかりズルいわよ」

サクラのどこか不貞腐れたような言い分に、カカシは真剣な表情で否定した。

「サクラ、感知能力はお前が考えるほど、羨ましいことばかりじゃないぞ。優れた力には当然代償が付き纏う」

「代償?」

その一言に、カミトはどこか恐怖に近い不安を覚えた。

「感知タイプは、チャクラを敏感に感じ取る体質を持つ故、チャクラに影響されやすい。例えば、相手に精神的なダメージを与える幻術に対して、感知タイプは耐性が弱い」

「じゃあ……それって……」

カミトに続き、サクラも不安を覚えた。

「そう、つまり……普通の忍者には大した効果を齎さない幻術でも、カミトには大ダメージになる可能性があるってことだ。下手をすれば、死に直結することだってあり得る」

いかにも恐ろしい言葉に、その場の全員が息を飲んだ。

「やっぱり……便利な力は考え物なのね」

部下3人に特殊能力の危険性をしっかりと説明し終え、カカシは再び目下(もっか)の問題に話を戻した。

「ま、再不斬が死んでるにせよ生きているにせよ、ガトーが更に強力な忍を差し向けてこないとも限らない。あの仮面の忍の能力も未知のままだしな」

「先生、出遅れる前に準備しておくのはわかったけど、何をすればいいの?先生はカミトと違って、当分動けないのに……」

「ふふふ……」

サクラの質問に、何故かカカシは不敵な笑みを浮かべている。

「簡単だ。お前達に修行を課す!」

「え!?ちょっと待ってよ!わたし達がちょっと修行したくらいで、高が知れてるわよ!相手はカカシ先生でも苦戦するほどの忍者なのよ!」

カカシよりも劣る下忍の自分達に何が出来るのか、とサクラは腹を立てる。

しかし。

「サクラ……その苦戦している俺を救ったのは誰だった?お前達は急激に成長しているよ。特にカミト、お前が一番伸びてるよ」

「え?……そ、そうですか?」

照れ臭くなったカミトは、人差し指で右頬を軽く掻いた。

(確かに……前よりすごく(たくま)しくなった気はするけど……)

アカデミー時代からほんの数回しか顔を合わせたことしかないカミトを、サクラは少しだけ理解したようだ。再不斬と戦っていた時のカミトの姿を見て、カッコいい、とも思ったくらいだ。

これまでは《頼りない同級生》という視点で捉えていたカミトが、今ではカカシやサスケ以上に心強い存在へと変わっていた。

「とは言っても……俺が回復するまでの間の修行だ。あまり期待はするなよ」

「でも先生!本当に再不斬が生きているとすれば、また襲ってくるんでしょ!いつ襲われるかもわからないのに修行なんて……!」

再不斬の生存、という疑念を抱いたまま修行など出来る訳がない。そう思うと、サクラは不安で仕方なかった。

「その点は心配ない。一旦仮死状態になった人間の体は、酷い麻痺状態になる。元通りになるまで1週間くらいかかるはずだ」

「その間を利用して修行するってことですね」

カカシの言葉に希望を見い出したカミトは、新たな決意を固めた。

その矢先。

「修行なんかしたって……意味なんかないよ」

突然、戸口(とぐち)が開き、小さな子供が居間に入ってきた。

「おおイナリ!どこへ行ってたんじゃ!」

「お帰り……爺ちゃん」

《イナリ》と呼ばれた幼い少年は小さく呟き、カミト達には眼をくれず、靴を脱いで居間に上がった。

「イナリ、ちゃんと挨拶なさい!お爺ちゃんを護衛してくれた忍者さん達だよ!」

ツナミは息子の非礼を(とが)めるが、イナリは暗い表情でカミト達を睨みつける。

「母ちゃん……こいつら死ぬよ。ガトー達に刃向かって……勝てるわけないよ」

ブツブツと暗い台詞を吐くと、興味なしという素振りでカミト達を一瞥する。

「死にたくないなら……早く帰った方がいいよ」

「どこへ行くんじゃ、イナリ?」

「部屋で海を眺めるよ」

そのまま黙って部屋を出て行く。

「変な子ね、カミト。……カミト?」

サクラは突然の出来事に呆気に取られていたが、カミトは1人考え込んだままイナリの出て行った戸口を眺めている。

「すまんのぉ、悪い子じゃないんじゃが……」

タズナは申し訳なさそうに謝罪する。

「ねぇ、カミト……どうかしたの?さっきから黙り込んじゃって……」

サクラの呼び掛けに我を取り戻したカミトは、振り向く。

「……なんでもない。ちょっと俺、行かなきゃ」

不意にカミトは立ち上がり、イナリの跡を追って居間を出て行く。





(あの子……俺と同じ眼をしていた)

イナリの冷たい眼を見た瞬間、カミトの中で過去の自分と重なった。冷たい眼というものがどんなものなのか、カミトは知っている。

(この部屋か?)

イナリの跡を追って辿り着いた、部屋の扉の前。わずかに開いていた扉の隙間から中を覗いてみると、そこではやはり__。

「うっ……父ちゃん……父ちゃん……」

イナリの鳴き声だけが、寂しく響いていた。

「………」

カミトは部屋に入るような真似はせず、ただドアの前に座り、イナリの悲しみを理解しようと耳を傾けていた。
 
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